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『プロジェクト・サイレンス』感想(ネタバレ)…権力の忠犬か、狂犬か

プロジェクト・サイレンス

権力の忠犬か、狂犬か…映画『プロジェクト・サイレンス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Project Silence
製作国:韓国(2023年)
日本公開日:2025年2月28日
監督:キム・テゴン
動物虐待描写(ペット) 交通事故描写(車)
プロジェクト・サイレンス

ぷろじぇくとさいれんす
プロジェクト・サイレンス

『プロジェクト・サイレンス』物語 簡単紹介

韓国の国家安保室の行政官ジョンウォンは娘を空港へ送るために自家用車で大きな橋を走行していた。しかし、その日の天候は濃霧で、橋の上は視界不良。そして激しい玉突き事故に巻き込まれてしまう。さらにさまざまな問題が多発し、橋は崩落の危機に陥る。不安定な橋の上では救援を待つ116人が孤立状態となるが、もっと恐ろしい状況に悪化していく…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『プロジェクト・サイレンス』の感想です。

『プロジェクト・サイレンス』感想(ネタバレなし)

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どこで何が起きるか…

2024年12月29日、韓国の務安空港で済州航空の旅客機が胴体着陸して滑走路を越えて壁に激突。乗客・乗員181人のうち179人の死亡が確認される大惨事となりましたBBC。韓国の航空会社が起こした事故としては、1997年にグアムで200人以上が死亡した大韓航空機墜落事故以来、最悪のものとなるそうです。

こういう事故は本当に唐突に起きるものですけども、犠牲者のことを思うと無念でしょうがないのですが、なんとか事故の被害を抑えることはできなかったのか…常に企業や政治は対策を考えていってほしいものです。

こんな実際に甚大な犠牲をともなう事件が起きてしまうと、大事故ディザスターパニックの映画とか、フィクションを観る際にちょっといろいろ考えてしまうのですよね…。「これはエンターテインメントですから」という勝手に線引きする姿勢でいいのか…フィクションは現実に対してどう向き合うべきなのか…。

今回紹介する韓国映画もそんなことを頭に少しよぎりつつ、鑑賞していました。

それが本作『プロジェクト・サイレンス』です。

韓国映画は最近も『非常宣言』(2022年)で飛行機パニックが主題になっていましたが、今作『プロジェクト・サイレンス』は飛行機ではなく、空港に繋がる橋の上で大惨事が起きる橋パニック映画です。

大きな橋の上に100人以上が孤立してしまうのですが、この『プロジェクト・サイレンス』はその孤立状態がなかなかに凄まじいドミノ倒しのようなシチュエーションの連発で発生します。「そんなに!?」とびっくりするほど。

しかも、これだけではないのです。『プロジェクト・サイレンス』はド直球のジャンル盛り盛りで、この橋孤立だけでも危険なのに、そこに別の凶悪な危険がダメ押しされます。

で、この別の危険要素についてはもうネタバレしてもいいと思うので書いてしまいますけど(ネタバレしても面白さが減るわけではないし、映画冒頭ですぐに明かされるので…)、「犬」です。ワンちゃんです。実験で狂暴化した犬が橋の上で放たれ、被災者を襲ってきます。

要するに『新感染 ファイナル・エクスプレス』みたいな、特定のフィールドで事故と強襲者によってダブルパニックが起きるというパターンです。

この『プロジェクト・サイレンス』を監督したのは、『グッバイ・シングル』(2016年)を監督し、多数のインディペンデント映画をプロデュースしてきた“キム・テゴン”。さらに『新感染 ファイナル・エクスプレス』の“パク・ジュスク”『神と共に』シリーズの監督だった“キム・ヨンファ”が脚本に参加しています。

俳優陣は、群像劇になっていますが、メインの主人公となるのが『キングメーカー 大統領を作った男』『スリープ』など韓国映画界を牽引してきたベテランの“イ・ソンギュン”です。2023年12月に自死というかたちでこの世を去ってしまい、とても残念なお別れとなってしまいました。今作が遺作のひとつになったわけですけど、もっと演技が見たかった…。

共演には、『暗数殺人』『ジェントルマン』“チュ・ジフン”、ドラマ『照明店の客人たち』で監督の手腕もみせている”キム・ヒウォン”『ザ・メイヤー 特別市民』“キム・スアン”『ソウル・バイブス』“パク・ジュヒョン”『復讐のトリック』“ムン・ソングン”『69歳』“イェ・スジョン”『世宗大王 星を追う者たち』“キム・テウ”など。

『プロジェクト・サイレンス』を観るために映画館に行くとき(または帰るとき)、橋の上を通るなら、映画の出来事が思い出されることもないでもない…。とりあえず安全最優先で行動しましょう。犬には愛想よくしてね。

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『プロジェクト・サイレンス』を観る前のQ&A

✔『プロジェクト・サイレンス』の見どころ
★ディザスターな事故描写の映像の迫力。
✔『プロジェクト・サイレンス』の欠点
☆ストーリー展開はやや強引。
☆犬の扱いには賛否が分かれやすい。

鑑賞の案内チェック

基本 交通事故の生々しい描写があります。犬が酷い扱いを受けるシーンが多めなので、犬好きの人は鑑賞が少しツラいかもしれません。
キッズ 3.5
やや大人の政治ドラマも挟まれます。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『プロジェクト・サイレンス』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

国家安保室の行政官チャ・ジョンウォンは大統領側近として今日も政治中枢の会議室にズラリと座る大物たちの傍で仕事に徹していました。律儀で身を正し、常に従順です。

それが終わると、直属の上司で次期大統領の呼び声が高いチョン・ヒョンベク室長とホっと息をつきます。そしての室長から、ジョンウォンの娘ギョンミンが海外留学にでるということで、その祝いだと分厚い封筒を受け取るのでした。

しかし、家ではその娘に厳しい言葉を浴びせられ、距離ができてしまっていました。娘は亡くなった母親のことが忘れられず、仕事ありきの父に幻滅しています。明日にも娘が留学に旅立ってしまうというのに口を聞いてくれません。

まだ暗いうちに留学に旅立つ娘を空港へ送るために車で出発します。助手席の娘は顔をそむけたまま。

道中、ガソリンスタンドで働くレッカー運転手のチョバクに絡まれるも無視して車を発進。後は空港に繋がる橋を通るだけです。

空港では、プロゴルファーのユラが不機嫌そうにターミナルから出てくるところでした。海外ツアーに行くはずがパスポート期限切れという理由で出国できないトラブルがあったのです。これは姉でマネージャーのミランのせいです。平謝りされるも許せません。

ユラとミランが揉めているとターミナルの前で急に老人女性が話しかけてきます。どうやら認知症を患っているようで、スノクという名のその老人女性の夫ビョンハクが駆けつけてきました。いきなり道路に飛び出すスノクを抑えつつ、ビョンハクとスノクはバスに帰りの乗り込みます。

空港と本土を結ぶ全長20kmほどの長大な海上連絡橋は、今日はやけに濃霧が漂い、視界は最悪。ミランは不安そうにハンドルを握って運転していましたが、その横を凄いスピードでスポーツカーが走り抜けていきます

ジョンウォンの車も橋に進入。1台の装甲車が横を通り、娘はそこに何か生き物が乗っているのを目にします。

スポーツカーは速度を落とさずにバスの横を走り抜けましたが、濃霧の中で先行車に驚いてハンドルを切り損ねてしまい、車はコントロールできないままに激しくスピン。停止したものの、玉突き事故が発生。立て続けに何十台も事故を起こし、さらに大型タンクローリーが横倒しになってしまいます。

大勢が車を降り、大変な状況を前にして立ち尽くします。

ところが橋での惨事はこれで終わらず…。

この『プロジェクト・サイレンス』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/03/02に更新されています。
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解決策はいつもひとつ!

ここから『プロジェクト・サイレンス』のネタバレありの感想本文です。

『プロジェクト・サイレンス』の大惨事の瞬間を短くまとめると…

濃霧! 速度超過! 玉突き事故! 犬! ヘリ墜落! 毒ガス! 大爆発! 橋片側崩壊! 犬! 犬!! 犬!!!

凄い負の連鎖が立て続けに起きまくるので、観ていて「なんでこうなったんだっけ?」とちょっと頭の整理が追い付かなくなる瞬間すらある…。

完全に悪いのはあのスピード狂の危険運転野郎なのは言うまでもなく、アイツがこの映画における真っ先の死者になるのですが、まあ、誰も同情しないです。

しかし、犬からのヘリ墜落はなかなかに災難。しかも、毒ガスで片側は通行できなくなるという不憫さ。正直、このシチュエーション作りの強引さは『バイオハザード』級でした。ここから先は本当に『バイオハザード』の序盤とかにありそうな展開になります。

もっぱらの問題は犬です。この犬は「プロジェクト・サイレンス」という極秘計画で生み出された犬で、本来は救助犬でしたが、対テロ用の犬として攻撃性を強化され、それが統率できなくなってこの惨事に至ります

「こんな犬、作れるか?」とかツッコミは禁止。本作はゲームとかと同レベルのリアリティラインなので、そういうものだと受け止めるしかないです。

そう、この『プロジェクト・サイレンス』、ビジュアルは迫力たっぷりに作りこんでいますけど(最近の韓国映画らしくこのあたりの造形は上手い)、設定そのものはだいぶぶっ飛んでいます

このリアリティをどこまで受け入れられるかでこの映画の感想は大きく左右されるのではないかなと思います。

より現実的なディザスターパニックを求めていた人は急にコテコテのモンスターパニックに舵を切るこの変わりっぷりにしらけるかもしれません

逆にリアルとかはわりとどうでもよく、モンスターな犬たちが暴れまくって人間を襲っていく映像だけでお腹いっぱいになれる人は気分が良くなれます。

私は観ているとき「これはどうやって解決するのだろうか」とそればかり気になっていたのですが、最後はファイト一発!なごり押しで突破していました。

一応、ゴルフのスキルが活かされたり、レッカー車が活躍したり、チームプレイが打開策になっていきますが、最終的には車で突撃するしかないのは…状況的にそうなりますよね。なんかどっかで見たことありそうな解決策だなと思ったけど、あれです、『名探偵コナン』の劇場版とかでよくあるやつなんだ…。“イ・ソンギュン”はコナンだったんだ…。

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犬の眼差しのようで人間の眼差し

私はこの『プロジェクト・サイレンス』で一番に引っかかるのは犬の扱いで、この映画はあまり犬を活かしきれなかったな、と。

犬を題材にしているのはなんとなくわかります。

そもそも今作の主人公であるジョンウォンは権力にしつけられた忠犬であり、ずっと言うことを聞いて、ご褒美をもらってきた人生だったようです。政治であろうと企業であろうとこうやって上司に従属することをキャリアの規範として疑わない。東アジアの男性ならよくある姿勢でしょう。

そこからこの橋の大惨事で被災したことで、ジョンウォンは権力の薄情さを思い知り、最後はその飼い主の手に嚙みつきます。この大惨事の背景にある政治の怠慢を浮き彫りにして…(ちゃんと報道陣の目の前でそれをやる)。

これがこの映画におけるフィクションとして現実に対してどう向き合うべきなのかという問いへの答えです。これはこれで一定の社会批評はできています。

犬はまさにそのメタファーですが、実験動物として処置されたこの犬たちの立場はまたかなりベクトルが違っており、さらに結構この映画は犬に同情的で、ラストも犬の顔面で終わるという幕引きですし、犬の心情に焦点をあてます。

そうなってくると、もっと犬の視点で描き切ったほうが誠実なんじゃないかと思ったりもする…。少なくとも犬側にとってはもうジョンウォンも政治家もそんなに変わりはないですし、仮に餌をくれるとかそんな素振りで友好を示そうとも、そういう問題でもないじゃないですか。犬たちの根本的な構造の不平等というのはね。

ということでモンスターパニックだけど、この「モンスター」側にエモーショナルなキャラクター性をもたせたいという点ではちょっと不器用にただ同情的すぎるのかなと感じました。

これが『グエムル 漢江の怪物』みたいに露骨にもはやコミュニケーション不可能そうなモンスターで、そのモンスターを通じて社会風刺するというアプローチを満たしつつ、モンスターそのものに映画が過度に同情しすぎないくらいの距離感だとまだ良かったのですが…。

映画にとって「同情する」という向き合い方はなかなか諸刃の剣で、バランスが難しいので大変だと思います。ましてや完全に非人間な身近な動物を、人間っぽい眼差しで描いてしまうと、それはそれで人間中心の構造に陥るので…。

もしくはいっそのこと犬は抜きにして、あの橋の上での孤立状態での人間模様だけでもじゅうぶんに社会風刺もエンターテインメントも満たせたのではないかなと思ったりもしました。『コンクリート・ユートピア』のように群像劇を活かす手段もいくらでもあったでしょうし…。

『プロジェクト・サイレンス』自体がひとつの映画として少しグラグラしすぎていたのかな。脚本はまだまだ練って補強することはできたのではないでしょうか。

『プロジェクト・サイレンス』
シネマンドレイクの個人的評価
5.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

イ・ソンギュン出演の映画の感想記事です。

・『スリープ』

・『キングメーカー 大統領を作った男』

・『チョ・ピロ 怒りの逆襲』

作品ポスター・画像 (C)2024 CJ ENM Co., Ltd., CJ ENM STUDIOS BLAAD STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED プロジェクト・サイレンス

以上、『プロジェクト・サイレンス』の感想でした。

Project Silence (2024) [Japanese Review] 『プロジェクト・サイレンス』考察・評価レビュー
#韓国映画 #キムテゴン #イソンギュン #チュジフン #ディザスターパニック #犬 #動物実験