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『ルパン三世 THE FIRST』感想(ネタバレ)…日本はCGアニメ映画を盗めない

ルパン三世 THE FIRST

日本はCGアニメ映画を盗めない…映画『ルパン三世 THE FIRST』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:ルパン三世 THE FIRST
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2019年12月6日
監督:山崎貴

ルパン三世 THE FIRST

るぱんさんせい ざふぁーすと
ルパン三世 THE FIRST

『ルパン三世 THE FIRST』あらすじ

20世紀最高の考古学者ブレッソンが遺したブレッソン・ダイアリー。その光輝く品に秘められた謎を解き明かした者は莫大な富を手に入れることができるとされ、第2次世界大戦時にはナチスもその行方を追い求めたという。ルパンの祖父であるルパン一世でさえ盗み出すことに失敗した、史上最高難度の秘宝を手に入れるべく、いつものメンバーで奔走するルパンたちだったが…。

『ルパン三世 THE FIRST』感想(ネタバレなし)

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日本のCGアニメ映画を牽引する第一人者

ピクサーが1995年に『トイ・ストーリー』という作品を世に送り出し、世界にCGアニメ映画という存在を知らしめた激震は、アニメ映画の在り方を大きく変えました。それまでの2Dから3DCGへと映画業界におけるアニメーションの主流は様変わりしたのです。今では大手のハリウッド映画会社がCG以外のアニメ作品を作ることは稀になってしまうほどに。

このパラダイムシフトをアニメ大国を自負する日本がただ黙って指をくわえて見ていたわけではありません。当然、日本だって何かできないかと考えるわけです。しかし、こればかりは新しい技術なのでそうやすやすと映画作りに着手もできません。

そんな中で先陣を切ったのはお先にCGに慣れていたゲーム業界でした。ところが巨額の予算を投入して誕生したCG映画『ファイナルファンタジー』(2001年)は記録に残る大コケ。この失敗はおそらく日本のCGアニメ映画へのモチベーションに大きな暗雲をもたらしたでしょう。ただそれでも歩みは止めておらず、2009年に国産CGアニメ映画『ホッタラケの島 〜遥と魔法の鏡〜』という作品が公開されたり、2013年には『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』もあったりしますが、あまりヒットはしません。そして日本のCGアニメ映画への情熱はいつのまにか世界の主流に反して萎んでいきました。

もちろん日本は既存の2Dアニメで市場をじゅうぶんまかなえていたので必要なかったという事情もあるでしょう。それに一応はCGアニメ映画も全くなかったわけではありません。『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』(2016年)や『バイオハザード ヴェンデッタ』(2017年)のようなゲーム派生作品は依然としてコンスタントに作られ、『GANTZ:O』(2016年)、『ルドルフとイッパイアッテナ』(2016年)、『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』(2019年)など…ここ最近またCGアニメ映画の勢いが少しだけ増えてきた気もします。

しかし、どれも知名度を獲得しているブランドのある作品ばかりで、ニッチを狙ったものばかりです。

この状況でおそらく誰よりも日本産CGアニメ映画に大志を抱いている人がひとりいました。それが“山崎貴”です。もともとSFXやVFX畑だった“山崎貴”は監督作『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)の大ヒットで一躍話題に。その成功を活かして自分の夢の実現を手繰り寄せようとしていました。そして、2014年のフルCGアニメ映画『STAND BY ME ドラえもん』の特大ヒットによって日本の映画界におけるCGアニメのポテンシャルを見せつけることになります。

“山崎貴”監督はこの『STAND BY ME ドラえもん』成功例により、完全に独壇場に立ったのでしょうね。この人だったら任せられる、と(ファンはどう思うかはともかく、企画におカネを出す人はそう思う)。2019年は『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』、そして本作『ルパン三世 THE FIRST』と立て続けにフルCGアニメ映画を投入してきました。

「ルパン三世」は日本人なら誰でも名前は聞いたことがある有名作。“モンキー・パンチ”原作の「ルパン三世」は1971年以降、今に至るまで無数にアニメ化されてきました。その作品もついに初フルCGアニメ映画化。しかも、悲しいことに原作者“モンキー・パンチ”が2019年4月11日に亡くなられたため、この『ルパン三世 THE FIRST』はとても意味深い立場になってしまい…。

まあ、ともあれ『ルパン三世 THE FIRST』は“山崎貴”監督にとってもやり応えのある一作だったはず。わざわざ「THE FIRST」と副題にいれるあたりにその意気込みが遠慮なく誇示されている…。

こういう有名コンテンツのフルCGアニメ映画化はファンの間では実写化以上に論争になりやすいものにもなっているのですが、そこの熱のこもった論戦も含めての醍醐味ですかね。「ルパン三世」の場合はすでに実写映画化されており、そこで抗体ができた人もいるでしょうけど…。

主役キャラの声優はいつものとおり(といっても初期声優陣からほとんどが新世代に交代したけど)。オリジナルキャラの声として、今回は『バケモノの子』『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』と声優経験を重ねている“広瀬すず”。声優やるたびに上手くなっている気がする。他には“吉田鋼太郎”“藤原竜也”が参加し、こちらは本職並みに上手いです。

日本のCGアニメ映画のこれからを占う意味でも見逃せない作品ですし、私は『ルパン三世 THE FIRST』は「ルパン三世」を初めて見る初心者にこそオススメだと思うので、ここから新規のファンが増えるといいなと思います。原作者亡き後も愛されてほしいですから。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(あなたの評価はいかに?)
友人 ◯(ルパン好き同士で盛り上がる?)
恋人 ◯(ほどよいエンタメを満喫)
キッズ ◯(初めてのルパンに最適)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ルパン三世 THE FIRST』感想(ネタバレあり)

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ルパン一味、いつものように

第二次世界大戦時、フランス。「例のもの、出してもらいましょうか」とブレッソン教授と呼ばれる老人に詰め寄る集団。しかし、「お前らに渡すものはないわ、ナチの犬め」と強気を見せるその教授は、そのまま銃弾に倒れることになります。

その現場を少し前に離れた1台の車。その車内には夫婦らしき男女とその女性に抱えられた赤ん坊がひとり。金の本みたいなものを大事そうに抱えて、一刻も早く逃げようと車を走らせています。そこへ追っ手が激しく追跡。結果、派手に事故を起こし、車内の大人二人は動きませんが、赤ん坊だけが元気。追っ手の中心で足を負傷したある男が近づき、ブローチのような何かを盗っていきました。

年月は経ち、十数年後、パリ。博物館でブレッソン回顧展が開催され、その祝賀会で「ブッレソン・ダイアリー」という美しい金の装飾が施された本が公開されます。なんでもあの本を読むと莫大な財宝が手に入るらしい…。そのとき、世間を賑わず大泥棒ルパン三世からの犯行予告状が届いたと知らせが入り、急いで金庫にしまおうと警備員に指示します。

ひげの警備員男性と若い女性の警備員が運ぼうとしますが、女性の方がひげの警備員はルパンの変装だと気づきます。そしてルパンをずっと追いかけているインターポールの銭形警部が乱入し、ルパンは華麗に逃げだすのでした。いつものお約束です。

一方、そのお手柄な女性警備員はブッレソン・ダイアリーを金庫に運びますが、付き添いの警官にスプレーを浴びせて奪ってしまいます。「本当にごめんなさい」と謝りながら。

屋上の外へ出た女性警備員。しかし、ブッレソン・ダイアリーをルパンに文字どおり釣られ、まんまと盗られます。けれどもそこへ峰不二子がヘリでやってきてルパンの手からブッレソン・ダイアリーを奪い、去っていきました。これもいつものお約束です。

女性警備員はひとり逃げ、誰かに連絡。「ごめんなさい、おじいさま、失敗です」と謝罪すると「例の約束はなかったものと思うんだな」と冷たい言葉のみが帰ってきました。

ある場所。ランベール教授は「ダイアリーが手に入ったと知らせがあった」と謎の男・ゲラルドに報告。それを届けたのは峰不二子でしたが、報酬のカネの入ったブリーフケースを受け取るも、発信機がバレて峰不二子は拘束されました。

ルパンは銭形警部に捕まりましたが、仲間の卓越した射撃の腕前を持つ次元と、何でも一刀両断する刀使いの五右衛門の助けで脱出。ただし、次元と五右衛門は協力を拒否したため、単独で行動することに。

疲れて家のベッドで横になる女性警備員のもとにルパンが登場。「どうしてここが?」と驚きますが、しっかり靴に発信機を仕掛けていたようです。部屋にはたくさんの本があり、その女性は考古学が専門の様子。ルパンは爺様(ルパン一世)から受け継いだ鍵のひとつを持っているらしいこともわかります。こっそりランベール教授に報告する女性警備員は、仕掛けに苦戦していたランベール教授の代わりにルパンに謎を解かせろと言われ、成功すれば例の約束をもう1度考えてやってもいいとの発言に心動きます。そして、ルパンを出し抜くために組もうと取り引きすることに。女性警備員はレティシアと名乗ります。

船の荷物に紛れて密航し、敵の貨物機に侵入してブッレソン・ダイアリーと2つの鍵を揃えたルパンとレティシア。「なんだか懐かしい感じがする」とルパンも謎の感慨。しかし、キーワードがいるらしく、その順に回さないと失敗して爆発するとか。アルファベットをどう並べればいいか考えているうちに鍵を差し込んでしまうレティシア。時限装置が作動し、カウントが進みます。8文字の言葉がなんかないかと焦る二人。ルパンはふと思いつき、ある文字を入力。無事に開きました。

中にあった本。その中身には「エクリプス」という無限のエネルギー発生装置のことが記されており…。

二人はまだ知らない。過去のパートナー同士が世代を超えて再び揃ったことに…。

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ルパンをCGにすると…

「ドラえもん」「ドラクエ」「ルパン」と観てきたことで、“山崎貴”監督がフルCGアニメ映画でどういう常套手段を使うのかがハッキリと見えてきました。

それは雑に言ってしまえば「誰しもが知るコンテンツの、誰しもが好きな要素を、映像化する」ということ。つまり、嫌みな見方をすれば、すごくズルい戦略でもあります。だからこそ厳しい批判意見にも晒されがち。まあ、それはある種の当然の背負うべきリスクだと思うのですが、それでもここまで映像化に対してわかりやすいスタンスの人もそうそういませんし、それが許されちゃっているのが“山崎貴”監督の特権ですね。

『ルパン三世 THE FIRST』の場合は、みんながパッと思いつく「ルパン三世」っぽいことを全部盛り込んだ構成なのは一目瞭然で、とくに“山崎貴”監督も大ファンだと言う(そして大衆に最もウケがいい)宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』を大きく引用しています。

それはさておき、まず映像的に「ルパン三世」をフルCGにするとどうなるのか。そこは素直に気になるところではありました。

なにせもともとハードボイルド作品ということもあり、かなりキッチュでエッジの効いたデザインセンスが全面にあるものでしたから。これまでもアニメ化の際にそれをどう意識するかはいつも作り手の悩みどころで、『ルパン三世 カリオストロの城』みたいに比較的大衆向けにマイルドにしたり、はたまた思いっきりハード路線で行っているものあったり、この製作者の「これが私のルパン三世」という翻案を拝見するのがまだ面白みだったりします。

『ルパン三世 THE FIRST』は『ルパン三世 カリオストロの城』ベースなので基本はマイルド路線を下地に、CG化でさらにマイルドになった感じでした。CGはどうしてもリアルになるので、そのぶん抑え気味になったのでしょう。ルパン定番のお色気シーンもほぼなく、次元がどんなに銃を撃っても血は出ません。

ただ、ルパンというキャラクターのCG再現は相当に頑張っている努力が伝わってきます。顔の動きも豊かですし、コミカルなアクションも踏襲。その最たる集大成があの後半の最終試練でレーザーを突っ切る見せ場シーンだったのかな。

CG技術に関して私は日本が劣るとは全然思っていないのですし、本作も見ごたえはじゅうぶんなビジュアルを持っていたと思います。でも欲を言えば、もう少しペタッとしたCG表現ではなく、もうちょっと質感を出したものにしてほしかったな、と。アニメに寄りたいのでしょうけど、CGだと妙に幼く見えてしまいますよね。

それでも日本のCGもここまでできるよ!という自信が窺える一作だったのではないでしょうか。もちろん最高峰の最新を行くディズニーやピクサーと比べたら1・2周遅れるものですが、そういうテクノロジー競争をしているわけでもないので、作品としてのニーズに足りるものなら…。逆にスタジオの個性みたいなものが全然ないのは気になりますが…。

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ストーリー作りの難しさ

映像面はいいのです。『ルパン三世 THE FIRST』を観ていて私が「う~ん…」と思うのはシナリオです。

本作はインタビュー等によれば、脚本制作時にストーリーリールを使って多くの人の意見を取り入れ、ブラッシュアップをしたと語られています。これはおそらくピクサーや今のディズニーがやっている「集合知でのプロットづくり」をマネたのだと思われます。確かにその手法で成功を収めている作品も海外にはいくつかあります。

ただ、どうも本作の場合、その脚本の作り方が完全に裏目に出ているようにしか感じません。

この「集合知でのプロットづくり」は一見するとフィードバック&改善を繰り返して良くなるメリットしかないように思いますが、必ずしもそうではなく、ときにはマイナスに働くこともあります。

例えば、みんなの意見を取り入れようと気を利かせすぎると、全員が納得いくように妥協の詰め合わせになってしまい、シナリオが挑戦的なものにはなりません。大胆なことをしようと思えば、絶対にそれを指揮できる人(そして責任を持つ人)が必要ですし、その中心人物が固定化されていれば必然的にシナリオへのプラス効果は期待できません。つまり、年功序列とか人の目とか気にしてはダメで、それに加え、明快な「これを描くぞ」というブレないチャレンジが求められます。

ピクサーやディズニーの制作裏話を見ているとわかりますけど、あちらは作品コンセプトを根底からガラッと変えることも厭わないですし、それこそトップにいる人を気にせずに遠慮なくモノが言える組織作りができています。ストーリー原案にも多数の人がクレジットされていますよね。

でも『ルパン三世 THE FIRST』はおそらく結局は“山崎貴”監督ありきで土台があり、そこにいかにも日本的な人間関係の配慮しつつの“ご意見出し”だけで終わったのではないか、と。厳しく言えば「集合知ごっこ」です。

なので本作のシナリオはとても平凡というか、全くオリジナリティの薄いものになっているのではないでしょうか。周りの意見を闇雲に聞きすぎているのか、作品としての1本の軸もないですし、シーンごとに都合よい展開や意味のない場面も多く、まとまりが悪いのは残念。たぶん本作が「ルパン三世」のいつもの2Dアニメ映画だったら駄作の烙印を押されたでしょう。かろうじてCGであることで新規性を示せている感じです。

ヒトラーを使うトリックももうちょっと考えなかったのか…。ヒトラーというフリー素材は使い方を間違えると『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』なおバカ方向にしかいかないからね…(そっちに行きたいならいいんですけど;1945年にヒトラーは死んでないんだよ!)。

日本が海外からCGアニメ映画の作り方を学ぶのだったら、メソッドを盗むだけでは作中のマイクロブラックホール並みの惨事にしかならないので、ちゃんと組織作りから叩き直さないときっと上手くいきません。まあ、それが日本の一番苦手にしていることなんですけどね…。

“山崎貴”監督はこれからも有名コンテンツのフルCGアニメ映画化に着手していくでしょう(『STAND BY ME ドラえもん 2』も控えています)。それらを成功させる仕掛けを解く鍵は「人」ではなく「組織」ではないでしょうか。

『ルパン三世 THE FIRST』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)モンキー・パンチ/2019映画「ルパン三世」製作委員会  ルパン三世 ザ・ファースト

以上、『ルパン三世 THE FIRST』の感想でした。

『ルパン三世 THE FIRST』考察・評価レビュー