DUNEは拡張できるのか?…ドラマシリーズ『デューン 預言』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にU-NEXTで配信(日本)
ショーランナー:アリソン・シャプカー
自死・自傷描写 性描写 恋愛描写
でゅーん よげん
『デューン 預言』物語 簡単紹介
『デューン 預言』感想(ネタバレなし)
「DUNE」のスピンオフ
2024年3月に劇場公開された『デューン 砂の惑星 PART2』は、1作目となる前作の映画を大きく上回る世界的な大ヒットを記録し、原作である“フランク・ハーバート”のSF大河小説が好きな私もひと安心。
つまり、またこの物語の続きが観れるってことですからね。実際、3作目の映画の企画も動き出しているそうで(すぐには作られない)、楽しみでなりません。
しかし、この『DUNE』シリーズは映画だけでなく、スピンオフとしてドラマシリーズでもこの2024年に拡張をみせました。
それが本作『デューン 預言』です。原題は「Dune: Prophecy」。
1作目の頃から企画の話はあったのですが、本作は「ベネ・ゲセリット(Bene Gesserit)」という映画にも登場した女性だけで成り立つ修道会を主題にしています。
この「ベネ・ゲセリット」とは何なのかをあらためて簡単に整理しておくと、修道会といっても信仰深い共同生活を送っているだけの組織ではありません。女系を重視する女子修道会で、各地から若い女性を集めているわけですが、所属する女性たちは他人を声で操れる「ボイス」という特殊な能力を獲得しています。さらに嘘を見破ることができる(読真師と呼ばれる)など、その力は人知を超えており、驚異的です。一種の魔女的な雰囲気さえも感じます。
しかも、「教母」と呼ばれる者が特に力を持ち、その修道会で卓越した能力を磨いた教母は、宇宙各地の有力な公家に派遣され、権力者のすぐ傍で従属します。しかし、単にしもべというわけではありません。その秘めた能力を使って、公家の封建制を実は裏で操っており、言ってしまえば諜報組織みたいに暗躍もしています。
おまけに独自のDNAデータベースを持っており、より優れた(そして都合のいい)子孫が各公家で産まれ受け継がれていくように自らの身体も駆使してコントロールしています。これは優生思想的な生殖管理とも言えます。
とまあ、こんな感じで、とんでもない集団なのです。肉体的および精神的な鍛錬と、映画にも重要なアイテムとして登場した「メランジ」という薬物のようなスパイスを使うことで、こんな超人的な能力を獲得し、秘密主義の母系組織が世界を宇宙規模で操っているなんて…。魔術と科学を併せ持った組織なのです。
「ベネ・ゲセリット」は完全に架空の組織ですが、原作者の“フランク・ハーバート”はカトリック教徒の家柄で何でも信仰を押し付けられるのが嫌だったらしく、それがこれほどの危うい信仰集団のインスピレーションになったようです。作中のベネ・ゲセリットは、キリスト教だけでなく、世界各地のいろいろな宗教をごちゃ混ぜにしたような独特の存在感がありますが…。
ドラマ『デューン 預言』はこのベネ・ゲセリットで巻き起こる陰謀と策略を描いているのですが、舞台は映画の出来事の1万年前。すっごい昔です。この世界で一体何が起き、その始まりには何があったのかを探っていく内容となっています。映画とはだいぶトーンが違いますね。
本作のショーランナーは、ドラマ『オルタード・カーボン』の“アリソン・シャプカー”。なお、映画の監督である“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”は関わっていません。
主演は、ベテランで『ゴッズ・クリーチャー』やドラマ『チェルノブイリ』など最近も数々の名演をみせている“エミリー・ワトソン”。他には、ドラマ『ザ・クラウン』の“オリヴィア・ウィリアムズ”、ドラマ『レイズド・バイ・ウルヴス/神なき惑星』の“トラヴィス・フィメル”、『アトラス』の“マーク・ストロング”など。
登場人物数がかなり多いので覚えるのは少々大変ですが、ゆっくりついていきましょう。幸い、物語の進行速度はそんなに速くありません。とりあえずヴァリアとトゥーラという2人の人物だけ追えていればいいです。この2人が実質的なメイン主人公ですから。
『デューン 預言』はアメリカ本国では「HBO」で放送され、日本では「U-NEXT」の独占配信。シーズン1は全6話で、1話あたり約60~80分とボリューム多めです。
『デューン 預言』を観る前のQ&A
A:はるか昔の前日譚なので、映画『デューン 砂の惑星』を観ておく必要はありません。
鑑賞の案内チェック
基本 | 幼い子どもが殺されるシーンがあります。 |
キッズ | 直接的な性描写があります。 |
『デューン 預言』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
人類が宇宙を行き来する技術を手に入れ、数多の惑星を植民地化した世界。人類社会のテクノロジーはついに思考機械と呼ばれる技術まで生み出しましたが、その機械に逆に支配されるかのような状況に一部の人々は反発。思考機械との間に激しい戦争が勃発し、最終的に思考機械は禁止・破棄され、人類は信仰と大家による帝国統治に専念するようになりました。
この混乱の中、帝国の名家に仕えるよう訓練された女性だけの修道会が勢力を拡大し、その組織は計り知れない力を持つようになりました。
ヴァリアとトゥーラのハルコンネン家の姉妹もまたその修道会に属することになりました。しばらく後、初代修道院長のラクエラ・ベルト・アニルルに死期が迫りました。ところがラクエラは自身の孫娘で後継者となるはずのドロテアではなく、なぜかヴァリアを呼び寄せます。
ヴァリアを口元に寄せ、老いた皺だらけの口を震わせて教母は苦しそうに言葉を絞り出します。「ティラン・アラフェル…」と…。その彼女が幻視したのは世界の終わり。巨大な砂を蠢く何かに全てが食い尽くされる終焉。ヴァリアはその預言のような言葉を刻み付けられます。そしてラクエラは亡くなりました。
葬儀が粛々と行われる中、ヴァリアは仲間たちとこの預言とも言える言葉をどう受け止めるか話し合います。ドロテアは認めておらず、修道会が保管してきた生殖データを破壊しようと行動にでます。立ちふさがったヴァリアは「ボイス」を使って彼女を止め、衝動的に自害するように操って殺してしまいます。
思考機械との戦いが終わって116年が経ち、ドロテアを殺害してから30年後、修道会はさらに発達。ヴァリアは修道院長になっていました。
今も多くの若い女性を能力者として鍛えています。今回、コリノ家の皇帝の皇女であるイネスが自ら読真師となるためこの修道会に訪れることになりました。さらにリチェス侯爵の9歳の息子プルウェトを皇女イネスに婿入りさせるという政略結婚も執り行われることになります。
イネスは内心では明らかに幼い相手との婚約に不服でしたが、政治のために逆らうわけにはいきません。結婚の儀では、あろうことかプルウェトが小さな思考機械を隠し持っていたことが発覚。騒ぎになりますが、これも受け流すしかないです。
その頃、デズモンド・ハートという兵士が不気味な帰還を遂げます。彼はスパイスの産地である砂の惑星「アラキス」にいたはずですが、ある体験と共に生存して戻ったようです。
そのデズモンドは隠れた能力を発揮し、皇帝にとって目障りなプルウェトを残忍に殺害してしまいます。
そして、修道会の忠実なメンバーであったカーシャ・ジンジョは、危機を告げ、ヴァリアの目の前で焼け爛れて死ぬのでした。
一体この世界に何が待ち受けているというのか。ヴァリアの脳裏にあの預言が蘇ります…。
陰謀と反逆は繰り返される
ここから『デューン 預言』のネタバレありの感想本文です。
『デューン 預言』は公家と深く関わる女性だけのコミュニティが主な舞台となることもあって、いわゆる宮廷陰謀モノのジャンルと大まかに捉えることもできます。特殊な能力を持つ女性がいて…という設定もファンタジー系の宮廷陰謀モノではわりと定番。
しかし、今作の主題であるベネ・ゲセリット(シーズン1時点ではまだ設立前)は本当に計り知れないです。
物語は初代修道院長ラクエラの波乱の死から始まり、その死後の組織的混乱の中、ヴァリアがとんでもないことをやらかしてしまいます。後継者となるはずのドロテアの殺害。しかも、ヴァリアの親しい仲間たちであるトゥーラ(妹)、フランチェスカ、カーシャまでも、ドロテアの信奉者たちを殺めて隠滅していたことが第6話で発覚。もはや虐殺的な反逆による組織の乗っ取りです。
これだけでも衝撃の事実なのですが、そのうえでヴァリア率いる組織は公家を裏で操ってコントロールしていますからね。公家同士の対立さえも掌の上。この世界の政治劇が茶番だと知り、愛人のフランチェスカすらも自分を駒として利用しているだけと思い知ったコリノ家のジャビコ皇帝も「うわ、私の存在意義ないじゃん…」と自ら命を絶とうとする…。まあ、そうなるよね…。
一方で、そうは問屋が卸さないのが、ラクエラの玄孫である若きライラ(“クロエ・リー”が演じる)がなんだか知りませんがシスターフッドの死者の魂が乗り移るようになり、ラクエラに続いてドロテアの声を届け、現在の若きシスターフッドの従者たちにヴァリア一味の裏切りを暴露。反逆の反逆が起きそうな雰囲気に…。
ドラマ『スター・ウォーズ アコライト』といい、組織不正を目の当たりにして反逆する若者たちという構図を2024年はスペースオペラものでよく観る気がするな…。
これだけでも物議を醸す状況ですが、ここにもっと得体の知れない存在が絡んできます。それがデズモンド・ハートです。
彼は砂の惑星アラキスに派兵されていた際にどうやら「シャイ=フルード」と呼ばれている砂漠を移動する巨大な砂虫に襲われたようですが、第6話でヴァリアの幻視を通して、その後に謎の青い目の機械に能力を眼球に細工される施術を受けたらしいことが判明。なので念じるだけで相手を焼き殺せる力があり、ヴァリアのボイスにも屈しない「対シスターフッド」要員となっています。しかも、実の母はトゥーラであり、彼女が若い頃にオーリー・アトレイデスと関係を持った時に生まれ、つまりハルコンネン家とアトレイデス家の両方の血を受け継ぐ存在でした。
このデズモンドが不気味で何をもたらすのかわからない不穏さを常に漂わせており、物語のサスペンスがグっと引き締まっていました。
どう考えても危険人物なのに誰も逆らえなくなり、ナタリア皇后すらも取り込んでいくデズモンドという男の底知れぬ単独のカリスマ性。女たちの結束で影響力を発揮するシスターフッドとは対極的です。
能力よりも政治劇で楽しませられるか
『デューン 預言』のシーズン1は、ヴァリア、トゥーラ、ライラ、デズモンドとそれぞれの役者が揃ったところで終わりであり、全6話という少ないエピソードでよくまとめたなというボリュームではありました。
しかし、やはり描かれていることが回り道が多いうえに長ったらしく感じる面もなくはないです。単純なことをあえて複雑に見せているような…。
“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”だったら第1話の内容だけで2時間半くらいの1本の映画にしそうではある…。
そう、やっぱり私はあの“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督作の映画でこの「DUNE」の世界観が決定的に塗り替えられてしまっていますから、どうしても自然と頭の中で比較してしまうんですよね。このドラマを観ていると“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”はアプローチが上手かったなと再確認できました。
この「DUNE」の世界観は原作時から魅力的ですけど、決して完璧でもなく、細部の穴はいくらでもあります。宗教やジェンダー風刺も現代的にみれば空振りする部分も無くはないです。
“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”監督は映画ではあえてその世界観を深堀りしぎないことで原作の欠点を上手く誤魔化し、その代わり自身の揺るがない作家性に紐づいたアートスタイルで装飾して別の見どころを用意していました。
対するこのドラマ『デューン 預言』は世界観やデザインの統一はされていますけど、映像的没入感は当然映画には及ばず、どうしても多数キャラのドラマ性で深堀りして世界を広げるしかありませんので、苦しい脚色的葛藤が多そうだなと…。
あと、シスターフッドもデズモンドも能力が超越しすぎているので、最終的にはチート能力同士の対決になって、視聴者が白けやすいという問題もあると思います。
最初は「DUNE」の世界観で『ゲーム・オブ・スローンズ』でもやるのかなという企画に思えましたが蓋を開けてみると感触が全然違うのはそういう問題のせいでもありますね。ドラマ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のほうがまだ政治劇でしっかり貫禄たっぷりにみせてくれるので、『デューン 預言』がどこまで政治劇の面白さをだせるのか、そこに懸かっています。
「DUNE」の世界観の拡張は想像以上に長丁場の体力勝負になるでしょうが、大丈夫でしょうか。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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以上、『デューン 預言』の感想でした。
Dune: Prophecy (2024) [Japanese Review] 『デューン 預言』考察・評価レビュー
#スペースオペラ #エミリーワトソン