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『ペンギンが教えてくれたこと』感想(ネタバレ)…Netflix;ペンギンじゃない!

ペンギンが教えてくれたこと

実はペンギンは登場しません…Netflix映画『ペンギンが教えてくれたこと』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Penguin Bloom
製作国:オーストラリア・アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:グレンディン・イヴィン

ペンギンが教えてくれたこと

ぺんぎんがおしえてくれたこと
ペンギンが教えてくれたこと

『ペンギンが教えてくれたこと』あらすじ

暖かい家族の幸せな時間は唐突に終わりを告げることになる。不慮の事故により明るさを失ってしまったひとりの母親。自分の体は思うように動けなくなり、子どもとの距離はどんどん離れ、孤立を深めていく。家からも出ることない日々を変えたのは意外な存在。怪我をした小さな鳥との触れ合いを通して、生きる希望を取り戻していくことに…。

『ペンギンが教えてくれたこと』感想(ネタバレなし)

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ペンギン映画…ではない!

ペンギンはどこに生息していますか?と質問されたら「北極!」「南極!」と答えが元気に返ってくると思いますが、実はオーストラリアにも暮らしています。もちろん動物園や水族館の話ではありません。野生のペンギンです。

コガタペンギン(フェアリーペンギン)というペンギンの中でも最小クラスのこのペンギンは、オーストラリア南部に分布していて、かなり人間の居住区に近い環境に住んでいます。なので観察もそんなに難しくなく、観光ツアーのようなかたちで気軽に可愛いペンギンのよちよち歩きを眺めることもできます。ペンギン島という名前の島すらもあるくらいです。私も一度は生で見てみたいと思うのですがまだ叶っていません。

そんな今や観光客を集めるのにも欠かせなくなっているコガタペンギンですが、昔は人間によって狩られていたそうです。ヒトと動物の関係にだって加害の歴史はあります。忘れないようにしたいものです。

こういう話題を冒頭にしておいたのですから、今回紹介するオーストラリア映画『ペンギンが教えてくれたこと』はペンギンの魅力が詰まった作品なのだろうと期待したことでしょう。

残念。本作にはペンギンは影も形もでてきません。え? “ペンギンが教えてくれたこと”ってタイトルなのに?と思うでしょうし、それも当然の反応なのですが、本作はペンギン映画ではないのです。

じゃあ何なの?という本題ですが、本作は「ペンギン」というあだ名がつけられた別の鳥の話。なんて紛らわしいことを…オーストラリア映画だから余計にあのペンギンたちを想像してしまうのに…。

では具体的にどんな鳥なのかと言うと「カササギフエガラス」です。そう言われても鳥マニアでないかぎり知らないはず。ちなみに作中では「カササギ」と翻訳されているのですけど、カササギとは全く違う種類の鳥です。そもそもカササギが何なのかわからない人もいるでしょうし…。カラスに分類的には近いですし、見た目も小さめのカラスです。もう少し詳しいことは後半の感想で。まあ、でも映画を観ればカササギフエガラスがいっぱい映りますし、すぐに目に焼き付きますけどね。

『ペンギンが教えてくれたこと』はこの「ペンギン」と命名されたカササギフエガラスを飼育することで、大きな傷を負ったひとりの女性を中心とした家族がまた前向きに歩みだす姿を描いた、ハートフルな動物交流ストーリーです。

原作は2016年に上梓された「ペンギンが教えてくれたこと ある一家を救った世界一愛情ぶかい鳥の話」というノンフィクションで実話になっています。原作者のひとりである“ブラッドリー・トレヴァー・グリーヴ”という人はオーストラリア人の作家なのですけど、野生動物の保護に貢献する活動の数々で有名な方だそうです。ちなみにディズニーのイマジニアリング(テーマパークを設計する人)としてコンサルタントも手がけていたとか。ずいぶん多才ですね。

監督を務めたのは『ラスト・ライド~最後の旅立ち~』(2009年)の“グレンディン・イヴィン”。最近はもっぱら『Gallipoli』(2015年)、『Safe Harbour』(2018年)といったドラマシリーズを手がけていたようです。

主演は『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』『オフィーリア 奪われた王国』『ルース・エドガー』など多作で活躍する“ナオミ・ワッツ”。相変わらず若々しい…(いつも言っている)。“ナオミ・ワッツ”はイギリス出身ですが、祖母がオーストラリア生まれだそうでオーストラリアの国籍も持っています。

他の俳優陣は、ドラマ『ウォーキング・デッド』の“アンドリュー・リンカーン”、『世界にひとつのプレイブック』の“ジャッキー・ウィーヴァー”、タイカ・ワイティティ監督作の常連である“レイチェル・ハウス”など。

こんな世の中ですからいろいろ暗い気持ちになりますが、そういうときにそっと傍に寄り添ってくれる映画になると思います。

カササギフエガラスが教えてくれたこと…じゃなかった、『ペンギンが教えてくれたこと』をどうぞ。

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『ペンギンが教えてくれたこと』を観る前のQ&A

Q:『ペンギンが教えてくれたこと』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年1月27日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(人生に疲れたときに)
友人 ◯(傷を癒し合いたいときに)
恋人 ◯(ゆっくり落ち着ける相手と)
キッズ ◯(動物が好きなら)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ペンギンが教えてくれたこと』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):鳥と私の交流

海が好きなママは10代の頃に海でパパに出会いました。それからずっと一緒に過ごします。と弟のルーベン、末っ子のオリ。これが僕たちブルーム一家。

僕たちの家族は完璧でした。去年までは。

家族旅行に行きました。本当はディズニーランドが良かったけど、行き先はタイに。そこも刺激に満ち溢れており、最高の時間を満喫できました。しかし、ママはカメラで写真を夢中で撮っていると柵が壊れて落下してしまい…。

その後の生活は一変します。

サム・ブルームは下半身不随となり、ひとりでベッドから起き上がるのさえ困難に。長男のノアは完全に幸せの波から落っこちた家族の現実を受け止めきれず、塞ぎ込んでいました。すっかり弱々しくなった母の背中をじっと見つめるしかできません。

サムは夫のキャメロンの介護があってなんとか日常を送れます。元気すぎる次男と三男の面倒を見るのは大変。しかし、自分にできることはほぼありません。自分のことすらできないのです。家にひとり残されたサムは暗がりで先行きの見えない未来に沈むしかありません。

砂浜にて3人で遊んでいた子どもたち。そこでサムは1羽の野生の小鳥を保護して、家に連れ帰っていきます。カササギフエガラスの小鳥のようで自分で餌もとれません。サムは「獣医に預けて」と言いますが、キャメロンと子どもたちが育てる気満々。

名前をつけようということになり、白と黒の体色なので、連想するものを次々に言っていきます。パンダ、スカンク、サッカーボール、チェス、タキシード…。しかし、ノアの命名した「ペンギン」が採用されました。

夜になると鳴き声をあげるペンギンを、ノアは優しく見守ります。ある日、ノアは母親のサムに「なぜペンギンに冷たいのか」と言います。ペンギンは食べ物を食べてくれず、困っていました。サムは外に出る気も起きず、夫と子どもたちが外出しても留守番。

ノアはペンギンに語りかけます。「ママが恋しい?」

夜中。ルーベンが「パパ」と呼ぶ悲痛な声がします。キャメロンが慌てて駆け付けるとトイレで盛大に吐いていました。昼に外で食べたカキがあたったようです。子どもたちを心配するサムですが、自分は全く動けません。ベッドの横にある掴まれる棒でかろうじて横に体の向きを変えられる程度。以前なら自分を呼んだのに…。その子の些細な変化に傷つきます。「自分は母親ではなくなった。この体が憎い」と涙を流しながら…。

ノアも傷ついていました。あの折れた柵のある場所に母を誘ったのは自分だったために…

そんな壊れてしまった家族の中に紛れ込むことになったペンギンが状況を少しずつ改善させていくことに…。

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カササギフエガラスってどんな鳥?

『ペンギンが教えてくれたこと』の準主役、それはもちろんペンギンことカササギフエガラスです。

この鳥は日本でもよく知られるカラスに白色を混ぜて少しお洒落にしたような色合いになっており、サイズも少し小さめのカラス程度。オーストラリアでは割とどこにでもいるようです。住宅地にも普通に暮らしており、巣に近づいた人間を襲うなど、日本でいうところのカラスとほぼ同じ問題も引き起こしています。ともあれオーストラリア人にとっては最も身近な鳥ですね。英語では「Australian magpie」と呼ぶそうです。

このカササギフエガラスの一番の特徴は何といってもその鳴き声。フエガラスという和名のとおり、笛みたいな音を出します。日本のカラスのような「カーカー」ではなく、かなり多彩な音を発してコミュニケーションをとります。でも、まあ、うるさいですよね。作中でサムがペンギンの鳴きまくる声にうんざりしている描写がありましたけど、確かに家であんなに鳴かれたらやかましいと思うのも無理はない…。

そんなカササギフエガラスを軸にした動物交流モノになっている『ペンギンが教えてくれたこと』。野生動物を主題にするあたりはとてもオーストラリアというお国柄が出ていますね。ときにはワニやラクダに襲われる映画も作りますけど、こういうほのぼのとした作品もいいものです。

作中のカササギフエガラス(ペンギン)もちょこまかと動き回って可愛らしく描かれています。足でラジコン操作しちゃうくだり(偶然だけど)はやりすぎな感じもしますけど、カササギフエガラスだからこそ賢く機能的な行動をたくさん見せることもできますし。

鳥で映画と言えば、どうしてもヒッチコック監督の『鳥』が真っ先に出てきてしまいますが、こんなふうに鳥を温かく見つめる映画もいいですね。

日本はそういう映画はあんまり見ないですね。そもそもカラスは嫌われ者だし、割と好かれる鳥で身近にいるのはツバメとかスズメとかかな。私の地元である北海道は空前のシマエナガのブームですけど、シマエナガ自体はそこまで身近でもないし…。

これは私の勝手な憶測ですが、日本の都市部は高低差を構成する建物が並び、鳥にとっては住みやすかったりする一方で、糞尿被害も目立ってしまい、清潔好きな日本人の感性とは相容れにくいのかなと思ったり。オーストラリアみたいに大自然が広がる環境だとまた違うのかもしれません。

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自然界が急に牙をむく

『ペンギンが教えてくれたこと』の人間側の主人公はサムです。

彼女は旅行先のタイで偶発的にも寄り掛かった柵が壊れたことで高所から落下してしまい、下半身不随になるという障がいを背負ってしまいます。もともとアウトドア派で海で泳ぐのも好きだったサムにとって、それは致命的なことでした。日常の楽しみを奪われます。

加えてサムの家族が暮らすあのオーストラリアの環境。こんな目に遭う前なら最高の自然空間として満喫していたはずです。それが車椅子生活になったことで、険しい土道も岩場も砂浜も海も、全てが「障害物」になってしまう。この環境というものに対する見え方の激変。

ヒトという生き物は自然界においてはそれなりに上位の存在で、どんな環境でも適応する力を持っている生物です。それなのに障がいを抱えたことでその優位性がなくなり、自然の過酷さがもろに自分に降りかかってくることになる苦難。好きだった自然に打ちのめされる自分。これはかなりの心理的な傷をサムに与えてしまいました。

確かに自然界では野生動物は障がいを負ったらすなわち死に直結しますからね。

そのサムは同じく怪我をしたカササギフエガラス(ペンギン)と触れ合うことで自分を取り戻していきます。これは親でいられなくなったサムが鳥の世話というかたちで再び親としての尊厳を回復させ、そして再度「外」の世界への憧れを再起させる。このステップもしっかり納得をもって描かれていました。

カヤックを習うことで再び自然界へと歩みだすサム。自然の恐ろしさはやはり怖いけど、それほど恐怖するばかりではないのかもしれない。そんな受け入れによって人生に活力が注入されます。

対するサムの息子であるノアの葛藤も切実です。「僕が骨折すればよかった」と悔しさを内に抱え込むノアもまたペンギンの世話によって生きがいを得ることができます。

その2人にエネルギーをもたらすペンギンについても、作中でそこまでのわざとらしい人間的な役割を担わせておらず、そのあたりもアニマル・ウェルフェア的には健全だったと思います。

私は動物をあまりにも人間的に擬人化させたうえで(例えば、動物の言葉として人間のナレーションをつけて吹き替えにするとか)“人と触れ合わせる”という構図は好きではないですし、それ自体がかなりの問題があるというのは多くの専門家も指摘していることです。動物に対する完全な誤解にも繋がりますし、私が特に思うのはそれじゃあ動物の意味ないじゃないか…ということ。動物は動物だからいいんですよ。人間風にすると意味がありません。アニメとかなら全然構わないんですよ。そうではなく実写で動物を扱うならあくまで動物の素の魅力を物語に活かすべきですよね。

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動物は人を癒す

『ペンギンが教えてくれたこと』を鑑賞して再確認できたのは動物セラピーの需要です。

動物を使ったセラピーというのは科学的にも有効性が立証されています。応用できる範囲も広く、PTSDといった心理的なトラウマを負った人、孤立を抱える高齢者、家族の欠損を持って育った子どもなどさまざまです。ドキュメンタリー『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』のように、ジェンダーの重圧に打ちのめされた人を救うこともできると思います。

別に動物を使わなくてもいいじゃないか、医者の人間とかにやらせれば…と思う人もいるかもですが、そうも言ってられないと思うのです。

あらためて思うことなのですが、動物は人間社会がまさに直面するジェンダーの問題を解きほぐすのにちょうどいいのではないでしょうか。例えば、『ペンギンが教えてくれたこと』も下手をするとサムが「母になる」という結末があるゆえにステレオタイプな女性像を強化しかねないです。でもカササギフエガラスというジェンダーの押し付けがまるでない存在を仲介させることで、その落とし穴にハマらないようになっています。

今の世界は差別や分断が深刻化しており、その社会に属するだけで疲れてしまうのですが、そういうときにこそ私たちはもう一度、自然に帰るのもいいのかもしれませんね。

たまにはインターネットを離れてバードウォッチングとかを手始めにしてみるのはどうですか。

『ペンギンが教えてくれたこと』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 64% Audience 67%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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関連作品紹介

ナオミ・ワッツの出演する映画の感想記事です。

・『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』

・『オフィーリア 奪われた王国』

・『ルース・エドガー』

作品ポスター・画像 (C)Roadshow Films

以上、『ペンギンが教えてくれたこと』の感想でした。

Penguin Bloom (2020) [Japanese Review] 『ペンギンが教えてくれたこと』考察・評価レビュー