そんな疑問はこの1人と1匹は気にしていない…映画『リロ&スティッチ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2025年6月6日
監督:ディーン・フライシャー・キャンプ
りろあんどすてぃっち
『リロ&スティッチ』物語 簡単紹介
『リロ&スティッチ』感想(ネタバレなし)
スティッチが2025年の映画興収で大暴れ
やっぱり2025年もハリウッドの映画産業はディズニーが興行的に天下をとるようです。
2025年の特大ヒット作『マインクラフト ザ・ムービー』を超える勢いの興行収入をみせているディズニー映画が夏を前に大暴れしています。
それが本作、実写映画『リロ&スティッチ』です。
2002年のディズニー・アニメーション映画『リロ・アンド・スティッチ』を実写化した作品で、説明はそれ以上はいらないですね。あのスティッチも見事にフルリアルに映像化されています。
この実写映画『リロ&スティッチ』ですが、出だしから大好調で、2025年6月5日時点で、2025年の世界の映画興行収入ランキングで2位の『マインクラフト ザ・ムービー』に猛追する3位につけています(1位は圧倒的な数字を叩き出している中国アニメ映画『ナタ 魔童の大暴れ』。ちなみに実写映画『白雪姫』はこの時点で9位)。
ディズニーのアニメーション映画を実写化した映画群としても群を抜いており、現在1位の実写映画『美女と野獣』を上回れるか…(厳密には『ライオン・キング』が1位なのですけど、あれは超実写版を名乗っているものの、実質的にはCGアニメーションなので…)。
ディズニーは2025年の後半も話題作をスケジュールしているので、この年の興行収入ランキングのいくつかを占めるのは確実でしょう。
それにしても去年は『モアナと伝説の海2』が特大ヒットしてディズニーを潤わせたので、ディズニーはポリネシアに感謝しまくりだな…。もう政治家に献金しないで、ポリネシアの自然保護にそのカネを全部投じたほうがいいですよ…。
実写映画『リロ&スティッチ』の監督に抜擢されたのは、『マルセル 靴をはいた小さな貝』で素晴らしい魅力的な世界を届けてくれた“ディーン・フライシャー・キャンプ”。
もちろん俳優陣はポリネシア系の人々が勢揃いしています。
主役の少女リロの役には、“マイア・ケアロハ”がオーディションから選び抜かれ、「この子以外あり得ない」くらいの納得感で、作品にハマっています。
共演は、リロの姉ナニ役でドラマ『マイ・ブロック』の“シドニー・エリザベス・アグドン”、姉妹を見守るソーシャルワーカー役で、オリジナルのアニメ映画でナニの声を演じた“ティア・カレル”が起用されています。ちなみに“ティア・カレル”はトランスジェンダーの息子がいることを明かしており、アライな親としての姿勢をメディアに示している人でもあります。
他には、“ザック・ガリフィアナキス”、“ビリー・マグヌッセン”、“コートニー・B・バンス”などが出演しています。
抱き心地良さそうなモフモフになったスティッチに会いに行きたい人はぜひどうぞ。
『リロ&スティッチ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子どもでもたっぷり楽しめます。 |
『リロ&スティッチ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
宇宙のとある場所。ジャンバ博士という科学者が銀河連邦に逮捕されたばかりで、公に引きずり出されます。その理由は、高度な学習能力を持つ攻撃的でコントロール不可能な生物「試作品626号」を違法な遺伝子実験で作成したからでした。それは宇宙を脅かす存在で、危険極まりないと判断されました。そして有罪判決を受けます。
その試作品626号は小さな生き物でしたが、今も透明なケースの中で暴れています。聴衆も手が付けられないと絶句です。
有罪となったジャンバ博士でしたが、肝心の試作品626号はずる賢く隙をついて脱走。あっという間に小型の宇宙船を奪い、宇宙へ飛び立ちます。すぐに全力で追跡しますが、逃げられてしまい、ハイパードライブを使ってある星へ行ったようです。
そこで銀河連邦議長はジャンバに試作品626号を捕らえれば釈放すると約束し、試作品626号が向かったと思われるあの星の専門家を名乗るプリークリーとコンビを組ませます。
その星は地球でした。
ところかわってハワイのカウアイ島ではリロ・ペレカイという名の少女が元気いっぱいに駆け回っていました。わんぱくな性格で寄り道も大好き。あまりに遊びすぎてダンスの本番に遅れてしまいます。
ステージで踊りを同年代の子と並んで披露しますが、リロの姉ナニは見に来ていません。実は姉妹は両親を亡くしており、残された2人で暮らしていました。ナニは仕事で忙しいようで、まるで自分が放置されたようで、リロは気分を悪くします。
そして踊りの最中に、嫌味な子を突き飛ばしてしまい、フラスクールからリロが追い出されてしまいました。
そんな姉妹の家に、ソーシャルワーカーのケコアが訪れ、様子を見に来ます。平気なふりをしているもののナニは妹を育てるのに苦労しまくりです。ケコアが帰ると、ナニとリロは家の中で追いかけ合います。2人は嫌い合っているわけではありません。精一杯なだけです。
夜、リロは空に流れ星を見て、目を閉じて祈ります。しかし、それは墜落した試作品626号の宇宙船でした。
試作品626号の首には電気ショックが流れる首輪がついており、遠隔スイッチで電気が流れます。これを強引に外し、周囲を探索。近くで結婚披露宴が行われており、試作品626号は会場に乱入し、大暴れ。そのまま観光のトロリーに轢かれて、気が付くと動物保護施設に運ばれてしまいました。
一方、ジャンバとプリークリーは人間の姿に化けて同じくこの地球のハワイに来ており、試作品626号を見つけようとホテルに泊まります。
翌日、リロは隣人のトゥトゥにお願いして動物保護施設に行くことを許してもらいます。そこには犬に混じって試作品626号がいました…。
変更点を考察してみる

ここから『リロ&スティッチ』のネタバレありの感想本文です。
実写映画『リロ&スティッチ』…と言っても冒頭のエイリアンしか登場しない宇宙パートは完全にCGアニメーション映画ですが…ともあれ、こういう実写化はオリジナルからどう変えているかに注目してみることに私は毎回しています。そうすると作り手の試行錯誤が見えてくるので…。
本作でまずパっと元の映画から変更されたのは、銀河連邦のガントゥ大尉というキャラクターが丸ごと無くなっていることです。オリジナルではこのガントゥといういかにも軍人っぽいエイリアンが、強引な手段でスティッチの捕獲に乗り出すのですが、実写版ではその役割はジャンバ博士に変更されています。
単に予算不足でキャラを削ったのかもしれませんが、この変更はわりと良かったなと個人的には思います。ガントゥはかなりわかりやすい悪者で、その存在が終盤に侵襲的に振る舞うことで、どうしたって観客はリロとスティッチに同情できます。ただ、ガントゥは「悪の侵略的エイリアン」のテンプレすぎるので、ちょっと造形的につまらないです。
対してジャンバは今作でもかなり面白い存在感を放っており、そもそもこの科学者のせいなのですが、どこか憎めない存在としてドタバタ劇に最適です。このへんのギャグのバランスは、演じた“ザック・ガリフィアナキス”の才能もあってこそなのだと思います(『ハングオーバー!』感がでてる)。実写版で最も魅力を底上げしてみせた美味しいキャラはジャンバですよ。
そのジャンバがプリークリーと組むとさらに面白いです。実写で最も映像再現が難しかったと思いますが、頑張ったうえで合格ラインに達しているのかな…。でもプリークリーの女装はやっぱりちゃんと見たかったですけどね…(オリジナルのアニメ映画では女装するのが定番)。“ディーン・フライシャー・キャンプ”監督も初期資料をみせて実は女装バージョンも検討していたことを示していましたが、厳しかったかな…。
次に目立つ変更はナニのエピソードです。
本作におけるナニの境遇はそれ自体はなかなかに大変で、今回もソーシャルワーカーの介入がありますが、最終的には宇宙レベルの解決策で丸っと収まってしまいます。ややズルすぎる感じもあるような…。
その点、この実写版はナニの就職の大変さなど、ケアの役割を背負うことになった若者の人生により寄り添った現実的な物語で構築され、観客はついつい「リロ、可愛い~。スティッチ、可愛い~」とメロメロになりがちですけど、ナニの苦しさも忘れないようにしてくれています。
最後はナニのキャリアもしっかり応援する結末にしており、リロとの関係を維持しながら、ほどよくハッピーエンドにしていました。
「オハナ(家族)」という概念は良いものかもしれないですけど、重荷にもなりますし、そう容易く全肯定もできませんからね。
全体を振り返ると、“ディーン・フライシャー・キャンプ”監督の真面目さが浮き出る実写化だったなという感じです。原作をリスペクトしつつ、なるべくより幸せを増やせるようなアレンジを心掛けているかのようで…。
オハナでは済まない問題
そして何と言っても実写映画『リロ&スティッチ』の魅力は、リロとスティッチ。この2者が上手く実写化できないなら、この作品は破綻してしまいます。
“ディーン・フライシャー・キャンプ”監督はこの最大の課題に関してはほぼ満点の出来栄えを用意できたのではないでしょうか。
リロは“マイア・ケアロハ”が本当にハマっており、あの無邪気さは演技で引き出せるようなものでもなく、天性なのかなとも思いますけど、一方でスティッチとも上手く馴染んでいます。
スティッチはおそらく撮影時は簡易的なパペットで役者と相手させるかたちで掛け合いを作っていたのでしょうが、イマジネーションで相手を想像して演技するという難しいことをやってのけているこの“マイア・ケアロハ”…ただ者じゃない…。
このリロとスティッチがドタバタ劇を繰り広げるパートはどれも愉快で、とくに家という特定空間を最大限に利用して、あれやこれやと家具やアイテムを使いながらシーンを繋いでいくセンスは、“ディーン・フライシャー・キャンプ”監督の得意技なのかもしれないですね。
なお、オリジナルのアニメ映画では鉄板ネタだった“エルビス・プレスリー”の要素がないのは、やっぱり権利的な問題だったのかな?
こうしてウェルメイドなエンターテインメントを成立させた実写映画『リロ&スティッチ』ですが、あらためてオリジナルの頃から抱えている問題点も見えやすくなったな…とも個人的には感じました。
それはスティッチがリロの家庭に馴染むというオチです。
そのストーリー上の意図はいくらでも理解できます。宇宙から危険な存在として爪弾きにされた“小さき者”が、このハワイの島で同じく爪弾きにされた別の“小さき者”に出会い、交流を重ねて互いの価値を掘り出し、ついには居場所を得る。感動的な異種共存物語です。
とは言え、リロとスティッチには圧倒的な生物学上の力の差があり、それを見なかったふりをして、とりあえず最後に「仲良くなれるよね!」で解決したことにしてしまうのは少し浅すぎるのでは、と。ほとんどスティッチが空気を読むことで成立させていますし…。
ドキュメンタリー『チンパン・クレイジー』を観た後だと、余計に感じました。
小さい子に「狂暴そうな生き物でも可愛がれば家で買えるよ」と、かなり良くないメッセージを吹き込んでしまうような感じになっているのかも…。
オリジナルのアニメ映画を監督した“クリス・サンダース”と“ディーン・デュボア”は、そのあたりの問題性を重々承知なうえで、そのテーマ性のさらなるアップデートとして『ヒックとドラゴン』を作ったのではないだろうか…。あちらは異種共存物語でありながら、圧倒的な生物学上の力の差の問題から逃げず、人間側の責任にまで踏み込んでいますから。
実写映画『リロ&スティッチ』がもし続編を作るなら、その論点を組み込むことで、もっと違う世界を開けるようになると思います。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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・『白雪姫』
作品ポスター・画像 (C)2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved. リロアンドスティッチ
以上、『リロ&スティッチ』の感想でした。
Lilo & Stitch (2025) [Japanese Review] 『リロ&スティッチ』考察・評価レビュー
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