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『浮き草たち』感想(ネタバレ)…どんくさい若者たちの可愛らしい恋物語

浮き草たち

どんくさい若者たちの可愛らしい恋物語…Netflix映画『浮き草たち』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Tramps
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信
監督:アダム・レオン
恋愛描写
浮き草たち

うきくさたち
浮き草たち

『浮き草たち』物語 簡単紹介

貧乏な家庭の中に埋もれて希望の見えない生活から脱せずにいる青年ダニーは、ある日、不良の兄から仕事を頼まれる。その仕事とは、ブリーフケースを持って運転手と車である場所まで行って、別のブリーフケースと交換するというもの。絶対に何か面倒な事情があると容易に推察できるものだった。願わくば関わりたくない。嫌々ながらも引き受けたダニーの前に現れた運転手は同年代の若い女性だった。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『浮き草たち』の感想です。

『浮き草たち』感想(ネタバレなし)

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こんな恋の始まりもある

人間、何がきっかけで恋が芽生えるかはわかりません。“体が入れ替わったり”、“宇宙船に閉じ込められたり”…そんな大仰な出来事がなくても、“些細なこと”でもじゅうぶんです。

でも、本作『浮き草たち』で描かれる出会いは、“些細なこと”と片づけるにはちょっと普通から外れているかもしれません。

本作の主人公ダニーはポーランド系移民の家庭育ち。あまり生活力のない母や兄に囲まれながら、必死に仕事をして貧しい暮らしから抜け出そうとするも全く先の見通しはゼロ。そんなとき、兄から電話があり、警察に捕まったから代わりに自分が引き受けていた仕事をやってくれと頼まれます。その仕事はバックを運んで、駅のホームで女性の持っている別のバックと交換して持ってくるという内容。どう考えても怪しい。さらに、バックの中身はわからないし、詳細も教えてくれない。ますます怪しい。結局、断る間もなく、高額報酬につられるかたちで引き受けてしまうダニー…。

こんな導入で始まる物語が恋愛ものだと思うでしょうか。むしろ、サスペンス・スリラーなんじゃないかと疑うほうが普通です。

でも、ちゃんと恋愛につながるのです。しかも、初々しいラブ・ストーリーになっていきます。雰囲気としては「友達以上、恋人未満」なひとときを描く作品と思ってよいでしょう。個人的にはリチャード・リンクレイター監督の『ビフォア』シリーズの一作『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』に近いと思います。それよりも、どんくさい恋物語で、とても共感しやすい映画でした。イチャイチャorベタベタした恋愛が苦手な人でも観やすいのではないでしょうか。

監督の“アダム・レオン”は、デビュー作『Gimme the Loot』がサウス・バイ・サウス・ウェスト映画祭で審査員特別賞を受賞した才能あふれる期待の新人。本作は2作目です。映画界からは「若者の心理をリアルに捉え、困難な状況を設定しつつもユーモアを忘れず、クールな映像と音楽の組み合わせにセンスを発揮し、爽やかな後味をもたらしてくれる」と評されるとおり、本作もとても飲み心地の良い映画になっており、万人にオススメできる作品です。80分ちょっとと短いのですぐ観れます。

たまにはインディペンデント映画も良いですよ。Netflixで配信中です。

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『浮き草たち』を観る前のQ&A

Q:『浮き草たち』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2017年4月21日から配信中です。
日本語吹き替え あり
浪川大輔(ダニー)/ 中村千絵(エリー)/ 小松史法(ダレン)/ 丸山壮史(スコット)/ 祐仙勇(ジミー)/ 田所陽向(ラッセル)/ 宮崎敦吉(ウェレンゴ)/ 白川りさ(ヴィネッサ)/ 水野ゆふ(イヴリン)/ 森優子(リリー) ほか
参照:本編クレジット
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『浮き草たち』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『浮き草たち』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):失敗した…

パソコンで競馬の中継動画を流して、集まったオッサンたちから取り分としておカネを稼いでいるダニー(ダニエル)

食事を作って母と席につきますが、兄のダレンは来ません。すると電話。兄からです。なんでも窓ガラスを割ったとかで一晩勾留されているらしく、代役で明日仕事をしてくれと言われます。

「ある男の車でカバンを運んでほしい。報酬は1500ドル」「中身は?」「知らない」

絶対にやりたくないと断るも、「母に代われ」と言われ、母は何か話し込んだ後、「ダニエル、兄を手伝いなさい」と言ってきます。有無を言わせず、従うほかありませんでした。

仕事の詳細を聞きます。まず緑のバッグを持った女がベンチに座っているそうで、自分のカバンと交換することになっているとのこと。でも誰の車に乗ればいいのか、それは聞けずじまい。

翌日。目を覚まして食事を終え、バイトも終え、さっそく例の仕事に向かいます。指定の場所に到着。赤い車をチェック。すると後ろから赤い服の同年代くらいの女性に話しかけられます。「乗って」と言われ、車に。

車内では会話無し。しばらく走行し、待機。「どんな奴が来るのか、知っているの?」と聞きますが、その女性も知らないようです。

そのとき、急に男がやってきて「エンジンを止めずに後ろの窓を開けておけ」と指示してきます。そして、男がカバンを窓から放り込み、去っていきます。急いで車を発進させ、ダニーは降りてブリーフケースを駅へ。ベンチに座っている女性を探し、それっぽい人を見つけたのでそっと近くにカバンを置きます。続いてサッとその女性のカバンを持ち去り、交換に成功し、電車に飛び乗ります。

よし、これで仕事終わり…と思ったら電車の窓から別のベンチに座った女性と目が合います。その女性は緑のバックを持っている…そう言えば交換するのは緑のバックか…。失敗した…間違えた…自分の大失態に気づいて電車内でオロオロするしかできないダニー。

急いで電車を下車してダッシュ。元の駅に戻りますが、もうそこには女性はいません。すると階段のところで車を運転してくれた女性と遭遇。困っていたので「どこか連絡先はないか」と質問しますが、無視してきます。

「君だって1500ドルもらえなくなるぞ」「あんた1500ドルもらえるの?」

女性はスコットという男に電話し、報酬が少ないことに苦情を言い、上乗せしてくれるなら仕事すると交渉します。「ブリーフケースを届けて、今夜そのダレンを連れて来れば、奴の分け前もやる」

女性は納得し、電話を切ります。ダニーも同行することに。カバンに入っていた薬の住所を参考に、電車に乗る2人。

「俺の名前を知りたい?」「君の名前は?」「あんたに言いたくない」

大丈夫か、この2人…。

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可愛すぎやしませんか

ハリウッド映画の恋愛にありがちなご都合主義ってあるじゃないですか。

お前らは性欲しかないのかと言わんばかりの、出会って即、恋に落ち、キス、そしてセックスの怒涛の流れとか。どうしてそんなことスラスラと口からでてくるんだよとツッコミたくなる、おしゃれな気の利いた会話とか。

対する本作『浮き草たち』はその真逆。主役の男女のダニーとエリーは、本当に現実にいるような私たちと等身大の不器用な若者です。大作映画みたいなドラマチックなロマンスとか完全に「何それ?」状態です。恋愛に興味ないわけじゃないけれど、そんなガツガツもできない。そんな二人の仕草や掛け合いがとにかく可愛い。

仕事頼まれて早々、バックを間違えて交換しちゃったダニー。ちなみに、ここの慌てっぷりも可愛い。ドリフのBGMが聞こえてきそうなギャグチックな場面に、可哀想と思いつつ、笑ってしまいます。

この後、エリーと共に交換するはずの本物のバックを探すプチ旅行が始まります。ここでの道中の他愛もない会話が本当に他愛もなくていいですよね。同年代の人と初めて会ったら絶対言いそうな会話です。「出身は?」「職業は?」「友人は?」「恋愛は?」…このへんは定番。そして、その後は続かない。依頼された仕事の詳細はわからないし、他に広げようもない。特段気の利いた会話をするでもないし、無理してひねり出そうとしても上手くいかない。あげくにダニーは「可愛いよ」と脈絡なくストレートな褒め言葉を言ってしまい、焦ったエリーは「私の経験人数は7人よ」と意味なくプライベートを暴露し出すというコミュニケーションの暴投。会話のキャッチボールになってない…でもそこが可愛い

その後、バックにあった住所から家にたどり着くもそこにはバックはないと判明。住人が来たので家から慌てて逃げ出す二人。基本、この二人、慌ててる姿が可愛いです。寝泊まり場所にした小屋で「寒い」「じゃあ、温め合おうか」というベタなやりとりをするも、互いに照れ過ぎてとくにそれ以上の踏み込みはないのが、天然記念物級に愛らしい

翌日、他人の家からエリーは明るい感じの服を拝借して、ダニーはひげをそるという、これまた「初デートか!」と言いたくなるくらいの初々しさを見せる二人。「ひげ、そったよ」というダニーに対するエリーの「ひげ、あったほうがいい」の返し…なんだこの可愛い会話

そして、なんだかんだでバックを取り戻し、二人は別れます。エリーのことで頭がいっぱいで、食事を焦がす(というか炎上させる)ダニーのドジっ子っぷりと、なんだかんだで自分のもらった3000ドルから半分をダニーに渡してあげるエリーのデレっぷりも、微笑ましすぎます

ラストは、追いかけてきたダニーのぎこちないキスに動揺しながら「今から始めない?」と言うエリーと「ここから始めよう」と言うダニーで終わりますが、ぜひとも幸せになってほしいと願うばかり。
そんな可愛すぎる二人を見守りながら終始大満足できました。

本作の邦題も良いですね。『浮き草たち』。飾らない雑草みたいな姿はあの二人そのものです。

アダム・レオン監督は、BGMを上手く使ったポップな気持ちの良いテンポ感といい、初々しい若者のドラマといい、今のアメリカ映画になかなかない新しい風を吹かしてくれそうです。今後も要注目ですね。

『浮き草たち』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience 69%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『浮き草たち』の感想でした。

Tramps (2017) [Japanese Review] 『浮き草たち』考察・評価レビュー