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『レッド・ロケット』感想(ネタバレ)…アメリカのポルノを再び偉大に

レッド・ロケット

そう男は奮い立っていた…映画『レッド・ロケット』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Red Rocket
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2023年4月21日
監督:ショーン・ベイカー
性描写 恋愛描写

レッド・ロケット

れっどろけっと
レッド・ロケット

『レッド・ロケット』あらすじ

2016年のアメリカのテキサス。元ポルノスターでいまは落ちぶれて無一文のマイキーは、故郷である同地にふらっと舞い戻ってくる。頼れるのはそこに暮らす別居中の妻レクシーと義母リル。あからさまに嫌われながらも、なんとか彼女たちの家に転がり込んだが、長らく留守にしていた故郷に仕事はなく、昔のつてでマリファナを売りながら生計を立てる。そんなある日、ドーナツ店で働くひとりの18歳間近の少女との出会う…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『レッド・ロケット』の感想です。

『レッド・ロケット』感想(ネタバレなし)

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Make American Porno Great Again

2023年3月、アメリカのドナルド・トランプ前大統領は起訴されました。元ポルノ女優との不倫関係について2016年大統領選の直前に口止め料を支払ったというのが、表面上の論点です。捜査当局はこれがさらなる隠れた大きな犯罪追及への入り口になると考えているようです。口止め料の支払いを担当したとされる弁護士は2018年12月に選挙資金法違反を含む複数の罪状を認めて有罪となり、禁錮3年の実刑判決を受けているので、いろいろと証拠も出揃っているのでしょう(BBC)。

かつて大統領だった人物が起訴されるというのはアメリカ史においても激震の出来事ですが、そのきっかけがポルノ俳優だというのも印象的。

ただ、アメリカではこうやってポルノ俳優が誰かを訴えて大きなニュースになるのはそんなに珍しくなく、むしろアメリカのよくある風物詩と言えるかもしれません。

ここにもアメリカらしい「“下”にいるものが“上”に対する体制などに公然と立ち向かう」みたいな精神性を感じなくもない…。たとえ「ポルノ」のような社会に“下”に見られかねない存在であっても“やられっぱなし”では終わらないぞ…という反骨精神のような…。

そんな中、2023年時点での「ドナルド・トランプ前大統領がポルノ俳優絡みで起訴される」という近況にある今、今回紹介する映画は奇妙な因縁か偶然の産物か、なんだか絶妙な立ち位置の作品になってしまいましたね。

それが本作『レッド・ロケット』です。

『レッド・ロケット』はまさにドナルド・トランプが大統領選に出馬を表明して選挙運動をしている真最中の2016年のテキサス州が舞台です。その地元にしばらくぶりに帰って来たひとりの男が主人公で、彼はポルノ俳優だった過去があり、この地元に舞い戻ってまた仕事を見つけようとする傍ら、あるひとりの若い女性に釘付けになり…という話。

この主人公が、まあ、何と言いますか、とにかくテキトーな奴で、口だけでゴリ押しして生きてきただけのような人物であり、どことなくドナルド・トランプにも重なるようにも思えます。しかし、この男はトランプと違って資産なんてゼロ。そんな男がこのテキサスで再起できるのか?…という物語でもあります。

『レッド・ロケット』を監督したのは、今やすっかりアメリカのインディペンデント映画界の有名トップランナーとなった“ショーン・ベイカー”。直近の新作映画である2017年の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』も高評価で、私も心を掴まれました。

その“ショーン・ベイカー”監督の待望の最新作となった『レッド・ロケット』ですが、2021年の映画なのですけど、日本では2023年4月公開。ちょっと遅いよって感じですが、観れたから良し。

今作は“ショーン・ベイカー”監督作としては久しぶりの男性の主人公ですね。それにしても2012年の『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』から、2015年の『タンジェリン』、そして『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』と、“ショーン・ベイカー”監督はずっとセックスワーカーを描いてきています。題材として好きなのかな…。

『レッド・ロケット』で主人公を演じるのは、“サイモン・レックス”という男性で、実は俳優として当初はキャリアを積んでいたものの、過去に出演したポルノビデオが流失した件で作品から降板を余儀なくされたりと、『レッド・ロケット』のキャラクターと交差する背景のある人でもあります。だからなのか、本作でも非常に自然体で演じており、“ショーン・ベイカー”監督のキャスティング・センスがまたしても冴えわたっています。“サイモン・レックス”は今作の演技が称賛され、インディペンデント・スピリット賞で主演男優賞に輝いています(次年からジェンダー区分が無くなったので最後の主演男優賞受賞者です)。

さらにこの“サイモン・レックス”のお相手役として抜擢された“スザンナ・サン”も、よくぞ見い出してきたなという逸材で、初の長編映画出演ながら輝きが段違いです。すでに話題のドラマ『THE IDOL』にも出演決定済みであり、今後も何かとバズりそうな若手ではないでしょうか。

なお、『レッド・ロケット』はこの中年男の主人公が、未成年から脱したばかりの“ほぼ未成年”みたいな少女と、恋愛・性的関係を持つ話が主軸にあるので、そこだけは留意が必要かなと思います。レーティングが「R18+」指定なことからもわかるように、ガッツリ性描写があるし…。大人と未成年の恋愛模様という点では『リコリス・ピザ』に通じますが、『レッド・ロケット』はロマンチックというよりはもう少し皮肉寄り(少しどころではないかも)なので、そこは作り手もわかったうえでのプロットなのでしょうけど…。

男が股間の”それ”をずっとプラプラさせているような『レッド・ロケット』ですが、“ショーン・ベイカー”監督の世界観演出は健在ですので、興味ある人はどうぞ。

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『レッド・ロケット』を観る前のQ&A

✔『レッド・ロケット』の見どころ
★主人公のどうしようもないダメっぷり。
★独特で自然な撮影のセンス。
✔『レッド・ロケット』の欠点
☆未成年に近い若い女性と関係を持つ内容。
☆上映時間が130分とやや長め。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:シネフィルなら注目
友人 3.5:やや長いけど
恋人 3.0:かなり恋愛として斜め上
キッズ 1.0:R18+です
↓ここからネタバレが含まれます↓

『レッド・ロケット』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):ドーナツよりも甘い出会い

バスでまどろう男。マイキーはバスを降りて、たいして荷物も無くラフな格好で歩き、まっすぐある家に。ドアを叩こうとしますが少し躊躇。電話をかけ、でた相手のレクシーという人に「サプライズがある」と伝えます。レクシーは妻の名です。

そしてでてきてドアを開けたのは老いた女性。義母のリルです。「サプラ~イズ、マイキーだ、覚えている?」

たいして驚きもせずにリルはレクシーを呼びます。レクシーが顔をだすと、大袈裟な身振り手振りでもう一度「サプラ~イズ」と言ってみせるマイキー。レクシーは喜びもせず「なんでここにいるの?」と困惑。マイキーが家に入ろうとすると、すぐに「入らないで」と止めてきます。

マイキーは陽気で肝心なことは何も話しません。「出ていって」と言われ、「警察を呼ぼうか?」と脅される始末。2人は外で距離を置いて口論し、ぐだぐだと会話は続き、ついには「シャワーだけでも入らせてくれ」とのマイキーの懇願に折れて、結局はマイキーは家の中に入ります。

その家の中でも早口で喋り続けるマイキー。レクシーはほぼ無視。リルが一応聞いてくれますが、どうでもいい話題ばかりです。

服をテキトーに確保し、自転車で外へでるマイキー。あちこちで仕事はないかと交渉します。その中でマイキーはロサンゼルスでポルノスターとして働いていたと説明。みんなその言葉を聞くと、微妙な反応です。「マイキー・セイバーで検索してくれ」と本人は気にしませんが、彼を雇うことを口々に拒否されるだけでした。

そこで今度はある家に。そこにはマリファナのディーラーであるレオンドリアがいて、やはりマイキーはここでも気楽に挨拶。レオンドリアの娘のジューンも警戒した目つきを向けますが、そこでマイキーはマリファナを売ってみせるといくつか持っていきます。

そのマリファナを見事にさばいてみせたマイキーは、お祝いにとレクシーとリルをドーナツショップに連れて行きます。そこでマイキーはカウンターで働く若い女の子の目を見て固まります。

その子は水曜日に働いているそうで、通いつめ、話しかけることに成功。彼女は自分を「ストロベリー」と呼んでと言い、3週間で18歳だとも言います。無邪気で人懐っこい子です。

マイキーはこの子とならば新しい夢に進めるのではないかと有頂天になり、せっかく再開したレクシーとのセックスにも気合いは入らなくなり、あのストロベリーのことで頭がいっぱいになります。

そんなマイキーの思い描く甘い理想は本当に手に入るのか…。

この『レッド・ロケット』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/05に更新されています。
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信頼できないオッサンの目線

ここから『レッド・ロケット』のネタバレありの感想本文です。

『レッド・ロケット』は観ていてまず何よりも目につくのが、主人公であるマイキーのあまりにも雑な存在感です。

冒頭、どこかコンビニにでも行ってきただけかのような、ラフすぎる服装で、しかも鞄ひとつも無しで、このテキサスの地に舞い戻ってくるシーンからして、「なんだこいつ」という空気がムンムンと漂っています。

そして妻であるレクシーの家に着いてからのあの対応のされ方がまた無慈悲で…。「なにお前?」みたいなゴミを見るような目つきで反応されるのですが、あそこからわかる、とにかくこのマイキーには人望というものが皆無なんだなという漠然とした事実。あの家は外で犬を飼っていますが、もはや犬以下ですからね、当初は…。

それでもなお、あのマイキーは凄まじい嫌われっぷりのアウェイ状態のホームで、ヘラヘラしながらしつこいセールスマンのように粘ってなんとか家に足を踏み入れる。出だしのサプライズがグダグダで失敗しているあたりも含めて、とにかく痛々しく惨めな男だということだけがこちらにも伝わってきます。

『レッド・ロケット』はこのマイキーの人生について正確に理解できる説明はありません。みんなそのことに突っ込んで言及しないからです。話すほどのネタすらもないのか…。

マイキーは自分はポルノスターだと言ってますけど、それもどこまで本当なのかあやふやです。ポルノ関係の仕事をしていたのは事実でも、スターというほどではなかったのではないか。少なくとも仕事が上手くいっていなかったからここに来たはずですし…。というか、この男はよく17年もテキサスを離れて生存できましたよ…。

表面上は取り繕うマイキーですが、彼の罪悪感がチラっと見えるのが、ロニーとの一件。この髭の彼だけは妙にマイキーにフレンドリーなのですが(でもマイキーはあまり覚えていない様子)、ロニーがモールで退役軍人のふりをしているところを目撃し、マイキーは複雑な顔を浮かべて去ります。偽る人間の虚しさを外から眺めて、自分自身も指摘された気分になって嫌だったのか…。ロニーが事故の責任を全部被って逮捕されたときの、あのマイキーのガッツポーズの舞いとか、ほんとクソですよ、こいつ。

マイキー自体がアイデンティティというものが希薄で、常にふらふらとその場しのぎだけで生きている感じがします。作中でトランプの映像がテレビに映ったり、さすがテキサスらしい光景が見られますが、このマイキーはたぶん政治とかに本心では興味もないでしょうね。

そして彼自身にはスキルもない。仕事柄セックスだけは上手いのかもしれませんが、それも今はバイアグラに依存するしかなく、それすらも消えかけている…。となるとこのマイキーに残るのはなんなのか…。

おそらくマイキーもこの年になっても「自分が何者で、何をしたいのか」という疑問にひとつの答えもだせずに来てしまった…そういう人間なのでしょう。

“ショーン・ベイカー”監督は信頼できない目線で世界を映すのが上手いクリエイターで、前作は子ども目線でそれをテクニカルにやってみせていましたが、今回は「信頼できないオッサン」目線という…。

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オッサン目線で美化された女の子

その信頼できないオッサンであるマイキーが、この冷たいホームの地で光を見い出したのが、ドーナツショップで働くストロベリーという女の子です。

最初の出会いはベタすぎるほどに“ひと目惚れ”なシーンになっているのですが、このストロベリーはあと3週間で18歳になるというこれまた都合のいい年齢になっています。若いけどギリギリ未成年にはならない、そんな子が3週間後にはできあがっている。水曜に勤務しているので3回通えばいいだけ。

しかもこの子はなぜか妙にこの、言っちゃわるいですけど人望ゼロのマイキーにとことん優しくしてくれて、ただの見てくれもダサいオッサンなのに嫌がりもしないし、自分から性的に仕掛けてくれるし、全部がマイキーの理想どおりに事が運びます。

それこそ「マニック・ピクシー・ドリーム・ガール」がオッサンに舞い降りたような天使です。

これは何なんだ?という感覚で観ていくことになるのですが、ラストでひとつの一線を超えます。完全にまたも一文無し状態に戻ったマイキーが、家も追い出され、それでも辿り着いたストロベリーの家。そこで彼女はセクシーな赤いビキニで誘うようにドアの前でポーズをとってくれている…。

これはマイキーの瞳がじっと映される演出といい、非常に虚実不明な扱いになっています。もしかしたらストロベリーはマイキーの中の虚構の存在か…どこまで実際の出来事だったのか…。

確かにあのストロベリーのやけにポップな家もいかにも嘘くさいものでしたからね…。ストロベリーの言動もマイキーの理想ありきで、ストロベリー自身のリアリティはありませんでした。

一方であのマイキーの妻であるレクシーはなかなかに生々しい女性の描写になっており、どうしようもない夫に熱烈な愛など欠片もないものの、性の相手としては消費してやらんでもないという、結構開き直った付き合いをしています。演じた“ブリー・エルロッド”の佇まいがまたいいですね。

甘すぎる夢しか追いかけられない中年男の虚しさ、そんな男を賢く活用しながら生きている中年女のたくましさ。

本作のタイトルの「レッド・ロケット」とは、犬のペニスを意味するスラングです。同時に保守的な政治カラーの赤を意図し、それが一発成功の象徴たるロケットと繋がることで、とてもアメリカン・ドリームっぽい題名とも受け取れます。

星条旗の巻紙で一時的に儲けられても、最高の夢に届くわけではない、いや、そもそもその夢には現実性なんて1ミリもないんじゃないのかと突きつける。けれどもセクスプロイテーションなエンターテインメントはそこに希望的観測を抱かせる余地を与えてしまう。そんなアメリカン・ドリームの現実を、“ショーン・ベイカー”監督はテキサスを舞台に巧みに表現していました。

『レッド・ロケット』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 75%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED. レッドロケット

以上、『レッド・ロケット』の感想でした。

Red Rocket (2021) [Japanese Review] 『レッド・ロケット』考察・評価レビュー