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『真実 La vérité』感想(ネタバレ)…フランス映画、でも是枝裕和の映画

真実

フランス映画だけど是枝裕和の作品…映画『真実(2019)』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:La vérité
製作国:フランス・日本(2019年)
日本公開日:2019年10月11日
監督:是枝裕和

真実

しんじつ
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『真実』あらすじ

フランスの国民的大女優ファビエンヌが自伝本「真実」を出版し、それを祝うためという理由で、アメリカに暮らす脚本家の娘リュミールが、夫でテレビ俳優のハンクや娘のシャルロットを連れて母のもとを訪れる。早速、母の自伝を読んだリュミールだったが、そこにはありもしないエピソードが書かれており、憤慨した彼女は母を問いただすが…。

『真実』感想(ネタバレなし)

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万引き家族の次は“何”家族?

私たちにとって最も身近なコミュニティは「家族」です。何かの不幸がない限り、この世に生を受けて産まれた瞬間、そこには家族があります。そんな家族というコミュニティの中であれば、自分をありのままにさらけ出すことができる…わけがないということは、私たち誰もがその身をもって大なり小なり経験していることのはず。そうです、家族だからこそ自分を偽ったり、隠したりしてしまうこともある。見栄を張ることもある。親や子、兄弟姉妹に明かしていない自分の秘密を持っている人なんて珍しくもないでしょう。なんでしょうか、人間関係って本当にややこしいですよね。

そんな家族ゆえのファジーな人間の関係性を浮かび上がらせる映画は古今東西、星の数ほどあるでしょうけど、また新しい名作がひとつ加わりました。それが本作『真実』です。

監督は日本を代表するという形容は今や必要ない、世界をまたにかけて活躍する日本人映画監督の“是枝裕和”。「Hirokazu Kore-eda」の名は以前から国際的な知名度を映画界では誇ってきましたが、それが頂点に達したのはもちろん言わずもがな2018年のカンヌ国際映画祭で見事に最優秀賞であるパルム・ドールに輝いた『万引き家族』

もともと“是枝裕和”監督は『そして父になる』や『海街diary』など、国内評価も非常に高い名匠だったわけですが、あの『万引き家族』の一手によって、もはや有無も言わせない領域まで到達した感じで、個人的には「すごい遠くに行っちゃったなぁ…」みたいに若干の寂しさも感じないでもない。

でもこれだけの才能がある監督ならば世界で活躍するのが当然です…とか思っていたら、すでに次回作がなんとフランスを舞台にしたフランス映画になるということを耳にし、本当に凄い!と感心するばかり。

そんなこんなで完成した『真実』はヴェネツィア国際映画祭で披露され、ジョーカー旋風に負けじと批評家に高く評価され、その映画に愛された才能をいかんなく証明していました。

そのヴェネツィア国際映画祭で批評家の多くが『真実』に関してこう評していました。「海外が舞台になっても“是枝裕和”監督らしさが変わらない」と。これって実は本当に凄いことで、製作では相当な苦労もあったはず。まあ、でも話し出すと長くなるので、その側面からの本作の評価は後半の感想で。

『真実』は“是枝裕和”監督お得意の「家族モノ」でありながら、今回は新しい挑戦をしているのは「俳優モノ」だということ。つまり、映画業界にほぼ近い俳優業に関する物語であり、それを映画というフィクションの中で描いているので、おのずとメタ的になります。そのため非常にレイヤーがいくつも折り重なった多層構造になっており、“是枝裕和”監督作として新鮮な印象を受けると思います。無論、フランスが舞台なのでそこでもフレッシュなのですが。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』といい、最近「俳優モノ」を観るなぁ。

主演はフランス映画界に君臨すると言っても過言ではない大女優“カトリーヌ・ドヌーヴ”。1964年のミュージカル映画『シェルブールの雨傘』で一気にスターへと登りつめ、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した1964年のルイス・ブニュエル監督の『昼顔』でも名演を披露(ちなみにこの『昼顔』は日本の上戸彩主演の同名ドラマ&映画の元ネタであり、オマージュ的なものです)。文句なしのトップに座る「女優の中の女優」です。最近の出演作は日本劇場未公開のものが多いのですが、2015年の『神様メール』ではゴリラとベッドインするという衝撃の映像を見せてくれました。

そんな“カトリーヌ・ドヌーヴ”という大物と共演する俳優陣も相当な顔ぶれ。娘役には、『トリコロール/青の愛』でヴェネツィア国際映画祭、『イングリッシュ・ペイシェント』でベルリン国際映画祭、『トスカーナの贋作』でカンヌ国際映画祭…と、世界三大映画祭で女優賞制覇している“ジュリエット・ビノシュ”が登場。この“カトリーヌ・ドヌーヴ”と“ジュリエット・ビノシュ”が同じ作品内で肩を並べているというだけでも見物です(ちなみに監督は「フランス人ならこんな面倒なキャスティングはしない」と言われたらしいですが…)。

そして『6才のボクが、大人になるまで。』では「父親としては120点、夫としては30点」なダメ男、『魂のゆくえ』では「宗教さえも救ってくれない」哀れな男を演じ、最高の名演技を見せ続けてくれる“イーサン・ホーク”がその女優陣の脇にいます。この組み合わせがまたいい…。“是枝裕和”監督、本当に“イーサン・ホーク”の使い方がわかっていて、『真実』は実は“イーサン・ホーク”LOVEな人にたまらない映画でもあります。

もちろん“是枝裕和”監督十八番の子役演出も堪能できるので、いやはや、至れり尽くせり。

シネフィルな映画ファンなら必見ですし、個人的には「母と娘」にスポットをあてた映画なので、母娘で一緒に映画館に行くのもいいのではないでしょうか。疎遠になっていたとしても、何か理解し合えるものが生まれるかもしれませんよ。

タイトルは「真実」と随分シンプルで、シリアスな話なのかな?と思われがちですが、ミステリーではありません。案外と軽くてショートストーリー的なコンパクトさで明るい空気感のある物語です。“是枝裕和”監督作品で言えば『海よりもまだ深く』に近いので、お気軽にどうぞ。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(映画ファンは必見)
友人 ◯(母と娘で観るのも良し)
恋人 ◯(ドラマ性の高い作品が好きなら)
キッズ △(大人向けのストーリー)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『真実』感想(ネタバレあり)

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俳優も監督も、恐ろしい…

『真実』は、とある家族の物語。その中心にいるのは、フランスの国民的大女優ファビエンヌ。それはもう誰もが「あの人か…」と恐れ入るほどの大物。無論、これはファビエンヌを演じている“カトリーヌ・ドヌーヴ”本人と大きく重なるものになっています。なので、“カトリーヌ・ドヌーヴ”のキャリアを知っている人が観る場合と、知らない人が観る場合とでは、否が応でも鑑賞感覚に受ける影響として差が出てしまいます。

例えば、冒頭のインタビュー場面でファビエンヌがさっそく傍若無人な態度をフルスマッシュさせまくっているのですけど、「あの俳優、死んだでしょ(生きてます)」とか、また中盤でも「ブリジット・バルドー」という実在の女優に対するあの溜息の吐き捨て評価とか、終始、“おいおい、それ言っちゃっていいのかよ”と思うわけです。別に劇場で観客がそう思っても意味ないのですが…。

あげくにですよ。本作の物語の革新である「サラ」というキャラクターに関するくだり。サラはファビエンヌの姉妹であり、同じく女優として活動しながら、若くして亡くなっています。その裏事情として「サラのとるはずの役を、あんたは監督と寝て奪った」とファビエンヌの娘のリュミールの口から告発させる!…“え、正気かよ…”と映画館のスクリーンを見つめながらただただ思いました。

一応、解説すると、演じている“カトリーヌ・ドヌーヴ”本人も実際に姉で俳優のフランソワーズ・ドルレアックを25歳という若さで亡くしています。つまりそこは完全にリンクしているんですね。加えて、“カトリーヌ・ドヌーヴ”といえばフランス国内でのMeToo運動にともなう女性たちの活動に対して針を刺すような言動をしてしまい、炎上し、謝罪に追い込まれたことも記憶に新しいです。その“カトリーヌ・ドヌーヴ”にこんなフェミニストの反感を刺激するような役柄を演じさせているのですよ。

もう正気の沙汰じゃないです。ほとんど自虐コメディに近いのですから。

まずこのファビエンヌをいともたやすく演じている“カトリーヌ・ドヌーヴ”の鋼の心が凄すぎて何も言えないです。本人曰く「ファビエンヌと私は別人だから」と完璧に混同せず理性的に捉えているみたいですが、いや~、さすが大物の貫禄。当然、素晴らしい役者だとは思っていましたけど、『真実』であらためてその異次元の凄さを痛感して、なんか、おみそれいたしました。たぶん“カトリーヌ・ドヌーヴ”ならジョーカーも精神崩壊せずにサラッとスイッチ入れて演じられますよ(なんだそれ)。

ちなみに“カトリーヌ・ドヌーヴ”は作中のファビエンヌみたいに“わがままな女優”では撮影時はなかったそうで、基本は素直な人だったとか(タバコだけやたらと吸いたがるらしいですが)。

それに“是枝裕和”監督、あなたが諸悪の根源。よくぞこんなことをまあ…。いや、“カトリーヌ・ドヌーヴ”という俳優を信頼しきっているからこそのこの危険極まりないキャッチボールだったのでしょうけど。私は『真実』を観て、監督の印象が新しく上書きされました。“是枝裕和”監督、怖い…と。この恐れ知らずさ。なんか樹木希林の霊が乗り移っているんじゃないか…。

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KOREEDAはフランス映画も撮れる

そのクレイジーさを発揮した“是枝裕和”監督、『真実』では監督としての力量の高さを正統的にも証明してみせていると思います。

何より日本人監督がフランスでフランス人をキャストしてこれほどの完成度の高い映画を撮るというだけでも、普通にできることではありません。“是枝裕和”監督、別にフランス語が堪能なわけでも、フランスという国に在住してネイティブ並みの造詣が深さがあるわけでもないのですから。

逆に考えると、日本を舞台に『沈黙 サイレンス』を撮ったマーティン・スコセッシ監督がいましたけど、あれだってメインキャストが非日本人で英語主軸の物語でしたから。

『真実』で徹底して日本要素に逃げることなく、フランス語(&英語)で、加えてかなり高度なドラマが折り重なっている物語を成立させている…これは外国人監督たちも批評家たちも「“是枝裕和”監督、すげぇ…」となるのは当然です。

もちろん相当な苦労があったようで、それはインタビューや、撮影の舞台裏を監督自ら書き記したメイキング本「こんな雨の日に 映画「真実」をめぐるいくつかのこと」で窺い知ることができます。

もともと舞台用の戯曲として“大女優の物語”を想定して頭の中で企画していたという出発点。でも日本人には当てはまらないかなと思っていると、フランスで撮らないかという、国際的信頼ゆえのお声をもらい、“カトリーヌ・ドヌーヴ”主演で始動。週休2日、1日8時間の規則的な撮影(暇になったので映画をいっぱい観たとか)。日本とフランスの文化の違い(周囲のフランス人から頻繁に台本チェックを受けたとか)。悪戦苦闘することだらけ。とくに編集が最難で、外国語ゆえに会話の言葉の切り方がわからないというのは、なるほどなと思いました。

それでもやはり監督の手腕ですね。監督特有の俳優に合わせてシナリオをアジャストするテクニックとか、ロケーションを120%活かす驚異的な引き出し能力の高さとか、もう何度も言って申し訳ないですけど、“是枝裕和”監督の映画人としてのレベルの高さがわかります。通訳体制も良かったのでしょうけど。

きっと“是枝裕和”監督も自信がついて、今後も躊躇いなく海外映画を撮りまくれるでしょうし、いろいろ海外から声をもらう機会もさらに増えるのではないかなと思います。それで、これが個人的には一番期待したいことですが、この『真実』を観て、閉鎖的な映画業界にとどまる日本国内でイマイチくすぶっていたクリエイターが「自分も海外で何かやろうかな!」と前向きになれたらいいですよね。

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家族の物語を覗いてみたら

『真実』は“是枝裕和”監督らしい俳優陣のアンサンブルも大きな魅力。

“カトリーヌ・ドヌーヴ”はもう語ったので良いとして、そのファビエンヌの娘リュミールを演じた“ジュリエット・ビノシュ”。あの母に振り回されて“やれやれ、はぁ~…”となる素の感じ、お見事でした。ちょっと私の個人的ベスト・ファミリー映画『マイ・ハッピー・ファミリー』を連想もしました。

そのリュミールの夫ハンクを演じた“イーサン・ホーク”。ファンへのご褒美みたいな描写ばかりで、私もあの子どもたちに交じって“イーサン・ホーク”と戯れたいと何度思ったことか(どうして私の父は“イーサン・ホーク”じゃないんだろう…)。あんなナイスガイなのに、アメリカであまり売れない俳優ってオカシイでしょう…。基本は妻の実家で肩身の狭い思いをしているのですけど、そこでこじれていく母娘関係にさりげなくアシスト・フォローをしてあげているのがまたいい…。

あとびっくりしたのは新鋭女優にしてサラの再来と注目されることでファビエンヌ母娘を動揺させるマノンを演じた“マノン・クラヴェル”。この人、これが長編映画デビューだそうで、その経験の浅さを一切感じさせない名演でした。さぞかしリアル大物に囲まれて緊張しただろうなぁ…。

もちろんリュミールの娘を演じた“クレモンティーヌ・グルニエ”もとにかく可愛くて、しばらくずっと観ていたい気分。この子も演技未経験で、オーディション時にフルートが得意と言って吹いてみるも下手で、それを「持ってきたフルートを間違えた」と豪語したというエピソードがキャスティングの後押しになったそうで、それも含めてキュート。ピエールが魔法でカメに変身させられたと信じるくだり(ピエール本人登場時、無言で外のカメの確認をしに行く)といい、もうみんなのマスコットでした。

お話自体はボ~っと見ていると、どこに起承転結があるのか見失うほど、巧妙にフェードアウトしているようなカモフラージュがされています。『真実』は劇中劇スタイルで、そのお話の中に登場する『母の記憶に』というSF映画の物語が、ファビエンヌとリュミールの関係性にダブる構成になっています。この『母の記憶に』というのはケン・リュウというヒューゴー賞受賞歴もあるSF作家の小説からそのまま引用されています。地球では数年と生きられない女性が宇宙で暮らし、年と取らない。そのため、自分の娘や孫の方が自分よりも見た目が老いてしまっている。そんな“立場の逆転”が起こる作品。ファビエンヌは一番年下の役となり、自分よりはるかにキャリアも若いはずのマノンを相手に演技します、しかも、そのマノンが、複雑な思いを残している今は亡きサラと重なる。

それが後に起きるファビエンヌとリュミールの上限関係のひっくり返しをチラリと示唆し、しかもシャルロットを通して女3世代による、些細な意趣返しの物語になる。このおおごとではない、くすぐるような家族の交流が、実にまた“是枝裕和”監督風味。結構複雑ですけど、難解ではないのが、ほどよさになっていて紅茶のように飲みやすい映画です。

何が真実なのか、それは家族だけの秘密。家族はそうやって秘密を継承していくものです。それを観客はちょっと覗かせてもらった感じでしょうかね。

まだまだ進化していることを実感させる魔法使い“是枝裕和”監督。パルム・ドールは通過点に過ぎなかったのか、さらなる魔法に期待しています。

『真実』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience –%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

以上、『真実』の感想でした。

La vérité (2019) [Japanese Review] 『真実』考察・評価レビュー