感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

ドラマ『ウエストワールド』感想(ネタバレ)…現実とフィクションの境界は脆い

ウエストワールド

最高のデティールで蘇ったSFファン大満足の世界…ドラマシリーズ『ウエストワールド』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Westworld
製作国:アメリカ(2019年)
シーズン1:2016年にAmazon Primeで配信
シーズン2:2018年にAmazon Primeで配信
シーズン3:2020年にAmazon Primeで配信 ※以降HBO系サービスで配信
製作総指揮:ジョナサン・ノーラン、リサ・ジョイ、J・J・エイブラムス ほか
性暴力描写 ゴア描写 人種差別描写 性描写 恋愛描写

ウエストワールド

うえすとわーるど
ウエストワールド

『ウエストワールド』あらすじ

ここは体験型テーマパーク「ウエストワールド」です。西部劇の世界観が再現されており、精巧に作られたホストと呼ばれるアンドロイド達が暮らしています。お客様はゲストとしてこの世界で好きなことをして構いません。ホストはゲストに危害を加えることは一切ありませんので、ゲストの皆様は欲望のままに行動しても安全を保証しています。では心ゆくまでお楽しみください。

『ウエストワールド』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

現実とフィクションの区別ができる?

ゲームやアニメなどフィクション作品が犯罪の助長などの理由で槍玉にあがったとき、よく「現実とフィクションの区別はつくorつかない」というのが論点になることがあります。

しかし、ここで素朴な疑問が浮かびます。そもそも「現実とフィクションの区別」って何なのでしょうか。それこそ『マトリックス』のように私たちがこの瞬間に認識している“現実だと思っているもの”も作られた虚構だとしたら…というのは大袈裟かもしれません。でもその区別、つまり線引きは何によって判断するのか、明言はできないです。

私たちは映画でもそうですがリアルに極めて近いフィクションを好みます。逆にリアルとかけ離れた雑な映像やストーリーであれば文句を言うでしょう。このことからもなんだかんだ言って私たちは「現実とフィクションの区別がつかない世界」を欲しているとも言えなくもありません。

それでも映画を観ていてそれがフィクションだと認識できる理由は、私たちが座席に座っているからではなく、絶対的な安全空間にいるからです。映画内で爆発が起ころうとも私たちは熱くもないですし、ゲーム内で人を殺そうとも警察に捕まりはしませんし、漫画内で性的なことをしようとも咎められない。この「安全」が何よりも私たちをフィクションというものに夢中にさせるドラッギーな要素なのではないでしょうか。

そんなことをあれこれと熟考したくなるドラマシリーズを今回は紹介します。それが本作『ウエストワールド』です。

本作はあの『ジュラシック・パーク』の原作者である“マイケル・クライトン”が1973年に監督として手がけた『ウエストワールド』をドラマシリーズとしてリメイクしたものです。

物語は、架空の巨大なテーマパークが舞台。そこでは西部劇の時代を精巧に再現した広大な空間があります。これだけだと遊園地っぽいですが、そこにこれ見よがしにアトラクションがあるわけではありません。そこには高度なAIで動くヒューマノイドがおり、まるで西部劇世界の住人として当然のように暮らしています。本物の人間とは外見上はほぼ区別がつかず、コミュニケーションも何も支障なく可能です。ただし、本物の人間に危害を加えることは絶対にしません。

実在のディズニーワールドでもこんなふうに開発者がリアルな世界を全身全霊で構築しているので(ドキュメンタリー『イマジニアリング~夢を形にする人々』を観るとよくわかる)、まさにその究極系みたいなものです。

しかし、この『ウエストワールド』で描かれるテーマパークは家族団欒の夢溢れる和やかなエンターテインメントを提供する場とは違います。ゲストたちはAIヒューマノイドを相手に殺戮してもよし、レイプしてもよしの欲望を叶え放題で満喫しているのです。言ってしまえば「R18+」のディズニーランドですね。

絶対的な安全空間で、ヒューマノイド相手ならな倫理を気にしなくてもいい。しかし、ある日、この綻びが生じるはずのない「安全」が崩れ始め…というのがストーリーの出だしとなってきます。

エンターテインメントの闇を痛烈に風刺するSF作品であり、放送当初から話題を集めてきました。

原案は、あのクリストファー・ノーランの弟でノーラン作品の脚本もしている“ジョナサン・ノーラン”、その彼の妻で『プッシング・デイジー 〜恋するパイメーカー〜』などでライターとして仕事してきた“リサ・ジョイ”。この夫婦の共同創作の賜物です。確かに『ウエストワールド』も全体的にノーランっぽい感じもありつつ、そこにフェミニズムな視線が加わり、良い塩梅な気がします。

製作総指揮には、もはや説明不要でしょう、『スター・ウォーズ』を新生させて熱狂と混沌を再誕させた“J・J・エイブラムス”が参加。

俳優陣も豪華で素晴らしい演技合戦を堪能できます。とくに女性陣はめまぐるしく物語を動かす大活躍を見せるので要注目です。最近だと『アナと雪の女王2』で声をあてた“エヴァン・レイチェル・ウッド”、『クラッシュ』の“タンディ・ニュートン”、『マイティ・ソー バトルロイヤル』や『クリード』シリーズの“テッサ・トンプソン”など、パワフルな女性たちに釘付けになるでしょう。

またほぼ主役と言ってもいい“ジェフリー・ライト”も美味しい役どころですし、『ブレイキング・バッド』でおなじみの“アーロン・ポール”もシーズン3から活躍。

日本人として“真田広之”、“菊地凛子”、“祐真キキ”なども登場し、“アンソニー・ホプキンス”“エド・ハリス”といった大物も名演を響かせ、“ヴァンサン・カッセル”といったグローバルなキャスティングもあったり…。ちなみにIT長者であるイーロン・マスクの婚約者として話題だった女優“タルラ・ライリー”も出ているのはそういうネタ的な目配せなのかな。

とにかく重厚なSFを堪能するなら『ウエストワールド』は絶対に必見の一作です。情報量の多いドラマシリーズなので腰を据えてじっくり鑑賞しましょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(SFファンは必見のドラマ)
友人 ◎(SF好き同士で盛り上がる)
恋人 ◯(互いに考察し合って満喫)
キッズ ✖(残酷描写がかなり多め)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ウエストワールド』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

シーズン1:The Maze

農場の娘であるドロレスはいつものように町に出かけます。しかし、彼女は知りませんでした。自分、そして周囲にいる多くの人たちが人工のアンドロイドだということに。ここはデロス社が運営する巨大なテーマパーク「ウエストワールド」。ゲストはここで無自覚に管理されているアンドロイド(ホスト)を相手に好き放題できます。娼館のマダムであるメイヴ(ホスト)はゲストの男たちの欲望を叶えるのが仕事。そんな世界で謎の黒服の男がホストを殺しまわる事件は発生。プログラム責任者のバーナード・ロウは、親会社の重役シャーロット・ヘイルの圧力もありつつ、対応に奔走します。その過程で浮かび上がるのはこのテーマパークを創設した生みの親であるロバート・フォード博士。その密かな混乱の中、ドロレスは何気なくハエを潰して殺します。ホストは命を奪えない設定のはずなのに…。ゲストで初めてここを訪れたウィリアムは巻き起こるホストの反乱に飲み込まれ、衝撃の真実に直面することに。

やはり以降のシーズンを見続けた後でも、このシーズン1の始まりはトップクラスの完成度だなと思います。これほどゾクゾクする刺激はありませんし、そのSFのデティールの細かさも最高で、かつ演出も実にスマート。

何より世界観です。科学と娯楽が融合して倫理を無視するとき、それは人類の禁断の一線を越えてしまう…このテーマは『ジュラシック・パーク』に通じるものですが、このドラマ『ウエストワールド』はその危うさをロマンみたいな言葉で形容して誤魔化せるレベルを逸脱しています。

西部劇世界を提供する「ウエストワールド」はゲストの欲望を叶える場所。人を殺してみたい、女を犯してみたい、人種差別と咎められずに行動したい…そういう反社会的衝動を満たすためのところです。法律もルールも倫理規定なんてものすら一切ないわけですから、今もネット上で目立つ反ポリコレな主張を掲げる人などにとっては絶好の天国です。ここまで過激なテーマパークはさすがに実現するわけないと思いたいところですけど、世間を見えているとやっぱり需要はあるだろうなと思いますよね。

しかし、「安全」が保証されたと思っていた空間が突然に牙をむく。搾取していた者が情け容赦なく反撃を受ける。しかも、自分なんかよりも圧倒的に強い存在に。このへんの反転構造はシンプルなカタルシスを与えてくれます。『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』で抑圧された女性たちが反撃に転じる…みたいなものですし。たぶん大半の視聴者はアンドロイドに感情移入しているでしょうし、ここは「やってやれ!」な応援をついしてしまいます。

けれどもそうは問屋が卸さないのがこのドラマ『ウエストワールド』。このリベンジに見えた展開すらも“誰か”のシナリオどおりなのか。その“誰か”である“大いなる存在”をチラつかせる。このあたりはやっぱりアメリカのドラマらしいなと思わせますよね。要するに人は“神”になれないのだから天罰は下りますよ…という意味合いもあるのですから。

スポンサーリンク

シーズン2:The Door

ドロレスを中心としたホストによる大反乱は不意をついたことでパークをパニックへと変え、ゲストも経営陣も無慈悲に虐殺していきます。その混乱の最中、ホストであるメイヴはデロス社のスタッフの一部を脅しつつ仲間に加え、自分の娘を探すべく、独自に行動を開始します。娘探しの旅はウエストワールドを飛び越え、日本の江戸時代を基にした「ショーグンワールド」へと舞台を移します。一方で、プログラム責任者のバーナード・ロウは、自分が実はアンドロイドであるということを知ってしまい、その衝撃の出来事もあって思考に支障をきたしていました。シャーロットはデロス社の指示のもと、なんとかこの前代未聞の反乱を制圧してパークの秩序を取り戻そうとし、正体を理解しないままにバーナードと行動をともにします。さらに自身がウィリアムだと判明した黒服の男は、創設者ロバート・フォード博士が仕掛けたゲームにまだ囚われ、翻弄されていました。そしてこのパークで行われている真の実態が明らかに…。

シーズン1はアンドロイドの反撃というとてもわかりやすいストーリーラインがあったので、すんなり理解できたと思うのですが、シーズン2は一気に複雑化しました。まず2つの時間軸が同時的に描かれるので、そこを整理できていないと混乱します。具体的には反乱直後の物語と、反乱が片付いた後の物語の2つの構成です。

それでもパーク運営は崩壊しましたがエンターテインメント性はシーズン2でも発揮されており、とくに「ショーグンワールド」は思いっきり「ザ・日本」という世界観で強烈に新鮮です。面白いなと思うのは、あくまであのショーグンワールドは西洋人が考える「日本観」で構成されているので、言ってしまえば多少のヘンテコな日本要素があっても理屈としては通るということですかね。

また、現代兵器とそんなものがない世界とのクロスオーバーな衝突も描かれ、ちょっとした『戦国自衛隊』感もありますし。

その中で明かされるこのテーマパークの目的。ただのテーマパーク入園料で金儲けしているわけでなく、狙いはゲストたちからデータを得て、それを蓄積することでした。つまり、欲望のままに搾取していい気分に浸っていたゲストたちですが、実際は知らない間に自分が搾取されていただけ。

このビックデータをめぐる巨大IT企業の裏の世界は、まさに『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』で説明されているように、リアルで私たちが直面している問題でもあるわけで、ドラマ『ウエストワールド』もやはりこういう現代風刺をしっかり入れてくるのも題材として当然の帰結。

そんな中、仮想世界サブライムというホストたちのいわば理想郷を描くあたりでは、ここでも信仰めいたものを感じ(バーナードの行うホストたちへの導きは「出エジプト記」に似ていますし)、いよいよアンドロイドで宗教物語を作っているようなそんな様相でもありました。

スポンサーリンク

シーズン3:The New World

反乱から3か月後。人間としてのシャーロットは殺され、ホストとして入れ替わっていましたが、今ではデロス社のCEOへと昇進。人間らしい生活に馴染むのに苦労しつつ、経営上の問題に直面していました。それはアンゲロン・セラックという大富豪がデロス社の株を買い占めて支配しようとしていたこと。また、ホストのドロレスはセラックに対して独自に行動しており、偶然に出会ったケイレブという元兵士で今は闇稼業に手を染めている男を仲間にします。さらにバーナードも暗躍するドロレスの行動を追いかけ始めていました。そしてメイヴはセラックのコントロール下で目覚め、ドロレスを止めるために力を貸すように命令されます。一方で黒服の男だったウィリアムは今や精神科施設におり、自分の存在の意義と向き合っていました。さまざまな思惑が交錯する中で明かされるのはセラックが進行させているAIのレハブアムによる壮大な野望。それは世界を一変させるもので…。

シーズン2鑑賞後は「これは次はどう発展させるのかな」とストーリーの続きがさっぱり予測不能でしたが、シーズン3を見ると「そうきたか!」という感じ。

これまでのテーマパーク内での「人間vsホスト」の駆け引きは過ぎ去り、今度は言ってしまえばビジネスサスペンス物語になっています。企業内でのビジネス上のせめぎ合いみたいなやつですね。

ただそこは『ウエストワールド』。普通の企業ドラマとはわけが違います。

まずドロレス、メイヴ、シャーロット、バーナード、それぞれのホストが独自の思惑があって行動していくことになり、ホスト同士の対立が軸になってきます。なんかもう『ターミネーター』さながらです。

そんな中で、もはや人類は自由を失っているのも印象的。巨大IT企業に無自覚にコントロールされてしまい、自由意志を喪失して、大衆は意のままに操られてしまっています。AIのレハブアムによるセラックの狙いはまさにその究極系。

その頼りない傀儡となった人間たちに代わって、今度はホストたちが世界を救うべく戦っています。別に人間に義理はないのですが、結果的にホストが人間を救ってあげていることに。シーズン1からさらに反転していますね。人間代表のケイレブの弱々しさが印象的です。ITの支配によって人間はこんなにも弱い生き物になってしまったのか、と。

かなりややこしさがさらにアップしているシーズン3ですし、定番のワールドも「ナチス」の世界が新登場するくらいです(『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界がチラ見せしているのはちょっとワクワクするけど、あの世界って体験してもすぐ死ぬんじゃないだろうか…)。なのでシーズン1が好きな人にはちょっと作品雰囲気が変わりすぎて「あれれ」となったかもしれません。

ただこのシーズン3はもろに『攻殻機動隊』っぽくなっており、逆にそっちが好きな人は新たにハマることもあるのではないでしょうか。というかこの世界観がこのまま進んでいくと絶対に『攻殻機動隊』そのまんまになりますよね。
シーズン4にまだ続くということでさらなる展開が楽しみです。

『ウエストワールド』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 87% Audience 92%
S2: Tomatometer 86% Audience 74%
S3: Tomatometer 74% Audience 60%
IMDb
8.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)HBO Entertainment

以上、『ウエストワールド』の感想でした。

Westworld (2019) [Japanese Review] 『ウエストワールド』考察・評価レビュー