スカイダンス・アニメーション映画の第1弾…「Apple TV+」映画『ラック~幸運をさがす旅~』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ・スペイン(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にApple TV+で配信
監督:ペギー・ホームズ
ラック 幸運をさがす旅
らっく こううんをさがすたび
『ラック 幸運をさがす旅』あらすじ
『ラック 幸運をさがす旅』感想(ネタバレなし)
スカイダンス・アニメーションの命運は?
今日のあなたは運が良いですか、それとも悪い方ですか?
別に根拠もないけれど、なんとなく「今日は自分は運が悪いんじゃないか」と思ってしまうことはあります。逆に「あれ、なんだか妙にラッキーなことが続いているな…」と感じることもあります。
「運」という概念は不思議なもので、目に見えないし、たいていの人は数値化して分析することもしてないのに、なぜか「運」という言葉でついつい説明したくなってしまうもの。この「運」の概念は宗教や文化に限らず世界中にあるので、人類の共通の感覚なのかもしれないですね。
そんな運についてちょっと前向きに考えさせてくれるアニメーション映画が今回紹介する作品です。
それが本作『ラック 幸運をさがす旅』。原題は「Luck」です。
『ラック 幸運をさがす旅』はまず「Skydance Animation(スカイダンス・アニメーション)」というスタジオの長編アニメーション映画として第1弾の記念すべき一作であるというのが特筆できるところです。
「Skydance Media」というこれまでも実写映画製作を手がけてきたアメリカの会社がありましたが、2017年にアニメーション・スタジオを立ち上げる計画が開始。“ビル・ダマシュケ”というドリームワークス・アニメーションで『プリンス・オブ・エジプト』や『エル・ドラド 黄金の都』などを手がけてきたプロデューサーを旗頭にしてスカイダンス・アニメーションが始動します。
ところがこのスカイダンス・アニメーションに思わぬ人物が加入することに。それがピクサーを生み出した“ジョン・ラセター”です。彼は2017年にスタッフに対する性的不正行為の申し立てがあり、2018年にはディズニー・ピクサーを離れ、2019年にこのスカイダンス・アニメーションのトップに就任しました。不正なことをしてもいとも簡単にキャリアが手に入るなんて不公平な話だなと思いますけど、ともあれこのスカイダンス・アニメーション側はラッキーだと思ったのかもしれません。
で、“ジョン・ラセター”ばかり話題になりがちですが、彼以外にもディズニー・ピクサーからこのスカイダンス・アニメーションに移動してきた人が何人かいました。
その人とは、まずこのスカイダンス・アニメーションの映画第1弾『ラック 幸運をさがす旅』の監督に抜擢された“ペギー・ホームズ”です。この人のキャリアは少し変わっていて、実はダンサー・振付師であり、そのスキルを活かしてアニメーションに命を吹き込んでおり、これまでディズニーで『リトルマーメイドIII はじまりの物語』(2008年)、『ティンカー・ベルと輝く羽の秘密』(2012年)、『ティンカー・ベルとネバーランドの海賊船』(2014年)などを監督してきました(『ティンカー・ベルとネバーランドの海賊船』は良くできていて私も好きです)。
そしてさらにピクサーの『カーズ』『カーズ クロスロード』の脚本を手がけた“キール・マレー”が『ラック 幸運をさがす旅』の脚本家として仕事しています。
そんな座組の『ラック 幸運をさがす旅』、どんな物語かというと、やたらと運の悪い若い女性が主人公で、その女性がこの世界の「運」に関する秘密を知ってしまい、大冒険をすることになるという、自己発見型の成長ストーリーといった感じ。猫に導かれていくことになるので導入部はちょっと『猫の恩返し』っぽくもあるような…。かなりファンタジーな展開に飛んでいきますし、子どもも楽しめるでしょうけど、大人も客層としてじゅうぶんフォーカスされているんじゃないでしょうか。
キャラクターの声を担当するのは、主人公の若い女性を『イエロー・ローズ 希望の歌』の“エバ・ノブルザダ”が、主人公と出会う黒猫を多彩な活躍でおなじみの“サイモン・ペッグ”が熱演。猫がほんといつもの“サイモン・ペッグ”そのまんまです。
他にも、『帰郷』の“ジェーン・フォンダ”、『天使にラブ・ソングを…』の“ウーピー・ゴールドバーグ”、『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』の“フルーラ・ボルク”、『ファザーフッド』の“リル・レル・ハウリー”、ドラマ『ワンス・アポン・ア・タイム』の“コリン・オドナヒュー”、そしてピクサーでは常連で「幸運のお守り」扱いされてきた“ジョン・ラッツェンバーガー”も起用されています。
その『ラック 幸運をさがす旅』ですが、劇場公開はされずに「Apple TV+」での独占配信という取り扱いになってしまい、いかんせんやや注目度に欠ける出発となりました。
「Apple TV+」をすでに利用中の人は気が向いたときに鑑賞したりすると良いのかなと思います。
『ラック 幸運をさがす旅』を観る前のQ&A
A:Apple TV+でオリジナル映画として2022年8月5日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :運の悪さに凹む人に |
友人 | :暇つぶし感覚で |
恋人 | :アニメが好きなら |
キッズ | :子ども向けとしても |
『ラック 幸運をさがす旅』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):今回は運が悪かっただけ
サム・グリーンフィールドは孤児であり、ずっと施設を転々としてきました。しかし、子どもの間に自分を引き取ってくれる大人は現れず、時は流れて18歳になっていました。サムは運のない子でした。
今のサムは「サマーランド」という女の子のための施設で暮らしており、一番仲が良いのはずっと年下の女の子のヘイゼルです。
ヘイゼルはもうそろそろ養子縁組の夫婦が来訪するらしく、浮足立っていました。幸運のアイテムを集めて自慢するヘイゼル。ただし、銅貨(ラッキーペニー)だけは持っていません。
そんなヘイゼルの晴れ晴れしい瞬間をサムは見届けることができません。今日、この施設を出ないといけないからです。ソーシャルワーカーがやって来て、サムは仕方なく荷物をまとめます。といっても段ボール箱ひとつです。
不安なサムをハグで慰めてくれるヘイゼル。ソーシャルワーカーの車に乗り、出発です。
車内でサムは自分の初めての面会が無くなってしまった苦い記憶を思い出します。ヘイゼルにはあんな目には遭ってほしくない…。
これからの新居に到着したサム。さっそく鍵をマンホールに落とす不運に苛まれつつ、ここでオンラインで学んで、働いていくという新しいスタートを切ります。ひとりの部屋は寂しいですが…。
翌朝。そんな心機一転の気持ちも相変わらずの不運なヘマばかりで台無しに。仕事に遅れてしまいそうで慌てるも、何もかも上手くいきません。自転車で出勤しようとするも、タイヤの空気もない…。
てんやわんやの中、なんとか職場のホームセンターへ辿り着き、上司のマーヴに挨拶するも、そこでも失敗ばかり。見かねたマーヴはカート集めを任せるのでした。
仕事終わり、ヘイゼルの面会は中止になったと聞き、落ち込むヘイゼルを励ますサム。今回は運が悪かっただけ…。
それでもサムとしてもショックです。夜、道端に座り込んで落ち込んでいると、1匹の黒い野良猫を見かけます。お腹がすいてそうだったのでサンドイッチをわけてあげるサム。その場で猫に愚痴り、「もし幸運が手元にあるならな…」とぼやきます。
猫が行ってしまう後、その場所で1枚の硬貨を拾います。これはヘイゼルが探していたラッキーアイテムじゃないか。思わぬ幸運に喜ぶサム。
翌日。朝からなんだか妙についている気がします。何もかもが上手くいく。もしかして、この硬貨のせいなのか…。
確かめてみると、硬貨を持っていれば絶対に上手くいくことが判明。持ってないとダメです。これは本物のラッキー・ペニーだ…。
ヘイゼルにプレゼントしようと張り切るサム。職場でも絶好調でした。
ところがその硬貨をうっかりトイレに流してしまい、痛恨の失敗にここ一番の失望で肩を落とすサム。
落ち込んでいるとまたあの黒猫が例の道端にいて、サムは思わず幸運の銅貨の話をしてしまいます。紛失してしまったことも…。
するとその黒猫は「なんてことをしてくれたんだ」と喋りました。びっくりするサム。よく見ると首輪に銅貨と同じマークがあり、黒猫は一目散に逃げ出します。
サムはその黒猫を追います。あの猫は妙にラッキーで、逃走が上手いです。そして猫が謎の穴に入っていくのを目撃し、それが閉じる瞬間に自分も入ってみると…。
そこは不思議な建物の中でした。猫はボブという名らしく、「人間はここに入れない」とサムを叱ります。
ここは運の国、ランド・オブ・ラック(Land of Luck)。
サムはこの不思議な地で運の秘密を知ることに…。
あんなウサギたちがいるなら行ってみたい
『ラック 幸運をさがす旅』は世界観が独創的で面白いです。
作品制作するにあたって、まずはリサーチから入ったそうで、古今東西、世界中の「幸運」「不運」に関わる文化を調査し、そのアイテムやエピソードを収集し、この作品のアイディアとして活かしています。
序盤はいかにも普通な出だし。全てにおいてアンラッキーな出来事が連発するサムでしたが、あの幸運の銅貨(ラッキーペニー)を入手してから生活が一変。この激変がまた映像としての快感があります。アニメーションならではの気持ちよさというか、アニメーションだからつける嘘です。トーストが絶対にジャムをつけた面を下にして落ちなくなるというクドいネタも笑えます(でもトーストが床に落ちたらどの面を下にしていてもそれだけで嫌ですけどね…)。
ちなみにラッキーペニーというのは、家を出て一番に拾った1セント硬貨は幸運のお守りになるという伝統のアイテムです(日本だと5円玉の文化に近いのかな)。
そして黒猫のボブを追跡して辿り着いた「運の国」(厳密には政治で統治されてないので国じゃないけど…。CEOがいるから会社なのか?)。サムは幸運の銅貨を求めてレプラコーンのふりをしてその地を探索します。
ここから本作の本領発揮です。
運には幸運と不運があり、それぞれが適量でランダムにラックラインで世界にまかれていくように、上手く管理がなされているシステム。レプラコーンたちが従事し、テントウムシやブタもいて、ドラゴンがトップで仕切っている。妙にぴょこぴょこと可愛いウサギたちもいるし…。
1回観ただけでは把握しきれない色々な小ネタがたくさん仕込まれていそうですね。
目で見て楽しませる世界観を提供するという点ではこの舞台を映像化できただけでおおむね成功なのかと思います。
なんだろう、あまりに摩訶不思議な世界すぎて、“サイモン・ペッグ”の声で喋る猫の存在がもはや普通に思えてきて何の違和感もいつの間にか感じなくなっている…。
「不運なだけ」で片付けるセルフケア
世界観は愉快な『ラック 幸運をさがす旅』ですが、話運びはやや強引で、かなり唐突にエンディングに向かって集約していくという欠点はあります。
とくに終盤で、幸運だけがあれば世界はハッピーになると考えて強行しようとするドラゴンのベイブに対して、サムは「不運だって必要だ」と考えを改めて説得しにかかるのですが、その思考の大転換に至るまでのドラマは少し弱いです。観客に対しても「どうして不運は大切なのか。なぜ共存できると考えるべきなのか」ということをもっと説得力をもたせないとなかなか理解してもらえないんじゃないかなと。
私は本作のテーマ自体はものすごく現代社会において大事だと思います。
昨今は何でもかんでも悪いことが起きればすぐに「あれが原因じゃないか」「こういうことが裏にあるんじゃないか」と因果関係を邪推してしまう傾向にあります。それはインターネットという不安を煽るためにあるようなツールが身近にあるせいで余計に助長されてしまっています。誰でも身に覚えがあるでしょう。自分は失敗ばかりだという劣等感に沈み、それを背負いきれなくなって、自分を肯定しきれなくなることがあったり…。はたまたなんだかその不運に陰謀があるような気がしてしまったり…。
でも本作はそういう不安恐怖症みたいな現代人に対して、「運が悪かっただけ」という安直な言葉で片付けるのもいいんじゃない?というセルフケアを示唆しています。
それを理想的に体現しているのが、不幸のエリアで暮らしているルーティたち不幸の住人。常にアンラッキーが連発するけど、それもそれで人生の楽しみとして受け流している。劣等感を回避して、いかにポジティブになるかということ。そんなお手本がそこにありました。
幸運か不運かの二択で物事を捉えるのではなく、それをどう解釈するかで見え方は変わる。
サムも社会規範的には不幸な生い立ちです。家族のいない孤独の身。でも規範的な家族がいなくなって幸せになることはできるよねというラストになっています。サム、ボブ、ヘイゼルがベッドで楽しく寝ているシーンは、ハプニングだらけなのは序盤と同じでもその受け取り方は全く違っている。幸運はトイレに流したとしても平気なのです。
『ラック 幸運をさがす旅』は全体的にはやはりピクサーっぽいストーリーテリングと世界観になっており(「A113」のイースターエッグまである)、現状ではまだスタジオのオリジナリティは見えてきません。まだ1作目なので当然ではあるのですが…。今後、どんどん作品を発表していくと思いますが、それがどんな中身になっていくのか。それしだいでスカイダンス・アニメーションの命運は決まってくるのかな。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 49% Audience 70%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Apple ラック幸運を探す旅
以上、『ラック 幸運をさがす旅』の感想でした。
Luck (2022) [Japanese Review] 『ラック 幸運をさがす旅』考察・評価レビュー