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『赤と白とロイヤルブルー』感想(ネタバレ)…これも外交ですか?

赤と白とロイヤルブルー

いいえ、ただの愛です…映画『赤と白とロイヤルブルー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Red, White & Royal Blue
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にAmazonで配信
監督:マシュー・ロペス
LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写

赤と白とロイヤルブルー

あかとしろとろいやるぶるー
赤と白とロイヤルブルー

『赤と白とロイヤルブルー』あらすじ

アメリカ初の女性大統領の息子アレックス。兄が婚礼を迎えたばかりのイギリスのヘンリー王子。2人とも端正なルックスとカリスマ性を兼ね備え国際的な人気を集めていたが、互いのことを軽蔑し合っていた。ある日、王室行事での2人の口論がタブロイド紙で大きく報じられ、米英関係に亀裂が入りそうになってしまう。事態の修復を図る関係者たちは2人を強制的に仲直りさせようとするが、両者の間には秘密の関係が生まれ…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『赤と白とロイヤルブルー』の感想です。

『赤と白とロイヤルブルー』感想(ネタバレなし)

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あの人とあの人が恋に落ちる

アメリカイギリスは最も強固な同盟関係を結んでいる国同士のひとつです。

2023年現時点での、アメリカの政治的トップは”ジョー・バイデン”大統領、イギリスの政治的トップは“リシ・スナク”首相。

2023年6月にも、米英首脳会談を実施し、経済安全保障を強化することなどでいつものお約束のような感じで合意しています。

“ドナルド・トランプ”がアメリカ大統領に就任したときは、そのなりふり構わない自分勝手な言動ゆえに、米英関係がかつてない“ひび”が生じてしまいましたが(同時期のイギリスの首相“ボリス・ジョンソン”もあれでしたが…)、バイデン大統領になってから、すぐさま関係性を修復し、今は何事もなかったかのように2国は並んでいます。

しかし、現在のアメリカとイギリスは共に政治的に盤石とは言えません。アメリカを二分する政治的分断は取り返しのつきそうにないほどに深刻化していますし、イギリスもEU離脱(ブレクジット)の影を引きずって彷徨っています。

この2国は大国として世界のリーダーを気取っていましたが、1国で権力を成り立たせる存在はこの国際社会においてそうそうありません。アメリカにとっても、イギリスにとっても、“最後の最後”の頼みの綱としてすがりつける相手を選ぶとしたら、やっぱりこの米英関係なんでしょうね。

そんな米英関係を思い浮かべながら、この映画も観てみるといいのではないでしょうか。

それが本作『赤と白とロイヤルブルー』です。

本作はアメリカ大統領の息子とイギリス王室の息子、それぞれ若い男性2人がひょんなことからロマンスへと発展していくという、恋愛映画となっています。

立場上、国の上位に立つ側の人間でありながら、ある意味では全然異なる側にあるとも言える2人。そんな2人の男性が互いに恋をしていったらどうなる?…そういうシチュエーション・ラブコメでもありますね。

実際、アメリカ大統領の息子とイギリス王室の息子が恋愛関係になったという実例は今のところないと思いますが(私たちが知らないだけで当人同士ではアツい愛が育まれているかもしれないけど)、本作は単なる同性愛ラブコメで終わらず、当然その政治的立ち位置ゆえに、軽やかな政治風刺をともなう作品としての顔も持っています。と言ってもそんなに小難しい政治的知識は必要ないので、「アメリカ大統領の息子とイギリス王室の息子が恋する」という設定だけわかってもらえればOKです。

アメリカとイギリスがこれ以上仲良くなってどうするんですか!と思うけど、こういうのならいいか…。

原作があって、2019年に“ケイシー・マクイストン”によって書かれた小説で、ベストセラーになったその小説はさっそく映画化が実現しました。

『赤と白とロイヤルブルー』の監督は、これが映画監督デビュー作となる“マシュー・ロペス”。でも初心者では全くなく、すでにウェスト・エンドやブロードウェイなど舞台劇の世界で華々しく成功をおさめている、絶好調の人物です。トニー賞を受賞した最初のラテン系劇作家として、またゲイ当事者の作家としても、今最も注目されている新時代のクリエイターと言えるでしょう。

俳優陣ですが、ラブラブな姿をみせてくれる主演の2人を演じるのは、『キスから始まるものがたり』シリーズの“テイラー・ザハール・ペレス”と、2021年版『シンデレラ』“ニコラス・ガリツィン”。“ニコラス・ガリツィン”はまたも王子役ですね(こっちは現実世界の王子だけど)。

また、“ユマ・サーマン”がアメリカ大統領を演じています。他の共演は、ドラマ『Love, ヴィクター』“レイチェル・ヒルソン”『ブラックアダム』“サラ・シャヒ”、ドラマ『ウィロー』“エリー・バンバー”など。トランスジェンダーの“アニーシュ・シェス”もシークレットサービス役で物語に花を添えています。

『赤と白とロイヤルブルー』は日本では劇場公開されず「Amazonプライムビデオ」で独占配信中です。

とてもキュートなロマンス・ムービーですので、部屋を涼しくしながらニヤニヤしてお楽しみください。

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『赤と白とロイヤルブルー』を観る前のQ&A

Q:『赤と白とロイヤルブルー』はいつどこで配信されていますか?
A:Amazonプライムビデオでオリジナル映画として2023年8月11日から配信中です。
✔『赤と白とロイヤルブルー』の見どころ
★キュートな恋模様が微笑ましい。
✔『赤と白とロイヤルブルー』の欠点
☆政治描写はかなり大雑把。
日本語吹き替え あり
小林親弘(アレックス)/ 益山武明(ヘンリー)/ 唐沢潤(エレン)/ 斎藤恵理(ザハラ)/ 大平あひる(ノーラ)/ 星野貴紀(ミゲル) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:気軽に観られる
友人 3.5:和気あいあいと
恋人 4.0:同性ロマンスたっぷり
キッズ 3.0:やや性描写あり
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『赤と白とロイヤルブルー』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『赤と白とロイヤルブルー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):初めての異国へのキス

イギリスのウェストミンスター寺院にて、ケンブリッジ公フィリップ王子とマーサ妃の婚礼が執り行われていました。幸せそうなカップルの隣には、弟のヘンリー王子の姿もあります。

彼は愛すべき王子として国民に親しまれており、妹のビアトリス王女も人気です。

各国から著名人も参席し、そこにはアメリカ大統領息子のアレックス・クレアモント=ディアスと副大統領の孫ノーラ・ホラーランの名もありました。

しかし、車内でアレックスは式典は退屈だと、ノーラにぼやいていました。ヘンリー王子と比較されるのが嫌のようで、「上流階級のマナーを間違えようものなら笑い者だ」と愚痴ばかり。

緊張しながら会場へ。挨拶でヘンリーはアレックスと顔を合わせますが、そそくさと去ってしまいます。何回か会っていたのですが、実はお互いに相手を毛嫌いしていました

不貞腐れたアレックスはバッキンガム宮殿のパーティで飲みまくって酔っぱらい、ヘンリーに絡みにいきます。相手を毒づきながら、ぴりぴりした会話を繰り広げ、ついにはアレックスはヘンリーの服をケーキで汚してしまいます。そして2人はもつれて倒れ、そこに巨大なケーキが倒壊。ケーキまみれになった2人はその場を撮られ、SNSの笑いのネタに…。

帰国後、アレックスの母で大統領であるエレンは失態をしでかした息子を叱ります。「3年前からイギリスと貿易協定を詰めているのに、それを一夜でブチ壊した」と激怒で、事態を収拾するように命じます。

そして、秘書のザハラから、ホワイトハウスと王室が共同声明をだすので、今すぐにロンドンに飛んで、ヘンリー王子とはこの数年間親しい友人関係にあったと述べることと具体的に説明されます。

こうして嫌々ロンドンにまた行くことになったアレックス。ケンジントン宮殿に着くと、颯爽と車でヘンリーが現れ、握手して広報用の写真を撮ります。

次に2人並んでインタビュー。

「数年前のメルボルン気候会議で出会ってすぐに意気投合しました。幼なじみのように」となんとか穏便にやり過ごそうとするも、険悪な駆け引きが裏で静かに繰り広げられていました。

そして小児病院を訪れていると、いきなり激しい破裂音がして、シークレットサービスに掃除道具置き場に2人まとめて放り込まれます。

やっと2人っきりになり、本音がついに漏れだします。アレックスは「僕を冷たくあしらっただろう」と初対面での不満を言い、「そんな些細なことで?」とヘンリーは呆れ顔。しかし、「あれは公人になって初めての場で、不安だったし、友達になれると思ったんだ」とアレックスは打ち明け、さすがにヘンリーも謝ってくれます。「父が亡くなった直後で気持ちが荒んでた」とヘンリーも自分の心境を吐露するのでした。

こうして少し打ち解け合って、最後に握手をして、2人は別れます。

それからというもの、アレックスとヘンリーからスマホでメッセージを送り合うようになり、他愛のないやりとりが続きます。

ある日、アメリカで年越しパーティがあり、ヘンリーとまた再会したアレックス。けれども外でヘンリーは佇んでおり、心配したアレックスが近づくと、ヘンリーは突然キスしてきて…

この『赤と白とロイヤルブルー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/16に更新されています。
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冷戦…からの積極外交な2人

ここから『赤と白とロイヤルブルー』のネタバレありの感想本文です。

同性愛だけど異国同士。そんなクロスする捻りがある『赤と白とロイヤルブルー』。アメリカ大統領の息子のアレックス、イギリス王室の息子のヘンリー…2人をアメリカとイギリスの象徴にさせるような位置づけでもあり、ある種の国を投影した存在。“国”擬人化モノの『ヘタリア』みたいな感触で楽しめる感じもなくはない、そんな物語です。

しかし、このアレックスとヘンリーには共通点があり、それは共にアメリカやイギリスの政治性を否応なしに背負いながらも、そんな規範的に収まりたくないと考えている、そういう青臭さがあるところです。

もちろん、「アメリカ大統領の息子」や「イギリス王室の息子」という肩書を捨てるというわけにはいきません(まあ、アレックスは政治状況でいくらでも変わりますが)。

それでもアレックスは労働者階級の出自でラテン系というマイノリティ性を背負いながら、法学部で学んだ知識も合わせて自分にできることをしたいと考え、それは女性初のアメリカ大統領となった母エレンにも伝わっています。この母親はアレックスのバイセクシュアルであるというカミングアウトも素直に受け止めるなど、何かとアライな母親でした。

一方、ヘンリーは白人ではありますが、ちょっとその出自が複雑ゆえに、メンタル面で大きな不安さを抱えており、それが物語の後半で暗い内面として浮き彫りになります。

そしてヘンリーの祖父である国王との対峙。穏便な口調、でもグサリと刺さるホモフォビア…そんな「国民の理解がないから」を理由に行動しない国王を目覚めさせるのは、大衆からの惜しみない祝福でした。どこぞの日本の政治家と重なる光景でしたね…。

ちなみにこの国王を演じるのは、ベテランの“スティーヴン・フライ”で、彼はゲイ当事者。当事者に差別主義的な役柄をさせる、よくあるキャスティングです。

そんなことを書きましたが、本編で一番に釘付けになるのはやっぱりアレックスとヘンリーのラブラブっぷりですけどね。2人とも急接近してからはもう無我夢中です。晩餐会でも、ポロでも、ホテルでも、外交しまくりだし…。

一応、記者ミゲルが2人の関係をリーク(アウティング)したかのように思える展開でしたが、あれだけ好き勝手にイチャイチャしてたら、絶対にどこかしらで関係性はバレますよ…。

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現実とどうしても比べてしまう

2人のラブラブっぷりをただ眺めて幸せになれる人であれば、このうえなく多幸感に浸れる『赤と白とロイヤルブルー』だと思うのですが、ひとつ気がかりは2人の政治的責任。

作中でも幾度となく2人の特権性(privilege)についての言及はあり、そこは作り手も重々に自覚していることだとは思うのですが、その言及も見ようによっては言い訳じみてくることもあります。

ヘンリーが小児病院で優しさを映し出すのも、アレックスの政治を良くしたいというひたむきさも、その周囲にいるノーラなどの誠実さも、みんな確かに好印象です。政治的パフォーマンスとしては…。

問題はそれがどれだけ国民の隅々に届くのかという話なわけで、そこの重要な腕の見せ所となるのは、アレックスが選挙キャンペーンで自信をもって乗り込んだテキサス州です。映画内では最終的に接戦となり、この保守派が有利なテキサス州で見事にエレン側が大逆転で勝利して、エレンは大統領の再選を決めます。

ただ、個人的に本作のテキサス州の描写はかなり大雑把だったと思います。労働者階級にアピールすれば勝てる…くらいの薄っぺらい作戦しか見えてこないので「本当にこんなので勝てるのか?」という疑問しか沸いてこなかったかな…。

テキサス州って保守的な地域だとざっくり語られがちですけど、実際はとても複雑で多層的な構造を持った地域であり、「労働者階級」とひとくちに言っても本当にその中にも多種多様な実情を抱えた人たちがいるわけです。それに対して包括的にアプローチするほどあのアレックスに実力がある感じには見えなかったかな…。

現在のアメリカとイギリスの政治におけるクィアの苦境も、本作に若干の白けた感情を持ってしまう動機になってしまいますよね。2国共にとくにトランスジェンダーに対して激しいバックラッシュが巻き起こっており、バイデン大統領も表向きはトランス・フレンドリーな口ぶりをしても有効策は打ち出せていないし、イギリス王室にいたってはどちらかと言えば反トランス的だし…。

『赤と白とロイヤルブルー』も、テキサス州をあんな雑に扱って済ますくらいなら、もっと物語として本気でピンポイントなクィアのイシューに言及した展開を見せたほうが良かったのではないか(例えば、ジェンダー・アファーミング・ケアを受けられずにアメリカのとある州で苦しんでいた子を、イギリスから専門家を派遣して助けてあげる…みたいな2人の外交あってこそ成し遂げられる成果とか)。そんなことを思ったり…。

『赤と白とロイヤルブルー』は理想的な世界を描く“おとぎ話”なのかもしれませんが、もう政治をメインで描いておいて“おとぎ話”で満腹になるような時代でもないでしょうから、現実ではクィアな国民はもっと政治を厳しい視線で睨んでいることだけは忘れないでおいてくださいね。じゃないと10トンくらいのケーキで押しつぶします。

『赤と白とロイヤルブルー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience 95%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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・『大いなる自由』

・『僕の巡査』

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作品ポスター・画像 (C)Amazon レッドホワイトアンドロイヤルブルー、

以上、『赤と白とロイヤルブルー』の感想でした。

Red, White & Royal Blue (2023) [Japanese Review] 『赤と白とロイヤルブルー』考察・評価レビュー