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『パピヨン(リメイク版)』感想(ネタバレ)…あの脱獄をもう一度

パピヨン

あの脱獄をもう一度…映画『パピヨン』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Papillon
製作国:アメリカ・セルビア・モンテネグロ・マルタ(2017年)
日本公開日:2019年6月21日
監督:マイケル・ノアー

パピヨン

ぱぴよん
パピヨン

『パピヨン』あらすじ

胸元に蝶の刺青をしていることから「パピヨン」と呼ばれる金庫破りの男は、身に覚えのない殺人の罪で終身刑を言い渡され、南米ギアナの絶海の孤島にある刑務所に投獄される。過酷な強制労働と、横暴な看守たちからゴミのように扱われる日々が続き、脱獄を決意。紙幣を偽造した罪で逮捕された男ドガと一緒に行動を開始するが…。

『パピヨン』感想(ネタバレなし)

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流刑はいつの時代も嫌だ

SNSで育休明けに会社から転勤を命じられた男性の体験談が拡散し、大手メディアにも取り上げられたニュースがありましたが、現代日本における「流刑」みたいだなと思ったものです。

「流刑(流罪)」という手法は刑罰の一種で、基本は「死刑」に次ぐ重い刑です。主に殺せないけど邪魔な犯罪者(政治犯など)を遠方、とくに社会から隔絶されたような環境の地に移して暮らさせる…下手をすれば殺されるよりもツラい所業です。流刑によって文化発展・交流が起きたりしたケースもありますが、本来は相手を苦しめるためのものですから大半は苦痛です。

日本でも流刑は歴史的によく行われていたのは有名な話で、なにせ流刑地に使える島が周囲にいっぱいあります。沖永良部島に流された西郷隆盛とか、最近の大河ドラマでもしっかり描かれていましたね。

そんな流刑にまつわる実在のエピソードを題材にした映画として真っ先に名のあがる代表作が1973年の『パピヨン』です。タイトルは可愛らしいですが、その中身は壮絶。1931年に殺人事件の容疑者としてフランス領ギアナのデビルズ島で無期懲役受刑囚として過ごした経験のあるフランス人の「アンリ・シャリエール」の自伝小説を映画化したもの。

南アメリカ北東部にぽつんとある「ギアナ」という土地(そうは言っても面積は北海道くらいもあるのですが)。この地は1600年代から今日に至るまでフランス領(途中、別の国のものになったこともあります)。そしてもっぱら流刑地として活用されてきました。とくに沖合にある「デビルズ島」という、なんとも物騒な名前の島は重犯罪者を収容する“最悪の場所”。14ヘクタール(東京ドーム約3個の広さ)の狭い場所に個々さまざまな経緯で囚人が集められ、強制的に暮らさざるを得ない状況になっていました。

その地獄を体験したアンリ・シャリエールの自伝小説を映画化した『パピヨン』は知る人ぞ知る名作で、『猿の惑星』でおなじみの“フランクリン・J・シャフナー”監督のもと、赤狩りの迫害を受けたことでも知られる“ダルトン・トランボ”を脚本に迎え、“ジェリー・ゴールドスミス”という名作曲家による素晴らしい音楽を添えて、“スティーブ・マックイーン”と“ダスティン・ホフマン”の名演技が光る…今観ても完璧な座組の作品でした。

そんな脱獄映画の傑作のひとつでもある『パピヨン』が、2017年になんとリメイクされました。それが本作『パピヨン』です。

今になってあの『パピヨン』をリメイクするのかという感じですが、これはいわゆる商業的な受けを狙ったハリウッド的なリメイクとは事情が違うようです。

監督は“マイケル・ノア―”というデンマーク人で、最近、注目が増えている新鋭。この監督、過去に刑務所を舞台にした作品を撮っており、『パピヨン』の原作小説を読んで内容に惹かれたことで映画化に至ったと、インタビューで語っています。かなり監督の想いが強めの企画らしいですね。“マイケル・ノア―”監督は、東京国際映画祭のコンペティション部門に出品された『氷の季節』が審査委員特別賞&最優秀男優賞をとったりしているのですが、私は申し訳ないですけどひとつも監督作を観たことがなく、これが初見になるので、どういう人なのかワクワクしながら観ました。

たぶんこれだけなら日本で劇場公開はしなかったと思うのです。ここでこのリメイク版『パピヨン』の大きな売りになる要素を語らねば。それこそが主役俳優。本作の重要なバディ主人公を演じるのは“チャーリー・ハナム”“ラミ・マレック”です。

“チャーリー・ハナム”は『パシフィック・リム』や『キング・アーサー』などエンターテインメント大作にも出演する人ですが、どちらかといえば『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』などで見られるように肉体改造系の演技で魅せる生っぽい熱演が得意なのかもしれません。『パピヨン』でも非常にインパクトのある肉体演技を披露しています。完全にこういう路線でキャリアを重ねていく気なのかな。

そして“ラミ・マレック”。この人物についてはもう一般層にまで有名になったかもしれない。『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じ、アカデミー賞主演男優賞を受賞した“時の人”。すでにドラマシリーズ『MR.ROBOT/ミスター・ロボット』でエミー賞を受賞しているので、これでドラマ界と映画界をW制覇したことになり、地味ながら凄い躍進を遂げた俳優です。今回の『パピヨン』は『ボヘミアン・ラプソディ』前に撮った映画ですが、やはり“ラミ・マレック”の演技力の高さがいかんなく発揮されています。『ボヘミアン・ラプソディ』時は主演男優賞にふさわしいかについて疑念の声を挙げる人も一部でいましたけど、やっぱり私はこの俳優はじゅうぶんな才を持っていると思います。

ということでリメイク版であり、しかも2017年の映画を日本では2019年に公開という、二重の今さら感はありますが、映画ファンは見逃せない一作ではないでしょうか。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(元映画を知らないならぜひ)
友人 ◯(見ごたえのあるスケール)
恋人 △(恋愛要素はほぼない)
キッズ △(大人向けかつ重いドラマ)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『パピヨン』感想(ネタバレあり)

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幼虫から蛹、そして蝶へ

舞台は、1931年のフランス、パリ。この頃のパリは第一次世界大戦も終結し、再び華やかな繁栄を取り戻すかに見えましたが、世界恐慌が起こるなど社会的にも政治的にも不安定でした。なのできっと警察もピリピリしていたでしょうし、アンリ・シャリエールが強引に殺人犯として逮捕されるのもわからないでもない(無論、理不尽には変わりないですが)。

そのアンリ・シャリエールは、胸に蝶の刺青を入れていることから“パピヨン”と呼ばれていました。「パピヨン」はフランス語で“蝶”のこと(そういう名前の犬種もありますが、あれは耳が蝶みたいだからそう名付けられました)。当人は子どもの頃に母親を亡くし、恵まれない貧困下での暮らしを余儀なくされており、そういう人生からの解放を願いにこめての“蝶”なのだとしたら、納得ですね。

仕事にしている金庫破りを終え、恋人と一夜を過ごし、翌朝。ろくな説明もなく警察が押しかけ、殺人の容疑で逮捕。そのまま問答無用でフランス領のギアナへ連行されます。場所は南米なので当然、船での連行。その船内でアンリはルイ・ドガという男と出会います。このルイはなんでも紙幣偽装が得意らしく、他の囚人からは金を持っていると思われており、平気で弱肉強食の殺戮が横行する船内で命の危機を痛感。明らかに腕っぷしの強いアンリと協力することに決め、一種の共依存関係を構築します。

ギアナの監獄到着後は、このアンリとルイのバディ映画的な部分が物語の先導力になります。戦闘力が高く、意外に義の心にも厚いアンリ。学があって賢いけど、臆病でゆえにヘマもするルイ。この凸凹コンビが互いを支え合って、まずは過酷な監獄を生き抜くことに徹し、やがて脱獄を画策する。家族のいないアンリにすれば、一種の疑似家族的なモノであり、蝶になる前の幼虫の段階での共生とも例えられますね。

そんな二人ですが、脱獄のチャンスが何度か訪れるも、ことごとく失敗。そのたびにアンリには独居房という厳しい孤独が待ち構えます。とくに処刑された遺体を廃棄している際に、ルイが動転して看守に暴行されているのを見かねたアンリがその看守を殴打して、逃げ出した一件の後。独居房での絶望的な環境は、一種の幼虫が蛹になるような光景にも見えます(実際、蛹は餌を食べませんし)。

一度は脱獄に成功するも、今度は船が嵐で流され、コロンビアに流れ着き、そこでまた逮捕された二人が収容されたのは、例のデビルズ島。ギアナ本土の監獄よりもはるかに地獄のような孤立無援の世界で、ほぼ野生状態のように生きるしかない状況。一足先にこの地に送致されたルイは半ば諦めたようにここでかろうじて生きていましたが、アンリは再び闘志を燃やします。そして、海に無数のココナッツで作った“浮き”を浮かべて、思い切って崖からダイブ。アンリは脱出に成功し、ルイはその姿を見届けたのでした。

まさに蝶になることができたアンリと、幼虫のまま生きることにしたルイ。生き方は違えど、互いの存在に勇気をもらったのは確か。

あらためて本作のシナリオはカタルシスを含めてよくできているなと思いました。

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独自の魅力もあるキャスト陣

2017年のリメイク版『パピヨン』を鑑賞すれば、当然のように元映画である1973年の『パピヨン』と比較したくなるというものです。逆にオリジナル版を観ていない人は新鮮な気持ちで観られるので、少し羨ましいですね。

で、元映画を鑑賞済みの人ならわかるとおり、このリメイク版、かなり元映画のストーリーに沿っています。原作があるのでてっきりかなりアプローチを変えてくるような差別化でもしているのかなと思ったのですが、案外、そうでもありませんでした。

何を描くか、展開の仕方…それらはほぼほぼ同じ。しいていえば、元映画の上映時間は150分、リメイク版は133分で、少しシャープな構成になってり、テンポ感はアップしているというくらいでしょうか。もともと題材にしている実話がかなりのタイムスケールのある話なので、余計にギュッと凝縮して描かれることになり、ワンシーンワンシーンの重みが増したかもしれません。

となると、やはり一番の違いであり、魅力は出演陣です。

アンリを演じた“チャーリー・ハナム”ですが、元映画の“スティーブ・マックイーン”に負けない熱演で良かったです。今回は囚人同士が戦うシーンなど、前作に比べてやはりイマドキのハッキリと戦闘を映す場面が多くなるわけですが、その映像にもしっかり耐えうる肉体的存在感は、さすがの“チャーリー・ハナム”。いくら肉体派とはいえ、この役を今のハリウッド界を賑わせる格闘技畑の俳優たちにやらせたら、ただのチート級に強い人になっちゃいますから。その点、“チャーリー・ハナム”ならリアルを維持したまま、筋力的な強靭さを体現できる。良いキャスティングです。また、独居房でのガリガリに痩せこけていく姿など、肉体変化のインパクトも凄いもの。本人はインタビューで相当大変だったと語っていますが、そのぶんの説得力あるものに仕上がっていました。

一方のルイを演じた“ラミ・マレック”は、個人的には元映画の“ダスティン・ホフマン”以上に好きかもしれない。なんというか多彩さが増していて、単純な気弱なキャラを超えた深みを随所に醸し出していました。最初の前半部分の絶妙にダメダメな感じもいいですし、アンリが独居房で幻覚を見る際の、道化姿の異様さとか絶対に“ラミ・マレック”にしか出せない味でした。どこかの子どもをさらうピエロと対抗できるレベルですよ。それからの一転して監獄内で上手く立ち回り経理を担当することで居場所を得ているルイの姿のギャップがまたいい。こうやって上手くギリギリのラインの上で他人のパワーにしがみついて生きてきたんだろうなと思わせる感じがナイス。こうやって考えると『ボヘミアン・ラプソディ』のあの主人公役はパワー全開であり、“ラミ・マレック”のフィルモグラフィーで演じてきた抑圧キャラの鬱憤を吹き飛ばす解放感があったんだなと実感します。どうせなら『パピヨン』を見た後に、『ボヘミアン・ラプソディ』を観たかったなと思ったりも。

他のキャラだと、脱獄に協力するセリエを演じた“ローラン・モラー(ローランド・ムーラー)”。この人、“マイケル・ノアー”監督作によく出演している俳優さんらしいですが、あの『ヒトラーの忘れもの』で主役軍曹を演じた人だったんですね。気づかなかった…。

他にも憎き刑務所長を演じた“ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン”というオランダの俳優。一種の暴力とは異なる無慈悲な権力の横暴を体現する存在感で、作中でも良いアクセントになっていたと思いました。

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結論:ココナッツは偉大

そんなこんなでリメイク版にもそれなりの新しい魅力はあるのですが、いかんせんオリジナルとの大差がないのは少し退屈ではあります。

どうせ実話なのですから、開き直ってもう少し冒険して新しい見せ方もしても良かったのではと思いますが、やっぱり原作小説の時点で完成度が高く、それをさらにブラッシュアップして映画化したオリジナルは揺るがないほどのパーフェクトすぎたのか。

そもそも原作小説の段階ですでに結構脚色されているのですよね。どこまで真実でどこまで話を盛っているのか、それはアンリ・シャリエール本人しかわからないのですが、事実と異なる点は前からよく指摘はされる映画でした。

例えば、一番の大きく印象が異なるであろう改変といえば、クライマックス。断崖絶壁からアンリが飛び降りて脱出をする最高にテンションMAXな見せ場。この映画には欠かせない要素であり、オリジナルでもリメイクでもやはり白眉になっています。しかし、実際のデビルズ島にはあんな断崖絶壁はないそうです。確かにネット上に転がっているデビルズ島の写真を見ると、普通のよくある小さな島で、なんか海面上昇とかしたら容易に水没しそうな貧弱そうな感じ。でも、やっぱりあの崖飛び降りがあるから、この映画は成り立っているし、外すわけにはいかない。

あらためて映画というもののマジックだと思うのです。嘘を堂々とついてもいいから、観客を感動させさえすれば勝ちだと。それが倫理的にマズいと問題だとは思いますが、それ以外でなら映画なんですから、フィクションのアレンジをぶっこむのは大いに結構。そう私は思っています。

ただ、その結果、割と完成度を限りなく100%に上げてしまった元映画がある時点で、リメイクのできることはかなり限られてきます。“マイケル・ノア―”監督的には自分なりの映画作りでこの物語に触れたかったのでしょうけど、観客としては“まあ、こういう亜種もあるよね”くらいの気楽な見方でいいんじゃないですかね。

それにしてもココナッツは偉大だなと。生まれてこの方、まだ一度もココナッツをまともに食べたことのない私は、本作を観て勝手なココナッツ・リスペクトを増大させるのでした。

『パピヨン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 51% Audience 65%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

以上、『パピヨン』の感想でした。

Papillon (2017) [Japanese Review] 『パピヨン』考察・評価レビュー