続編でもニワトリに自由を!…Netflix映画『チキンラン2 ナゲット大作戦』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:サム・フェル
動物虐待描写(家畜屠殺)
チキンラン ナゲット大作戦
ちきんらん なげっとだいさくせん
『チキンラン ナゲット大作戦』物語 簡単紹介
『チキンラン ナゲット大作戦』感想(ネタバレなし)
卵が先か鶏が先か…いいえ、チキンランが先です
クリスマスが近づいてきて、華やかなイルミネーションに心がウキウキしている人もいるかもしれません。私は動画配信サービスがクリスマス映画をどしどし投入し始めると「もうクリスマスなんだな」と実感します。
そんな中、これもクリスマス映画ってことでいいんじゃないか?と思うことにしましょう。
ほら、だって…クリスマスの定番と言えるあの動物が主役だし…。
トナカイじゃないですよ。そっちじゃなくて食卓に並ぶ動物です…。
ということで本作『チキンラン ナゲット大作戦』のお時間です。
本作を語るならあのアニメーション・スタジオの話からしないといけません。「Aardman(アードマン)」を知っていますか?
粘土を用いたクレイアニメによってユーモラスなキャラクターと世界観でいつも楽しませてくれるストップモーション・アニメーション界で一番最初に孵った卵…それがこのアードマン。
1972年にイギリスで設立され、当初は短編を作っていましたが、そのアードマンが大きく羽ばたいたのが2000年の初の長編映画『チキンラン』でした。批評的にも高く評価され、アードマンの名は有名になります。
以降、『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』(2005年)、『ザ・パイレーツ! バンド・オブ・ミスフィッツ』(2012年)、『映画 ひつじのショーン 〜バック・トゥ・ザ・ホーム〜』(2015年)、『アーリーマン 〜ダグと仲間のキックオフ!〜』(2018年)と、愉快な作品を生み出し続けてきます。私も『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』は定期的に見返しているほどに大好きです。
そんな中、2023年、アードマンの原点と言える『チキンラン』の続編が公開になり、それはこの『チキンラン ナゲット大作戦』となります。続編を作るのは2019年の『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』から継続していますが、やはり『チキンラン』はアードマンの歴史的にも特別な一本ですからね。
『チキンラン』は養鶏場の世界しか知らない鶏たちが強欲な養鶏場の女主人の支配に逆らい、そこから脱出を試みるというコミカルでありながら手に汗握るストーリーでした。養鶏場を収容所や刑務所のように見立てており、ほぼ『アルカトラズからの脱出』や『大脱出』のような脱獄モノのジャンルを踏襲したパロディ的な作品になっていました。
シンプルな定番のコンセプトを「ニワトリ」でやってしまうから面白い。アードマンはこの1作目からツボを押さえていましたね。基本的にアードマンは過去作でもそうですが、既存のジャンルを自己流にアレンジするのが上手いスタジオだなと毎回思います。
2作目の『チキンラン ナゲット大作戦』はキャラクターたちはあのままに、同じノリでありながらもスケールは格段にアップ。楽しいことには変わりありません。鶏の限界に挑戦します。あなたの知らない鶏の底力がありますよ。
声を担当する人は主役は一新されており、『レミニセンス』の“タンディ・ニュートン”と『シャザム!』シリーズでおなじみの“ザッカリー・リーヴァイ”の2人が、前作にもでてきた主人公鶏を熱演。
さらに今作からの若い新キャラとして、ドラマ『THE LAST OF US』の“ベラ・ラムジー”が抜擢。
『チキンラン ナゲット大作戦』を監督するのは、『パラノーマン ブライス・ホローの謎』を手がけた“サム・フェル”です。
『チキンラン ナゲット大作戦』は「Netflix」で独占配信となりましたので、寒い冬は暖かい部屋でのんびりとこの鶏たちの奮闘を眺めてください。
クリスマスに命懸けで対抗する鶏たちは大変なんですよ…。
『チキンラン ナゲット大作戦』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2023年12月15日から配信中です。
A:1作目『チキンラン』を観ておくと物語により深く入り込めます。
オススメ度のチェック
ひとり | :気楽に暇つぶしで |
友人 | :のんびり流して |
恋人 | :軽いエンタメ |
キッズ | :子どもも楽しい |
『チキンラン ナゲット大作戦』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ナゲットにされる!
以前は養鶏場が全てでした。鶏をパイに変えるという恐ろしい企てを狙うオーナーのトゥイーディに反旗を翻し、一致団結して飛び立った鶏たち。それは過去の物語です。
鶏のロッキーはそんな自分も経験した昔話を卵に言い聞かせていました。あの養鶏場から逃げた鶏たちは今は人間に見つからない島で楽園のようにのんびり暮らしています。平和で、少し刺激は薄いですが、それでも食われるよりはマシです。
ジンジャーに過去は気にするなと言われますが、ロッキーはあれは栄光だと振り返ります。忘れたくても忘れられないワクワクの瞬間でした。
そんなことを考えていると、見守っていた卵から足がニョキっと生え、転がっていきます。そしてなんとか無事に生まれました。可愛い子で、モリーと名付けます。
モリーはやんちゃで子育てはハラハラの連続。ある程度成長しても危ないことばかりします。柵を作るも穴を掘ってあっさり脱走。その活力はとどまることを知りません。
成長したモリーは島の木の上に登って広々とした世界を眺めます。母であるジンジャーに湖の向こう側に行ってみたいとお願いしますが、過去の養鶏場でのトラウマが蘇るジンジャーが許すはずもありません。
好奇心を紛らわすためにロッキーはいろいろな発明を見せます。ポップコーンなど、ヘンテコなもので多少の暇つぶしにはなります。
これ以上の人生はあり得ないとジンジャーは考えていましたが、モリーは外の世界の危険を知らないので勝手に妄想だけが膨らんでいました。
ある日、揺れが起きます。遠くで森が切り倒されているのが見えます。道路ができ、農場に鶏を運ぶ車も見えるようになりました。
ジンジャーは緊急会議を開きます。新しい道路ができ、不安になる一同。「選択肢はひとつしかない、行動を起こすのよ」とジンジャーは一瞬言葉を溜め、「隠れましょう」と言いきります。てっきり戦うものだと思っていた一同は安心。ジンジャーにとってはモリーのことを考えた結論でした。危険を冒すことはできません。昔とは違うのです。
夜中に草の幕を張って、村を隠します。
しかし、モリーはあの車を見てしまい、車体の絵柄が面白いと呑気。そんな態度にジンジャーはきつくあたり、モリーは自由を求めていたことに少しショックを受けます。
そして夜、モリーは消えてしまいました。幕が一部開いているので島を出たようです。
モリーは道路で車に轢かれそうなところをフリズルに助けられます。フリズルもあの楽しそうなトラックに乗りたいそうです。そんなこんなでモリーとフリズルはトラックに乗ってしまいます。
「ニワトリのハッピーエンド」という看板か立っている施設にトラックは到着。そこは超厳重な警備でした。
ジンジャーたちはモリーを連れ戻すために追いつき、施設に息をのみながらも覚悟を決めます。
今回は侵入するしかない…。
鶏にはこれくらい朝飯前です
ここから『チキンラン ナゲット大作戦』のネタバレありの感想本文です。
前作『チキンラン』が脱獄モノであったのに対し、今作『チキンラン ナゲット大作戦』は侵入と救出のステップを加えて再度脱獄するという難易度が数段アップしています。
鶏にそんな高度なことができるのか? はい、できます。できちゃうのがこのシリーズです。鶏に不可能はたぶんありません。
しかし、それにしたって今回の施設は前作の個人養鶏場のようなこじんまりとしたものではなく、ステージ1-1から終盤ステージに一気に跳ね上がった感じですが…。
施設を囲む柵には高圧電流。野外敷地には複数のセンサーとハイテク撃退メカ。ドアはセキュリティで堅牢。監視カメラもいたるところに設置。要塞として中も複雑。虫1匹、鶏1羽も入る隙がない…ように見える。
けれどもこのジンジャーたちは『ミッションインポッシブル』のごとき、抜群のチームワークと身体能力でこの難攻不落のエリアを突破していき、この単純さがとにかく楽しいです。
扉の虹彩認証の突破も写真でやるという雑さがいいのですが、その後に追い打ちで、マニュアルに基づいて手動チェックで照らし合わせしているとか、あの唐突にぶっこまれるくだらなさがたまりません。
こうなってくるとストップモーションで作っているのを忘れてしまいます。ストップモーションで作っているのですよ、本当に…。
ふざけまくってはいるのですが、施設構造を巧みにみせてくれるあたり、かなりよく練られているなとも思います。まず外から中へという横移動、中では地下に進んでいくような奥へと侵入、さらにサイロに閉じ込められ、あの閉鎖環境の恐怖が再現され…。
しかし、それをポップコーンで打開する。序盤の何気ないポップコーンの登場が伏線になっていましたが、前回の映画が「飛行」というのをひとつのカタルシスにしていたのに対し、今作は一挙に上に噴き上げる快感を与えてくれました。
でもそれで「脱出できました」で終わらないのが本作の良さで…。
今作は序盤からそのスタンスを垣間見せていましたけども、「自分たちが助かればそれでいい」をゴールにせず、「他者でもあるみんなを助ける」…つまりこの体制を打破しようという、権利運動的なアクティビズムへと発展させているんですね。エンディングでは同様の施設への強襲を仕掛けまくる、あからさまに環境正義の側に立っていましたから。
これは2000年の1作目から2023年の2作目へと23年間も経過したことの最大の変化かもしれません。鶏もアクティビストになる時代ですよ。
鶏視点のヴィーガニズム
その「個人的な自由」から「体制打破の終わりなきアクティビスト」へと華麗に変身した『チキンラン ナゲット大作戦』ですが、鶏を主役にしているので当事者性もしっかりあるし、やっぱりユーモラスだけどしっかりしています。
『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』よりも環境正義の観点では隙なく作り込んでいるんじゃないかな。
『チキンラン ナゲット大作戦』では、ジンジャーという雌鶏を軸にしたのも良かったですね。
というのも前作からそうですが、このシリーズの最大のヴィランはトゥイーディ夫人です。これは構図としては家母長制で、今作でもトゥイーディ夫人は新しい夫のドクター・フライを尻に敷きながらサディスティックに鶏を虐待しています。
その古典的なヴィランのトゥイーディ夫人に対峙するかたちで、ジンジャーが「良き母」の枠に型通りになってしまうと残念な流れになるのですが、本作はそこを避けつつ、母じゃなくて活動家というやりがいを見い出す女性像になっていました。
もちろんそこにモリーという新しい世代を混ぜたのも効果的でした。モリーが新しい自由を求めており、ジンジャーがいつの間にか抑圧する側になっていたことに気づかされる展開はベタだけども、そういうものだし…。
まあ、実際の鶏は1日に1個くらいのペースで卵を産むので、あんなに1匹だけを我が子として大切に育てたりしないのですが…(あらためて1日の間に1個の卵を生成できる鶏ってすごいな…)。
その鶏の生産力をずる賢く利用しているのが我々人類の「畜産」というシステムなのであって…。本作の敵はトゥイーディ夫人ですけど、実質は畜産業です。
この『チキンラン』シリーズはヴィーガニズムな映画ですが、今回の『チキンラン ナゲット大作戦』は皮肉もマシマシ。モリーとフリズルが辿り着いた施設内は当初はまるで室内アミューズメントパークのようで極楽です。でも実態は…。
動物の福祉(アニマル・ウェルフェア)の見せかけを風刺するような仕掛けと、科学の誤った利用による恐怖を、鶏視点でたっぷり描き、暴き出してくれます。
結局、トゥイーディ夫人はまたしても鶏に一杯食わされ、ナゲットまみれでやられてしまいます。
私としてはあのままナゲット肉加工機にグチャグチャにされて、人肉ナゲットになってしまって、レジナルド・スミスの外食業へと出荷されてしまえばよかったのにと思うのだけど…。それをやっちゃうとレーティングが引きあがってしまうので無理だったかな…。
皆さん、これからもしナゲットを食べるなら、それはあの憎たらしい夫人の人肉ナゲットだと思いながら口にしてくださいね。無論、大量消費畜産社会にNOを突きつけるなら、ナゲットを食べない選択も当然ありです。クリスマスはチキンもナゲットも無くてもどうにかなりますよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience 92%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix チキン・ラン ダウン・オブ・ザ・ナゲット
以上、『チキンラン ナゲット大作戦』の感想でした。
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