現実世界よりはマシ?…アニメシリーズ『異世界スーサイド・スクワッド』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2024年)
シーズン1:2024年に各サービスで放送・配信
監督:長田絵里
恋愛描写
いせかいすーさいどすくわっど
『異世界スーサイド・スクワッド』物語 簡単紹介
『異世界スーサイド・スクワッド』感想(ネタバレなし)
スーサイド・スクワッド × 異世界
2024年、オックスフォード英語辞典に「Isekai」が単語として追加されました。
これは日本語でいうところの「異世界モノ」のサブジャンルのこと。主人公が何かしらの別の世界(ファンタジー世界、ゲーム世界、並行世界など)に転移もしくは転生などして移動してしまい、そこで生活・生存することになるという構造を持つ物語です。
異世界モノは、文献などをみるとその最初の原点は『浦島太郎』だと説明されていることが多いです。まあ、確かにあれも異世界に移動しているか…。
別に日本だけではなく、『不思議の国のアリス』や『ピーターパン』、『オズの魔法使い』など、世界中に異世界モノの構造を持った物語が昔からあります。
ただ、アニメや漫画などのコンテンツとしてサブジャンルを確立させたのは間違いなく日本です。今やちょっと異世界モノが氾濫しすぎていて、過剰供給になっている状態でもありますが…。
現在の海外でも異世界モノの作品があちこちで産出されているので、異世界モノがなくなることはもう無さそうです。
今回の紹介するアニメは、そんな日本とアメリカのコラボレーションで生まれた異世界モノとなります。
それが本作『異世界スーサイド・スクワッド』です。
そのタイトルどおり、「スーサイド・スクワッド」が異世界に行って暴れまわるという単純明快なコンセプトですね。
まず「スーサイド・スクワッド」って何?という初心者向けにあらためて説明すると、これはアメコミの「DC」に登場するヴィラン(悪役)のチームアップであり、非常に危険な任務を遂行させる消耗品として結成された使い捨て同然のメンバーとなっています。
コミックでは1959年に初登場し、それ以降、いろいろなヴィランがこの「スーサイド・スクワッド」に参加してきました。その都度、顔触れが違うのですが、「ハーレイ・クイン」などの定番のキャラクターもいます。
実写映画だと2016年に『スーサイド・スクワッド』が公開され、2021年には『ザ・スーサイド・スクワッド 極悪党、集結』もありました。
『異世界スーサイド・スクワッド』は「Warner Bros. Japan(ワーナー ブラザース ジャパン)」の企画であり、DCのIPを日本のクリエイターに自由に作ってもらおうというプロジェクトの一環のようです。2018年に『ニンジャバットマン』も作っていますし、これが初ではありません。
今回の『異世界スーサイド・スクワッド』は、『SPY×FAMILY』などを手がける「WIT STUDIO」がアニメーションを制作し、『呪術廻戦』で総作画監督を務めた”長田絵里”が監督に起用されています。
DCのアニメは私もそれなりに観てきましたが、「スーサイド・スクワッド」が主体となっているとどうしてもその性質上、バイオレンスな作品になりがちですけども、この『異世界スーサイド・スクワッド』はそれほどでもないですね。そこは日本のアニメ市場の基準がベースだからなのか、そこまで極端に振り切ったスタイルにはなっていないです(多少の暴力描写はあるけど、まあ、子どもでも観れるレベル)。
こちとらアニメ『Harley Quinn』とか観ているので、そっちと比較すると随分大人しいものです。
それでも『異世界スーサイド・スクワッド』がDC初心者の入り口になれば、それだけでも役割を果たせたようなもの。それを考えれば、良い塩梅の作品なのかな。
『異世界スーサイド・スクワッド』は全10話です。
『異世界スーサイド・スクワッド』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :DC初心者でも |
友人 | :気楽に暇つぶしで |
恋人 | :関心あれば |
キッズ | :やや暴力描写あり |
セクシュアライゼーション:なし |
『異世界スーサイド・スクワッド』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
「長官、準備できました」
ある施設にて長官と呼ばれたアマンダ・ウォラーは「始めなさい」と指示します。大掛かりな装置が作動し、エネルギーでゲートを開こうとするも出力が足りません。それでもウォラーは中断を一切する気は無し。危険も犠牲も承知の上です。
ところかわって、ゴッサム・シティではハーレイ・クインは「プリンちゃん」と呼んでいる恋人のジョーカーと共に悪事の限りを尽くしていました。今日も夜の街で派手に大金を奪い、追っ手から華麗に逃げ切ります。
ジョーカーはこの世界を酷いものだと嘲笑い、ハーレイ・クインも同調。ハーレイ・クインにとってジョーカーの語る言葉がすべて。身も心も捧げています。
しかし、ハーレイだけ謎の襲撃者と遭遇。その人物は刀で武装しており、ハーレイはスリルを楽しみながら戦闘します。それでも相手はかなりの腕前で、気絶させられ部隊に拘束されます。
半年後、特殊な悪人を閉じ込める「A.R.G.U.S」と通称される収容施設。来訪したアマンダはハーレイに会いに来ます。ハーレイはすっかりここの生活に馴染んでいました。「出なさい、やってもらうことがある」
施設の所長の弱みを握っているアマンダは無理やりハーレイを連れて行くことに同意させ、彼女を意識不明に一時させておきます。
目が覚めるハーレイ。何か不思議な感覚がありましたが、今いるのはどうやら輸送ヘリの中です。
自分だけではありませんでした。強面のデッドショット、キザなクレイフェイス、袋を被ったピースメイカーといった、面倒くさそうな奴らも一緒。
モニターにアマンダが映り、自分たちが極秘の任務で駆り出されたことを知ります。しかも、自分たちの首には爆弾が埋め込まれていて、特定の範囲から外れると72時間後に爆発し、逃げ出したりしても爆発するとのこと。つまり、この任務から逃避することは不可能です。
ヘリに同乗していた指揮官のアダムが具体的な詳細を語ろうとすると、急に衝撃を受け、ヘリが墜落。
外に出たハーレイは見たこともない世界にいることを実感します。まるで『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』のようなファンタジー世界みたい…。
近くでは騎士が戦っていて、その相手はオークみたいな種族です。映画のロケ撮影かと思ったらどうやら違う様子。本気で戦争している雰囲気ですし、武器も本物。魔法のようなものさえ見受けられます。
突如、ヘリからキング・シャークが現れて、自分たち以外の5人目の駆り出された存在がコイツであると理解します。
エンタメに精通するクレイフェイスは何かに気づいてこう言います。これは最近の流行りの「異世界」だと…。
とりあえず異世界を混ぜてみた
ここから『異世界スーサイド・スクワッド』のネタバレありの感想本文です。
異世界モノと騒々しく合体して誕生した『異世界スーサイド・スクワッド』。とは言っても「スーサイド・スクワッド」の定番どおりの出だしです。
あらためて思いますけど、この「スーサイド・スクワッド」の導入、毎度ながら忙しいですよね。
はい!ヴィランを何人も招集します。はい!各自で自己紹介しちゃって!はい!任務説明ね。はい!さっさと行ってこい!…これだけの情報量の多さを序盤でやらないといけないのですから。
本作はアニメシリーズなので第1話の約20分程度でこなさないといけません。当然慌ただしいです。
今回、アメリカの政府組織「A.R.G.U.S.」のアマンダ・ウォラーに集められたのは5人。
元精神科医でジョーカーに魅せられて狂気に染まったハーレイ・クイン(ハーリーン・クインゼル)。重火器を得意とする殺しのエキスパートのデッドショット。己の平和の信念のためなら非道な手段もとるピースメイカー。粘土のように身体を変幻自在に変える俳優のクレイフェイス。怪力を振るうヒューマノイドのサメであるキング・シャーク(ナナウエ)。
この5人が異世界で「王国」側につくことになり、ハーレイ・クインたちより前に異世界に来ていたリック・フラッグに促されて、「帝国」側についた先発の別の「スーサイド・スクワッド」であるヴィランたちと対峙することになります。
その敵対ヴィランは、ネズミを操れるラットキャッチャー、洗脳に長けたマッドサイエンティストのシンカー、魔術で翻弄するエンチャントレス、ヒューマノイドのワニであるキラークロック。こちらもDCではおなじみの悪役たちです。
正直、今作でハーレイ・クインたちのような「スーサイド・スクワッド」を投入する動機はやや乏しいんじゃないかと思ったりはします。今回の目的は、資源が欲しいという植民地主義であり、『アバター』とかと同じ構図です。「スーサイド・スクワッド」はもともと非合法的で国際ルールに抵触しかねない行使をアメリカが秘匿で遂行するために投入されるものです。なので異世界のようなわりと現実の法令が通用しない世界なら、なりふり構わず堂々と普通に軍隊を投入するほうが手っ取り早い気もしますし、「スーサイド・スクワッド」の存在意義は薄いです。
あと、これはコンセプトそのものへのツッコミなのですけど、私たち視聴者にとってはハーレイ・クインたちのいる世界もじゅうぶん「異世界」です。メタヒューマンとかいる世界ですからね。なので異世界モノの基本軸である「現実のキャラクター側からみた異世界体験」というカタルシスはだいぶ薄まっているのも気になるところ。
まあ、本作はわりと大雑把で、とりあえず「スーサイド・スクワッド」を異世界にぶち込んで、そのビジュアルで楽しめればいいかというノリでだいたいが突っ切っています。
確かに、ハーレイ・クインがドラゴンに乗って戦ったり、英雄の鎧の一部を身に着けて変身したり、オーガと友達になったり、そういう絵ではキャッチーに盛り上げてくれました。
フィオナとの絡みが増えれば…
『異世界スーサイド・スクワッド』にて私が一番惜しいなと思うのは、キャラクター・アークのボリュームの少なさ。
デッドショット、ピースメイカー、クレイフェイス、キング・シャークなんかは要所要所で使われる戦闘要員&ギャグ要員にしかなっておらず、そのキャラクターが掘り下げられることはほぼありません。
敵側も似たようなもので、ラットキャッチャー、シンカー、エンチャントレス、キラークロックなんかも中ボスくらいの扱いで終わりです。偏執狂的で冷酷なアマンダ・ウォラーも変わり映えしません。
映画じゃなくてアニメシリーズなのでもっとキャラクターを深掘りできるかなと思ったのですけども、やっぱり時間は無かったのかな。
上記のキャラクターたちはもっと大胆に翻案してみてもいいのではと思いました。
本作においてハーレイ・クインだけが主人公枠としてのエピソードの掘り下げが部分的にあるのですが、「ジョーカーに陶酔している」という立ち位置は現状の第10話目の最終話になっても変化しません。
監督の”長田絵里”はハーレイ・クイン単独実写映画である『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』も資料として観て、このハーレイ・クインというキャラクターがジョーカーの支配を乗り越えて成長していくキャラクターだと知ったうえで、本作の製作に臨んでいるようです。だからこそラストで、カタナになりすまして暗躍していたジョーカーが満を持して登場し、ハーレイとの対立を匂わせて終わるわけですが…。
そのため、この全10話だけを見るかぎりハーレイ・クインの成長がなく、ちょっと退屈です。今作のハーレイ・クインはほとんど異世界で暴れるギャルですね。
その一方で、ハーレイ・クインの成長を代替え的に先行で体験する役割を担うのが、王国のフィオナ姫であり、彼女は女王(実際はアンデッド・キング)に従属するしかできませんでしたが、終盤でその鎖を振り切り、ハーレイ・クイン風のメイクまでして自分を解放します。
反権力の女性としての表象をフィオナに担わせるアイディアは異世界モノらしく、良かったと思います。
ただ、もう少しハーレイとフィオナの絡みを増やしてほしかった部分はありますけど…。2人がいかにチグハグで、でもどこか似た圧力を感じていることをもっと一緒のシーンで会話たっぷりに描いてほしかったですね。それが上手くいっていれば、本作もアニメ『Harley Quinn』並みの突き抜けた新しいハーレイ・クイン像を提示できた可能性があったのではないでしょうか。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
?(匂わせ)
関連作品紹介
DC作品の感想記事です。
・『バットマン マントの戦士』
・『ジョーカー』
作品ポスター・画像 (C)Warner Bros. Japan 異世界スーサイドスクワッド
以上、『異世界スーサイド・スクワッド』の感想でした。
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#アメコミ #DC #異世界 #プリンセス