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『オキシジェン Oxygen』感想(ネタバレ)…Netflix:鎮静剤はいかがですか?

オキシジェン

鎮静剤はいかがですか?…Netflix映画『オキシジェン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Oxygen
製作国:フランス・アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:アレクサンドル・アジャ

オキシジェン

おきしじぇん
オキシジェン

『オキシジェン』あらすじ

突然、目が覚めたひとりの女性。ここはどこなのか、自分にはわからない。さらには自分が何者なのか、その記憶さえもない。混乱の中で必死に情報をかき集めていくが、調べようとすればするほどに謎が増えていく。この狭い空間では酸素が乏しく、パニックになることでその貴重な酸素はさらに失われていく。なんとか助けを求めて脱出しようとするが、真実を知ってしまったとき、決断を迫られることに…。

『オキシジェン』感想(ネタバレなし)

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ネタバレしたら閉じ込める!

狭い空間に閉じ込められたことはありますか?

あんまり辛い体験なら思い出してほしくはないのですけど、人によっては閉所恐怖症という場合もあります。でも私は幸いというべきか、狭いところは平気です。というか、むしろ狭いところが好きです。逆にあまりに広いと不安になるかもしれない…。

ただやっぱり自分でも理解していない見知らぬ場所にいきなり閉じ込められたら嫌です。私は石橋を叩いて渡るタイプの人間なので、基本的には自分で安全と確認された空間でないと落ち着けません。

そんな私にはこの映画のようなシチュエーションはキツイかな…。その映画とは本作『オキシジェン』です。

タイトルの「Oxygen」とはわかる人はすぐにわかると思いますが、「酸素」のこと。科学の授業で酸素原子は「O」と表記し、空気中には「O2」という酸素分子で存在していることは習ったでしょう。

『オキシジェン』は酸素がキーワードになってくる作品で、主人公は突如謎の狭いひとり分の空間に閉じ込められてしまう…というスリラー映画です。

そしてこれ以上のネタバレは一切できないという…。だからもう内容について語れません。とにかく閉じ込められるんです。

それって面白いの?という話ですが、この“アレクサンドル・アジャ”監督にお任せください。

“アレクサンドル・アジャ”監督はフランス人のユダヤ系であり、父も妻も映画監督。そしてこの“アレクサンドル・アジャ”監督の作家性は当初からハッキリしていました。それはつまり「悪趣味で不条理で残虐」。2003年の『ハイテンション』は殺人鬼もので、2006年の『ヒルズ・ハブ・アイズ』はカニバリズム要素あり、2008年の『ミラーズ』も暴力満載、2010年の『ピラニア3D』はみんな怪魚に食べられまくる…とにかくバイオレンスづくし。そのため、あまりにも倫理的にアウトすぎて当然レーティングは跳ね上がりますし、批評家からも露悪的すぎないかと批判されたりもしました。けれどもその過剰さが一部の映画ファンからカルト的に支持を集め、不動の存在感を放ってもいました。

そんな“アレクサンドル・アジャ”監督でしたが2019年のワニ映画『クロール 凶暴領域』では批評的にも好評で、単なるグログロではない確かな手腕も発揮し始め、さらなる進化の兆しを見せていました。

そしてついに本作『オキシジェン』。なんとこの2021年の監督作では映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で95%の高評価を獲得し、キャリア最高値を叩き出すに至りました。当初は『P2』の“フランク・カルフン”が監督し、“アレクサンドル・アジャ”はプロデューサーに回る予定だったみたいですけど。脚本は“クリスティ・ルブラン”という方でまだキャリアは浅い様子。

『オキシジェン』に残酷描写はあるのかと気になると思いますが、う~ん、どうだろう…(言葉を濁す)。言えない…。雰囲気からするとホラー映画っぽい感じもしますが、怖い作品が苦手な人でも大丈夫だと思います。

ひとつ推奨するのはなるべく大きな画面で観た方がいいです。私は本作は劇場の巨大スクリーンで観るべきだと思いました。映像からの閉塞感、そしてアっと驚く展開…それらを鑑みても小さな画面だと衝撃は緩和されてしまいますから。

あえて同じ狭い空間に身を置いて観るのもありですが、そんな物好きはいないかな…。

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『オキシジェン』を観る前のQ&A

Q:『オキシジェン』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年5月12日から配信中です。
日本語吹き替え あり
樋口あかり(リズ)/ 中川慶一(ミロ)/ 四宮豪(レオ)/ 喜代原まり(エリザベット・ハンセン)/ 白熊寛嗣(モロー警部)/ 野村須磨子(アリス) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:人によっては傑作
友人 4.5:話題性はじゅうぶん
恋人 4.0:話のネタになる
キッズ 3.5:やや怖いシーンがある
↓ここからネタバレが含まれます↓

『オキシジェン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):酸素残量は…

目覚める女性。手足含む体は厳重に拘束されており、顔からつま先まで薄い膜(オーガニック・コットン)のようなもので覆われています。

なんとか口を動かしてそれを破ると、そこは真っ暗闇で赤い点滅だけが一定間隔でビープ音とともに繰り返されている狭そうな空間です。次に左手を動かし、指を開けるようにします。その手で身体をまさぐり、拘束をとっていくと、右手には何か点滴なのかわからないチューブが埋め込まれているのがわかります。それを引き抜くと、少し血が流れるので手で押さえます。

両手でどんどんとシートを引き裂き、頭には謎の電極つきの機械が被されているのでそれもとり…外すといきなりその他の機器が引っ込みます。

周囲を手で探るとそこは狭いポッドのような中。「助けて!」と叫びます。

急に明るくなり、機器でいっぱいの内部がハッキリ見えるように。何かの起動音。「システム障害、酸素の残量35%」という音声。

「ここはどこ?」「私はあなたの医療インターフェースのオペレーターのミロです」

誰かこんなことを…何も思い出せない女性。

「あなたは極度の興奮状態です。鎮静剤を打ちますか?」

「ここから出して」

「現在そのリクエストにはお答えできません」「経過報告をご希望ですか?」「障害を検出。過熱したプロセッサ3-54が酸素を消耗したため極低温保存を中断」

状況を察するにここは病院なのか。なら人が周りにいるのでは。大声で助けを呼びますが無反応です。

「酸素残量34%」とそのミロとかいうAIは機械的に通知してきます。

私は末期の病気か何かなのか。普通ならモニターで監視されているはず。きっと誰か来るはずと自分を落ち着かせます。ミロいわく障害診断は送信されたが、返信はないとのこと。

「私は誰? 名前は?」「患者識別名、オミクロン267」

映像を見せてと言うと、自分がホログラムのように目の前に映し出されます。名前はオミクロン267と登録されているとのこと。走馬灯のように記憶が頭をめぐりますが、よくわかりません。

「酸素残量33%」

ここから出るにはどうすればいいのか。解除を要求するとミロは「あなたの認証コードが必要です」と告げてきます。そんなものは知りません。

「外部に連絡ができる?」…どうやら警察に繋がることができました。「私、閉じ込められているの」「どこの病院ですか」「名前と住所は?」「覚えていないの」「この通信を解析できる?」「わかりました、とにかく思い出してください」「そのポッドについて教えてください」

そう言われてメーカー名とシリアルナンバーを探す女性。「クリオザリド社製、製造番号7485945375-267」…しかしそれを伝えると通話は切れてしまいました。

「オミクロン267のDNAを調べられる?」とミロに要求。「一致する人は?」「1名見つかりました」

写真が表示されます。エリザベット・ハンセン博士…「リズ」と思い出す女性。

すると外部から謎の物音。何かいるのか。モロー警部に繋がります。酸素残量は31%。あと43分で尽きてしまいます。このポッドは3年前に利用停止されたとか。つまり病気じゃないのか。閉じ込められたのか。

接続が切れます。酸素残量29%。生存確率0%。自分にできることは…。

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徐々に衝撃を増していく

『オキシジェン』のような閉所密室“閉じ込められ”スリラーというのはある種の定番です。有名なのはライアン・レイノルズ主演の『[リミット]』という映画でしょうか。人ひとり分の極端な狭さという意味では本当にできることは少ないです。役者もひとり(本作の“メラニー・ロラン”も熱演でした)。舞台装置はほぼ限定される。それでどう面白くするのか。作り手の手腕がフルに求められます。

『オキシジェン』はとにかくこのストーリーテリングが巧みで、徐々に情報を公開するだけでなく、そこで飛び込んでくる衝撃の展開が、時間を増すごとにインパクトを段階的にあげていく。実に巧みに翻弄されていってしまいます。

まず主人公は病院の医療用ポッドに閉じ込められていると推察。しかし、どうやら違うようで何らかの犯罪性を疑い始めます。しかも、警察さえも信用できなくなっていく始末。このあたりまではこのジャンルではお約束です。

しかし、ここで自分が何者なのかわからないという大きな謎がずっと付きまといます。レオ・ファーガソンという夫は実在するのか。そして通話してきた謎の高齢女性の声は何者か。

そしてその高齢女性の指示で設定を変更し、判明したのはまさかの真実。ここは宇宙。地球から6万5000キロメートルも離れている。さらに自分は12年間もハイパースリープ状態

続いてポッドは1万体あるとミロに教えられ、前面のフィルターを解除し、その光景を目撃。大量のポッドが配列された巨大な宇宙船。小惑星の衝突で破損し、死体が浮いているゾっとする状況。ここの視覚的なサプライズは演出が絶妙でしたね。ただでさえずっと狭い映像ばかり見せられていましたから。

けれどもまだ衝撃は終わらない。追い打ちで明らかになるのは自分はクローンだという現実。謎の高齢女性は本来の自分でした。

この時点で謎解きはゴールに達しますが、同時に決断を迫られることになります。最近も『密航者』で見られましたが「冷たい方程式」的な前提のある自己犠牲を問われる難題。加えて主人公はクローンなので生きる意味さえも不確か。

そんな中でハイパースリープ状態に戻すべくタイムリミットが迫る中、ここで“アレクサンドル・アジャ”監督らしい生理的にキツい悪趣味描写(自分でチューブ等を差し戻す)という展開まで用意。ネズミパニックというオマケつき(すっごい強引だけどね)。

映画の始まりからラストギリギリまでとことんハラハラさせてくれる極上のサスペンスでした。

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翼果に乗って、彼の地へ

『オキシジェン』で私が好きなところは、シチュエーション・スリラーに見えつつ、最終的には人類というものを俯瞰させて、その小さい存在が抗えない巨大な自然の摂理に乗るしかないということを、超巨大スケールで教えてくれる部分です。

とくにそのエッセンスになっているのが主人公が乗せられている宇宙船のデザイン。作中で何度も伏線として登場していた、翼がついていてヒラヒラと回りながら落ちる木の実がモチーフになっていました。いわゆる「翼果」と呼ばれるものです。

ポッドのクローンたちは移住先の惑星に到着次第、その翼果のようにいくつかに分かれながら惑星の大地に着地し、そこで繫栄していく…という壮大なプロジェクト。これが現実的に有効なのかどうかはSF的にも考察できるほど私は詳しくないのですが…。

ただ、それがわかったとき、本作の不条理さは別の意味を持ち始めます。つまり、確かに主人公の周りは人工的なモノばかりですが、結局は大いなる自然のサイクルと同じだということ。自然は不条理なのです。

きっと航行途中にいくつかのポッドが不能になることも想定済みなのでしょう。でもそれも自然の世界では普通にあること。主人公はまさに種子。芽を出せるかは運しだい。

そもそもどうやら作中の地球は感染症のパンデミックで人類は絶滅間近なようです。いつ何時その瞬間が来るのかもわからないのにまさに今だって私たちは経済活動なんて気にしている。人という生き物は絶対不滅の最強の存在だと驕り高ぶっている。でもそれは間違っている。

こうやってヒトという生き物も小さい脆弱な生命に過ぎないということを静かに提示する。最近も『ブロックアイランド海峡』がまさにそんなオチでしたが、私はこういうテーマが好きなんですよね。

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「謝罪を受け入れました」

あともうひとつ『オキシジェン』で私が好きなのはやっぱり医療用オペレーターの「M.I.L.O.」ですね。私はAIが魅力的な作品だとそれだけで評価が爆上がりするのです…。

このミロは医療AIと言いつつも無慈悲です。プログラムどおりにしか動きませんし、融通が利かない存在。日本語吹き替えだと完全に『ベイマックス』と同じですね。原語版だと『潜水服は蝶の夢を見る』の“マチュー・アマルリック”が声をあてています。

情報も肝心なところは伝えないし、重要なポイントでイチイチ無能だし、一方でなぜか緩和ケアとか安楽死プロトコルとなるとやたら機動性のあるアームを取り出して軽やかに処理しようとするし…。なんだよ、お前!っていう…。

作中でのやりとりは完全にドタバタコメディと化している部分もあったり…。本作は基本的にシリアスな世界観で、それは展開が進めば進むほどに深刻さを増していき、ある意味では絶望に到達してしまうのですが、そこにユーモアを提供してくれるミロは良い緩衝材になっていました。このへんもシナリオが上手いなと思うところ。

ウザい機械。でもやっぱりあのミロは主人公にとって何よりもずっと話し相手になってくれている。おそらくミロがいなければ主人公は孤独死していたでしょう。

もっと早くクローンだと教えてくれたらいいのにとか、宇宙にいることを早く言ってよとか、他のポッドの存在とか、言葉足らずなミロだったのですが、実はずっと主人公の健康にだけ集中して専念してくれている。その点では仮の親のようでもあります。ポッドも子宮だと解釈できますから。

102分の人生の中で最初にできた友人であり、喧嘩もしたし、仲直りもした。ちゃんと最後には「叩いてごめんなさい」「謝罪を受け入れました」で終わるのがいいですね。私も皆さんもきっと生まれる前に母親のお腹の中で身勝手に叩いたりとかしたはずですし。

「鎮静剤はいかがですか?」は大切な名言です。

『オキシジェン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience 77%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『オキシジェン』の感想でした。

Oxygen (2021) [Japanese Review] 『オキシジェン』考察・評価レビュー