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『パーフェクト・ケア I Care a Lot』感想(ネタバレ)…私はあなたの後見人!

パーフェクト・ケア

私はあなたの後見人!(勝手に決めます)…映画『パーフェクト・ケア』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:I Care a Lot
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2021年12月3日
監督:J・ブレイクソン

パーフェクト・ケア

ぱーふぇくとけあ
パーフェクト・ケア

『パーフェクト・ケア』あらすじ

法定後見人の制度を巧みに利用するマーラは、資産を持つ高齢者を狙い目にし、裏で医師や介護施設と結託して高齢者たちから資産を搾り取るという仕事をしていた。それは法の穴を悪用した行為。そんな悪徳後見人のマーラはパートナーのフランとともに順調にビジネスを進めるが、新たに資産家の老女ジェニファーに狙いを定めたことから歯車が狂い始める。身寄りのない孤独な老人だと思われたジェニファーの背後には恐ろしい存在が…。

『パーフェクト・ケア』感想(ネタバレなし)

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後見人制度は大問題の欠陥だらけ

2019年あたりから2021年にかけてソーシャルメディア界隈で盛り上がりを見せていたのが「#FreeBritney」です。「ブリトニーを無料…?」…いいえ、そういう意味ではなく、これは絶大な人気を誇るスーパースターの歌手である“ブリトニー・スピアーズ”を解放せよ!という目的で使われるハッシュタグ。では何から解放するのか。それは後見人です。

実は“ブリトニー・スピアーズ”は後見人制度によって自分の収入から行動に至るまで全てを成年後見人である父親と関連組織に支配されていることが報道され、大きな注目を集めていました。私も恥ずかしいことに詳細を全然知らなかったのですがドキュメンタリー『ブリトニー対スピアーズ 後見人裁判の行方』を鑑賞してその実態に驚愕しました。

後見人制度というのは本来は病気など何らかの理由で判断能力が不十分な時に、申立により裁判所によって選任された後見人等が本人に代わって財産や権利を守り、本人を法的に支援する制度です。なのですが、これはいとも簡単に悪用でき、医者と結託して特定の誰かが精神的に問題だと診断さえしてしまえば、その人の資産などを完全に第3者がコントロールすることも可能になってしまうのです。

“ブリトニー・スピアーズ”をこの後見人制度の呪縛から解放せよ!という運動はかなり前から行われていたのですが、MeToo運動の広まりもあって関心が高まり、“ブリトニー・スピアーズ”への再評価も起き、大勢が味方をするように。そして、2021年11月、ついに“ブリトニー・スピアーズ”の成年後見人制度が解除されたのでした。

後見人制度、もう本当に信用ならない…。

そんな後見人制度のおぞましさを散々前置きで語っておいてなんですが、その制度を悪用して詐欺を働く人間を主人公にした映画が今回紹介する作品です。それが本作『パーフェクト・ケア』

なんだか化粧品の広告みたいな邦題ですけど、原題は「I Care a Lot」。このタイトルの意味は映画を観ていればわかるでしょう。

『パーフェクト・ケア』の主人公は説明したように後見人制度の抜け穴を利用して堂々と他人の後見人になり、他人様の資産を根こそぎ奪っていきます。ただ今作で被害に遭うのはスーパースターではなく、おカネを持っている高齢者ですけどね。ところが本作はそれで終わらない。いつものように楽勝で後見人になって資産をぶんどっていた主人公。しかし、たまたま今回のターゲットがマズかった。実はその高齢者、社会を牛耳る大物犯罪組織のボスの母親だった…!という展開に。「犯罪者vs犯罪者」の誰も得をしないアンダーグラウンドなバトルが勃発します。

ピカレスクロマンなクライムサスペンス映画でありながら、とてもオシャレでスタイリッシュな作品になっていますので、あまり陰惨な感じではないです(やっていることは極悪非道だけど)。

その後見人詐欺を鮮やかに実行する主人公を演じるのが、『ゴーン・ガール』『プライベート・ウォー』の“ロザムンド・パイク”。映画に出るたびにガラリと印象を変えてくる俳優ですが、今作『パーフェクト・ケア』の“ロザムンド・パイク”は見事にクールなヴィランを熱演しています。今作でゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞しました。

そんな“ロザムンド・パイク”のビジネスパートナーで、加えて恋愛面でもパートナーでもある女性を演じるのが、『ベイビー・ドライバー』などで活躍していた“エイザ・ゴンザレス”

そしてその主人公組の前に立ちはだかる裏社会の犯罪集団のボスをダークに演じるのが、『孤独なふりした世界で』の“ピーター・ディンクレイジ”です。私も大好きな俳優のひとりですけど、今作の“ピーター・ディンクレイジ”も最高にワルでイカしてる…。

他には『ブロードウェイと銃弾』の“ダイアン・ウィースト”、『この世に私の居場所なんてない』で監督業もしている“メイコン・ブレア”、『クレアの恋愛狂奏曲』の“アリシア・ウィット”など。

監督は、2009年に『アリス・クリードの失踪』で長編映画監督デビューし、2016年に『フィフス・ウェイブ』も手がけた“J・ブレイクソン”。今作で3作目の映画となります。

『パーフェクト・ケア』は海外では国によってNetflixもしくはAmazonプライムビデオでの配信になってしまったのですが、日本ではどうなるんだろうと思っていたら、劇場公開とデジタル配信の同時展開という変則的なお届けになりました。こういう取り組みはコロナ禍が酷かった時期にやってほしかったけど、まあ、いいか。

騙されないように、映画を観て、悪い奴の手口を知っておきましょう。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:俳優ファンは要注目
友人 3.5:犯罪映画好きなら
恋人 3.5:同性ロマンス要素あり
キッズ 3.0:悪い奴ばかりだけど
↓ここからネタバレが含まれます↓

『パーフェクト・ケア』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):私は子羊ではない、雌ライオンだ

マーラ・グレイソンはやり手のビジネス・ウーマン。自らが取り仕切る事業は大成功を収めています。

そんなマーラの仕事にとって欠かせない施設に強制的に立ち入ろうとして捕まった男。このケアホームに侵入したフェルドストロムは裁判で訴えました。母親を助け出すためだった…と。しかし、マーラは裁判官を前に淡々と証言し、「共感していますよ」と同情しつつも、その入居者は介護が必要だと主張し、裁判官も疑いません。

法廷を去る。ビジネスパートナーのフランが外で待っており、「勝った?」と聞かれ、「当然」と答えます。そこへ後ろからフェルドストロムが追いかけてきて「ビッチ」と罵倒し、唾をかけます。それでも鮮やかに去るマーラ。

会社に到着すると、彼女の部屋にあるホワイトボードには高齢者の写真がズラリと貼り付けてあります。次の狙い目を探すのです。マーラの事業、それは後見人制度を利用しておカネを持っている高齢者の後見人となり、その資産をいただいてしまうという策略。極めて合法的です。倫理的にどうかは知りませんが。

マーラと結託しているカレン・エイモス医師から次の顧客になりそうな高齢者を紹介されます。ジェニファー・ピーターソン。1949年生まれ。資産はじゅうぶん。フランの事前調査でも問題はなさそうです。

さっそく行動開始。裁判でジェニファーの病理的問題を証言するカレン。あっさり認められ、マーラは家を訪ねます。「裁判所はあなたに要介護の認定を下しました。私があなたの法廷後見人です」…さっぱり事情が掴めないジェニファー。「私は元気よ」と答えるも裁判所命令によって拒否できず、フランに促されて出ていくことに。「触らないで」と反発しても従うほかないです。わずかな荷物だけを持って突然に家を手放してしまうことになりました。

そして施設へ直行となるジェニファー。落ち着いた部屋を与えられ、優しい言葉でスマホのロックを解除させて取り上げます。部屋に放置されたジェニファーは茫然自失。外部と連絡も取れない孤立無援に。

マーラとフランは仕事に取り掛かります。家の品々を物色し、売れるものは片っ端から売っていきます。家具でも何でも気にせずに。貸金庫の鍵を発見し、そこには金塊とダイヤが…。これは思った以上にラッキーな顧客でした。

フランが残ってジェニファーの家で片付けていると、タクシーの男が訪ねてきます。ジェニファーを迎えに来たらしいですが、「引っ越しましたよ」と言うとそそくさと帰ります。

その男は内心ではビクビクしていました。報告しないといけないからです。あなたの母親が行方不明になったことを。あのロシアン・マフィアの大物であるローマン・ルニョフに告げなければ…。

こうしてマーラたちは気づかぬうちに裏社会のボスに最悪のかたちで喧嘩を売ってしまい…。

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共感は不能だけど…

『パーフェクト・ケア』の主人公、当然ながら共感は全くもって不可能でしょう。ちょうど本国では「#FreeBritney」が盛り上がっている時期に配信されていましたから、鑑賞者には不快感を持った人も多いはず(そのせいなのかRottenTomatoesによれば本作の観客評価は低い)。逆に本作によって現実の運動を後押ししたかもしれないのでそれはそれで良かったですけどね。

ただ、このマーラは正直に言ってめちゃくちゃカッコいいです。やっていることを無視すれば、ビジネスで全力を出している女性表象としての理想形というか。もうお手本にしたいくらいにクール。

ファッショナブルな“ロザムンド・パイク”も最高なのですが、それでいて単なるビジネス屋というだけでなく、なぜか体育会系で、マフィア相手に動じない佇まいを見せるという強気。ローマンの派遣したディーン・エリクソンに対して15万ドルではなく500万ドルを用意しろと突きつけたり、はたまた施設から誘拐されそうだったジェニファーをあっけなく確保したり、さらにはマフィアたちの陣地に乗り込んでローマンを連れ去るほどまでしてしまう。この超アグレッシブなスタイルが圧巻で…。

このマーラの犯罪チームは、作り手は意図しているのだと思いますが、女性ばかりで構成されています。医師も女性で、男性はあの施設のサムくらいでしょうか。そしてマーラとフランはレズビアンなパートナー関係であり、それもテーマにすることもなく、自然と挿入されています。

『オーシャンズ8』みたいな寄せ集めの即席チームではなく、じっくり練り上げて作られた女性の犯罪集団チームの強さというものをここまでスタイリッシュに描く作品はまだ少ないと思います。そしてその組織を機能させる仕組みが男性の犯罪集団とは全然違うということもよくわかる一作だったのではないでしょうか。

それこそ雌ライオンが集団で狩りをするみたいな、阿吽の呼吸によるシスターフッドなチームワークでした。

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一方で男たちの犯罪集団は…

『パーフェクト・ケア』の主人公側が女性の犯罪集団チームになっているなら、敵対するマフィア側が男性の犯罪集団チームになっており、これはとても対比的です。

まずとにかく上下関係が徹底しており、暴力で仲間を従えています。ローマンが母親が家から消えたことを知らされる場面からしてそれは顕著。あそこでの“ピーター・ディンクレイジ”の怒りのスイーツモグモグタイムがユーモラスですが、あんな体格の小さい男相手でもそれがボスであればどんな大柄な男でも逆らえない。このホモ・ソーシャルの滑稽さを象徴しているような…。

その暴力性の洗礼を受けることになってしまうマーラたちですが、文字どおり劣勢から這い上がってみせて、復讐に転じます。

ここで見事なチームワークでローマンを誘拐し、彼さえも後見人制度で支配下においたマーラたち。そこであのローマンが素直にマーラの実力を認めて対等なかたちでパートナー関係を結ぼうと持ちかける。ある意味ではマーラのビジネスが認められた瞬間であり、キャリアの勝利です。

『パーフェクト・ケア』は最終的にはマーラの死という悲劇で終わるのですけど、キャリアという意味では大成功を成し遂げての死に様なので、マーラとしては栄誉ある死だったんじゃないかなと思います。

もちろんわかってはいると思うのですが、一応繰り返しておくとこれは倫理的にアウトな行為です。この高齢者の“合法的な”誘拐は、アメリカでは各地で起きているそうで、「The Guardians」というドキュメンタリーでもその詳細は語られています。

日本ではどうなのかはちょっと把握していないのですが、でもよく考えると「オレオレ詐欺」とか高齢者をターゲットにする犯罪なんて日本には山のように存在しているし、手口が違うというだけで、やっぱり高齢者を搾取しようと狙う奴はたくさんいますね。ただ、アメリカの場合、公的な福祉が充実していないので余計に資産を個人で溜め込んで老後を生き抜こうと考える高齢者が多いのかもしれません。

だから自助とか共助なんていう概念はいくらでも悪用する人間の狙い目にされてしまうというわけで、ちゃんと年金を払った分、まともな老後生活を送れるように政治家に訴えていかないとダメですね。たいして資産を貯蓄しなくても生きられる老後が保証されている社会のほうが悪人も狙いづらいでしょうから。

『パーフェクト・ケア』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 33%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)2020, BBP I Care A Lot, LLC. All rights reserved. パーフェクトケア アイ・ケア・ア・ロット

以上、『パーフェクト・ケア』の感想でした。

I Care a Lot (2021) [Japanese Review] 『パーフェクト・ケア』考察・評価レビュー