2作目は安定路線の船出…映画『モアナと伝説の海2』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年12月6日
監督:デイビット・ダーリック・ジュニア、ジェイソン・ハンド、ダナ・ルドゥ・ミラー
もあなとでんせつのうみつー
『モアナと伝説の海2』物語 簡単紹介
『モアナと伝説の海2』感想(ネタバレなし)
ディズニープリンセスの頂点はモアナ?
2024年のハリウッドはディズニーが興行収入で絶好調の1年でした。
『インサイド・ヘッド2』と『デッドプール&ウルヴァリン』がサマーシーズンまでに興行収入ランキングのワンツートップをぶっちぎりでおさえました。
これだけでもじゅうぶんすぎるのですが、冬のホリデーシーズンを前にこのアニメーション映画がさらに記録を打ち立てました。
それが本作『モアナと伝説の海2』です。
2016年に公開されたミュージカルCGアニメーション映画『モアナと伝説の海』の続編である本作。ディズニープリンセス作品の劇場映画での続編は、2019年の『アナと雪の女王2』以来の2度目となります(アニメシリーズでの続編なら『ラプンツェル ザ・シリーズ』がある)。
1作目の『モアナと伝説の海』もかなり大ヒットしたのですが、その2作目『モアナと伝説の海2』は『アナと雪の女王2』を上回るオープニング興行収入を達成。大ヒットしたディズニープリンセス映画の続編は確実に1作目を超える特大ヒットをだしてくれるようです。
とはいえ、1作目の『モアナと伝説の海』は1作目の『アナと雪の女王』よりは低い興行収入でしたから、2作目で凄まじい逆転をみせましたね。まさに今作の主人公のモアナは現状のディズニープリンセスの覇権です。
なお、ディスニーは2024年はクリスマスあたりに『ライオン・キング ムファサ』の公開も控えていて、こちらもヒットは確実なので、スクルージ・マクダックも大はしゃぎのボロ儲け状態です。そんなに儲かっているなら、雇用者を大量リストラするのも他作品を打ち切りにするのも止めろよな…。
話を『モアナと伝説の海2』に戻しますが、この映画、かなり異色の立ち位置です。もともと「Disney+(ディズニープラス)」用のアニメシリーズとして企画されていたものを、CEOのひと声で劇場映画に急遽方針転換。たぶん本音は儲けたかったのだろうな…。
そうして生まれた『モアナと伝説の海2』は前作の全てをそのまま受け継いだ王道の続編となっています。ただし、監督は前作から変わっていて、前作でストーリーアーティストをしていた“デイビット・ダーリック・ジュニア”にバトンタッチ。他にも共同監督として“ジェイソン・ハンド”と“ダナ・ルドゥ・ミラー”が参加し、大所帯な製作陣です。
私はディズニープリンセス映画の中では今の時点では一番好きなのは『モアナと伝説の海』なのですが、今回の『モアナと伝説の海2』も前作を好きだった人の「好きな要素」を裏切らない安定の作りをみせてくれますので大丈夫です。
『モアナと伝説の海2』を観る前のQ&A
A:1作目の『モアナと伝説の海』を鑑賞していなくても物語は理解できます。キャラクターの背景を知りたければ1作目を観ることをオススメします。
鑑賞の案内チェック
基本 | 溺れるシーンが少しあります。 |
キッズ | 子どもも何も心配なく見れます。 |
『モアナと伝説の海2』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
モアナは森を駆け抜け、崖を上り、とある島のてっぺんに立っていました。小豚のプアも懸命についてきます。法螺貝を吹くもここではこれといって反応なし。しかし、鶏のヘイヘイの予期せぬ行動で落下し、着地場所で偶然にも絵の描かれた品を発見。
これを見つけたかったのです。大喜びで船に戻り、大海原へ繰り出します。
今のモアナにはもはや怖いものは何もないです。海は味方なのだから…。
故郷のモトゥヌイ島に帰ります。そこでは父と母でもある村長トゥイとその妻シナが待っています。村人たちも大歓迎で、父も船で迎えに来てくれました。
3年前まではこの島では外洋に出ることを禁じていました。しかし、島の危機を救いたかったモアナはその掟を破り、好奇心を武器に海へと冒険にでたのです。そこで半神のマウイという存在と出会い、航海技術を身に着け、見事に常識を打ち破りました。以降、モアナの島ではみんな海にでることに積極的になり、島は活気を取り戻しました。
現在のモアナは卓越した航海の腕を頼りに、どこかに別の人々がいるという手掛かりを探し、ついにそれを見つけました。きっと別の島に私たちのような人たちが住んでいるに違いない…でもどうやってこの広大な海で出会えばいいのでしょうか。
悩んでいると妹のシメアが元気に駆け寄ってきます。3年前の大冒険の後に生まれた子です。
先祖の航海の歴史が保存されている洞窟にシメアを連れていき、歴史を語るモアナ。まだシメアは幼いですが、いつか同じように航海を経験することになるはずです。
モアナは先祖のタウタイの儀式を受け、そこで雷の直撃を食らったような直後、幻視をみます。それは嵐の神ナロが人間たちを引き裂いて支配するために、すべての島々を繋ぐ神秘的な島を海の底に沈めたという伝説。この島を浮上させる方法を見つけなければいずれはモアナの島も人が消えてしまうというのです。
一刻も早く行動にでなければ…。族長としてリーダーであるモアナは使命感に突き動かされ、準備を開始します。今回の旅はひとりでは無理です。そこで航海の仲間を見つけようとします。
島中から候補に声をかけます。ひとり目はやたらと改造したがるロト。2人目は農業などの植物食品に精通しているケレ。3人目はマウイを陶酔し絵を描くのが上手いモニ。この3人に決めました。プアとヘイヘイも一緒です。
シメアはまたも長旅に行ってしまう姉に不満な様子。その妹にモアナは昔の自分を重ねます。そして海の力を披露し、どんなに離れても海で繋がっていることを教えます。
村人全員が送ってくれて、モアナたちは大きい船で出発。みんなを繋げるために…。
万能型のディズニープリンセス
ここから『モアナと伝説の海2』のネタバレありの感想本文です。
『アナと雪の女王2』でもそうだったのですが、『モアナと伝説の海2』も多くのファンが求めているオーソドックスな発展形を披露してくれる続編らしい続編であり、主人公のキャラクターをさらに掘り下げ、物語を1作目のゴールのさらにその先へと向かわせてくれます。
2作目も鑑賞して思ったことですけど、本作のモアナは文化的背景に立つディズニープリンセスとしては屈指の出来栄えであり、2作目はそれを盤石に維持していて、そこがキャラクターの凄さなのだと強く感じます。
正直、過去の非西欧の文化的背景を背負うディズニープリンセスの表象は酷いものが多々ありました。『アラジン』のジャスミンも、『ポカホンタス』のポカホンタスも、中身としては差別的と言っていいぐらいのデザインですらありました。
でもモアナはその二の舞になるものかという作り手の誠実さを徹底的に込められていました。
まずポリネシアの文化に対する丁寧な描写です。1作目を継承し、2作目でもそこをカットなどせず、とくに前半でしっかり描いてくれます(「Kava」と呼ばれる儀式も描かれる)。
なお、今作はハワイ語、マオリ語、タヒチ語、サモア語の吹き替えでもリリースされているそうで、そっちのバージョンも観たいですね。むしろそっちがより文化的に真の意味でオリジナルですし(英語版は英語版ですから)。
そもそも今回の「別の島の人々と繋ぎ合う」という目的は実際のポリネシアの歴史を反映したものであり、歴史においてそうやってポリネシアの人々は島々と交流することで何千年とコミュニティを保ってきたわけですからね。
『モアナと伝説の海2』で描かれるその価値観は、要するに「よそ者の他者は敵だ」「あっちのほうが贔屓されている」…みたいな排外的思考の対象ではなく、共に世界を豊かにする他者です。それは今の時代の世界中の人々が思い出さなければいけない融和の精神であり、ポリネシアの歴史を描きながら、現代の論点に答える力のある主題でした。
モアナはその族長としての責任を果たすかたちで冒険をしており、わりとこれまであったような気楽なアドベンチャーとも違います。でもちゃんと冒険モノとしての面白さもキープしており、サービス精神は豊富です。今作は貝の大怪獣みたいなのもでてくるし、スペクタルはじゅうぶん。
海の力を持っているというチートなスキルがあるので、航海が簡単になりすぎではないかと最初は懸念しましたけど、今作ではクルーとのチームを築く能力を磨き、それでいて終盤では海の怖さを思い知る展開もあり、順当な成長をみせてくれました。
最終的にはモアナも確実に半神に近づいてきましたが…。最近のディズニープリンセスは何かと1度は死にかけるな…。
こうやってみると、『アナと雪の女王2』ではエルサが特殊能力を、アナが統治の責任者を…というかたちで分担していたところを、モアナはその役割を全部ひとりでやってのけているんですね。万能型のディズニープリンセスだ…。
今回の2作目でもモアナ単体のレプリゼンテーションも良質です。恋愛が介入するのを頑なに避けていますし(セクシュアリティは曖昧なままですが)、個人的には3年の成長として筋肉質なデザインになっているのが観察できて良かったかな。筋肉系のディズニープリンセスと言えば、『ラーヤと龍の王国』がありましたけど、良い友達になれそうですよ。まあ、あれだけ航海しまくっていたら筋肉くらいついて当然ですよね。
でもこういう女性ヒロインが成長過程で筋肉質なボディになる姿を自然に描いていくことって実はあまりありませんでした。「最初からこの女キャラは肉体派です!」みたいなキャラづけならいくらでもあるのですが、自然の身体変化として描くのは避けられがちで…。その点でもこのモアナは規範を振り切る表象でしたね。
あらためてこのモアナは現行のディズニープリンセスでは一番バランスがいいなと思います。あえて言うなら万能すぎる欠点の無さが欠点なくらいです。
マタンギをもっと見せて!
ミュージカルも前作の楽曲自体を文化のように受け継いで大切してみせている『モアナと伝説の海2』でしたが、安定路線をとったゆえに、新しさは薄いのが物足りないところはあります。
モアナの成長はたっぷり描かれているのですが、例えば、本作のマウイはわりと役割が限定的です。前作の物語を反転させて、今度はマウイがモアナを勇気づけるのはわかりますけども、マウイ自身がどうしていきたいのかの方向性は見えません。
たぶんこれはこの『モアナと伝説の海』シリーズ全体の課題ですが、半神とかの人智を超えた存在を描いていく際のリアリティのバランスのとり方が難しくなってくるのだと思います。それこそせっかくポリネシアの文化を丁寧に活写しているのに、それがファンタジー化しすぎて台無しになるとマズいですし、上手く距離感をとるのが大変ですね。
もうひとつ本作の最大の問題は、明らかに次作に持ち越しになる要素があること。
今作は新キャラクターとしてマタンギという人物が登場し、初顔見せながらそのミュージカル・パートでも強烈なインパクトをみせていき、これはモアナにとってマウイに代わる新しい導き手になるのか!?とワクワクしたのですが、あの中盤で出番は終わりですからね(マタンギの声をオリジナルで演じるのは、マオリにルーツのある”アウィマイ・フレイザー”)。
この『モアナと伝説の海2』、エンディングの映像を見るとわかりますが、あからさまに「3作目もありますよ」という宣伝をしています。きっとマタンギも3作目にまたでてくるのでしょうが、ちょっと映画単体としては消化不良です…。
『アナと雪の女王』も現在は3作目と4作目も製作中で、今のディズニーの方針をみるかぎり、人気のあるディズニープリンセスは映画シリーズ化することに超前のめり。『モアナと伝説の海』シリーズも2作目の特大ヒットで間違いなくそのGOスイッチが押されたことでしょう。
まあ、確かに私はモアナはディズニープリンセスの中では一番好きだとは言いましたけど、こうやって企業の金儲け看板娘にされるのは複雑な思いではある…。
しかも、『モアナと伝説の海』は2026年には実写映画も公開予定ですからね。これ、しばらくはずっと『モアナと伝説の海』と『アナと雪の女王』の新作の交互連続パンチが続きますよ。
私はディズニープリンセスならいろいろな舞台での新作をもっと観たいのが本音です。稼ぎ頭に稼いでもらったぶん、他でさらに挑戦的なディズニープリンセス作品を作ったっていいんじゃないんですか? ディズニーさん?
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
ディズニープリンセスのアニメ作品の感想記事です。
・『塔の上のラプンツェル / ラプンツェル ザ・シリーズ』
・『プリンセスと魔法のキス』
作品ポスター・画像 (C)2024 Disney. All Rights Reserved. モアナ2
以上、『モアナと伝説の海2』の感想でした。
Moana 2 (2024) [Japanese Review] 『モアナと伝説の海2』考察・評価レビュー
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