ニャンてこと
Netflix映画『ニャンてこと!』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Hayop Ka! The Nimfa Dimaano Story(You Animal!)
製作国:フィリピン(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:アヴィッド・リオンゴレン

ニャンてこと!

あらすじ

香水売り場で販売員として働く猫のニンファ。性的な欲求を素直に表現する彼女にとって、セクシーな男性は欠かせない。幸いなことに、今は同じモールで働く筋肉質でたくましいカレシがいるので何も困らない。貧乏であっても気にしなかった。しかし、ハンサムでお金持ちの敏腕ビジネスマンに出会ってしまったために、ニンファの心は2人の男の間で大きく揺れ動くことに…。

『ニャンてこと!』感想(ネタバレなし)

フィリピン産の大人限定アニメ

フィリピンと言えば、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が「新型コロナウイルスでロックダウン中に勝手な行動をした者は射殺する」と平然と殺害宣告したり、麻薬撲滅作戦の名のもとに邪魔者を容赦なく殺害できる政策をとって3歳の子どもすら殺されたり、もはや非人道的という次元を超えた背筋も凍る恐怖政治が行われるようになり始めていることで話題です。

そっちの方が何よりも心配しないといけないのですが、そんな物騒な話はとりあえず今はさておき、今回はフィリピンのアニメーションのお話です。

フィリピンのアニメについてネットで調べても、「フィリピンでは日本のアニメが人気!」みたいな恥も外聞もない自画自賛記事ばかりが出てくるのみです。日本のアニメは海外でも支持されているのは事実としてわかるのですが、自国自惚れする前に、もうちょっとフィリピン独自のアニメーション文化とかに興味を持とうという人はいないのだろうか…。

そのフィリピン独自のアニメーション文化。日本語外の情報源でざっくり調べてみると、実は最近はフィリピンもいろいろ国産アニメーションに勢いがつき始める気配が出てきたようです。

例えば、2008年には『Urduja』というフィリピン国産アニメーション映画が登場。これは歴史的に語り継がれている伝説の戦姫を題材にしたもので、まさにフィリピン版プリンセス・ストーリーです(なんとなく絵のタッチといい、ディズニーを意識している感じがある)。同年には、『Dayo: Sa Mundo ng Elementalia』という2Dと3Dを組み合わせて描く少年冒険物語も公開され、2008年にはフィリピンにとってアニメーション映画イヤーになりました。2010年には『RPG Metanoia』という作品も上映され、これはフィリピンで初めての完全フル3Dアニメーション映画となったそうです。

とは言っても、フィリピン映画の100年にも渡る歴史全体の中で、アニメーション長編映画の数はたかだか10本未満。まだまだ本当に始まったばかりの初期です。しかし、最近は技術的にもノウハウを積み重ね、アニメーションの質もどんどん上がり、今後の成長も大いに期待できる伸びしろの高さを窺えます。もう日本がアニメーション先進国だなんて偉ぶっている場合ではないですね。

そんなフィリピンのアニメーション映画史において、とくに急成長している逸材が“アヴィッド・リオンゴレン”という人物。この人が大きな注目を浴びたのは2016年の『Saving Sally』という映画です。これは2Dアニメと実写を融合した作品で、その独創性から高く評価されました。最初はもちろんほぼ無名なので誰からも気にされていなかったのですが、ネット上でのバイラル効果を発揮して人気を集め、なんだかんだで話題に。すごく今っぽい成功例ですね。

その“アヴィッド・リオンゴレン”監督の最新作が本作『ニャンてこと!』です。

今度はフルアニメーションとなり、前作以上に自由奔放にやっています。面白いのは、この映画は子ども向けではなく、完全に大人向けの作品に振り切っていることです。絵柄はキッズ対象に見えますが、中身は思いっきりアダルトです。下ネタもガンガン飛び出し、控えめではなく、ハッキリとセックスに言及されます(それもかなり卑猥な言葉も遠慮なしで)。

原題は「Hayop Ka!」で直訳すると「このケダモノめ!」みたいな野蛮な振る舞いを指摘する言い回しになるのですが、要するに「性に奔放すぎて獣みたいだ」と言っているわけです(作中でそんなセリフがあります)。

主人公は人間型の猫で、世界観としては『ズートピア』的な動物擬人化ワールドです。しかし、この主人公の猫女はとにかく性欲に直情的。もう“棒”のためならマタタビにうっとりな猫のごとくまっしぐらです。その猫女が巻き起こす波乱万丈なドタバタ劇が展開されます。

アニメーションと言えば、やっぱり子どもウケを狙う方が無難なのにあえてアダルト作品へと舵を切っているあたり、なかなかに日本のアニメ事情とは異なるアクセルの踏み方をしていますね。まあ、もちろんこれがフィリピンのアニメーションのスタンダードになるとは言い切れませんし、かなり“アヴィッド・リオンゴレン”監督のクセによるところが大きいと思いますが。

しかし、この独自性全開のスタイルはウケており、この『ニャンてこと!』はNetflixでの世界的配信が行われました。これはキャリア的にも相当に羽ばたいてます。コロナ禍の中で製作も大変だったろうに、それでも報われましたね。

ということでフィリピンのアニメーション映画の先頭を走る『ニャンてこと!』。気になった方はぜひ。大人向けですが、私の感覚としてはティーンくらいなら観てもいい気がします(キャラが動物なので性的ネタもマイルドに見えますし)。

『ニャンてこと!』はNetflixオリジナル作品として2020年10月29日から配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◯(アニメ好きも1度は観て)
友人◯(暇つぶしにはちょうどいい)
恋人◯(下ネタOKなら楽しんで)
キッズ✖(ティーンになってから)

『ニャンてこと!』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ニャンてこと!』感想(ネタバレあり)

性生活も順調…だと思ったけど

ニンファ・ディマノは何気なく立ち寄った“占い”で、自分の運命を占ってもらうことにします。

「あなたは同じ時期に2人の男性と恋に落ちる」…そう告げられ、「ありえない」と口にするニンファ。現在の付き合っているカレシとは順調だから問題ない…そういう確信がありました。そのカレシであるロジャーとは、普段も仲がいいし、体の相性もバッチリだし…。

ニンファはショッピングモールで働いています。香水の販売員で、今日も主に女性客を相手に、素敵な香りで自分や相手の気持ちを高揚させる、そんな商品を売り込んでいます。

仕事も終わり、ロッカールームで着替えていると、同業の友達がニンファのカレシを羨ましそうに揶揄ってきます。ニンファはこのモールで用務員として働くロジャーと交際しており、そのラブラブっぷりは周囲にも一目瞭然でした。ロジャーはいかにも筋骨隆々でマッチョスタイルです。そのロジャーと会うことに素直にワクワクを隠しきれないニンファ。

そこへロジャーがさっそくやってきて、性を刺激し合う2人は我慢しきれなくなったのか、人目を避けつつ、ロッカールームでおっぱじめるのでした。

それから小さな屋台にて食事をとる2人。貧乏なので高級レストランとはいきませんが、これが2人の幸せな瞬間。するとロジャーは「結婚しよう」と素直にプロポーズしてきます。「愛があるなら問題ないだろう」とダイレクトに想いをぶつけてきます。しかし、ニンファはいろいろな不安があります。地元で学業に勤しむ妹のリンダに仕送りしているニンファは、まだまだ生活の将来像が見えていません。

その妹のリンダに電話してみると元気そうですが、何やら赤ん坊の泣き声が聞こえる気がします。ご近所なのか、テレビの音なのか、ともあれ勉強を頑張るように励まします。

別の日、いつものようにニンファが香水売り場で働いていると、イニゴ・ビリャヌエバといういかにもリッチそうなビジネスマンがやってきます。ニンファの売り場は庶民向け商品を扱っているので、こんな富裕層は来ません。イニゴは「高級香水売り場に人がいなくて」と仕方がなくここを訪れたようです。役に立つかどうかわからないニンファのアドバイスのもと、香水を決めるイニゴ。ニンファの手に香水をかけて嗅ぐ動作をします。そのセクシーでクールな振る舞いにすっかりドキドキなニンファ。

しかも、イニゴは「いつか僕とデートしよう」「独身だ。彼女を募集中だ」とTinder(出会い系アプリ)をサラッと紹介するくらいの好感触。これは…これはもしかして、もしかすると…。
 
それでもロジャーのバイクに乗って、家で映画を見て、普段どおりのカレシとの交際は続きます。しかし、あの経験したことがない刺激を味見してしまったニンファはどこか心が高ぶりません。このまま貧しい生活で本当にいいのだろうか…。

しばらく後、香水の瓶を間違っていたとイニゴが直接ニンファに連絡してきたことでさらに動揺は拡大。「外で会おう」とまで誘ってきて、自分には手が届かない存在だと思っていたものの、なんだかんだでバタンガスのリゾート邸への仕事まで付き添うまでに

しかも、そこに立ち寄るだけかと思いきや、一緒に宿泊することになってしまったものだから、それはもう穏やかではありません。イニゴは相変わらず素敵な人で、ロマンチックで、気が利きます。そんなイニゴとベッドをともにし、性の快楽に大興奮した一夜…。

けれどもその絶好調は一気に落ちます。自分が出かけている間にアリバイ作りを友人に頼んだものの、すっかりロジャーにバレてしまい、彼は「俺の女を寝取った」と激怒。ニンファに対しても「この尻軽女」と怒りを向けてきます。

意気消沈したニンファは一度気持ちを落ち着かせるために地元に帰ることにします。しかし、そこにも思わぬ衝撃が待っていて…。

ニャンてこと

性に奔放な女性を描く

『ニャンてこと!』の特徴は何と言っても主人公の性の奔放さ。とくに女性のキャラクターが性欲にポジティブというのは特筆されます。

日本のアニメ界隈では、いまだに性欲や下ネタは男性の専売特許というイメージがしぶとく、もっぱら女性は受け身です。性に未熟で、男性の手ほどきによって性を知る、もしくは性に対して拒絶的態度をとるというのが、女性のステレオタイプになっています。性欲に直情的な女性キャラクターがいたとしても、たいていの場合はそれは「男を騙す女」であったり、何かしらの倫理観を無視した「狂った女」扱いされることもしょっちゅうです。

それに対してこのニンファは、そういうありきたりなステレオタイプを一切背負っていません。ものすごく性欲に対して素直に楽しんでおり、描写としてもそれが彼女の普通の日常になっています。

あそこまで卑猥なトークを堂々とデートで言い放ち、男性すらもタジタジにさせる。ちょっとした発情期の猫みたいです。でもその姿はとても生き生きとしており、実に満足そうです。

性教育を題材にした日本のドラマ『17.3 about a sex』なんかでもそうでしたが、私はこういう性欲を素直に楽しんでいる女性が描かれるのはいいなと思います。


もちろん全ての女性は性に貪欲で奔放であるべきと言っているわけではありません(アセクシュアルな女性もいますから)。ただ、本当に残念なことに現代でも「性欲は男性特有の快楽であり、苦悩である」という100%間違った認識が一部で出回っている中で、いろいろな嫌な目で見られるだろう、こうした女性の性欲を真っ当に描くのは意義が思っている以上に大きいんですよね。

ラストは新しい女性の一歩に

そのニンファですが、物語上は2人の男性との間の板挟みになるラブ・ストーリーです。以前から付き合っているカレシで下手したら自分よりも貧乏でだらしない奴ではあるが、同じ目線で素朴に愛してくれるロジャー。圧倒的な金持ちで自分とはかけ離れた存在ではあるものの、ゴージャスな刺激的な生活を提供してくれるイニゴ。さあ、どっち!?というジレンマ。

この貧乏な男か金持ちな男かという二者択一は、古典的なものであって、例えば『嵐が丘』なんかでも見られるくらいのベタです。

問題はどういうオチになるか。よくあるのは“二兎を追う者は一兎をも得ず”のパターン(本作の場合は犬を追ってるけど)。悲劇的な結末になってしまうことも多々あります。

しかし、このニンファがたどる結末は違います。

まずニンファは比較的旧時代的な“女らしさ”に閉じこもるようなフラグが見え始めます。実は妊娠して出産していたことが判明する妹のリンダ(17歳)に対してずいぶんと厳しいことを言い放ったり。かと思えば今度はそれが自分に降りかかってきて、相談したラジオでも「ニンフォマニアック」として異常でふしだらな女として自己責任の名のもと非難されてしまったり。

ちなみに監督のインタビューによれば、本作の考案のきっかけはふと耳にしたラジオの話だそうで、まさにああやって悩みを抱えて責められている女性を聴いて、そのバックグラウンドを膨らませて本作を作ったのかもしれませんね。

でもニンファはそこからもう一歩前に踏み出します。ロジャーにもイニゴにも言いたいことを言い放ち、どちらとも袂を分かつことに。それは悲劇でも自暴自棄でもなく、女性としての次のステージにも見えるラストです。最終的には(エピローグ的に描かれるだけですが)どうやら自分なりの自立を見いだし、子育てもしつつ、新しい未来を創ろうと奮闘している姿が映し出されます。

コテコテのジェンダーステレオタイプな物語なのかと思っていたのですが、案外と最後の着地はちゃんと作り手も考えていましたね。

ポップな絵の中にフィリピンの現実が

他にも『ニャンてこと!』で面白いなと思うのは、ポップな絵柄の中にふとフィリピンのリアルな社会の実情が入ってくることです。

本作は基本的なビジュアルはものすごくポップです。最初はもっとデフォルメされた頭身の低い可愛いキャラだったらしく、サンリオみたいな感じだったそうですが、それが頭身も上がってより人間味の強いデザインになっています。それが妙にセクシーさを目立たせつつ、ときおり動物っぽい仕草もする。そのアニメにしがいのあるバランスです。

そしてベッドシーンではいきなり劇画風のリアル顔になったり、唐突にバトル漫画みたいな激しいアクション戦闘シーンが起こったり、とにかく遊びまくっています。明らかにポップカルチャーネタもふんだんに取り入れていますし、もしかしたら私がわかっていないだけで、フィリピンの人ならわかる定番ネタもいっぱいあるのかな?

その一方で、フィリピンの社会の生々しい実情も自然に背景に描かれます。そもそもニンファやロジャーといった貧困層と、イニゴのような超富裕層の、残酷なまでの格差社会とか。マニラ首都圏を舞台にしていますが、そこの現実が突きつけられます。また、子どもを宿した女性への社会の風当たりの冷たさとか。終盤に意外な出番があるジェリーという運転手カエルも社会の苦汁を舐めて生きる労働者としての切なさも混ざった味わいがあるし…。

こういうエロティックありのポップさと社会描写を両立するアニメーターと言えば、日本では『夜明け告げるルーのうた』などでおなじみの“湯浅政明”監督などがいますが、この“アヴィッド・リオンゴレン”監督もそのタイプなのかもしれませんね。


フィリピンは実写映画でも『バードショット』『オーロラ 消えた難破船』のように社会のかなり陰湿な暗部を描こうとするセンスを以前から感じていましたから、こういうテイストへのウケはいいのかな。


とにかく淫らで愉快でありながらも、ちゃんと時代や社会を真面目に見ている、小粋な作品でした。フィリピンのアニメーション、これからも忘れずに注目していきたいと思います。

『ニャンてこと!』
ROTTEN TOMATOES
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IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Rocketsheep Studio, Spring Films

以上、『ニャンてこと!』の感想でした。