リベンジ友達になろう…Netflix映画『リベンジ・スワップ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:ジェニファー・ケイティン・ロビンソン
恋愛描写
リベンジ・スワップ
りべんじすわっぷ
『リベンジ・スワップ』あらすじ
『リベンジ・スワップ』感想(ネタバレなし)
映画は復讐の友達になってくれる
復讐したくなるときもあります。でも犯罪はできません。だから復讐心なんて忘れてしまうほうがいいという人もいます。
しかし、それは悪いことをした人間には都合がいいだけの状況です。批判も仕返しもなければ、相手はずっと他人に迷惑をかけ続けるでしょう。相手が悪いことをしたならば、それはきっちりわからせてあげたいところです。悪い奴ばかりの天下にさせないためにも。いや、本当はそれは教育とかの仕事のはずなんですけど、機能していないことが多いですからね…。
それに「忘れればいいんだ」となぜ被害を受けた側が強要されないといけないのでしょうか。それって要するに、加害者はもうあなたに被害を与えたことはとっくのとうに忘れているから、被害者のあなたも忘れて、無かったことにしてしまいましょう…と言うだけの話では? 控えめに言って、ただの出来事の隠蔽に他なりません。
とは言え、復讐なんて実際容易くできません。だいたい被害者というのはそもそも弱い立場にいるものなので、強者である加害者側に手足もだせないのが普通。結局、うじうじと行き場のない復讐心をこじらせるだけで…。
そんな迷える復讐心に救いの手を差し出してくれるのがフィクションであり、映画などの創作物は痛快に復讐が達成される物語をこぞって生み出しています。
今回もまた活きのいい復讐映画が入荷してきました。
それが本作『リベンジ・スワップ』です。原題は「Do Revenge」。
本作は青春学園モノなのですが、主人公のひとりは学校で頂点に立つ人気の女子高校生。ところが、自分のプライベートな動画の流出によって、そのティーンの栄光は脆くも崩壊します。どん底に落ちてしまったその女子高校生はヘコむしかないのですが、そこに転校生の地味な子が登場。その子も自分の人生を突き落とされた経験があるらしく、だったら一緒に復讐しよう!と盛り上がっていく…そんな復讐で繋がる友情リベンジ物語です。
一見すると単純な学校を舞台にしたティーンの復讐ストーリーなのですが、物語は意外な方向に転がったりするので、ぜひネタバレを見ずに鑑賞してください。
監督は2019年に『サムワン・グレート 〜輝く人に〜』で長編映画監督デビューし、『ソー ラブ&サンダー』で共同脚本を務めるなど、キャリアが大躍進している“ジェニファー・ケイティン・ロビンソン”。
今回の『リベンジ・スワップ』は批評的に大好評なので“ジェニファー・ケイティン・ロビンソン”監督の勢いはまだまだ続きそうです。
俳優陣は、主演の2人を務めるのが、ドラマ『リバーデイル』でブレイクし、『パーフェクト・デート』『デンジャラス・ライ』などに出演する人気の若手“カミラ・メンデス”、そして“ユマ・サーマン”と“イーサン・ホーク”の娘であり、ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でも話題の“マヤ・ホーク”。各人ひとりでも魅力的ですが、この2人の魅力が交差して輝いている映画です。
共演は、ドラマ『ユーフォリア』の“オースティン・エイブラムズ”、『17歳の瞳に映る世界』で素晴らしい演技を見せてくれた“タリア・ライダー”、ドラマ『13の理由』の“アリーシャ・ボー”、ドラマ『ミズ・マーベル』の“リッシュ・シャー”、『ラストサマー』の“サラ・ミシェル・ゲラー”など。
『リベンジ・スワップ』は内容が復讐モノなので、その復讐の起点になる多少の嫌な出来事が描かれるわけですが、そんなにトラウマを煽るような描き方にはなっていないですし、それよりも痛快さを重視するノリなので、そこまで神経質にならなくてもいいかなと思います。
また、『リベンジ・スワップ』はクィアな作品にもなっており、異性愛と対等に同性愛も描かれているので、その点も安心です。
『リベンジ・スワップ』はNetflixで独占配信中ですので、暇な時間にどうぞ。
『リベンジ・スワップ』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2022年9月16日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :気楽に観れる |
友人 | :仲良い相手と |
恋人 | :ロマンスもあり |
キッズ | :ティーン向け |
『リベンジ・スワップ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):復讐を交換しよう
春。ローズヒル高の生徒たちの頂点に立つのはドレア・トーレスです。今日も友人のタラの主催でパーティが開催され、次世代の100人の動画で優美な姿を披露したドレアは自身の完璧な学園ライフを誇ります。自立してここまで上り詰めたという17歳の自信は絶対で、この立場を誰にも奪われるものかと息巻いていました。
ライバルのアレグラが嫌な噂を流していると知れば、みんなの前でスピーチをして、アレグラのファッションをいじります。それくらいの手は使います。
そこへ学校の王子であるマックスが現れ、花火が打ちあがるプレゼント。ドレアはこの最愛の恋人とキスし、理想のカップルっぷりをみんなに見せつけるのでした。
そのパーティが終わった後は、家の自室にいたドレアは自分のありのままの素をマックスにだけ見せて動画を送り…。
翌日、いつもどおり登校すると何か変な目で見られているような気がするドレア。すぐに原因がわかりました。マックスに送ったあのプライベートな動画が拡散されていたのです。能天気に突っ立っていたマックスを責め、「ハッキングだよ」と気楽そうな彼を思いっきり殴ります。
でも校長室に呼び出されたのはドレアだけ。進路のこともあり、軽率な行動は許されないと怒られ、奉仕活動を命じられます。奨学金を取り消す可能性もあるのでちゃんと怒りをコントロールしてと言われますが、なぜ被害者の自分だけが非難されるのか…。
夏。エレノアはテニス・キャンプに参加していました。あの騒動になった動画を広めたのはエリカだとトイレで聞き、その話をドレアに気軽に教えます。興味なさそうな反応のドレアでしたが、コカインをやったと言いつけ、エリカにきっちり制裁を与えていました。
帰り、ドレアの車は調子悪そうだったので、エレノアは乗せてあげます。エレニアは転校してきたそうで、過去に同性愛者だとキャンプで言いふらされた経験を打ち明け、性犯罪者としてみんなに避けられたことを語ります。エレノアも怒りを溜め込んでいるようで、2人で絶叫して発散します。
途中、2人でチーズサンドを食べながら、ドレアはイェール大学に行く目標を口にし、エレノアも両親に言われて進学を決めざるを得なかった話をします。2人は打ち解けました。
秋。登校するとギャビーという子と知り合うエレノア。ギャビーはこの学校のヒエラルキーを説明してくれます。アレグラをトップとするSNSの上位層。ハミルトンの白人バージョンを作ろうとした演劇集団、エコな生活を送る農家集団…。この農家グループのリーダーは、エレノアにとっての因縁の相手であるカリッサでした。
そしてこの学校の王族であるタラ、メーガン、モンタナ…。ここから堕ちた元女王はドレアです。ドレアの前にマックスが現れ、水に流そうと言ってきますが、今はタラが恋人らしく、それを知ったドレアは強気に振舞いますが心は負傷していました。
その後の全校集会で、マックスはドレアに立ってほしいと呼びかけ、「先学期のことは本当に気の毒に思っているよ。あの動画を流出させた犯人は反省してほしい。そこでこの団体を作ることにした。女性を守るシスヘテロ男性同盟だ。まともな男になりたければ入ってくれ」と意気揚々と演説。拍手喝采の中、ドレアは自分が利用された屈辱を味わっていました。
その場を離れ、トイレで絶叫するドレア。エレノアが心配して来てくれます。そこでドレアは思いつきます。「リベンジを交換しよう」
退学にならないかと心配するエレノアでしたが、「償わせたくないの?」と言われ、「破滅させてやりたい」とエレノアも答えます。
復讐の開始です。
自分の加害者性に気づけない
『リベンジ・スワップ』の監督である“ジェニファー・ケイティン・ロビンソン”は2016年に『Sweet/Vicious』というドラマを手がけており、これは2人の女子大生が性暴力加害者に復讐する自警団として活動しているという内容でした。復讐モノはお茶の子さいさいな監督です。
今回は少し捻りを加えて、復讐をシェアするのではなく、トレードするというアプローチをとっています。ドレアはエレノアにとっての憎き相手であるカリッサに、エレノアはドレアにとっての憎き相手であるマックスに、それぞれが復讐する。交換復讐なら復讐したこともバレないだろう…と。
なんか「交換殺人」を描いた“アルフレッド・ヒッチコック”監督の『見知らぬ乗客』みたいですね。
この交換殺人の各自パートは痛快です。ドレアがエレノアをイケてるガールに変身させたりして、いかにもティーンのポップなリベンジ・ストーリーらしい快感があります。カリッサが栽培するマッシュルームや大麻をたっぷり使ってみんなをハイにさせるとか、フィクションならではのオーバーなやり方もあったり。
そしてついにマックスのスマホのデータを奪取してそのやりたい放題な女性遍歴を暴露してやり、これで復讐は完了かと思いきや…ここでしぶとさを見せるマックス。あの「実はポリアモリーなんです!」「え?そんなマイノリティだったの?可哀想に!」と同情を買う作戦のあられもなさといい、それで納得しちゃう学校の世間といい、今のティーンは大変だなと気の毒に思えてくる…。加害者の方が同情を集めやすいのはどの年代でも“あるある”な話だけど…(典型的なヒムパシー)。
ここから復讐の第2ラウンドなのかと、そんな雰囲気でしたが、ここで本作は真相をバラします。実はエレノアが真に復讐したい相手はドレアでした。ドレアはエレノアに酷いことをしたことを、車内で言及されても気づきすらしなかった…。
無自覚な悪意を気楽に保有する加害者がいかに被害者にとって最悪なものか…反転することで思い知らせる…。なかなかに巧妙な怨讐へのカウンターをエレノアは用意周到に練っていたのでした。
ちょっと上手くいきすぎなのですが、被害・加害の構造を炙り出すという点では効果を発揮している展開だったかなと思います。ほんと、こういう加害者性を自覚しないまま被害者に寄り添ってくる人は実際にいますし、これは私も含めて誰でも自省しないといけないことですからね。
赦さなくてもいいのでは?
まさかの展開へと後半は突入する『リベンジ・スワップ』ですが、どうオチをつけるのかなと思ったら、そこは無難にドレアが加害者性を自覚して反省するという着地でした。
リベンジなんかでは救われないと復讐の危険性も指摘するのも当然。そもそもの今回のドレアの被害もリベンジポルノですし、身勝手なリベンジは肯定できないのは妥当な道徳的帰結です。
とは言え、きっちりマックスには復讐は完遂します。2人で力を合わせて、録画でマックスのアホな犯行自慢を世間に暴露。溜飲が下がる結末。フェイク・ウォーク(fake woke)の差別野郎ナルシストはぶっ潰しました。最後まで悪役に徹する良いクソなキャラだったな…。エンディングのセラピーで改心するかな…。
個人的には最後はシスターフッドで丸く収まるという定番もやや甘いのかなとは思います。別に「加害者を赦す」ということは必然ではないはずなのですが、同性同士だとその「赦し」を良しとする空気が高まったりするものじゃないですか。同性なら仲良くするべきだ…みたいな。
『リベンジ・スワップ』は一番の弱者枠であるエレノアがセクシュアル・マイノリティだけど白人という設定になっており、比較的温和に和解できる構図になっているので、そこは意識しておかないといけない部分かなと思います。これがドレアが白人でエレノアが黒人だったらきっとこんな安直なシスターフッドでは許されないはずで…。このあたりはシスターフッドものの現在の課題のひとつなんでしょうね。他の映画だと『Zola ゾラ』など人種構造に着目してシスターフッドの在り方を批評するものもあるし…。
でも本作が良いのはわりとクィアを包括している点で、エレノアが同性愛関係をラストできっちり深めるのもそうですし、リベンジを持ちかけられる場面で「やっつけてくれる人がいればいい。始末人みたいな男か女かノンバイナリー」としっかりバイナリー規範に依存しない会話をしており、エレノアの包括性重視の意識があるおかげでさりげない安心感が心強かったです。こういう小さなセリフでも一部の当事者は安心するものなんです。恋愛伴侶規範が濃いのはイマイチだけど。
『リベンジ・スワップ』は青春学園モノの復讐ストーリーとしてZ世代対応のバージョンアップを見せた一作でした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 87%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix リベンジスワップ
以上、『リベンジ・スワップ』の感想でした。
Do Revenge (2022) [Japanese Review] 『リベンジ・スワップ』考察・評価レビュー