または変わらないこと…映画『ミーン・ガールズ(2024)』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年に配信スルー
監督:サマンサ・ジェーン、アルトゥーロ・ペレス・Jr.
イジメ描写 LGBTQ差別描写 恋愛描写
みーんがーるず
『ミーン・ガールズ』物語 簡単紹介
『ミーン・ガールズ』感想(ネタバレなし)
ミーン・ガールズが帰ってきた
学校には「運動系の男子のグループ」「オシャレでイケてる女子のグループ」「地味なオタクのグループ」など、生徒間の派閥ができて、それが階層を形成する…。そういうグループを英語では「クリーク(Clique)」と呼びます。日本だとその階層を「スクールカースト」なんて呼称したりしますが、「カースト」という用語の安易な乱用は批判されることもあります。
ともあれ、この学校のクリークは青春作品では今や欠かさずに風刺されるものと言っていいでしょう。だって実際、存在するのですから。学校にいれば嫌というほど実感できるように…。
その中でもとくに女子を中心にその学校階級構造を痛烈に風刺し、カルト的な支持を得て、巨大なファンダムを築き上げた、とんでもない映画がありました。
『サタデー・ナイト・ライブ』の女性初のヘッド・ライターも務めた“ティナ・フェイ”が脚本を手がけて2004年に公開された映画『ミーン・ガールズ』です。
この『ミーン・ガールズ』、本当に一大社会現象となり、それは一過性のものではなく、ポップカルチャーとして定着し、現在もネットミームなどで語り継がれる伝説となりました。その影響力は尋常じゃなく、『ミーン・ガールズ』だけで本を何冊も書けるほど。政治家だって『ミーン・ガールズ』のセリフを引用したりするので、もはや教養として知っておかないといけないレベルに…。
日本ではどうしても洋画ファンじゃないと知らない程度の認知になっていますが、英語圏では『ミーン・ガールズ』はギリシャ神話くらいの文化的価値になってますよ(言い過ぎか? いや、そうでもないか…)。
主人公はアフリカの大自然で動物研究者の親のもとでずっと暮らしてきた白人の少女。アメリカの高校に転入することになり、学校のグループ階級などこれっぽっちも知らない、ひ弱なトムソンガゼルみたいなティーンガールが学内の頂点に立つ猛獣のような女子にあっさり牙を突き立てられる…かと思いきや、意外な番狂わせをみせて…。そんな学校の生態系の弱肉強食をやや誇張気味に風刺したコメディ青春ストーリーでした。
当時としては珍しくクィアなキャラクターもいたり、いろいろな意味で時代を先取りし、後世の同ジャンルの作品に多大な影響を与えた『ミーン・ガールズ』。
その『ミーン・ガールズ』が2024年にリメイクされました。
それが本作『ミーン・ガールズ』です。
本作はリメイクなのは紛れもない事実なのですけど、ひとつ言っておかなといけないのは、オリジナルの2004年版をリメイクした…のではなく、その前に2017年にブロードウェイ・ミュージカル版の『ミーン・ガールズ』があって、この2024年版はそのブロードウェイ・ミュージカル版の映画化だということです。
2004年版の映画(オリジナル)→ 2017年版のブロードウェイ・ミュージカル版 → 2024年版の映画…という流れですね。
だからリメイクのリメイクなのです。
“ティナ・フェイ”が今作でも脚本しており、プロット自体は大枠は変わっていませんが、舞台は公開年代に合わせて現代になっていますし、何よりもミュージカルです。まあ、もともと風刺が濃いフィクショナルな作品でしたからミュージカル化しやすかったのでしょうけど、やっぱり手触りは変わっています。
それ以外の細かい部分はどう変わったのか、そこは観てのお楽しみ。
今回の2024年版で主人公に抜擢されたのは、『ナイスガイズ!』やドラマ『メア・オブ・イーストタウン ある殺人事件の真実』の“アンガーリー・ライス”。これ以上ないほどの堂々の主演作を獲得しましたね。
”ティナ・フェイ”や“ティム・メドウズ”はオリジナル映画と同じ役柄で再出演しており、さらに旧キャストもあちらこちらでカメオ出演していて、往年のファンは懐かしい同窓会気分。
そして「『ミーン・ガールズ』って実は観たことがないんだよね」という新規の人にも敷居は低くなっています。単にミュージカルが観たいというだけでも需要に答えてくれるでしょう。
問題は日本では劇場公開されなかったことか…。『ミーン・ガールズ』すらも配信スルーになるのは、日本が洋画の観客開拓をこの20年で全然やってこなかった証か…。文化の開きをますます感じるな…。
気になる人は2024年版の『ミーン・ガールズ』をお見逃しなく。
『ミーン・ガールズ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | 交通事故を軽く扱う描写は好みが分かれるかもしれません。アウティングの過去に言及するシーンがあります。 |
キッズ | 学校内での生徒間の問題行為描写があるので注意。性的な演出はあるものの、性行為描写はありません。 |
『ミーン・ガールズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
広大なアフリカのサバンナ。そこに不釣り合いにポツンと佇んでいるのは16歳のケイディ・ヘロンです。このケニアでずっと暮らしており、母は動物の研究者なのでフィールドワークに付きっ切り。勉強はもっぱらホームスクールでなんとかなっており、ケイディ自身は優秀でしたが、ひとつだけ学べていないことがありました。それは同年代との人間関係です。そういうものは微塵もない世界でした。
しかし、そんな暮らしが唐突に終わりを告げます。なんとこのアフリカからアメリカに移り住むというのです。突然でしたがあっという間。こうしてケイディは初めて同世代の子たちに囲まれることになりました。
学校に登校すると、同年代の生徒が大勢います。これはきっと今までにない刺激的な生活が待っていると確信しました。
ところが現実は想像よりもはるかに厳しいものでした。アフリカからの転校生などあからさまに変な奴として扱われたのです。戸惑うばかりで、教室でもどこでも浮いていました。ここには自分の席はなかったのです。
食堂でも警戒されて孤立し、しょうがなくトイレの個室で食事をしていると、ジャニスとダミアンという2人の生徒が見かねて教えてくれます。
この学校にはグループがあって、それぞれ縄張りがあるのです。あれはジョックス。そしてあっちは「プラスチックス」。関わらないほうがいいと言われます。どうやらその「プラスチックス」は学内の頂点に立つ女子であるクイーン・ビーのレジーナ・ジョージが仕切っているそうです。
実際にそのレジーナを目にして圧倒されてしまうケイディ。まるで別の生き物です。オーラが違いました。
でも意外なことにレジーナはケイディを自分たちのグループに誘ってくます。物珍しいと思ったのか、それともレジーナの懐の広さなのか。ケイディは流されるままに一緒に加わります。
また、ケイディは数学の授業で目の前に座っていたアーロンとささやかな会話をしたことをきっかけに彼に惹かれてすっかり夢中になりました。うっかりスクールバスに轢かれそうになるほどに…。
けれどもそのアーロンはレジーナと昔に付き合っていたことがあるらしく、あまり近寄るべきではないとも言われます。百獣の女王であるレジーナに勝てる者はいないし、彼女に気に入られれば人気者になれる…反対に嫌われれば学内でどん底が決定する…。
ケイディは「プラスチックス」のルールであるお揃いの全身ピンク色の服で同調し、この仲間として馴染もうとします。
ある日、その繋がりは砕け散る出来事が起きるまでは…。
2024年版の変更点
ここから『ミーン・ガールズ(2024)』のネタバレありの感想本文です。
2024年版の『ミーン・ガールズ』は先に述べたとおり、プロット自体の大枠は変わっていません。あのカタルシスかつ皮肉な展開を物語として構築したことがこの原作映画の功績ですからね。その根本を変えてしまうと『ミーン・ガールズ』ではなくなるし…。
でも何も変わっていないわけでもなく、この2024年版ならではの細部の変更がありました。
一番に目立つのはSNS文化の取り入れ。現代のZ世代を描くなら当然ここは避けられません。そしてそれは違和感なく盛り込めていました。あらためて思うのですけども、オリジナルの『ミーン・ガールズ』の時点で、インターネットの炎上みたいな現象をある意味で先取りしているようなポテンシャルがあって、むしろあの当時の風刺が現代に追いついてよりマッチした感じさえある…。
例えば、レジーナがタレント・ショーでセクシーサンタ・コスチュームでばっちりきめたのに、ぶざまに床に叩きつけられ、大衆の前で恥をかいてしまうシーン。瞬く間にそれはスマホで動画を撮られ、拡散され、みんながTikTokで辛口に批評し、大炎上していきます。
さっきまで人気絶頂だった人物が一瞬で転落する…。全然今の時代ならよくあることですし、それこそ半日もかからずにそれが起きるのも何もおかしくないです。それだけ情報の拡散の速度が速い世の中ですから。
結果、レジーナを差し置いてケイディがクイーン・ビーの座に一気に上り詰める展開もわりと納得しやすくなったと思います。
その後のレジーナによる仕返しで、バーンブックを校内の廊下に置いて、大騒動を引き起こすくだりも、今の時代ならネット上でも仕返しできそうなところを、あえてのアナログなやりかたで攻めているという対比になって、この2024年版ならではの対称性がありましたし。
また、終盤で反省モードに突入し、「みんながみんなそれぞれステキだよ」的な雰囲気で締めるのですけども、2024年版はその流れもやや丁寧になっていて、そのうえミュージカルで最後はハッピーにフィニッシュするので、あんまり後腐れがありません。エンターテインメントとしてはこっちのほうが気持ちいいでしょうね。私はオリジナルのラストの次世代の「プラスチックス」が現る…という皮肉なオチも好きですし、むしろそっちのほうが好みですけど…。
クィアなキャラクターの変化
そしてもうひとつの2024年版の『ミーン・ガールズ』の大きな目立つ変化は、ジャニスとダミアンの2人のクィアなキャラクターがボリュームアップしていることです。
2024年版のジャニスは公然とレズビアンです。そして『モアナと伝説の海』の主人公モアナの声で有名な”アウリイ・クラヴァーリョ”が演じており(”アウリイ・クラヴァーリョ”自身はバイセクシュアルを公表している)、ポリネシア系の人種となっています(関連して姓も変更された)。
オリジナルではレバノン系で、「レバノン(lebanese)」と「レズビアン(lesbian)」を間違えるというギャグみたいな扱われ方だったのですが、2024年版のジャニスはアウティング被害を受けて怒りを抱える性的マイノリティ当事者としてしっかり立場のあるキャラクターです。バーンブックに書いてある「Pyro-lez(パイロ・レズ)」も文字どおりの火絡みの過去があることになっています。
そのアイデンティティを揶揄われたままで終わらず、メロディもちゃんと最後はジャニスと和解し、全体的にジャニスが報われる後味になっていました。”アウリイ・クラヴァーリョ”のミュージカル・シーンもパワフルですし、応援したくなるキャラとして魅力が増しましたね。
また、ダミアンはオリジナルでも典型的なゲイ・フレンドで、それは2024年版も変わらないのですが、黒人のクィア当事者の“ジャケル・スパイヴィー”が演じることで、レプリゼンテーションとしてのパワーが増量しました。
ジャニスとのコンビネーションも抜群で、学内の「クィアなグループ」というこれもまたクリークのひとつであるその陣営の、クイーン・ビーの勢力争いに埋もれてしまうことのない存在感が際立っていたと思います。
ちなみに2024年版の『ミーン・ガールズ』でレジーナを演じた“レニー・ラップ”もレズビアン当事者です。
とまあ、そんな感じで、2024年版の『ミーン・ガールズ』の変化が一番劇的にわかるのは、クィアなキャラクターまわりでした。20年の時代の流れを踏まえれば、これも当然ですけども。
では2024年版の映画『ミーン・ガールズ』が、最先端の青春映画かというと、やはりどうしてもレガシーのある作品をリバイバルしたという感触は強くて…。
今の時代、『ミーン・ガールズ』に影響を受けてさらに現代的要素でアレンジした派生作品はいくらでもありますからね。『セラとチーム・スペード』とか、『リベンジ・スワップ』とか…。いずれも個性に磨きをかけています。
『ミーン・ガールズ』はやっぱり基本フォーマットなのであり、そこからは脱せません。それは悪いことではなく、それが『ミーン・ガールズ』なのでしょう。結論はそこに行きつきます。
『ミーン・ガールズ』はみんなのもの。あの王冠の欠片を分けてもらって未来の作品が生まれるのです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
作品ポスター・画像 (C)2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved. ミーンガールズ
以上、『ミーン・ガールズ』の感想でした。
Mean Girls (2024) [Japanese Review] 『ミーン・ガールズ』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2024年 #アンガーリーライス #アウリイクラヴァーリョ #リメイク #ミュージカル #ゲイ #レズビアン