アダム・サンドラーはトカゲになると教育的です…Netflix映画『レオ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:ロバート・スミゲル、ロバート・マリアネッティ、デヴィッド・ワクテンハイム
レオ
れお
『レオ』物語 簡単紹介
『レオ』感想(ネタバレなし)
アダム・サンドラー、トカゲになる
皆さんは通っていた学校で何か生き物を飼育していましたか?
ザリガニ? カメ? 金魚? 昆虫? ハムスター? ウサギ?
日本の小学校学習指導要領では「動物を飼ったり植物を育てたりする活動を通して、それらの育つ場所、変化や成長の様子に関心をもって働きかけることができ、それらは生命をもっていることや成長していることに気付くとともに、生き物への親しみをもち、大切にしようとする」と定められており、動物の飼育を薦めています。
私は…あまり思い出がない…。なぜなら私は北海道出身だったので、ペットを学校で飼育するのが困難でそもそも飼えないという…。冬は極寒ですからね。暖房が消えるとたいていの生き物は教室でも凍りついて死にます。通年飼育ではなく、一時飼育ならまだ可能性はあるけど…。
ただ、近年はコスト、ペット飼育の倫理面、外来生物による自然への悪影響…こうした問題もあって、学校での動物飼育は全国的に避けられる傾向にあるようです。
飼われる側のペットにしてみても、かなりストレスの多い環境でしょうね。あれだけ多くの子どもたちにごちゃごちゃと囲まれるのですし…。
今回紹介するアニメーション映画は、そんな学校で飼育される動物が主人公となる、ちょっと変わった視点の作品です。
それが本作『レオ』。
本作は小学校の教室の片隅で長年にわたって飼われてきたトカゲが主人公です。かなりの年数をこの教室のケージの中で過ごしてきて、入学しては卒業していくいろいろな世代の子どもたちをずっと見守り続けてきたので、そこらへんの人間の教師よりも子ども慣れしています。なので子どもを分析する能力も培われていて、さながら年季の入った大ベテランの先生です。
そんなトカゲがある騒動を引き起こしていくという、ドタバタコメディのCGアニメーション映画になっています。絶えずギャグが連発するという笑いまくりの一作で、子どもは大満足できると思いますが、同時に通底する大人目線の皮肉もたっぷりなので、大人の鑑賞者もじゅうぶん楽しめるでしょう。
ミュージカル要素もあったりするのですが、真剣にやるというよりは完全にネタにしている感じ。トーキング・アニマル(動物が当然のように喋るアニメーションにありがちな要素)という設定さえもギャグにしていますからね。
このユーモラスなセンスが炸裂する『レオ』を語るうえで欠かせない中心人物が、“アダム・サンドラー”です。90年代から00年代はハリウッドのコメディ映画の代表的な顔でしたが、しだいに低迷し、時代の流れに乗れずに笑いのセンスが噛み合わなくなっていました。しかし、『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』(2017年)や『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)を起点に最近になってキャリアを取り戻し、批評家からの評価を獲得。2022年の『HUSTLE ハッスル』でも高評価でした。
Netflixのバックアップのおかげで再起できたとも言えますが、今度はアニメーション映画で攻めてきたわけです。
“アダム・サンドラー”の子ども向けアニメーション映画と言えば、『モンスター・ホテル』シリーズがあったのですけど、その4作目『モンスター・ホテル 変身ビームで大パニック!』の仕事を降りてまで、この『レオ』を作りたかったみたいです。
実際に出来上がったものを見ると、“アダム・サンドラー”のセンスが全開で、見事に自分流を貫いたなと感心する完成度。映像表現が凄い!とか、ストーリーが斬新!ってほどではないんですけど、しっかり脚本を練って面白いことをしようという創作意欲を感じる出来栄えです。
『レオ』でも“アダム・サンドラー”は主役のトカゲの声をノリノリで演じ、製作もガッツリ兼任。“アダム・サンドラー”の娘も子どもの役で声を演じているので、家族ぐるみのクリエイティブ体制ですね。
『レオ』を監督するのは、『モンスター・ホテル2』の製作をしていた”ロバート・スミゲル”、『サタデー・ナイト・ライブ』にも関わっていた“ロバート・マリアネッティ”と“デヴィッド・ワクテンハイム”…この3人。こちらも“アダム・サンドラー”の深い知り合いです。
『レオ』は「Netflix」独占配信なので、家でのんびり眺めてください。
わざわざ学校で動物を飼わなくても、この映画を観て、「生き物への親しみ」を学べばいいのです。そのほうが動物に優しいですよ。
『レオ』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2023年11月21日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :大人も楽しい |
友人 | :気分転換に |
恋人 | :気楽なエンタメ |
キッズ | :子どもも大笑い |
『レオ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):生命の卒業間近!?
フォートマイヤーズ小学校は新学期を迎えようとしていました。とくに最後の学年となる新しい5年生の子どもたちはそれぞれの思いを抱えて各自登校してきます。
「今年の子どももとんでもない子ばかりだな」…とぶつぶつ言って教室に入ってくる子たちを水槽から眺めているのは、人間ではありません。トカゲのレオナルド(レオ)とカメのスクワートルです。
この2匹はもう何年もこの教室で子どもを観察してきたので、観察力は培われています。ひとめであの子はどういう子なのか当てられます。あの子は親が離婚したのだろう…あの子はスナック中毒だ…。
さっそく授業が始まり、サリナス先生にこの2匹の飼育動物も紹介されますが、上級生ともなれば生き物を見ても反応は冷ややか。
次に、先生は、アート・ディベート・科学・歴史の4種目で競う大会に優勝するとマジックランドパークへの特別な遠足というご褒美があると説明し、子どもたちは盛り上がります。
そして先生は名作として知られる『シャーロットのおくりもの』を読み聞かせようとします。けれどもレオはうんざりな様子で、動物と人間は話さないとぶつくさ文句がこぼれます。
夜は保護者会です。今度は教室に大人たちが集まります。そこでサリナス先生は出産育休で一時休みとなると知らされます。
そのとき、ある親がレオたちを眺めながら「トカゲは75歳まで生きる」と何気なく話します。そしてレオはふと思い出します。1949年に自分は生まれたのだ、と。今は2023年。頑張って年齢を数えようとしますが、指が足りません。
わざと火災警報を鳴らして、みんな庭に避難してもらい、ペット動物たちが集まっているところで、算数を習う学年にいるウサギに質問。答えは74…74歳です。
ということはあと1年しか生きられないのか…。レオは一生を無駄にしたと悲壮感に沈みます。カタツムリ食べたかった…自分で餌を捕まえたかった…。
そんな中、代わりの先生、マルキンが教室に。古めかしい厳格な人で、子どもたちを圧倒します。さらに休みなので誰かひとりペットを連れ帰ってみなさいと指示。
これは酷い目に遭うぞとスクワートルは怯えますが、レオはこれがチャンスだと思いました。
結局、お喋りなサマーが連れ帰ってくれることになり、彼女の家の部屋に置かれます。なんとかいない隙にケージから抜け出し、外へ出ようとするも、見つかってしまいます。
そこで人前でうっかり喋ってしまい、「トカゲが喋った!」とサマーは驚愕。「誰にも言わないで。君にだけ喋るんだ」と約束し、サマーの悩みを聞いてあげてアドバイスします。どうやらサマーは自分でも一方的に喋りすぎることを自覚して悩んでいるようです。
こうしてレオは子どもたちとしだいに交流を重ねていくことに自信を持ち始めますが…。
動物の権利とアダム・サンドラーの人生
ここから『レオ』のネタバレありの感想本文です。
『レオ』は構図としては『トイ・ストーリー』のパターンです。人間の子どもとすごく身近に接している非人間的存在が、外からの目線でその人間社会の営みを眺め、人知れずに働きかけをしていく…。必然的にメタな構造を浮かび上がらせるので、子どもも大人も楽しめるという多層的なエンターテインメントを与えてくれます。
飼われている動物が主役というと、『ひつじのショーン』シリーズなんかがありますけど、『レオ』はもっと喋るので、人間に介入できます。これはディズニープリンセスなどでありがちなトーキング・アニマルです。
かといって『長ぐつをはいたネコと9つの命』のような擬人化に突っ切っているわけでもありません。ノリに一番近いのは『マダガスカル』シリーズですかね。
『レオ』は絶妙な塩梅のリアリティで、だからこそ飼育動物の悲喜こもごもが映し出されて面白いです。そこには飼育動物が子どもの身勝手で悲惨な目に遭うという倫理的惨状も赤裸々に描いてはいますし、何よりも物語の基本にあるのは「動物が狭いケージの中でずっと飼われるだけなのは可哀想」という、動物の福祉もしくは動物の権利の話ですからね。
ただ、本作はその真面目そうなテーマありきではなく、そこに“アダム・サンドラー”の人生までオーバーラップさせるという荒業を見せており、そこがまた皮肉度を数段アップさせています。
そもそも本作の主人公のレオは厳密には「トカゲ」ではなく「ムカシトカゲ」という設定になっており、これは太古の特徴を受け継ぐ希少な生き物です。作中での生態学的なリアリティは乏しく、ニュージーランドの限られた地域にしか生息しないこのムカシトカゲが学校で普通に飼われているのも変です。
でもこれは“アダム・サンドラー”と重ねるための設定でしょうね。つまり、俳優としてもうすっかり古株で、忘れられた存在である“アダム・サンドラー”はムカシトカゲみたいなもんだ、と。
だから本作はほとんど“アダム・サンドラー”の自虐ネタですよ。ずっと飼育ケージの中で過ごして何もやりたいことができなかった!と嘆くのも、なんとなくハリウッドに囚われてきた“アダム・サンドラー”の内なる声みたいですし…。
あのカメのスクワートルとのどうしようもないボヤきも、“アダム・サンドラー”が言いそうなことばかりだし…。
けどもそんな愚痴ばっかり言ってもいられない…まだまだ老いたとは言わせない…自分にはできることがいっぱいあるじゃないか!…そんなふうに元気に自分に鞭打つ“アダム・サンドラー”の姿が微笑ましくもある映画です。
ドローンだってやけ食いする
この風刺の組み合わせが見事にハマっている『レオ』は、細かなギャグの切れ味も最高です。
ちなみに、トカゲのレオとカメのスクワートルですが、レオは「ミュータント・ニンジャ・タートルズ」のレオナルドに由来しており、スクワートルは「ポケモン」のゼニガメ(英語名は「Squirtle」)に由来しています。いかにも子どもが安易につけそうなネーミングです。
実際のところ『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』並みに大暴れしてくれるわけではないですが…。
レオはあくまで普通のトカゲなので特別な能力はありません(人間と喋れるけど)。それでもそれぞれの子どもたちに人生経験をもとにしたアドバイスならしてあげられる。
この各子どもたちの描写も皮肉たっぷりで愉快です。私はあの過保護な家庭に生まれたイーライを常に見守るドローンの姿が好きですね…。少ししつこすぎるので考えてほしいとやんわりしたお願いの手紙を読んだドローンが、自暴自棄になってゴミ箱に自ら突っ込んだり、やけ食いでアイスを食べ始めたり、あの振り切ったバカさはアニメーションならでは。動物と人間という関係図の中に無機物のドローンが加わることでの突拍子もない意外性を上手く活かしてました。
あと、カメのスクワートルが年長のアンソニーに「子どもはどうやってできるのか?」という究極の問いに対して「カメの繁殖・出産の過程」を教えるくだり。あれも“アダム・サンドラー”節だったな…。
サマーの喋り癖の件も、アドバイスは真っ当ですが、その一方的なトークにうんざりしている周囲の人間の気持ちを、あの変顔一発で笑いにするあたりも、“アダム・サンドラー”っぽかったなぁ…と。
このレオが饒舌にメンターになっていく中、あのマルキン先生にまでアドバイスできるというのも、今回の“アダム・サンドラー”が長寿トカゲゆえの仕掛けです。高齢者にとってのメンターをどう用意するのか問題というのは結構難しいのですけど、本作は裏技で解決しました。
欠点があるとすれば、動物虐待がネタになるのは評価が分かれるかな。いくら自虐と言っても、笑えない人は笑えないでしょうし…。尻尾を切られても子どもを憎まないあのレオはかなり包容力のあるやつなんだな…。
おそらくアメリカのアニメーション映画としては低予算なほうだと思いますが、“アダム・サンドラー”のクリエイティブ・コントロールが行き届き、手堅く面白いものを見せてくれました。
これなら“アダム・サンドラー”はアニメーション界隈でも自分で走ってやっていけそうです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 81% Audience 93%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『レオ』の感想でした。
Leo (2023) [Japanese Review] 『レオ』考察・評価レビュー