この俳優は演技が下手すぎます?…Netflix映画『マインドホーン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:イギリス(2017年)
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信
監督:ショーン・フォーリー
まいんどほーん
『マインドホーン』物語 簡単紹介
『マインドホーン』感想(ネタバレなし)
俳優の自虐的英国コメディ
イギリス製コメディはアメリカ製コメディとは違った趣があってまた楽しいものです。普段は紳士だ階級だと気取っているイギリス人がアホやっているのはそれだけでも見ごたえがあります。きっとイギリス人には欠かせないストレス発散方法なんだろうなぁ…。
TVドラマだと、私は昔は『Mr. ビーン』をよく観たものですが、最近のものは全然知らないですね…。
そんな英国コメディTVシリーズで2000年代に活躍している俳優のひとりに“ジュリアン・バラット”がいます。代表作に、2004~2007年に放映された『マイティ・ブーシュ(The Mighty Boosh)』というBBC製作のコメディがあり、カルト的人気があるそうで。なんでもコンビが動物園の飼育員だったり、ミュージシャンになったりしながらハチャメチャやるという、良い感じでアホなドラマっぽいです。
そのコメディに主演する“ジュリアン・バラット”はコメディアンであると同時に、制作にも関わるマルチクリエイター。そして、“ジュリアン・バラット”が主演と脚本を手がけた最新コメディ映画がNetflixで配信されているので紹介します。
それが本作『マインドホーン』です。
主人公であるTV俳優リチャード・ソーンクラフトの代表作は「マインドホーン」というドラマ。
1983年、特別捜査官のブルーツ・マインドホーンは極秘任務中にシベリア国境で捕虜となり、サイボーグ手術の実験台に。片目をくりぬかれ、眼球型うそ発見器を埋め込まれ、真実の目をもつ男が誕生。ロシアを離れ、故郷のマン島に戻ったマインドホーンは、島一番の腕利きの私服刑事として、嘘がはびこる世の中でカポエイラを駆使して大活躍!…というのがそのドラマの内容。わかりましたか? もう一度いいますか? サイボーグ、刑事、カポエイラで、ドーンです。以上です。
実に…キテるドラマですが、当時は大人気。でも、今は「なんだっけそれ?」状態。俳優リチャードも忘れ去られ、ただの禿げた腹の出たおっさんに。たぶん感想ブログとかに「この俳優は演技が下手すぎます。★1ですね、誰ですか?」と辛辣に書かれること間違いなしな現状。
そんなとき、マン島を震撼させている殺人犯がなんとTVドラマ「マインドホーン」の刑事を呼べと言ってきたことで、おっさんリチャードは日の目を見るチャンス到来とノリノリ。さあ、どうなる?
『マインドホーン』の主人公は俳優自虐コメディとなっており、ギャグも英国コメディらしさ満載。そして、1980年代~90年代のチープなTVドラマ風に作られているのも魅力で、良い意味で大げさで気の抜けた映像は最大の注目ポイントです。ちゃんと(主にうっかりボケで)二転三転するサスペンスもハラハラさせてくれます。
もちろん大作映画に打ち勝てる要素は無し。カッコいいアクションはない(たぶん)。クールな名推理もない(たぶん)。でも、マインドホーンの目は誤魔化せない!
マインドホーンはあなたの傍にいるのです。常に全力で待機しています。ええ、望んでいる人がいなくてもです。ほら、万が一のこともあるし、世の中、何が起こるかわからないですからね。え、どんなことかって? いや、それはその…まあ、いろいろでしょう。あらゆるケースに対応できないとダメですし、今はグローバルだから、マクロスケールでのソリューション提供をするのが、男たるもの、大事な役割ですし。え、何ができるのかイマイチわからない? あのこれは何度も申し上げていることであって、つまり…目、そう目なんです。世界のコンフリクトにアジャストし、ターゲットアナリティクスを実践しながら、パワーハラスメント…じゃなかった、パワーマネジメントをして穏便に収束させる。こんなことができるのは私だけです。え、早く映画を見せろって? いや、まずは私の(以下略)。
『マインドホーン』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2017年5月12日から配信中です。
『マインドホーン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):アクション!
1989年、マン島。撮影のセットで発声練習を入念に行っている男優。ここは『マインドホーン』の撮影場。主演のリチャード・ソーンクロフトは眼帯をつけて、役になりきる準備万端。
スタントマンのクライブとも演技の打ち合わせ。ヒロインとのキスシーンもその場でやってみせるリチャード。車に乗り込み、本番です。「いつでもいいぞ!」
「3、2、1、アクション!」
1983年、特別捜査官マインドホーンは極秘任務中のシベリア国境で捕虜にサイボーグ手術の実験台に。片目をくりぬかれ、ハイテクの眼球型嘘発見器を埋めこまれた。彼の目には真実が見える。ロシアを脱出して故郷のマン島へ帰還。島一番の刑事になった。マインドホーンの目は誤魔化せない!
この役を演じるにあたってリチャードはトレーニングを欠かさず、ブラジルの格闘技であるジンガの動きを取り入れました。私生活でもリチャードの目をとらえて離さなかったのは、共演の女優パトリシア・デヴィール。ドラマのヒットを受けて、悪役のウィンドジャマー役のピーター・イースターマンのスピンオフもささやかれています。広報のジェフリー・モンクリーフの手腕もあり、リチャードの魅力は増すばかり。リチャードは演技賞を獲得するのか、それとも過激なトークで論争を招くのか…。ドラマの帝王の快進撃は止まらないようです。
…というのは昔の話。25年後。今はどうなっているのか。
マン島ではカティア・リピンスキーという女性が遺体となって発見されていました。警察は殺人事件と断定。容疑者から電話もあり。「俺はマインドホーン刑事としか喋らない。それまでに呼ばないとまた人が死ぬぞ」
テレビの刑事を呼べという容疑者が現れるとは…。どうするか、連れてくるしかないか、とりあえず刑事役の俳優を連れてこよう…。
その頃、リチャードはロンドンで発声練習。オーディションに来ますが、ケネス・ブラナー監督の前で熱演。「近頃はいい仕事をしているね」と監督に軽口を叩くリチャード。
芸能事務所に文句を言いに来ます。サイモン・キャロウと話し込んでいるエージェントをよそに、久しぶりのオーディションだと思ったら黒人のギャング役なのかとまくしたてるリチャードですが、実際のところ、彼のキャリアは地に落ちていました。
「俺の売りはこの顔だ」
しかし、今の時代、そんな顔は誰も見たくないのでした…。
ジンガ・タイムだ
コメディ映画は、主役が魅力的で好きになれるかどうかが最大の問題ですが、その点では『マインドホーン』は満点でした。“ジュリアン・バラット”演じる主人公・リチャードはずっと見ていられる。やっぱりハゲでデブでも“頑張るおっさん”はつい応援したくなりますね。
なんでしょうか、コメディはおっさんに限るという方程式はいつの時代でも有効で、これはもしかしたら世界の新しい物理法則の発見かもしれない(何言ってんだこいつ)。
前半の、事の重大さを全くわかっていないなかで、ノリノリで「マインドホーン」を演じる姿はとても愉快。まずビジュアルがそもそもダサイので、何してもアホに見えますよね。容姿も衰え、体力もない状態でも、プロ意識だけは残っている。そんな彼なりの真面目な演技は今や周囲にとってウザイだけ。でも、私たち観客はそこが楽しい。電話に出る動作のシミュレーションを何度も繰り返すシーンとかが、個人的に好きです。絶対、コメディアンに転身すれば人気回復するだろうに…。
というか、この男、本当になぜ喜劇の世界に進まないのか謎だろうっていうくらいの才能で、そこを考え出すと、別にコイツはコイツでまだまだやれるチャンスはあるのではないかと思ってしまいますが…。
そして、物語は一転。殺人犯と考えられていた、「マインドホーン」を信じる若い男ポール・メリーでしたが、実は真犯人は市長と判明。濡れ衣を着せられたポール・メリーと死んだことにされたリチャードは、一緒に真実を世間に知らせるために奮闘することになります。
後半の、逆転してイヤイヤ「マインドホーン」を演じるリチャードの姿はやっぱり愉快。いざ「マインドホーン」になってみると、全然役に立つことがないどころか、動きにくい。でも、役に立つアイテムが活きてきますが…。それ以上に彼をずっと信じて愛してきたファンがいるというのが、リチャードの最大の武器になるわけで。
最後は役を演じるという俳優の力で事態を収拾するオチも綺麗。こうやって最後まで観ると、優等生なコメディドラマだったんだなぁと実感。
構成として特段優れているわけでもないのに、これくらいのライトな作品を動画配信サービスを使って暇つぶしに観る程度なら最高じゃないかと思わせる。まんまとNetflixの術中にハマっている気もするけれど、事実なのだから嘘をついてもしょうがない。
ちょっと登場人物が多すぎるかな?というのと、終盤の展開は見え見えなのがあれでしたが、まあ、いいでしょう。楽しいですもん。それが正義。
ラストの「ジンガ・タイムだ」のシーンの勢いだけで全てを肯定したくなるそんな映画でした。皆もジンガの練習をしよう。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 59%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『マインドホーン』の感想でした。
Mindhorn (2017) [Japanese Review] 『マインドホーン』考察・評価レビュー