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『アウトポスト』感想(ネタバレ)…スコットの方のイーストウッドが戦争映画に投げ出される

アウトポスト

スコット・イーストウッドが四方八方から追い詰められる!…映画『アウトポスト』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Outpost
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2021年3月12日
監督:ロッド・ルーリー
動物虐待描写

アウトポスト

あうとぽすと
アウトポスト

『アウトポスト』あらすじ

2009年、アフガニスタン北東部の山奥に孤立して置かれた米軍のキーティング前哨基地。ここは四方を険しい山に囲まれた谷底に位置しており、敵に包囲されれば格好の的になってしまうという弱点があった。連日のようにタリバン兵から銃弾が撃ち込まれ、そのたびに誰かが命を落としていくという過酷な環境。そしてついに恐れていた最悪の事態が現実のものとなり、タリバン兵の情け容赦ない総攻撃が開始される。

『アウトポスト』感想(ネタバレなし)

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ロッド・ルーリー監督が切り込む前哨基地

アフガニスタンは長年に渡って戦場となってきましたが、2001年からアメリカと連合諸国がタリバン打倒のために火蓋を切ったアフガニスタン紛争はまだまだ記憶に新しいです。死者の数は数万にもなり、そして何よりもこの戦争はいまだに終焉していません

世界は1年以上続くコロナ禍に疲弊の声をあげていますが、アフガニスタンは20年以上も絶望の中にあるのです。想像できるでしょうか。

もはや開戦の正当性などはうやむやになり、ただいつ終わるかもわからない戦乱に振り回されるのみ。始めるのは簡単、終わるのは限りなく困難。これが戦争なんですね。

しかし、戦場から遠く離れた私たちのような人間はアフガニスタン紛争なんてとっくの昔の話だと片付けているかもしれません。

そこで今回紹介する映画です。それが本作『アウトポスト』

本作は2009年10月3日に実際に起きた「カムデシュの戦い」と呼ばれる米軍とタリバン戦闘員との対峙を映画化したものです。タイトルの「アウトポスト」とは前哨基地を意味します。その名のとおり、本作は圧倒的に不利な立地にある前哨基地を舞台にしています。

どれくらい不利なのかと言うと、最小限の基地が四方を切り立った崖に囲まれているのです。当然ながら攻める敵にはどこからでもこちら側が丸見えで、まさしく袋のネズミ状態。逆に自分たちは敵がどこから来てもおかしくないので守りようがありません。作中で基地の全貌を初見した主人公があまりの不利すぎる環境に絶句しているのですが、ほんと、なんでこんな場所に基地を作ったのか…。実際、主人公のモデルとなった兵士本人も基地の立地自体に批判をしているくらいです。私なんか「崖崩れとか起こしたら簡単に潰せるのでは?」とか思っちゃったのですけど…。

この前哨基地というか罰ゲームみたいなエリアに派兵された兵士の戦いが非常に生々しくリアルに描かれるミリタリー・アクション。この手のジャンルのファンは大満足すること間違いなしです。

『アウトポスト』は硬派な戦争映画になっているわけですが、それも監督は“ロッド・ルーリー”だと知ればわかる人は納得するはず。イスラエル出身の映画監督で、ジャーナリスト家系であり、自身も従軍経験があって、さらにエンターテインメント業界にも鋭く切り込むジャーナリズム活動を見せるなど、忖度のない硬派な人物です。2000年に『ザ・コンテンダー』というポリティカル映画を監督し、アカデミー賞で主演女優賞と助演男優賞にノミネートされる高評価を獲得。とにかく政治系の作品が得意分野です。

その“ロッド・ルーリー”監督が戦争映画に手を出したのが『アウトポスト』であり、内容は兵士目線で密着ドキュメンタリーのような臨場感がありつつも、そこはさすがの“ロッド・ルーリー”監督、根底には結構痛烈な無言の政治批判性を持った作品になっています

俳優陣は、まず“スコット・イーストウッド”が主役のひとりに。彼はクリント・イーストウッドの息子でキャリア初期は細々と父の作品に出ていたりしましたが、今は『ワイルド・スピード ICE BREAK』や『パシフィック・リム アップライジング』など大作で大活躍中。

他にも『スリー・ビルボード』で印象的な存在感を放っていた(広告会社のあの人ね)“ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ”、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでおなじみの“オーランド・ブルーム”(本作では意外な扱いにびっくり)、『ハクソー・リッジ』でデビューしたという“マイロ・ギブソン”(メル・ギブソンの息子)、『ホース・ソルジャー』の“ジャック・ケシー”など、なかなかに濃いメンツ。ものすごく男臭い顔ぶれです。

日本では注目度は低く、劇場公開されても目立っていませんが、意外に隠れた良作だと思います。ミリタリーアクションのエンタメの皮をかぶったジャーナリズムな切り込み、そして男らしさの構造的弱点を突く正確なジェンダー批判…いろいろな深読みのできる戦争映画でしょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(戦争映画好きは必見)
友人 ◯(戦争映画を語りあえるなら)
恋人 ◯(恋愛要素はほぼありません)
キッズ △(戦争なので暴力描写は多め)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アウトポスト』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):ここを守れと!?

アウトポスト(前哨基地)、それは死にに行くような場所。

アフガニスタンの夜。とあるアメリカ軍の兵士たち数名は、緊張した面持ちでヘリコプターで基地に向かいます。楽しい遠足という雰囲気ではありません。全員がこれから自分が踏み入れる場所の危険をわかっていました。

到着したのはキーティング基地。敵となるタリバンがうろついているエリアでありますが、補給線の維持など戦略上重要な拠点でもあり、任務はもちろんこの基地を守り抜くことです。

その任務を受けたのはクリント・ロメシャ2等軍曹を始めとする血気盛んな男たち。住処となるねぐらでは、仲間たちと下品な会話に興じる和やかさもありつつ、ロメシャは緊張も捨てていませんでした。

翌朝。外に出たロメシャはあっけにとられます。到着時の夜は視認できなかった基地の全貌。その場所は切り立った山に四方を囲まれており、その光景を茫然と眺めます。敵に狙われ放題です。

仲間たちと仕事をしていると、前触れなく銃撃を受けます。爆発に身をかがめつつ、すぐに攻撃態勢。見えはしないのですが敵がいると思われる方向に銃弾を撃ち込んでいきます。しっかり仕事しろと仲間に罵声を飛ばしながら、迫撃砲で攻撃。沈黙したようです。

安心する一同。しかし、カーター特技兵は戦闘中に的確に行動できなかったとして怒られます。今の敵は少数。もし大勢だったら…考えたくない最悪です。

そのとき、負傷した兵士に気づきます。かなりの出血。次は自分かもしれない…誰もがそう恐怖を抱きます。

その夜、現場を仕切るキーティング司令官は断続的に起きる攻撃について分析を部下に語ります。なんでも地元民も攻撃に参加しているらしく、まずはその地元民との関係を良好に改善する必要がある…と。とにかく敵になりうる人間の数は少ない方がいいのであり、なにせここでは自分たちは圧倒的に不利なのです。兵士たちは余裕そうな笑みを浮かべていますが、内心では必死です。

翌日、さっそくキーティングと兵士たちは地元民との話し合いの場を持ちます。座り込み、通訳を介して地元の長老に真摯に訴えます。キーティングは「アメリカ軍は侵略軍でない、敵はあくまでタリバンであり、そちらが協力してくれればじゅうぶんな協力金を与える」と堂々と淡々と言います。説得のかいがあったのか、ひとりの地元民はアメリカ軍を信用し、武器を放棄します。他の者もどんどん続いてくれます。グッド・ゲストだとハグしてくれました。

ひとまず脅威は低減できただろうと安心したアメリカ兵たち。しかし、すぐ翌朝、タリバンによる銃撃が発生。油断も隙もあったものではありません。

ある夜、ロメシャとカーターはキーティング司令官とともにトラックで資材の運搬に出ます。そこは切り立った崖の細い道であり、暗いこともあって慎重に前進しないと車が落ちかねません。ロメシャとカーターは、異音がして車を降りますが、ただの鳥でした。ホっと安堵するも、その直後、キーティングの乗っていたトラックは後方で崖から滑り落ち、彼は死亡してしまいました。2人は駆け寄りますが、眼下で炎上する車にどうしようもありません。

突然の司令官の死。すぐに新しい司令官のイエスカス大尉が赴任します。その赴任の初日でも敵の攻撃は休んでくれません。

状況はさらに悪化していき、兵士たちの精神的な疲労は臨界点に達するまでに。司令官が変わるたびに作戦のスタンスも変化し、それについていくのもやっと。そしてついに恐れていた最悪の恐怖が到来することに…。

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慣れさせてからの…

『アウトポスト』は演出の効果が光る一作だったと思います。

本作は戦争映画ながらそこまで派手さが永続するわけでもありません。例えば、戦闘シーンは確かに描かれます。冒頭の基地に到着したロメシュたちを襲う攻撃はやや長めに描写されます。しかし、しだいにその戦闘シーンさえもあっけなく描かれるようになってきます。実際、2度目以降の攻撃は実にあっけなくシーンカットされるように流されます。戦争映画なのに戦闘を描かないなんて普通は物足りなくなるものです。

けれどもこれが上手い効果を与えます。日常→不意の攻撃→日常→不意の攻撃→…と繰り返していくことで、作中の兵士たちは状況に慣れてしまっていく姿が強調されますし、私たち観客さえも慣れ始めますよね。また攻撃ね、はいはい…という感じで。

でもそれこそ敵の戦略なのかもしれない。こうやって断続的に小規模な攻撃を仕掛け続けることで相手を油断させ、最後に一気に攻め込むという作戦。それにあの兵士たちと我々観客はまんまと乗せられます。

戦闘シーンの描写が素っ気ない一方で、唐突なショックシーンはサプライズな恐怖を与えます。

何より最初のびっくりポイントは、キーティング司令官の死。戦闘ではなく崖からの落下死になってしまうとは…。

そして次の司令官となるイエスカス大尉。この人は好戦的で地元民に対しても油断しない姿勢で、これはこれで状況は少し変わるのかなと期待するじゃないですか。ところが例の吊り橋での唐突な爆死。カメラがひいて一瞬でドン!というあの演出もまた怖いです。

こうなってくると3度目の司令官としてやってくるブロワードにも否応なしにフラグがたつもの。でもこの人は割と慎重派…と思ったら地元民の苦情に即決で従い、犬を撃ち殺す非情さを見せるし…。とにかく兵士も観客もここまでの流れでもはや何をどう安心すればいいのかも不明になります。感覚麻痺です。

『アウトポスト』はこうやって観客さえも巻き込んで戦場の不条理を疑似体験させてくるという、実に嫌らしい構成になっているのでした。

ちょっとエヴァンゲリオンの碇シンジかなってくらい、ずっと虐められてますよね、あの兵士たち。上司の司令官にさえ叱責され、戦え!って言われたり、戦うな!って言われたり…。あの基地にはシンジは何十人もいるんですよ…(それは嫌だな…)。

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リスク対策を後回しにしてはいけない

そして『アウトポスト』の見せ場となるのはもちろん終盤の一斉猛攻撃。

ここでキツイのは、この攻撃が来るのはみんな内心ではわかっていたということです。基地の地理的にも一斉攻撃されたらひとたまりもないことも予測できていました。

でもいざその事態が起きることは真剣に考えなかった。希望的観測で「起こらないといいな」という思いだけで、無感情に考えないことにしていた。このリスク管理の後回し…なんか身に覚えがありませんか? みんな、何かしら経験ありますよね。

この場面で最初に事態に気づくのは通訳の人で、攻撃中もしっかり自分の身を守れる場所に避難しています。あれだけ見ると臆病な奴に思えますけど、一番リスクというものを把握して準備していたともとれます。やっぱり通訳しているだけあって、状況のヤバさを前から痛感していたんでしょうね。

一方の兵士たちはどうせ今回も小規模な奇襲だろうと高をくくり、尋常ではない数の敵に包囲されていると自覚した瞬間はもう手遅れ。どんどん仲間はやられ、頼みの車はスタックし、指揮系統も役に立たず、救援もすぐには来ない。

これまでの奇襲を退けてこれたのはアメリカ軍が強かったからではない、たまたま相手の攻撃が本気でなかったからなのでした。

終盤ではとにかく滅茶苦茶に蹂躙されるのですが、カーターは弾薬を運ぶという序盤の失態を挽回するシーンがあり、そこは長回し映像もあって、ややカタルシスをもたらしてくれます。逆に言えばそれくらいしかできないという現実でもあるのですけど…。

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男社会は脆弱だった

で、肝心なのは『アウトポスト』は英雄を称える戦争映画なのかということです。本作はそこまでアメリカ万歳なプロパガンダにはなっていないと思います。というか、かなり痛烈に批判しているでしょう。

それはラストシーンで明白です。基地を守り切り、救援まで耐えたロメシャたち。しかし、基地から離れるヘリから見える光景は、放棄が決定し、味方によって盛大に破壊される基地の姿でした。

あれを見ている顔のなんとも言えない虚しさ。自分たちは結局何のためにあの基地にいたのか…という。

つまり、あの基地の存在自体が失策だったのではないか。上層部、もっと言えば政府の無能さに振り回された自分たちの存在意義。一応は名誉勲章を与えられたと説明されますが、あれだって「勲章をあげるから、ま、結果オーライってことで」という慰めという名の雑な待遇ですよね。失敗を勲章なんてもので誤魔化せると思っているのか。

加えてすごくジェンダー批判的だとも思います。

“ロッド・ルーリー”監督は『ザ・コンテンダー』やドラマ『マダム・プレジデント 星条旗をまとった女神』といい、過去作では実は女性差別を題材にしている人なんですね。反転して男社会の無力さや情けなさを暴露してきたとも言えます。だから『アウトポスト』にもそういうテーマ性があると見るのは変なことじゃないです。

あの基地では男だけで成り立っており、男社会特有の強がり、支配構造で維持されていました。でも戦略的撤退というオチしか待っていない。あんなに威勢よく頑張ったけど、男たちの限界はあっけなく訪れる。その脆弱さ。

救援に来るヘリのパイロットが女性らしき声なのも意図しているのでしょうか。ロメシャも最後は女性にすがり、明らかにPTSDを発症しているカーターは女性を前にまだ必死に男としての虚勢を張ろうとする。息をするのもやっとなのに。

あの基地の男社会では女に頼るのは負け犬の行動。でも男たちだけでは何にもできないでしょ?という現実。本作はそこも容赦なく突いてきます。前哨基地という名の男の空間はそんなもの…。

『アウトポスト』では“ロッド・ルーリー”監督は政治に続いて戦争の“男らしい”仮面を剥がしてみせたのでした。

ところで現在のアフガニスタンはどうなっているのでしょうか。ドナルド・トランプ前アメリカ政権とタリバンが2020年の和平合意で米軍兵士の完全撤収を決めましたが、今、アフガニスタンは最悪の治安になっているそうです。もはや勲章で失策を隠せるようなものではないですね。

ちょうどこの感想記事を書いているとき、日本政府がコロナ禍における緊急事態宣言の解除を決める方針が報道されていました。延長に続く延長の結果、それでも事態を収束できずに、半ば諦めムードで撤退を決める。まるで『アウトポスト』のカムデシュの戦いと同じじゃないですか。最初から負け戦になる失策だったのにそれを認めたくない上の人間と、それにいいように扱われる下の従事者。

どの分野でも前哨基地で働く人は酷い扱いです…。

『アウトポスト』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 82%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2020 OUTPOST PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

以上、『アウトポスト』の感想でした。

The Outpost (2019) [Japanese Review] 『アウトポスト』考察・評価レビュー