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映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』感想(ネタバレ)…Netflix;子どもたちよ、大人に逆らえ!

マチルダ・ザ・ミュージカル

そして大人たちよ、子どもに向き合え!…Netflix映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Roald Dahl’s Matilda the Musical
製作国:アメリカ・イギリス(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:マシュー・ウォーカス
児童虐待描写

マチルダ・ザ・ミュージカル

まちるだざみゅーじかる
マチルダ・ザ・ミュージカル

『マチルダ・ザ・ミュージカル』あらすじ

家庭環境には恵まれないものの、どこまでも広がる豊かな想像力を持つ類いまれな少女マチルダ。ある日、初めて学校に行くことになり、新しい世界へと飛び出す。しかし、希望を胸に登校したのはいいが、その学校は子どものことを酷く扱う校長が仕切っている息苦しい場所だった。子どもたちは大人に従属するばかりだったが、挫けることのないマチルダは運命を切り開くため勇気を持って立ち上がる。

『マチルダ・ザ・ミュージカル』感想(ネタバレなし)

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「マチルダ」がミュージカル映画に!

最近も子どもの遊び場である公園が「子どもの声がうるさい」というクレームで廃止することになったというニュースが波紋を広げたりしましたが、そもそも全国的に外で子どもが遊ぶ場所が減ってきているような気がします。私が小さい頃は家の周りに原っぱがいっぱいあったので、公園すら必要なく、そこでいくらでも遊びまくれたのですが、今は同じ場所でも住宅が密集してしまい、自由に立ち入れる原っぱがないです。公園はまだ近くにありますが、ずいぶんと閑散としてしまいました。

地域における子どもの数が相対的に減って、社会は子どもにかけるおカネも心情も目減りしているのでしょうか。少数の陰湿な”子ども嫌い”の大人が悪い…という単純化では片付けられず、社会全体が子どもという存在にどれくらい献身できるか…そんな姿勢そのものが揺らいでいるのかもしれません。

子どもは社会の今や未来を映す鏡だと思います。子どもの世界で不平等が蔓延していたり、抑圧がまかり通っていれば、それは今の社会全体がそうであり、未来の社会もそうなるということです。「それってあなたの感想ですよね」というセリフが子どもたちの間で流行るのは、大人が子どもの感想を大切にしてこなかったからであり、意見を主張することの意義を誰よりも大人が理解していないことの表れです。

今回紹介する映画も子どもを主人公にした大人に立ち向かうキッズたちを描く作品ですが、同時にこれは子ども向けという枠にとどまらず、「大人の皆さん、ちゃんと子どもに向き合ってくださいね」という大人への警鐘作品でもあるでしょう。

それが本作『マチルダ・ザ・ミュージカル』です。

本作はタイトルで一目瞭然ですが、あのイギリスの著名な作家“ロアルド・ダール”の児童文学「マチルダは小さな大天才」をミュージカル映画としたものです。

「マチルダは小さな大天才」は過去にもいろいろ作品として派生しており、1996年には“ダニー・デヴィート”監督の手によって『マチルダ』として映画化され、2010年からはミュージカル舞台化も果たし、こちらは観客も批評家も大熱狂となりました。

本作『マチルダ・ザ・ミュージカル』はこの大好評だったミュージカル舞台を映画にアレンジしたもので、大部分はミュージカル舞台版を継承しています。脚本は同じく“デニス・ケリー”が担当し、“ティム・ミンチン”も引き続き音楽を担っています。監督も舞台と同じく“マシュー・ウォーカス”です。当然、今回の映画は歌が満載です。ストーリーも大きな改変はありません。

ただ、ブロードウェイでも上演していたりしたこともあって、諸々の大人の事情ですぐには映画化に着手できず、なんだかんだでミュージカル映画版の製作は2020年代にやっと本格始動します。コロナ禍に見舞われて、撮影が延期したりと大変だったみたいですが、2022年、ついに日の目を浴びることとなりました。待ちに待っていた人も多いのでは? 舞台はなかなか見る機会が乏しかったりしますが、その雰囲気が映画で少しでも多くの人に味わえるようになるのは嬉しいですね。

本来はソニーが製作していたのですが、Netflixに売却してしまい、イギリスを除いて、日本も含めて大半の地域ではNetflix独占配信となりました。日本では劇場公開されないのが残念です。スクリーンで見ると映える演出や盛り上がるシーンがたっぷりなのに…。

今回のミュージカル映画版ではキャスティングは一新されています。とくにやはり作品の顔と言える悪名高い「嫌な大人」の代表であるトランチブルという役。今作でその役に抜擢されたのは、ベテランの“エマ・トンプソン”で、これがまた見事にハマってます。一度見たら忘れられないインパクトです。『クルエラ』に続いて悪役オーラが輝いているな…。

ちなみに“エマ・トンプソン”は撮影中、何もないところで転んで骨折したそうで、老化を実感したのだとか。まあ、60歳になると何でも怪我はしやすくなりますよね…。

本作『マチルダ・ザ・ミュージカル』は「マチルダ」作品群をどれも観たことがない初心者でも全然大丈夫。そもそも物語自体が親しみやすく、スッキリしたものですから。正月に子どもと鑑賞するのでもOKでしょう。ちょっと過剰で、とことん賑やかなので、子どもウケもいいはずです。

それにしても最近は『BFG: ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(2016年)、『魔女がいっぱい』(2020年)と“ロアルド・ダール”作品の映画化が地味に勢いづいているな…。2023年は『Wonka』もあるし…。

なんでもNetflixは“ロアルド・ダール”全作品の権利を遺族企業「The Roald Dahl Story Company」から購入したらしいので、今後も作品が量産される可能性が高いですね。

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『マチルダ・ザ・ミュージカル』を観る前のQ&A

Q:『マチルダ・ザ・ミュージカル』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2022年12月25日から配信中です。
✔『マチルダ・ザ・ミュージカル』の見どころ
★エネルギッシュで元気を貰える。
★エマ・トンプソンの豪快な演技。
✔『マチルダ・ザ・ミュージカル』の欠点
☆かなり極端な描写が多いので苦手な人は…。
日本語吹き替え あり
新津ちせ(マチルダ)/ 塩田朋子(トランチブル)/ 水野貴以(ミス・ハニー)/ 本田貴子(ミセス・フェルプス) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:大人でも気楽に
友人 3.5:ミュージカル好き同士で
恋人 3.5:気軽に観れる
キッズ 4.0:子どもでも楽しい
↓ここからネタバレが含まれます↓

『マチルダ・ザ・ミュージカル』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):世界を変えるには小さな才能が必要

病院にてたくさんの赤ん坊たちが産まれ、親たちは我が子を溺愛しながら慈しみの眼差しを向ける中、お腹が膨らんだひとりの女性は「赤ん坊なわけない」と自分の妊娠を理解していませんでした。「でもすぐ出産ですよ」と医者に言われ、なんとか無事に出産します。

しかし、「女の子です」と父親の男に医者が告げると、男の子を期待していたらしく、その父は冷たい言葉を吐き捨てるだけ。納得いかないままに夫婦は病院を後にします。

数年後。マチルダは自分はなぜここまで嫌われるのだろうかと空を見上げていました。移動図書館の車を率いているミセス・フェルプスくらいしか理解者はいません。

図書館の本を抱えて家に帰ると、両親は口論中。借金地獄で父も母も険悪です。

学校に行かせてもらえていないマチルダでしたが、学校の調査員が来てしまい、親はホームスクールだと嘘をつきます。父は事業家で起業家なのでトレンドはわかってますと得意げ。でも調査員は嘘くらい見抜けます。

奥で引っ込んでいたマチルダでしたが、ミス・ハニーが話しかけてきて「よかったら学校で勉強してみない?」と誘います。「学校ってどんな感じ?」「私のクラスは楽しいのよ」「本があるの?」…目を輝かせるマチルダ。

屋根裏の自室に行くと、渋々学校に行かせないといけなくなった父が「トランチブルに会え」と意地悪に告げます。なんでも怖い人らしく、「悪ガキだと言っておいたぞ」と脅してきます。

でもマチルダは強気です。イタズラしてやろうと部屋を抜け出して親のベッドで遊んだり、バスルームで仕掛けを仕込んだり…。髪が緑になってしまった父を放置して、屋根に上がって決心します。私の物語を書き換えよう…。

翌日、学校へ歩いて向かいます。クランチェム・ホールの門に早く着きすぎたので、ミセス・フェルプスの移動図書館車で時間を潰します。サーカスの話を想像力豊かに語るマチルダ。でも最後まで考えていません。ミセス・フェルプスは「仕返しは良くない」と学校へ向かうマチルダに言葉をかけます。

アイザックというイモリを連れているラベンダーにさっそく話しかけ、このラベンダーも新しく登校した子のようです。学校の風景は想像と違いました。統率のとれた児童たち。トランチブル校長の教育は徹底しているみたいで…。

トランチブル校長は監視カメラで子どもたちを常にモニタリング中。子どもを蛆虫同然に扱うことに何の躊躇いもありません。ハニー先生はマチルダは特別な能力を持っていると口にしますが、例外を許さないトランチブルは憤怒の感情を暴発させるばかり…。

マチルダの人生はどうなってしまうのか…。

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上手く映画のスケールになっている

映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』は、いつもの“ロアルド・ダール”の作風のとおり、極端で皮肉に満ち溢れ、善でも悪でもオーバーに表現され、カラーデザインもやたらと大袈裟。大人は過度に嫌な奴か、美辞麗句を並べる奴しかいないし、子どもも然り。ほんと、癖があります。

好き嫌いは分かれやすい世界観だとは思いますが、あくまでフィクションとして眺めるという割り切り方をしてやっと成立する寓話です。

今回はこれを実写映画化するわけですが、今作ではミュージカルなので、そのフィクショナルな嘘っぽさがしっかり開き直って展開できるので、ある意味では安心な作りです。舞台よりも映画の方がリアルを求められてしまうかもしれないとも思ったのですが、製作者はそこのあたりも上手く対処しており、映画というフィールドを巧みに使いこなしていました。

例えば、実質、刑務所のようにそびえたつ学校は今作のメインの世界ですが、映画なのでかなり伸び伸びとした広い演出ができます。下手すると「あんまり抑圧的な場所じゃないかも」「結構子どもたちは自由に動き回っているじゃないか」と本来のストーリー上で伝えたい印象と真逆な効果を与えかねないです。でも、きっちりプロダクションデザインがクオリティ高く出来上がっているので何も問題ありませんでした。

むしろ大勢の子どもたちがキビキビと動き回る演出が全体で展開されるので、余計に不気味かもしれません。映画はより軍隊っぽさが増している気がします。

ちなみにミュージカル舞台では子どもたちがステージからぶら下がる巨大なブランコに乗ってスイングするという定番の名シーンがあるのですが、この映画版には存在しません。

その代わりなのか、個々の子どもたちの虐げられシーンが視覚的にパワーアップしていました。おさげのアマンダがトランチブルに髪を持ちあげられてハンマー投げ感覚でぶん投げられる場面とか、普通は当然直球で児童虐待なのですけど、あれをギャグっぽさで成立できるのはこの「マチルダ」ならでは。チョコレートケーキを食べてしまったブルースにデカいケーキを食べさせる処罰を与える場面も同じくエキセントリックさが際立ちます。

スイングに匹敵する解放感はラストに待っており、学校がサーカス遊園地のように変貌するという、映画的なスケールでハッピーエンドを演出。

こんな感じで映画化に合わせてスケール調整を適切にやっている作品でした。

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エマ・トンプソンの独壇場

映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』の出演俳優陣も作品の発する魅力の欠かせないキーパーツです。

今作の主人公であるマチルダに抜擢されたのは、オーディションで見事にこの役をゲットした”アリーシャ・ウィアー”。2009年生まれ、アイルランドのダブリンで育ちとのことで、めちゃくちゃ若いですが、完璧にマチルダにフィットしていました。

顔がアップになったり、歌うのも当然大変だったり、演技としてはかなり要求度も高い作品だと思うのですけど、全く違和感無し。テレキネシスもそりゃあ使えますよ。これはこの子は今後もキャリアが伸びていきそうだ…。

その初々しい新人の”アリーシャ・ウィアー”の前に立ちはだかるのが、トランチブルの“エマ・トンプソン”。これはもう…強敵すぎる…。私だったら怖くて目を合わせられない…。

なんでも当初は“レイフ・ファインズ”を起用するつもりだったらしいですけど、“エマ・トンプソン”に任せて正解でした。一歩間違えると「おかしなおばさん」みたいな感じで笑い者になるのですが、“エマ・トンプソン”は絶妙にリアルさも混ざ合わせて演じており、ときどき普通に怖くみえたりもする。あのギリギリのラインでキャラクターを構築できるのは、やはり熟練の才能でした。

ちなみに話が少し逸れますが、この「マチルダ」はもともと「トランスジェンダー差別的では?」という批判もありました。その理由がこのトランチブルで、彼女は女性でありつつ、非常にハイパーマスキュリンに描かれています。ハンマー投げ選手だったという設定ですが、原作出版の1988年当時、女性はオリンピックにこの競技では出場できず、男性のスポーツでした。そうした背景のあるキャラが子どもを虐待的に扱うわけですから、トランスジェンダー女性へのネガティブな印象を煽る効果は否めません。実際、ミュージカル舞台版では男性の“バーティ・カーヴェル”がこのトランチブルを演じ、余計にトランスフォビアっぽさが悪化してました。もしかしたら「マチルダ」はイギリスで今も巻き起こるトランスフォビアを引き起こす悪影響な印象を大衆に与える文化要素だったのかもですね。今回の映画版では女性の“エマ・トンプソン”が演じているので多少はトランスフォビアが軽減はされましたけど…。

ともあれ、その“エマ・トンプソン”の独壇場となっているトランチブルに委縮しながらも懸命に子ども最優先で働いているミス・ハニーを演じるのは“ラシャーナ・リンチ”。最近は『キャプテン・マーベル』や『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』、ドラマ『Y:ザ・ラストマン』とカッコいい役が目立つ“ラシャーナ・リンチ”なので、こういう「ザ・普通」みたいな役柄、逆に新鮮に見える…。

ミセス・フェルプスを演じたのはイギリス在住のインド系のコメディアンでもある“シンドゥ・ヴィー”。たぶんもっとコミカルな役どころでもラクラクこなせる技量はあるので、もうちょっと出番があっても良かったかな。

『マチルダ・ザ・ミュージカル』、もし今後続編を作ります!とかになったら、次はジェンダー・ノンコンフォーミングな子どもに幸せを与えられる内容にするといいなと思います。

『マチルダ・ザ・ミュージカル』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 100%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix マチルダザミュージカル

以上、『マチルダ・ザ・ミュージカル』の感想でした。

Roald Dahl’s Matilda the Musical (2022) [Japanese Review] 『マチルダ・ザ・ミュージカル』考察・評価レビュー