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『スウィング・キッズ』感想(ネタバレ)…これが韓流ミュージカル映画!

スウィング・キッズ

これが韓国映画スタイルのミュージカル…映画『スウィング・キッズ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Swing Kids
製作国:韓国(2018年)
日本公開日:2020年2月21日
監督:カン・ヒョンチョル

スウィング・キッズ

すうぃんぐきっず
スウィング・キッズ

『スウィング・キッズ』あらすじ

1951年、巨済島捕虜収容所に新しく赴任してきた所長は、対外的イメージアップのために戦争捕虜でダンスチームを結成するプロジェクトを計画する。前職はブロードウェイタップダンサーだった黒人下士官ジャクソンのもと、ロ・ギスなどさまざまな個性が強すぎる面々が集う。人種・国籍・性別・性格・イデオロギー、立場の違う者同士がパフォーマンスすることはできるのか。

『スウィング・キッズ』感想(ネタバレなし)

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韓流ミュージカル映画がアツい

ミュージカル映画の始まりは映画に音楽が組み合わさり始めた時期と一致するため、ほとんど映画の黎明期からの長い付き合いです。最初のトーキー映画と言われる1927年の『ジャズ・シンガー』のように、映画と音楽は仲の良いパートナーでした。その良好な関係は今も継続しています。

一方で、新しい派生をどんどん見せていくのもミュージカル映画の面白さです。当然、音楽のジャンルによって雰囲気はガラリと変わります。さらにディズニーはアニメーションとミュージカルを融合させる発明もしました。

世界の国ごとに特色のあるミュージカル映画の独自進化も起きました。一番有名なのはインド映画でしょうか。定番といった感じですよね(最近は踊るのが主流から外れつつあるけど)。

日本も1939年のマキノ正博監督の『鴛鴦歌合戦』だったり(私は日本のミュージカル映画ではこれが一番好きです)、最近だとミュージカルが苦手な女性を主人公にしたユーモラスな設定が特徴的な『ダンスウィズミー』だったり、やっぱり日本ならではの創意工夫が見られて楽しいです。

そして日本のお隣、韓国でも最近になって異彩を放つミュージカル映画が誕生しました。それが本作『スウィング・キッズ』です。

本作は実に韓国らしいミュージカル映画です。『ラ・ラ・ランド』みたいにオシャレに歌って踊るだけではありません。確かに音楽要素が主軸にはなっているのですが、そこに社会問題や歴史問題をアンサンブルさせて、これまで体感したこともないものを生みだしています。ノリノリで軽そうな音楽が奏でられていく…と思ったら、想像を超えるズシンと直撃するヘビーでシリアスなテーマがお見舞いされたり…。新しいジャンルのミュージカル映画の派生を確立したようなものかもしれません。

本作は朝鮮戦争における巨済島捕虜収容所の人間模様が主題になっており、史実がベースです。でもミュージカル映画のスタイルで物語導入が進むので、かなり見やすい敷居の低さになっています。『タクシー運転手 約束は海を越えて』でもそうでしたけど、昨今の韓国映画はこういう重たい題材のハードルを下げるテクニックが本当に上手いですよね。ハードルを下げつつも歴史への敬意と反省を忘れない…これはなかなかできることではないです。

なので『スウィング・キッズ』は歴史に疎い人でも歴史モノが苦手な人でもスイスイ見始めることができます。まあ、さすがに朝鮮戦争を知らないと論外ですけど(日本人ならそれは知っておいてほしい)。

監督は、日本でも映画ファンの心を掴み、邦画としてリメイクもされた『サニー 永遠の仲間たち』を手がけた“カン・ヒョンチョル”です。『サニー 永遠の仲間たち』も実は重たい歴史を背景にしつつもエンターテインメントで装飾した巧みなミックス技の光る映画でしたが、今作『スウィング・キッズ』はそれをさらにスケールアップしており、“カン・ヒョンチョル”監督の手腕がますます進化しています。

俳優陣は、アイドルグループ「EXO」のメンバーで、映画『神と共に』シリーズでも大活躍を見せた“D.O.”が今作では主役として持ち前のパフォーマンスセンスを全開にしています。

また、韓国映画界の新しい原石として本作で注目を集める若手女優“パク・ヘス”の存在感にも目が離せません。『エクストリーム・ジョブ』でクセのある憎々しい役柄を怪演していた“オ・ジョンセ”がこちらではバカ正直に単純明快なキャラクターになり切っているのも見どころ。下手をしたら主役よりも人気が出そうな(少なくとも子どもウケしそうな)キャラを熱演するのは“キム・ミノ”。さらにブロードウェイですでに高い評価を受けているアフリカ系ダンサーの“ジャレッド・グライムス”がメインに起用され、韓国映画にこれまでなかった国際色をより一層強めています。

とりあえず難しい前置きは抜きにしてエンタメとして鑑賞すればいいと思います。そうやってノリノリになった後に、少し冷静になって歴史や平和について考える。そんな映画体験もいいじゃないですか。

ジャンプキックもあるよ!

オススメ度のチェック

ひとり ◯(韓国映画に疎い人もぜひ)
友人 ◎(盛り上がりやすい内容)
恋人 ◎(良い映画体験を共有しよう)
キッズ ◯(やや残酷描写あるけど)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スウィング・キッズ』感想(ネタバレあり)

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これがタップダンスだ

朝鮮戦争。それは1948年に成立したばかりの朝鮮民族の分断国家である大韓民国(韓国)朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の間で生じた、朝鮮半島の主権を巡る国際紛争。その争いは本来はひとつだった民族を真っ二つにしてしまう決定的なものになりました。

米軍の参戦と中国共産軍の参戦によって、朝鮮戦争は超大国の代理戦争へと変貌。北朝鮮と中国共産軍の約14万人の捕虜は朝鮮半島最南端の巨済島に移送、大規模な収容所に隔離されます。

そこではジュネーブ協定の人権保護に基づき自由が保障され、捕虜は充実した生活を送りました。しかし、終戦後も南に残留したいという自由送還者が多数発生。全員の送還を主張する共産思想の捕虜は武装組織を結成し、南に残留しようとする捕虜を殺戮。これは「巨済島第3の戦争」と呼ばれ、収容所を管理していた米軍は武力鎮圧を強行。死者が出てしまいます。結果、国際社会に非難され、収容所長を交代させるしかありませんでした。

一方、北の収容所ではジュネーブ協定を順守し、じゅうぶんな食事と余暇を捕虜に与えていました…。

…というプロパガンダ映像を見る米軍、巨済島捕虜収容所の所長たち。その内容はともかくとして、批判は受けたくないのは事実であり、とりあえず収監者を赦免にしてイメージを良くしようとします。問題は誰を赦免するのか。「一番の厄介者は誰だ?」と所長は聞きますが…。

巨済島捕虜収容所で独房入りだった北朝鮮兵士のロ・ギスは解放されました。「人民の英雄」の帰還に熱狂で向かえる北朝鮮側の一同。ロ・ギスはその戦績もあって支持が高く、みんなの憧れです。

ある日、ロ・ギスは食糧庫へ忍び込み、勝手気ままに暴飲暴食をします。すると靴を床にリズムよく叩きつけて軽快に踊る男を見かけます。彼は米軍下士官のジャクソン。その不思議な動きをじっと見つめるのをやめられなくなるロ・ギス。

収容所では管轄する米軍兵士のお楽しみであるダンスパーティーが開催されていました。ヤン・パンネら女性たちは相手役で参加し、儲けるために気合いが入っています。しかし、ヤン・パンネはお腹がすきすぎているので食べ物が気になる状態。そんな中、ロ・ギスが乱入、気分が乗ってしまい音楽に合わせて踊りまくり、一同は呆然。それを見るジャクソン。ロ・ギスは米軍兵士にボコボコされますが、ヤン・パンネがとっさの機転でステージにあがって歌いだすと、聞き惚れる一同は踊りだし、雰囲気は明るくなります。けれども配線のショートで火事になり、大パニック。パーティーはお開きに。

一方、自由主義のダンスを踊る共産主義者もいいじゃないかと所長は呑気で、ジャクソンは「東洋人では無理では」と否定的でしたが、「問題を起こしたら本国に送還だ 沖縄の妻にも会えないぞ」と半ば強引に命令され、最高のショーを作らないといけなくなります。

ジャクソンはメンバー集めを開始します。しかし、ろくなのがいません。そこに謎の格好の男、カン・ビョンサムが登場し、唐突に「サンモ回し」を披露。回りすぎて死にかけます。

ヤン・パンネも入りたそうで、4か国語を話せるので通訳で雇ってほしいと懇願。

また、中国人兵士のシャオパンも飛び入りで参加。ノリノリで踊りだすのですが、心臓が悪いらしく長時間は踊れません。

そして、ジャクソンの前にロ・ギスも立ちます。流れでダンス対決な感じに発展。戦っている最中にジャクソンの巧みな誘導で、相手の狙いどおりのダンスしてしまっていることに気づくロ・ギス。これがタップダンスでした。

こうして個性もバラバラな5人が集結。この収容所の狭い世界で、彼ら彼女らのパフォーマンスはどんな戦況変化を引き起こすのか、それとも虚しく踊らされるだけなのか…。

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みんな愛くるしい

映画のテーマ云々はさておき、『スウィング・キッズ』の魅力はやはり個性が爆発しているキャラクターたち。“カン・ヒョンチョル”監督は面白いキャラを作らせたら最強ですね。

まず主人公のロ・ギス。彼は雑な描き方をしてしまうと、ただのいけすかないイケメンというワンパターンになってしまうのですが、このロ・ギスはそうなっていません。表面上は仲間に期待に応えるべくカッコつけているけど、タップダンスの魅力を知ってしまうと、もう夢中。あらゆるものがリズムを刻んでいるように聞こえ、夜中に誰も見ていないところで踊ってしまう。この愛くるしいツンデレっぷりにメロメロになってきます。

通訳となっているヤン・パンネはこれまた“カン・ヒョンチョル”監督お得意の女性キャラクター像です。実は5人の中では歌もできてダンスもできて語学もできてと一番の多才。それなのに戦争は彼女の才能を飢え死にさせるだけ。彼女を主役にしても映画が成り立ちそうですが、そこはジャクソンとの対立関係を際立たせることを優先なので仕方なしか。でもヤン・パンネを主役にしたスピンオフ物語も見たくなりますね。

生き別れになった妻を見つけたいカン・ビョンサムはとにかく猪突猛進。そもそもダンスチームで目立つことで妻に出会えるという保証は何もない(というか限りなく可能性はゼロだろうに)のですが、本人はそこまで頭で考えていないので気にしてません。

中共軍捕虜のシャオパンは、あからさまなコメディリリーフで、もう彼ひとりでパフォーマンスさせてもじゅうぶん面白い気がする。あのキャラと動きはズルいですよ。絶対に子どもたちに大人気のスターになれる。時代が違えばYouTuberになれたのに。

ジャクソンは個性強すぎるアジア系の面々に負けない存在感で立っており、やや王道ではありますが、音楽的才能をくすぶらせている主人公としてのスタンダードな魅力に溢れていました。彼のタップダンスは本物ですから、やっぱりそのキレにこちらも圧倒されますね。

このように5人ともみんな可愛い。それが『スウィング・キッズ』のもうひとつのパワーです。

ちなみに要所要所で登場する音楽隊とか、冒頭から出てきて場を和ます少年とか、そういう脇に至るまでキャラクター構築が徹底しているのも楽しいポイントでした。

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ファッキン・イデオロギー!

『スウィング・キッズ』は映画開始の冒頭がすごく大事だと思うのです。ありきたりな歴史背景の説明なのかなと思ったら、いつのまにかそれはプロパガンダだったことがわかる。つまり、歴史を何かの媒体で語るというのは常にプロパガンダ的なものと密接なのだということ。それは音楽も映画も同じ。これらも戦争意欲を高揚させる道具に使われてきました。

それに対して本作のスウィング・キッズの面々は、違うんだ!私たちは純粋に音楽がやりたいんだ!と叫ぶ。それがまさに「ファッキン・イデオロギー!」の意味するところ。

作中ではさまざまな差別が描かれます。この収容所は多国籍な状態になっており、ある種の緊張状態。ゆえに人種や国籍差別が頻繁に生じます。

私は本作を観ていて思いましたが、やっぱりもっと西洋人(あえてそう書きますけど)によるアジア系への差別は描かれないといけないな、と。この問題はまだまだ西洋社会では本気で深刻に考えられていないところも多いと思うのです。だからこそアジア本国がその問題を突きつける意味は大きいな、と。『イップ・マン 完結』などもそうでしたが、そういう映画はもっと増えるべきですね。

本作では冒頭で通訳をネタにして米軍所長による明らかなアジア人差別を醜悪に見せています。それがしだいに反転し、今度は通訳を武器に、わざとデタラメな翻訳をするなどしてアジア人がアメリカ人をおちょくるシーンが連発します。これなんかはまさに「アジア人=語学力のない奴」というレッテルを吹き飛ばすものです。ドラマ『Giri/Haji』でも同じやり返しがありましたね。

私的には序盤の米軍兵士に「fuck you!」とかます少年とか、すごく好きですけど。

もちろん東洋人も西洋人をどことなく差別していて、結局は差別って情けないものだよね…という愚かさをそのまま描いています。だったら音楽で盛り上がろう!というシンプルな訴えです。

ただ、本作の差別批判も100点満点とは言えないかなとも思ったり。ジャクソンへの黒人差別は類型的すぎる面もあり、そこはさすがの韓国映画でも踏み込みが足りないかな、と。また、ヤン・パンネが直面する女性としての性差別に苦しむ葛藤も、これもまた表面的な導入にすぎず、昨今のフェミニズムをメインにした韓国映画の新潮流と比べると、貧弱な描き方ではあります。

それでもここまでグローバルな狙いをつけて的確に自国らしさを失わずに打ち込めるセンスはやっぱり凄いなと感心してしまいますが。

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分断を乗り越えるために

『スウィング・キッズ』は後半になるとガラッと雰囲気が変わり、これは史実の戦争映画なんだということを嫌でも見せつけるものになります。

この収容所で起きた大規模な蜂起はおおまかには事実です。史実でも殺し合いが連発してしまい、収拾がつかなくなってしまいました。ただ、実際はもっと複雑であんな作中のような単純な話でもないようですが…。

こういう特定の閉鎖的なコミュニティで起こる大規模蜂起を描いた韓国映画として、最近は『軍艦島』がありました。あちらはかなりの特大スケールに映画的にアレンジしており、迫力特化でした。その一方であまりにも映画的に脚色しすぎるし、肝心の歴史へのリスペクトが薄いのではと韓国世論からも批判を受ける事態に。

『スウィング・キッズ』はその過ちを犯さないように配慮が感じられます。ちゃんとヤン・パンネとビョンサムとシャオパンという3人の尊い犠牲を描くことで、残酷な史実から逃げていません。それでいて音楽という軸があるおかげで、ただの戦争スペクタルにならずにも済んでいます

思えば、今、世界は「分断」が大きな課題になっていますが、分断をずっと前から経験しているのは朝鮮半島の民族なんですよね。分断という名の暴力による拒絶は、最悪の結果しか生まないものなのだと本作はあらためて世界に伝えている、その役割は想像以上に大きくなっているかもしれません。

分断した者たちを繋げる力を音楽や映画は持っているはず。加害の歴史から目を背けることなく、日本も考えていきたいところです。

『スウィング・キッズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 63% Audience 97%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved. スウィングキッズ

以上、『スウィング・キッズ』の感想でした。

Swing Kids (2018) [Japanese Review] 『スウィング・キッズ』考察・評価レビュー