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『詩季織々(しきおりおり)』感想(ネタバレ)…日中アニメ交流

詩季織々

日中アニメ交流…映画『詩季織々』(「陽だまりの朝食」「小さなファッションショー」「上海恋」)の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:肆式青春(英題:Flavors of youth)
製作国:日本(2018年)
日本公開日:2018年8月4日
監督①:イシャオシン(易小屋)「陽だまりの朝食」
監督②:竹内良貴「小さなファッションショー」
監督③:リ・ハオリン(李豪凌)「上海恋」

詩季織々

しきおりおり
詩季織々

『詩季織々』あらすじ

中国の3つの街で、それぞれのドラマがあった。北京で働くシャオミンは、故郷のビーフンの味を思い出す。広州に住むファッションモデルのイリンは、仕事と家族の関係に悩む。上海の石庫門に暮らしていたリモは、淡い想いがこもったカセットテープを手に走る。

『詩季織々』感想(ネタバレなし)

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平和友好条約よりも長い歴史

今は2018年の8月。ご存知でしょうか。ちょうど今から40年前、1978年の8月に日本は「ある国」と平和友好条約を結びました。その国とは中華人民共和国…中国です。

それから40年が経過し、日中関係は深まったかと言われれば、確かに互いに身近にはなりました。でも、日本と中国は政治的にはなおもピリピリした対立が続いているし、経済的には表面的に同調しているように見えて、実は裏では利益をめぐってジリジリと駆け引きをする日々です。

そんな国家同士の摩擦を感じさせるなか、「アニメーション」の分野では摩擦どころか、融合しているようなくらい友好な関係を発達させてきています。もともと芸術の世界では、中国から日本へと文芸が伝わってきた歴史がありましたが、それはアニメーションも同じ。平和友好条約なんかよりも、はるかに悠久の時代の付き合いがあります。今では日本の量産されるアニメを中国アニメーターが支えていたり、最近では原作も中国だったりするアニメが珍しくなくなってきたようです。人手不足大国の日本ですから、これからも中国の力を借りるでしょう。

一方で、中国も日本の影響を受けています。中国では日本のアニメは人気みたいですが、中国製アニメーションも負けていません。2016年に製作され、日本では2018年にNetflix配信された『紅き大魚の伝説』では、ストーリー・美術・演出などあらゆる面でそのクオリティの高さに驚かされました。

当然、その中国アニメーションの進化は、直接的にせよ間接的にせよ、日本の影響があってこそだと思います。私はアニメの専門家ではないので、偉そうなことは言えませんが、個人的には「中国はアニメの芸術性を高め、日本はアニメの商業性(オタク文化含む)を高める」という相互補完の関係性があるようにも感じます。だから日中でキャッチボールするたびに、アニメがどんどん進化していく、良い関係性を築けるといいなと思います。

そのアニメのキャッチボールとまさに言える企画が、本作『詩季織々』でした。本作は、中国のアニメ制作会社「絵梦(ハオライナーズ)」(『TO BE HERO』など日本でも放映されているアニメも手がける)が、日本のアニメ制作会社の「コミックス・ウェーブ・フィルム」(『君の名は。』の新海誠が所属していたことで有名)とコラボしたことで生まれたとのこと。企画自体は『君の名は。』以前から話が上がっていたようですね。絵は日本が制作し、監督や作品舞台は中国という役割分担になっているようで、『君の名は。』のあの慣れ親しんだ絵柄だけど、場所は中国という不思議なテイストの異国感を日本人は楽しめます。

「3つの短編が織りなす珠玉の青春アンソロジー」と宣伝されているように、「陽だまりの朝食」「小さなファッションショー」「上海恋」の3作品の短編で構成されています。なのでお話としてはこじんまりしているものばかり。ただ、総監督の李豪凌(リ・ハオリン)は新海誠作品のファンを公言しているだけあって、「コミックス・ウェーブ・フィルム」が絵を担当している以上に、『詩季織々』も新海誠っぽさが全開。気になったらちょっと観てみるくらいのスタンスでちょうどいいと思います。

ちなみに本作は2018年8月4日に日本で劇場公開されたのですが、それから3週間程度でもうNetflix配信されています。「早くない…!?」と思った人もいると思いますが、実はもともとNetflixとは配信提携を結んでおり、世界では早々にNetflix配信がスタートし、日本と中国だけ限定で劇場公開されたという流れなんですね。

興味があれば見やすいかたちですぐに視聴できるのでぜひ。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『詩季織々』感想(ネタバレあり)

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「陽だまりの朝食」の感想

本作の1作目。この肝心の第1弾から、なかなかの曲者が登場です。

主人公シャオミンのモノローグからスタート。この出だしは新海誠作品では“あるある”だし、想定の範囲内です。でも、あれ…と。ずいぶん続くなぁ…、というかさっきから「ビーフン」の話ばかりだなと。

「この店のビーフンは全て手作りで1本1本が透き通ってとても美しい。口に入れると優しく弾む食感が一日の始まりをゆっくりとしたものにする」
「確かな弾力と存在感のキノコ。艶やかで程よい歯応えのキクラゲ。濃厚なスープと絡めるとそれぞれのうまみが重なり、その味わいは僕の心をほころばせる」
「肌に触れる熱い湯気と香るスープの匂い。ビーフンを口に運ぶ2人の音。僕はこの時間がたまらなく好きだった」

この調子でさらにガンガンしゃべり倒してくるわけです。これ、音声だけにしてもグルメ・ポッドキャストとして通用するレベル。もはやアニメというよりも、グルメレポートにアニメをつけただけであり、店の宣伝のためのナレーションCMにしか思えない。もう何回「ビーフン」と言っただろうかと考えながら観てました。

しかも、とってつけたように恋心を寄せる女の子の話が挟まれるのですが、ここでもビーフンと同じノリでポエム風に女の子を語る始末。ビーフンと同レベルに語られる女の子はどういう気持ちなのか…。

お話は終盤、祖母の体調が悪化。成長した主人公が故郷に戻りますが、道中の夜景には興味なし。興味があるのはもちろんビーフン。祖母は息をひきとり、回想。もちろんここでもビーフン。もはや死で泣いているのか、ビーフンの味を思い出して泣いているのかわからないです。翌朝、さっそくビーフンを食べ、喪に付す雰囲気はゼロ。

とんだクレイジー・ビーフン野郎でした。本作のタイトルは『陽だまりの朝食』ですけど、全然合っていない。「ビーフン・ポエム」にすべきでしたね。

真面目な感想を書くと、絵は綺麗で映像でじゅうぶん美味しさが伝わるのに、ナレーション過剰で台無しになっているような…。『詩季織々』の企画は中国の暮らしの基となる「衣食住行」がテーマだそうですが、「食」についてアピールしたい気持ちは嫌になるほど伝わりましたが、そこは絵をメインに表現してほしかったなと。

ちなみに公式サイトでは、ビーフンのレシピを公開するというコラボレーションを実施しています。もう、わかったよ…。

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「小さなファッションショー」の感想

本作の2作目。こちらは1作目からガラッと変わって現代的な題材で、モデル業界の話。

主人公のイリンは、モデルとして成功をおさめた実力者で、「トップの私に勝てる女は他にいないわ、フハハハハ!」と高飛車に笑い飛ばす傲慢クイーン(注:そんな発言はしていません)。「口より結果のタイプ」と自分で言っていたけど、どう考えたって無口でもなく、よくしゃべる。ところが、新人の若手モデルにあっさり敗北。気持ちも絡まってさらに怪我。すっかりダウナーになったイリンでしたが、妹のルルやマネージャーのスティーブ(なんでオカマ風?)の助けを借りて、またモデルに復帰したのでした。

モノローグは少ない方だし、絵的なドラマ展開をするので、1作目よりも見やすいですが、どうでしょうか。このイリンは結構感情移入しにくい気がします。キャリアに調子乗った女性のステレオタイプそのものであり、しかも、結果的に周囲にいた“良い人”の存在で立ち直っただけで、彼女自身あまり成長的な変化はない気もするのが、個人的はちょっと…。

「綺麗の裏でどれだけ苦労していると思っているのよ」なんてセリフもありましたけど、そんなのどのモデルも同じく努力しているでしょうし…。もっと深みがあって画一的でない女性像を描けないものかと。ただでさえ、今はそういう偏ったジェンダー感には厳しい時代ですから。

あと、こちらは「衣」がテーマですが、中国らしい要素、あったのかな? 自分が気づけないだけなのか。もしかして妹のルルが終盤に用意してくれた、あの朱色の衣装が伝統的な服なのかな? だったらそこをもっと掘り下げてほしいなと。

他にも、親を失ってその子どもの姉妹がバラバラに育てられるというのも、中国では“あるある”なのかもしれませんが、いかんせん無知なため、あんまり断言もできない…。こうやって考えると、私は全然中国のことを知らないなぁ…。恥ずかしい、もっと勉強しないと。

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「上海恋」の感想

本作の3作目。これが一番“新海誠”臭が強いというのは大方の人が実感するところだと思います。

中国版『秒速5センチメートル』ともいうべき、若い男女の“想い合っているのに”すれ違う人生。カセットテープという時代変化で遺物となってしまう身近な技術の使い方。何よりも観ているこっちが恥ずかしくなるようなリモとシャオユの相思相愛なトーク。よくパンはあの二人のそばで何食わぬ顔で過ごせるなと。よほど懐が広いのか、それとも無神経なのか。

ちゃんと中国らしさも光っているのが素晴らしく、「石庫門」という舞台がまたいいです。上海の伝統的建築様式であり、中国のさまざまな歴史(良いものも悪いものも)を全て見てきた存在の栄枯盛衰を、若い男女の交錯と重ね合わせるのは素直に上手いと思いました。

本作を語るうえで、リモとシャオユの出生の違いはとても重要だと思いますが、日本人にはあまりピンときません。リモは上海出身の“上海人”であり、一方のシャオユは田舎からの出稼ぎに来た父親を持ちます。この差が、二人を隔てる理由として物語の裏に存在しています。“上海人”であるリモの家族は石庫門で暮らせますが、シャオユの家族は粗雑な集合住宅暮らし。ゆえにシャオユの父があそこまで進学校にこだわるのは、このスタートからハンデを負っている今の家族の状況を打開したいという思いがあってこそなのかもしれないと推察もできます(暴力というハードな描写はなかなか邦画の一般向け大作では見られない要素でしたね)。実際、“上海人”と“非上海人”とでは、差別や偏見などを含む格差の問題があるようです。

この関係性は日本だと「都市と田舎」に該当して、それがまさに『君の名は。』では物語の鍵になっていたわけですが、中国だと同じ上海という街の中だけで2者が存在しているんですね。そう考えると、中国の特性らしい面白さを反映している、良いシナリオだなと思います。

ただ、シャオユはリモと会うためにわざと受験に失敗して進学校に行かず、リモはシャオユと会うために頑張って受験を成功し進学校に行くという、すれ違いの結末は切ないですけど、なんか気になるモヤモヤが残るのも正直な気持ち。これもわからないのですけど、中国って“スベリ止め”的なものはないのかな? リモはシャオユが高校に落ちたとわかってから入学高校を選択できないのだろうか。だれか中国の受験の仕組みに詳しい人、教えてください。

そんな疑問はおいといて、『上海恋』は過剰なモノローグもないし、感情移入しづらいキャラもいないし、なにより一番に「住」というテーマがこれ見よがしではなく、うっすらと物語に編み込まれているのが良かったです。新海誠監督も以前に『言の葉の庭』という「新宿御苑」というエリアを題材にした作品を作っていますが、スケールの狭い地域性の活かし方は『上海恋』の方が上手だとすら感じました。

さすが総監督をしているだけあるリ・ハオリン監督。他の2つには申し訳ないけど、『上海恋』だけで長編を作れば良かったのではと思う気もしないでも…。

総論として、作品ごとにムラがあるためか、最終的な印象は「普通」に落ち着いてしまいます。本音を言えば、短編なのでもっと個性を出して挑戦的なことをしては?と思うのですが、とりあえず今回は日本と中国のコラボレーションという企画の重要性を評価したいと思います。

キャッチボールです、キャッチボール。

『詩季織々』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 57%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ

以上、『詩季織々』の感想でした。

Flavors of youth (2018) [Japanese Review] 『詩季織々』考察・評価レビュー