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『RBG 最強の85才』感想(ネタバレ)…わきまえない女が男社会にモノ申す!

RBG 最強の85才

わきまえない女が厚顔無恥な男社会にモノ申す!…ドキュメンタリー映画『RBG 最強の85才』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:RBG
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年5月10日
監督:ベッツィ・ウェスト、ジュリー・コーエン

RBG 最強の85才

あーるびーじー さいきょうのはちじゅうごさい
RBG 最強の85才

『RBG 最強の85才』あらすじ

Tシャツやマグカップといったグッズまで作られるほどの知名度と熱狂的な人気を誇る、RBGことルース・ベイダー・ギンズバーグ。若者からの支持も獲得している高齢者はそうそういない。85歳の時点でも現役の最高裁判所判事として活躍した彼女は若い頃から女性やマイノリティへの差別撤廃に寄与した。今ではアイコンとして語り継がれるこの人物の素顔に迫り、その功績を辿っていく。

『RBG 最強の85才』感想(ネタバレなし)

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日本社会にはRBGが必要だ

日本はただでさえ性差別が酷い国だということは世界に確実に知られているのですが、あらためてそれを知らしめる出来事が2021年2月3日に起こりました。

この日、日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で、大会組織委員会会長の森喜朗氏が何食わぬ顔でこう発言したのが発火地点です。

「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります。私どもの組織委員会にも女性は何人いたっけ? 7人くらいか。7人くらいおりますが、みんなわきまえておられて」

相変わらず政府に遠慮しがちな日本のメディアは“わきまえて”いましたが、海外メディアはしっかり仕事しました。各国のメディアは「性差別発言」として厳しく報道。発言者のみならずそれを放置した組織体質、そして日本社会の性差別への無関心さを指摘し、聖火を携える日本は無様に火だるまになったわけです。

さすがにこれだけ世界的に批判を受ければ鈍感さに定評のある日本の政府もマズいと思ったのか翌日に謝罪会見を実施。しかし、その内容は以下のとおり。

「辞任するという考えはありません。献身的に7年間やってきた。邪魔だと言われたら、老害と言われれば」

謝罪会見なのにさらに燃料投下するかのように問題発言をするという恥の上塗り。絵に描いたような開き直り。もはやそこにオリンピックの健全な精神などはなく、ただのふてくされた老人が映っているだけでした。日本オリンピック委員会も勝手に「問題は決着した」と表明し、他人事です。

性差別に無頓着な人は頑なに擁護もしくは沈黙していましたが、もちろん常識を持つ人たちはネット上で相次いで非難しました。女性は“わきまえない”方がいいという認識が滲み出る例の問題発言に反発して「#わきまえない女」というハッシュタグも生まれたり。各駐日大使館も「#DontBeSilent」「#GenderEquality」のハッシュタグで意思を表明したり。

つまるところ「(気に入らない)女は難癖つけて黙らせたい」という女性蔑視の塊でしかなく、上記の性差別発言騒動は教科書に載せられるくらいのわかりやすい女性差別の典型例でしたが、あらためて世間知らずな人がトップにいるとここまで愚の骨頂を露呈するものだと痛感するばかり。もう2021年なんですけどね。何が正しくて何が正しくないのかわからないと、あそこまで醜態を現すほどに悪化する…日本社会は末期だなぁ…。

そんな一件もあったこともあり、やっぱりこのドキュメンタリー映画の感想も書いておこうと思うに至りました。3月8日、国際女性デーのこの日、この作品の感想をあげるのにこれ以上なくベストなタイミングですし。それが本作『RBG 最強の85才』です。

本作は「ルース・ベイダー・ギンズバーグ」という人物に焦点をあてたドキュメンタリー。知っているでしょうか、この名前を。アメリカの最高裁判所判事だったのですが、日本では認知度は低いです。しかし、本国アメリカではハリウッドスター並みに大人気の人物で、ポップアイコンのようになっています。ルース・ベイダー・ギンズバーグ(Ruth Bader Ginsburg)という名前の頭文字をとって「RBG」と呼ばれており、大衆の素材に。それこそ全然関係ないエンタメ映画の中でも頻繁にネタにされるくらい。だからこのルース・ベイダー・ギンズバーグは映画ファンならぜひとも知っておくべき人物でもありますね、ネタの意味を理解するためにも。

無論、ただの面白おかしいネタありきの人ではありません。ルース・ベイダー・ギンズバーグが成し遂げた大きな功績。その主なものが女性差別への戦いでした。社会や法律に平然と蔓延る女性差別に立ち向かう。彼女のような“わきまえなさ”がなければ、アメリカはもっと酷い性差別に溢れかえっていたでしょう。

しかし、単に「ルース・ベイダー・ギンズバーグ、凄い!」と称賛しているだけでは意味はなくて、その偉大な姿から学ばないといけません。そんなとき、この『RBG 最強の85才』は最初の1ページになってくれるはずです。

『RBG 最強の85才』はアカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞と歌曲賞にノミネートされる高評価であり、またインディペンデントなドキュメンタリーとしては異例の大ヒットも記録しました。やはり愛されていますね。

ルース・ベイダー・ギンズバーグを全く知らない人でも大丈夫。本作を観れば、あなたの心にRBGの魂が宿り、会議とかで長々と喋り続ける男に一発食らわす後押しがもらえるでしょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(知っておくべき偉人です)
友人 ◯(知らない人に教えよう)
恋人 ◯(パートナーの性差別意識を探る)
キッズ ◯(憧れの人になるかも)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『RBG 最強の85才』感想(ネタバレあり)

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RBG、新たなる希望

魔女、悪党、怪物…。我々の憲法に対して敬意がない、最高裁判所の名を汚す存在…。底意地の悪い女、邪悪、反米、ゾンビ…。

ここまでの言われようということはよっぽどの大罪を犯した人間なのか。『アベンジャーズ エンドゲーム』のサノスみたいな…。

その渦中の人物の名はルース・ベイダー・ギンズバーグ。なんだかダース・ベイダーみたいな名前だから、きっと悪の帝国を指揮して惑星を吹き飛ばすくらいのことをしているに違いないです。

しかし、その実像はなんてことはないもの。1933年、ブルックリンで生まれた小さな女の子でした。スクスク育った彼女は、幼馴染のアン・キトナーとハリエット・ヘルセルいわく、「キキ」と親しみを込めて呼ばれていたそうです。姉を亡くし、母も亡くしましたが、誠実な生き方を貫きます。母からの2つの教え、「淑女であれ」「自立せよ」を胸に刻みながら…。

コーネル大学を卒業後、ハーバード大学ロースクールへ進学し、法律の世界へと足を進めます。時代は赤の恐怖が広がっている真っただ中。ろくに公正さもなく、断罪されていく人が後を絶ちませんでした。

ところが法律を学ぼうにも壁が立ちはだかります。女性の立場の低さです。ロースクールには女性はほとんどおらず、男性だらけ。「質問に間違えたら女性の名を汚すと思った」と語る言葉からその息苦しさが伝わります。大学の図書室に入れなかったり、女子学生を集めて教授が「君たちは男子が座るはずの席に着いた」と言い放ったり、露骨な差別扱いも当たり前。

それでも努力家のルース・ベイダー・ギンズバーグは成績優秀者しか参加できないロー・レビューの編集委員に選ばれます。また、子育てしながら法律を学び、同じくロースクールに通う夫であるマーティンは癌で闘病中だったのでその夫の勉強も手伝う。そんな日々です。

大学時代や、夫との関係性に関しては、『ビリーブ 未来への大逆転』という伝記映画でも描かれているので参考にどうぞ。

そんな中、法律事務所では女は雇われないという業界の差別にまたしても直面するも、アメリカ自由人権協会(ACLU)で法律顧問に就任。ここから彼女の反撃が始まります。

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RBG、女の逆襲

ルース・ベイダー・ギンズバーグが女性差別に取り組むのは必然でした。法律にも女性差別が染み込んでいます。多くの州の雇用主は妊娠した女性を解雇できる、融資を申し込む女性に対して銀行は夫を連帯保証人にするよう要求できる、12の州では夫婦間の性暴力は罪に問われない…。

そしてその戦いの数々は以下のような感じ。

1973年、フロンティエロ対リチャードソン。空軍に入ったシャロン・フロンティエロは既婚男性には住宅手当があるのに女にはなく、事務からは「空軍で働けただけでもラッキーだ」と言われる始末。

1975年、ワインバーガー対ワイゼンフェルド。妻を亡くしたスティーブン・ワイゼンフェルドは主夫として育児に専念するも、ひとり親手当の支給は女性のみで苦しんでいました。

1977年、カリファノ対ゴールドファーブ。遺族給付金を男女で区別する連邦法は平等に違反すると主張。

1975年、エドワーズ対ヒーリー。女性の陪審義務を免除するルイジアナ州法に挑みます。

こうして最高裁で弁論を行った6件の訴訟のうち5件で勝訴し、その実力を見せつけたかたちに。

その後、ジミー・カーター大統領によって1980年6月18日にコロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所判事として承認され、今度はビル・クリントン大統領のもと、連邦最高裁判事に指名され、96対3の投票で承認。1993年の最高裁判事承認公聴会では明確に中絶の権利の支持を表明します。

以降も活躍は続行。

1996年、アメリカ合衆国対ヴァージニア州。ヴァージニア州立軍事学校の女性排除に対し、連邦司法省は訴訟を提起します。

2000年、ブッシュ対ゴア。フロリダの選挙の再集計に対する激しい応酬。このあたりは『リカウント(Recount)』(2008年)という映画で詳しく知れます。

ブッシュ大統領の選んだ判事2名により、最高裁判事は保守色を強めますが、ルース・ベイダー・ギンズバーグは遠慮しません。

2006年、レッドベター対グッドイヤー。同じ職場の男性よりも賃金が少ない女性の声を拾っていきます。

2013年、バーウェル対ホビー・ロビー・ストアーズ。雇用主は信仰を理由に避妊を保険の対象から外すことができる問題にも切り込みます。

ちなみに作中では女性差別に主に焦点をあてていましたが、2020年には性別に基づく雇用差別を禁じる公民権法は、LGBTQの人々の権利保護に適用されるという判決を支持したり、ジェンダーやセクシュアリティのマイノリティの平等にも貢献をしてくれています。

公民権運動運動の道を開いたサーグッド・マーシャルをお手本にしていると語っていましたが、見事に有言実行でした。

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RBG、人気者の帰還

それにしてもルース・ベイダー・ギンズバーグが凄いのはその大衆からの人気です。別に連邦最高裁判事は常に9人もいるし、初の女性判事というわけでもないです。判事の中には『アニタ 〜世紀のセクハラ事件〜(Confirmation)』(2016年)でも描かれたクラレンス・トーマスのように手厳しく批判の目が向けられる人物だっています。

それでも圧倒的な人気を誇るのは、ひとえに愛されキャラクターなんでしょうね。

ラップアーティストである「ノトーリアス・B.I.G.」に因んで「ノトーリアス・R.B.G.」と呼ばれたり、オペラ観劇が趣味で自分も出演したこともあったり、親しみやすさがあります。そこまで完璧主義な隙のなさがあるわけでもないのも良さなのかもしれません。一般教書演説で寝ちゃっても、なんか笑いになります。ジムで体力トレーニングし、スーパーヒーローにコラまで作られるのさえも説得力があったり…。

面白いなと思うのは、だからといってルース・ベイダー・ギンズバーグはステレオタイプな女らしさの媚のようなものを振りまいていたわけではないことです。学生時代から真面目一辺倒で、あまり世間話すらもせず、控えめで、決して社交的とは言えない。ハッキリ言えば、とっつきにくい性格の女性だと思われるでしょう。

やっぱりどうしても世間で女性が人気を得るにはキュートだったりセクシーだったり、要するに男社会の規範に従うべしという圧力があるもので…。それかもしくはひたすら男社会の失態を擁護してあげる献身性を披露したり…(そういう女性政治家は日本にもたくさん)。ルース・ベイダー・ギンズバーグはそういうことを一切しないというのは、そこに絶対に譲れないポリシーがちゃんとあるからですよね。

にもかかわらず人気を得ているのは、その愛される理由が「誠実」だからなのだと思います。

彼女は世間一般からはリベラル派と評されていますけど、別にそうではない。ただ「憲法を遵守し、正しくあろうとしただけ」。そこが老若男女問わず支持をされるアメリカ的な規範の体現者だったのかな、と。

実際、アントニン・スカリアのような保守派の判事で政治的意見は全く合わない人からもプライベートでは打ち解け合っていますからね。こういう“なんかわからないけど対立を超えられる人”っていろいろ各所に見られますけど、かなり強みだなと実感。

だからといって日和った発言はしない。「女性の最高裁判事の理想の数は?」と聞かれて「9人」と答えるこの強気。まさしく“わきまえなさ”が人気を生んでいたのでした。

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RBG、次世代の覚醒

そのルース・ベイダー・ギンズバーグは残念ながら2020年9月18日にこの世を去ってしまいました

しかし、その姿は過去のものでは終わらず、それを受け継ごうという次世代の輝きが『RBG 最強の85才』でもたくさん映っていました。

ルース・ベイダー・ギンズバーグは1837年の南北戦争前の奴隷制度廃止論者と女性の権利擁護者であったサラ・グリムケの言葉、「特別扱いは求めません。男性の皆さん、私たちを踏みつけているその足をどけて」を引用していました。

おそらく今後は若い人たちを中心にルース・ベイダー・ギンズバーグの言葉や姿勢が引用されていくことでしょう。

別に女性だったらなんでもいいわけではないです。ルース・ベイダー・ギンズバーグの後任としてトランプ大統領から指名されたエイミー・コニー・バレットはLGBTQ当事者に対してさっそく侮蔑発言をポロポロ言ってしまっていますし、Qアノン信奉者で連邦議会選挙で初当選した共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員はSNSで民主党政治家の殺害を示唆する投稿に「いいね」を気軽につけるし…。酷いことに悪い意味で“わきまえない女”が目立ってきている今の時代。もちろんその裏には糸をひく男社会がいる、女の対立を煽って自分の加害者性から逃げる男がいる…。

そんな時代だからこそ、ルース・ベイダー・ギンズバーグはこれまで以上に正しい“わきまえなさ”の見本として語り継がれることは間違いありません。

日本にもルース・ベイダー・ギンズバーグのような人がいればなと思う面もあるのですが、でもそう単純にはいかないかなとも。というのも、アメリカはRBGに限らず、コロナ禍で大活躍したファウチ博士や、バイデン米大統領の就任式でベストドレッサーとして話題沸騰になったバーニー・サンダース上院議員のように、高齢者をアイコンにする事例がしばしばあります。これはアメリカに年功序列がそこまで根底に居座っていないからできることだと思うのです。対する日本社会には年功序列が深く根を張っており、それがそもそも家父長制や女性差別と紐づいています(それこそ冒頭で示した森喜朗氏も同じ)。だからお年寄りをアイコンにすることはそうした裏にある古臭い習わしまで肯定しかねず、躊躇せざるを得ないです。

なので日本は日本で別のパワーが必要なのかな、と。でもルース・ベイダー・ギンズバーグの生き様を見習うのは何も問題ないでしょう。

ということで、私も権力や男社会に対して“わきまえない”感想を今後も書いていこうと思います。

『RBG 最強の85才』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 79%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Cable News Network. All rights reserved.

以上、『RBG 最強の85才』の感想でした。

RBG (2018) [Japanese Review] 『RBG 最強の85才』考察・評価レビュー