何をするかはまだ決めてないけど!…「Apple TV+」ドラマシリーズ『マネー ~彼女が手に入れたもの~』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にApple TV+で配信
シーズン2:2024年にApple TV+で配信
原案:アラン・ヤン、マット・ハバード
恋愛描写
まねー かのじょがてにいれたもの
『マネー 彼女が手に入れたもの』物語 簡単紹介
『マネー 彼女が手に入れたもの』感想(ネタバレなし)
億万長者もツラいんですか?
もしもの話。あなたの手元に急に1兆円が降ってきたら、どうしますか?
1億円なら豪遊していれば使い果たせますが、1兆円なんて普通に贅沢しても使いきれないほどの巨額の資産です。何に使いますか?
私だったら…そうですね…。海外の映画の配給をするかな…。もしくは映画製作に資金提供するか…。あとは、社会のマイノリティとして苦しんでいる人たちのための支援活動に注ぐことにしようかな…。
でも問題があります。事業をするにせよ、慈善活動するにせよ、カネさえあればいいわけではないのです。ノウハウが必要です。信頼できるチームも欠かせません。そして何よりも自分の品格が問われます。
世間は大富豪の人を好きになってくれるのではありません。その資産目当てで寄ってくる人ならいくらでもいるでしょうけど…。そんな大富豪の立場で、他者と率直な絆を築けるでしょうか。誰を信用すべきか、判断するのも大変では?
今回紹介するドラマシリーズは、そんな大富豪の奮闘をユーモアたっぷりに描いた作品です。
それが本作『マネー 彼女が手に入れたもの』。原題は「Loot」です。「loot」は「戦利品」といった意味ですが、「おカネ」を意味するスラングでもあります。とは言え、邦題は味気なさすぎる…。
本作は、あるひとりの中年女性が大富豪の夫の浮気の発覚で離婚を決意。その離婚の結果、資産分割によって870億ドルもの莫大な財産を手に入れるところから始まります。870億ドルって、つまり13兆円以上ですよ。桁違いすぎて全く具体的な想像ができないな…。
それだけ富があるならいいじゃないかと思うかもですけど、この主人公はカネはあっても人生の意義を見失ってしまい、虚しさを噛みしめます。
するとふと慈善事業団体をやってみようと興味を持ち、本格的にそんなことに打ち込んだこともないのに、この慈善活動に見よう見まねで精を流し始める…そういう物語です。
億万長者(ビリオネア)という超がつくレベルの特権者をシニカルに風刺しながら、億万長者を叩いてスカっとするような嫌味で終わることもなく、その人間味溢れる葛藤にも寄り添います。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』みたいな低俗さを派手に描くタイプではありません。各エピソードで描いていくテーマ自体は、その人の貧富に関係なく、わりと身近に刺さるものばかりです。
『マネー 彼女が手に入れたもの』の原案を手がけるのは、ドラマ『マスター・オブ・ゼロ』や映画『タイガーテール ある家族の記憶』の“アラン・ヤン”。そして、ドラマ『フォーエバー ~人生の意味~』でも共同した“マット・ハバード”です。
主演は、コメディなら何でも自分の独壇場にできる“マーヤ・ルドルフ”。今作でもエグゼクティブプロデューサーも兼任しながら、“マーヤ・ルドルフ”らしい捨て身のギャグを連発しまくっており、いつもの絶好調です。
共演は、ドラマ『POSE/ポーズ』の“MJ・ロドリゲス”、『ファイアー・アイランド』の“ジョエル・キム・ブースター”、『トロールズ』で声の出演もしていた”ロン・ファンチズ”、『プールサイド・デイズ』など監督もやっている“ナット・ファクソン”、ドラマ『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』の“ミーガン・フェイ”、ブロードウェイで活躍していた“ステファニー・スタイルズ”、ドラマ『セヴェランス』の“アダム・スコット”など。
『マネー 彼女が手に入れたもの』は「Apple TV+」で独占配信中。シーズン1・シーズン2ともに全10話。1話あたり約25分程度なので、気軽にサクサクと観て笑い飛ばせると思います。鑑賞しても財布のおカネは増えないけど、心は少しだけ貯金されるかもしれません。
『マネー 彼女が手に入れたもの』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽に眺められる |
友人 | :リラックスして満喫 |
恋人 | :異性同性ロマンスあり |
キッズ | :性的なネタあり |
『マネー 彼女が手に入れたもの』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
45歳の誕生日プレゼントに贈られた海上の小型船の上で饒舌に贅沢な時間を満喫しているのは、モリーです。豪華大型船に移ってからも優雅なひとときは続きます。いつも一緒の助手ニコラスがアメニティが充実していると太鼓判。
しかし、夫でハイテク億万長者のジョン・ノヴァックはなぜかスマホから目を逸らさず、モリーとの会話に興味なさげ。「君の欲しいものは全て手配する」と言ってくれますが…。
場所は変わって邸宅でパーティー。「2人きりの食事はどう?」とモリーは提案しますが、ジョンは明日にスウェーデンに行くらしいです。モリーは「最初の頃は何でも2人でやってたのに、パートナーみたいに」とこぼします。
ジョンのネクタイに染みがついていたので代えのものを取りに行くと、ドレッサー・ルームにジョンのアシスタントのヘイリーがいました。なぜ彼女がここまで知っているのか…。彼女は言いよどみますが全てを察します。
モリーはスピーチ中の夫に割って入り、一気に責めたてます。
「あんな若い子と? 私が大学生だったときに1歳だったような子なのに? 20年もあなたと連れ添ったのに! 離婚します! クソ野郎!」
こうしてモリーは夫の不倫を理由に、怒りの形相で慣れないスポーツカーをかっ飛ばして家を出ていきました。
IT億万長者の離婚劇はメディアも大注目。婚前契約もなくモリーの資産は870億ドルになり、アメリカ3位の女性富豪となりました。
当のモリーは、世界各地でニコラスと羽目を外していました。しかし、ふと我に返れば虚しさがこみ上げます。
やけ食いしていると一本の電話が…。財団の事務局長のソフィア・サリナスだと名乗ってきます。そう言えば7年前に慈善団体を作ったのでした。忘れていました。ソフィアはオフィスにきてほしいと言ってきます。
さっそく行ってみるとハワードという人物が温かく迎えてくれます。遠いいとこの関係らしいですが、覚えてません。家族とは疎遠です。ハワードはIT担当らしく、隣にはぎこちない白人のアーサーがいました。
ソフィアに挨拶すると「あなたの言動は団体の評判に影響を与えるので注意してほしい」と丁寧に言われてしまいます。ソフィアは真面目に活動に勤しんでいました。
家に帰り、考え込むモリー。決めました。自分も慈善事業に参加するとソフィアに伝えるべく会いに行きます。
環境に悪いSUVを用意してしまったけど、スマホからワンクリックで環境団体に1万ドル寄付できるからOKだろうと気楽です。女性シェルター開設のチャリティー発表の場で意気揚々とスピーチし、無自覚富裕層発言でひんしゅくを買い、高級ギフトを配りだしたりも…。
ソフィアは「離婚でできた心の穴を埋めるためにここに来ないでください」と指摘しますが、心の内を曝け出すモリーを放置できません。ソフィアは富豪のメンタルケアをしたいわけではなく、貧困に苦しむ子を救いたいのですが、身近なモリーを無視するのは良心の呵責があります。
こうしてこの財団に、モリー・ウェルズの部屋が作られることに…。
シーズン1:大富豪に振り回される側もツラいよ
ここから『マネー 彼女が手に入れたもの』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『マネー 彼女が手に入れたもの』は「おカネ持ち」風刺コメディとして、このモリー・ウェルズを中心に、その大富豪の世間知らずっぷりをネタにしまくっています。こんな資産ありきの人間がこれ見よがしに慈善事業をして「私、世の中に貢献してますから」とアピールするんですから、観てるこっちも「はいはい」と呆れるもんです。まあ、実際、現実にいる富豪はこんな感じなんですけど…。
一方で、そんなモリーですけども、この人なりの葛藤もあって、それが正真正銘のクズ富豪野郎である元夫ジョン・ノヴァックとの関係。本来は2人でキャリアを始めたつもりだったのに、いつの間にか夫が実績を総取りし、自分は「富豪の妻」というポジションしか残っていない。その虚無感を、満ち足りた人生のように見えつつ鏡の前で少し表情が曇るあの1話の些細な演出で表現していました。
そういう意味ではモリーも可哀想と言えばそうなのですが、いかんせんカネに困らない資産がありますからね。一般庶民にしてみれば同情してあげるほどでもない…。その絶妙な立ち位置にいる人物像を本作は軽快なフットワークで扱っていました。
大富豪に振り回される慈善団体運営側も大変です。慈善活動と大富豪というのは実のところ一番相性が悪いのですけど、資金的に頼らざるを得ない現実があって、そのあたりは作中の描写は誇張されてはいますが業界”あるある”な風景なんでしょう。生真面目な(そしてワーカホリックな)ソフィアとの凸凹コンビも観ていて飽きません。
モリー財団のスタッフたちも個性豊か。活動内容的にはリベラルなのですが、スタッフには保守系出身の人も普通にいて、そんな人たちへの風刺も生暖かいです。とくに白人のアーサーが「僕はリベラルなんですよ」と悪気はないのでしょうけど、必死過ぎていちいち白々しく聞こえてしまうのは毎回笑わせてくれます。
また、財団の主要スタッフでモリーと親戚関係にあるハワードは、モリーの長年のアシスタントであったニコラスと、オタクのハワードいわく「悟空とベジータの関係」を築いていきます(確かにこれで関係性が説明できているのが凄い)。ニコラスはゲイなのですが、同性愛者と異性愛者の男性同士のリレーションシップとして(または非オタクとオタクの組み合わせとして)、自然にステレオタイプではない描写になっていて良かったです。
新しい人生を手探りで歩み始めたモリーでしたが、フランス大富豪ジャン=ピエールというまたも資産家男性の傍に惹かれていき、やっぱり幻滅し…(まさに汚物を飲んで)。醜態を晒したサミットでモリーは「大富豪は存在するべきではない」と言い切り、全財産(1200億ドル!)を寄付すると大胆に明言。
大富豪の気まぐれか、本気の覚醒か…。
シーズン2:おカネよりも手に入りづらいもの
ドラマ『マネー 彼女が手に入れたもの』のシーズン2は、前回で演説ぶちまけたモリーの相変わらずの贅沢豪邸から開幕し、この大富豪体質はそんなに簡単に変えられないことが露呈します。
でもモリーの大きな成長が見られたシーズンでもありました。
なぜか宇宙に行きたがる凡百のカネ持ちと同様にジョンも宇宙事業を始動させる中、モリーは同じ「space」でも「宇宙」ではなく「居場所」として、地球で弱者の生活支援(公営住宅を作れないなら使っていないホテルを買い取って利用する案)を本格化。「ホール・ニュー・ワールド」を独唱し、ロケット爆発を利用する悲劇演出で同情を誘うまで画策する自惚れジョンを無視して、モリーは仲間と一致団結します。
加えて、同じく富豪夫の浮気で捨てられて意気消沈のグレースをケアし、億万長者のノーマンの「富豪を否定するな、カネが好きだろ? 一緒に仲間になろう」というカルトな誘いも断ります(グレースはまんまと戻っちゃったけど)。
こんなに人間性が成長するとは…。浄水失敗の汚物を飲んだのが相当に効いたかな…。
ニコラスは超保守派な両親の目線を感じつつもクィアな俳優業に挑戦し、ハワードは自身のプロレス団体を設立して、ニコラスと取っ組み合いをしたり、2人は今回も仲良しです。この2人、ずっと見ていたい…。
シーズン2では、ロンダとエインズリーという他のスタッフのエピソードも増量しました。こっちも癖が強いので、何しでかすやらでハラハラする…。
テイラー・スウィフトのファン(スウィフティー)説も浮上したソフィアはアイザックという恋愛パートナーができますが、自由に夢を追う彼の生き様は、仕事に足を常に固定していたいソフィアとはだいぶ合わず、ギクシャクしていきます。あの財団、ソフィアがいるから機能しているようなもんだもんね…。もうちょっとソフィアの負担を減らしてあげなよ…。
恋愛と言えば、モリーとアーサーです。この2人はシーズン1の頃から「早くくっつけばいいのに」的な雰囲気をムンムンと放っていましたが、やっとシーズン2で急接近。中年男女の恋路、しかも、貧富格差のある関係(&上司と部下の関係)は距離を詰めるのは大変です(男女の固定役割が逆転している点が大事)。モリーもアーサーへの想いをジョンや周囲に打ちあけ、覚悟を決めました。
しかし、キスまでしたのに、アーサーはウィラという比較的若い女性とすっかり一歩進んだ関係になってしまったようで、モリーはここにきて失望ゆえに”大富豪堕ち”します。カネはいくらでもあるのに、愛は手に入らず…。
プライベートジェットで怒りのままに飛び立つモリー。心の貯蓄はゼロになり、次はどこへ行く?
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
関連作品紹介
「Apple TV+」で独占配信しているドラマシリーズの感想記事です。
・『レッスン in ケミストリー』
・『神話クエスト』
・『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』
作品ポスター・画像 (C)Apple ルート
以上、『マネー 彼女が手に入れたもの』の感想でした。
Loot (2022) [Japanese Review] 『マネー 彼女が手に入れたもの』考察・評価レビュー
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