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『インクレディブル・ファミリー』感想(ネタバレ)…家族は続編でも大忙し

インクレディブル・ファミリー

家族は続編でも大忙し…映画『インクレディブル・ファミリー』(Mr.インクレディブル2)の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Incredibles 2
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年8月1日
監督:ブラッド・バード

インクレディブル・ファミリー

いんくれでぃぶるふぁみりー
インクレディブル・ファミリー

『インクレディブル・ファミリー』あらすじ

スーパーパワーを持つボブたち家族は平凡な日常を送っていたが、ある出来事をきっかけに、母ヘレンがイラスティガールとしてヒーロー活動を再開する。多忙になった彼女の代わりに家事と育児を任されたボブは、底知れない能力を秘める息子ジャック・ジャックの世話に悪戦苦闘していくが…。

『インクレディブル・ファミリー』感想(ネタバレなし)

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この家族は変わったけど、変わってない

日本でも「男性の育児参加」がメディアなどで盛んに取り上げられるようになり、すっかり男が育児をするのは普通になったような気分でいましたが、総務省統計局の調査によれば1996年から2016年の間で、男性と女性の育児時間の量は依然として大きな差があることわかり、その差は全然縮んでいません。つまり、メディアから伝わってくるイメージとは裏腹に、現実はいまだに「男は仕事、女は育児」が固定観念として堂々と鎮座しているようです。20年でここまで変化がないと、今後の未来も希望が見えてこないのですが、大丈夫でしょうか…。

しかし、この映画はガラリと様変わりしました。その作品とは2004年に公開されたピクサー製作の『Mr.インクレディブル』です。

『Mr.インクレディブル』がどういう作品だったかを軽く説明すると、この作品はピクサーの通算6作目となる長編アニメーション映画でしたが、実はそれまでの作品にはない特徴がありました。まず監督です。『Mr.インクレディブル』以前の作品はジョン・ラセター、ピート・ドクター、アンドリュー・スタントンといったピクサーというスタジオが生まれる前からメンバーだった古株アニメーターによって監督されていました。しかし、『Mr.インクレディブル』の監督を務めた“ブラッド・バード”はちょっと変わった経歴でピクサーチームに合流した人です。

というのも“ブラッド・バード”は大学卒業後にディズニーに就職するもすぐに離職、その後、ワーナー・ブラザースで『アイアン・ジャイアント』を制作するも、ワーナー・ブラザースのアニメーション部門が閉鎖。転々としながらピクサーにたどり着いたという流れ。この才能があるも居場所が定まらず振り回されている感じが、『Mr.インクレディブル』のストーリーにも活かされていました。

『Mr.インクレディブル』の後は、監督が降板してしまった『レミーのおいしいレストラン』をまとめ上げ、その後『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』でシリーズを成功コースに引っ張り上げるなど、実写映画でも実績をあげているのも興味深いですね。その後に手がけた『トゥモローランド』といい、“ブラッド・バード”監督は「才能や力を持つものが社会でどう生きるか」をテーマにしていることが多い気がします。

それで話を『Mr.インクレディブル』に戻しますが、この映画はスーパーパワーを持つ家族がヒーローとなって悪に立ち向かうお話。王道ともいえる家族映画でした。とくに夫と妻の関係性は、満たされないキャリアに不満を持ちながら家庭を放置気味になる“父”と、家庭から離れて仕事人間になっていく夫と全然言うことのきかない子どもたちという問題児に悩む“母”…非常にベタなものでした。これはこれで『Mr.インクレディブル』のストーリーとしては面白い仕掛けとして機能していましたが、時代は進み、現在。家族のあり方は変化しました。

そして、長い間、続編が望まれていたなか、2018年になって14年の歳月を経過していよいよ世に送り出された2作目の『インクレディブル・ファミリー』

本作の物語は前作のエンディングの直後からシームレスにつながって始まるぐらいであり、作中の世界観では年月が一切経過していません。しかし、描かれる家族の在り方から、作品外のリアルでの14年の変化を確実に感じさせます。

その変化とは作品紹介でも説明されているとおり、母が仕事、父が子育てという逆転現象。なので、前作と違ってMr. インクレディブルではなくイラスティガールが主人公ポジションになっています。主人公とサイドキャラの立場が交代するのは『ファインディング・ドリー』と同じですね。

笑って、ハラハラして、語り合える…老若男女問わず大満足できる作品になっていますので、ぜひとも『Mr.インクレディブル』を鑑賞してから、「2」もレッツゴーです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『インクレディブル・ファミリー』感想(ネタバレあり)

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的確なアメコミ風刺

さっそく『インクレディブル・ファミリー』の踏み込んだ感想に入る前に…。前作の話になりますが、1作目はヒーロー映画としてかかなり異色でした。そのことが批評家からの評価の高さにもつながっています。

前作は、レトロなビジュアルや音楽などの雰囲気からもわかるように、往年のアメコミを強く意識したつくりです。そして、世界で大活躍していたヒーローたちが居場所を失い、社会で一般人と同化して暮らしているという世界観でした。

これは当時の社会でのアメコミの扱われ方とシンクロしていました。今では信じられませんが、その当時以前はアメコミはマニアだけの趣味であり、一時的なアメコミ映画ムーブメントも沈静化し、ちょっと低迷していました。再び盛り上がるのは、ちょうど『Mr.インクレディブル』の公開時期前後。サム・ライミ監督の『スパイダーマン』が2002年、クリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』が2005年、ジョン・ファヴロー監督の『アイアンマン』が2008年と、アメコミ映画が一般層にも浸透していきました。

あの時期特有のアメコミが抱えていたマイノリティとしての疎外感が反映されていたのが『Mr.インクレディブル』。だからか、「ヒーローって実際ダサいよね」的な世間の冷笑が残酷でもあり、個人的にはマントに関するギャグとかがお気に入り。

つまり、すごく“アメコミ風刺”の要素が強い作品だったんですね。

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あの事件とシンクロ!?

そんな前作の続編となる『インクレディブル・ファミリー』でもその特徴は引き継いでいます。といってもアメコミに対する社会の視線は明らかに変化しました。もうマイノリティじゃありません。映画界で最も成功を収めている存在です。ではどうするのか?

最初、私は「母が仕事、父が子育て」というキーワードだけを聞いて、「言いたいことはわかるけど、それってポリコレを狙いすぎじゃないですか、ピクサーさん」と偉そうに思っていたのですが、さすが“ブラッド・バード”監督、ちゃんと考え抜かれていました。

まずヘレンだけがヒーローとして活動することになる経緯のロジックがしっかりあるというのが見事。それは「ヒーロー復権計画」のためには女性の方が世間の“ウケ”がいいという理由。まさに今の女性ヒーロー大活躍時代の様相を切り取ったかたちです。

また、その計画を進めるヒーロー愛好者「ウィンストン・ディーヴァー」は実業家で、非常にビジネス戦略にも長ける。これもそのままディズニー&マーベルを連想します。そんな彼がメディアによって大衆の支持を集めようとするというのは、ディズニー&マーベルやDCが実際にやってみせたことと同じ。

さらに、悪役(ヴィラン)である「スクリーンスレイヴァー」の手口にも注目です。彼女もまたメディア戦術によってヒーローを凋落させようと狙う…これってつい最近起こった「あるサイトをきっかけに監督を降板させられたアメコミ映画監督の事件」、まさしくそれじゃないですか。

なので、今作のイヴリンの主張は、やり方は正しくないにせよ、人々は安易にヒーローに頼りすぎているという見方も部分的に納得できるので、結構複雑な気持ちになりました。それにしてもヒーローの戦いもメディア戦争に舞台が変わっているというのがまたイマドキです。

少なくとも言えることは、家族の変化とアメコミの変化という2つの要素を巧みにドッキングしてみせる、“ブラッド・バード”監督の風刺力、恐るべし。アニメは風刺のツールとしても非常に歴史がありますけど、やっぱり“ブラッド・バード”監督はアニメ向きなのではないかなと思います。

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赤ちゃん最強伝説

そんなヒーロー論の裏で、ボブの育児奮闘記が繰り広げられるわけですが、ここは基本はギャグパート。『コウノトリ大作戦!』『ボス・ベイビー』と昨今の大手アニメ映画はみんな「赤ちゃん」を描くのが流行っているのか、今作でも赤ちゃんパワーが炸裂。

前作でその能力の片鱗を見せた「ジャック=ジャック」がパワーを開花。「IMDb」によれば劇中で17のスーパーパワーを発揮しているらしいですけど、もう最強キャラです。

あの「赤ちゃんvsアライグマ」のシーンなんて、歴代ヒーロー映画の中でも屈指の名バトルシーンといってもいいくらい。ボブの疲弊具合があまりにも痛々しく、可哀想やら笑っていいやら。劇場は大爆笑、父親は過労、アライグマは逃走…とても楽しいシークエンスの連続でした。

そもそも今作はピクサー映画でもなかなかない、コミカル描写がバラエティに富んでいたと思います。それまで「おもちゃ・虫・怪物・魚」など非人間を扱ってきたピクサーが初めて人間を主人公にした作品でもあった前作。技術的な課題も多く、今観ると結構当時のテクノロジーの限界を感じます。それに対して14年間のCG技術革新はやはり凄かった。表情が圧倒的に豊かになり、ギャグ漫画か!というようなドタバタ劇もなんなく展開。作り手もさぞかし楽しかったでしょうね。

ただ、子育てエピソードもギャグありきで終わっていません。ちゃんと終盤には、仕事一筋になっていったヘレンの母親としての役割にもスポットをあてるという、前作をなぞる構成があって。巷の家族や育児をテーマにした作品の中にはマニュアル的な思考の押しつけをしてしまいがちななか、今作は「母が仕事、父が子育て」という価値観を説教臭く提示せずに、「やっぱり家族は“平等に”助け合おうね」という着地を見せるのは素晴らしいと思います。

家族内での助け合いを世界規模に拡大したのがヒーローであるという風に考えれば、本作は「才能や力を持つものが社会でどう生きるか」をテーマにしてきた“ブラッド・バード”監督のひとつの到達点かもしれません。世の中は疑似家族ものが流行りな風潮もありますが、今作のストレートな家族モノもいいですね。

ぜひまた“ブラッド・バード”監督の手で「3」を見てみたいものです。そのときはリアル社会でのヒーロー作品はどういう立ち位置になっているのでしょうか…。

『インクレディブル・ファミリー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 87%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
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関連作品紹介

ブラッド・バード監督作

・『アイアン・ジャイアント』
…『レディ・プレイヤー1』でも登場したので日本でも知名度が上がったかな?
・『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』
…トム・クルーズが一番「Mr インクレディブル」の名にふさわしいですね。
・『トゥモローランド』
…ディズニーを離職したブラッド・バード監督がディズニー実写映画に帰ってきた一作。

赤ちゃん映画
・『コウノトリ大作戦!』
…赤ちゃん、実は運ばれてきます。可愛い。
・『ボス・ベイビー』
…赤ちゃん、実は偉いです。か…可愛い?

ピクサー・アニメ映画作品
・『リメンバー・ミー』
…メキシコの家族と死にまつわる文化を描く。
・『カーズ クロスロード』
…シリーズ続編3作目。引退を描く。「インクレディブル」シリーズも3作目があるなら引退を描くのかな?

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以上、『インクレディブル・ファミリー』の感想でした。

Incredibles 2 (2018) [Japanese Review] 『インクレディブル・ファミリー』考察・評価レビュー