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『ジェンダー革命』感想(ネタバレ)…性別って何なんだろう?

ジェンダー革命

性別って何なんだろう?…ドキュメンタリー映画『ジェンダー革命』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Gender Revolution: A Journey with Katie Couric
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2021年にDisney+で配信
製作:ケイティ・クーリック ほか

ジェンダー革命

ジェンダー革命

『ジェンダー革命』あらすじ

女性と男性。性別はこの2種類。生殖器で決まる。本当にそうだろうか。性別というものは実はとても奥が深く、表面からはわからない知られざる世界が広がっている。今、この性別という概念が揺れている。生まれたときに判断された性別に疑問を持つ人、性別を変えるべく手術を受ける人、そして男女の二元論に縛られたくないと宣言する人。生物学的な性や性同一性(ジェンダー・アイデンティティ)をめぐる議論を多くの当事者が自らの口で語っていく。

『ジェンダー革命』感想(ネタバレなし)

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ジェンダーを知る入門編

2021年4月24日から5月5日の期間、「東京レインボープライド」が開催されています。プライド・パレードというのはまずあって、これはLGBTQ当事者が自分たちの平等を訴え、連帯するための活動です。世界各地で行われているのですが、その東京版が「東京レインボープライド」です。

ただ今年はさすがに緊急事態宣言にもなってしまいましたし、街中で練り歩いたりなどはできなくなり、基本はオンライン開催となりました。

LGBTQ当事者にとっては大事なイベントですが、一方で当事者からは批判もあります。例えば、ゲストで来る著名人のほとんどが当事者ではない人ばかりだったこと。もちろん主催者の中には当事者もいますし、当事者の企画も他にいろいろあるのですが、目立つゲストが非当事者多めというのは確かにガッカリです。日本ではカミングアウトしている有名人が少ないというのもありますが…。ゲストの中には過去に差別的言動をとったりしていた人もいて余計に当事者の不快感を買ってしまっています(反省を述べる人もいたみたいだけど)。

やっぱり当事者の声を真っ先に聞いてほしいというのが本音ですよね。日本ではLGBTQが表面的には話題になることが増えましたが、その本質的な最終目標である平等の実現は全然進んでいません。

とくに不可視化されているのが「トランスジェンダー」「インターセックス」です。トランスジェンダーやインターセックスの情報について知ろうと思っても日本語のものはあまりないのが現状です。そもそも専門的な組織やメディアが日本には乏しいんですよね(わずかにある)。これが英語圏だとガラっと変わって、かなりの充実した正確な情報が今では揃っています。この情報の格差の溝はなんとか埋めたいのですが、なかなか厳しく…。

もしかしたら自分の子がトランスジェンダーかもしれないけど、どう対応すればいいのかわからない…そんな状況に孤独に悩んでいる親がいるかもしれません。どんな反応が来るかも予測できなくて友人にも親戚にも相談できないし、医者に行けばいいのかもわからないし、ネットで調べてもさっぱり…。不安だけが増大する…。

大丈夫です。世の中には適切な情報がちゃんとあります。今回紹介するこのドキュメンタリー『ジェンダー革命』は性別と向き合うのにぴったりな入門編になるでしょう。

本作はナショナルジオグラフィック制作の2017年のドキュメンタリーで、そのタイトルどおり「ジェンダー」をテーマにしています。つまり、「性別」についてを題材にした専門的ドキュメンタリーです。ナショナルジオグラフィックなだけあって、かなり科学的な分析も映し出されるサイエンティフィックなスタイルになっています。

難しそう…と思わなくてもOK。中身はとても易しいですし、何よりわかりやすいです。そして親近感を持ちやすいアプローチになっています。

なぜなら当事者の人にインタビューしていき、語ってもらうという形式だから。中には子どもがある日に突然トランスジェンダーであることをカミングアウトした両親のエピソードや、インターセックスの赤ん坊を前にした両親のエピソードもあり、その動揺とそれとどう向き合ってきたかが赤裸々に語られています。

このような小さい子における性の話題は非常にセンシティブです。でも子どもによって4~5歳で与えられた性別に違和感を持つケースも珍しくありません。ともすれば、自分の子や親戚の子がふいにそんなカミングアウトをする事態に直面することも大いに考えられます。または、自分の過去を振り返り、もしかして自分は性的違和に苦しんでいたのでは?と自覚するきっかけになるかもしれません。

『ジェンダー革命』を観れば、ひとくちにトランスジェンダーやインターセックスといってもいろいろな人が存在することがわかるでしょう。世間で流布するイメージは本当に一面的です。実際の当時者の多様性をこれで知ってほしいです。

もちろんこのドキュメンタリーが当事者の全てというわけではないですけどね。

『ジェンダー革命』は2017年の作品で、原語版は本編が公式で無料で観れたりしたのですが、日本では2021年に「Disney+」の配信ラインナップに加わりました(ディズニーはナショナルジオグラフィックを買収済みです)。ということで、かなり観やすくなったので良い機会です。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:学ぶのに最適
友人3.5:本音で語り合える友と
恋人3.5:素直に話題にできる人と
キッズ4.0:親と一緒に学ぼう
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『ジェンダー革命』予告動画

Gender Revolution – Now on Netflix
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ジェンダー革命』感想(ネタバレあり)

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想像以上に複雑な性別の話

昔は単純でした。「男の子(boy)」「女の子(girl)」か。男の子は青を着て車で遊び、女の子はピンクで人形で遊ぶ。男の子は外で運動、女の子は家にいます。

でも今は違う。性別の概念は揺れています。

それをある人は「ポリティカル・コレクトネスを意識しすぎ」と冷笑的に吐き捨てます。

しかし、そんな発言をする人も含めて、「性別」というものを本当に理解しているのでしょうか。実は性別は思っている以上に複雑なのです。

『ジェンダー革命』ではまず10年以上ジェンダーを研究をしている活動家のサム・キラーマンが説明してくれます。「ジェンダーブレッド”パーソン”」という概念を語りだし、「性同一性(gender identity)」「性表現(gender expression)」「生物学的な性(biological sex)」の3つの視点があることを解説。この3つで成り立つジェンダーは、セクシュアリティ(性的指向;異性愛・同性愛・両性愛・無性愛など)とは無関係だとも。

でも性別って生殖器でわかるよね?…この世間でまかりとおる認識を改めるところからが最初のステップです。ジェンダーの決め手は外性器ではないということを。

その議論で忘れてはならないのが「インターセックス」の存在だと本作では真っ先に述べられます。作中では、インターセックス当事者であるブライアン・ダグラスが実体験を語ってくれます。一般的に母親のお腹の中に宿った胎児は最初は女性器を持っており、それがホルモンの影響で男性器に変化するかしないかという分かれ道となります。ブライアンは出生時は男の子で、ペニスや睾丸のようなものが発達していましたが、同時に子宮や卵巣も備わっていました。これは子宮の中でテストステロンを過剰に浴びた結果であり、「CAH(先天性副腎過形成症)」と診断されます。

そうした状態(胎内での性分化が一般的な形と異なり、典型的に進まない状態)で生まれた人を包括的に「インターセックス」と呼ぶ…と。

このような非典型的な外性器に対して1950年代から医学が積極的に介入し、「ペニス定規」というものでペニスの長さで男性とするか女性とするか判断するようになります。2.5センチ以下のペニスを持つ男児は手術で睾丸を取り、女児と認定する…1センチ以上のクリトリスを持つ女児はそれを切除して女児のまま扱われる…。

なかなかに衝撃的な話です。インターセックス活動家はこの定規に基づく種々の横暴さを指摘。11カ月で手術したブライアンも医者から親への説明はなく、ブライアンは何も疑問もなく女性として育ったと語ります。30代でその事実を知るまでは。作中を見るかぎりインフォームドコンセントがまるでないのが恐ろしい…。

要するに、本当は性別は外性器で判断できない(そんな単純ではない)のに、無理やり手術や育て方で性別は2種類であるかのように取り繕っていただけとも言えます。こんなことってあるでしょうか。もしかしたら自分もそうだったのでは?と心配になってきます。

とにかく生殖器(と強引な手術)で判断されていたこれまでの性別の概念は“誤魔化し”と言っても過言ではないくらい、あやふやなもの。では性別は何で判断するのか。

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性別への違和感を打ち明けられたら

ある日、自分の子に「私は男の子じゃない、女の子だと思っているよ」と打ち明けられたら…? 性別は2つで、生殖器で判断できるという固定観念で突き通していたのが瓦解したら…?

『ジェンダー革命』ではフォードの家族の事例が映し出されます。この家のエリーは男の子として出生時は記録されましたがいつまでも女の子のドレスばかりを着たがり、ついに4歳の誕生日パーティーのときに告げてくるのでした。自分は「girl」だと。今はまだいいけど、思春期になったらどうしよう…親は不安でいっぱいです。

他にもさまざまな親の姿が映されます。出生時に外性器の手術をしたこと、しなかったことを子に責められたらどうしようと悩む親。同性愛者なのかと疑い、パニックになっていた親。一時的なものではないかと本格的なホルモン療法を躊躇う親。

けれども性同一性に悩む10代は精神的な苦痛を抱えていることも多く、自殺率も高いです。作中でも、自分の子から自殺念慮を持っていたことを吐露され、そこで初めて事態の深刻さに気付いた親の姿が印象的でした。

子どもを持つ家庭だけではありません。長年も付き合った自分のパートナーに突然トランスジェンダーだとカミングアウトされたときの困惑を語るカップルもいたり…。

こういうドラマはイレギュラーじゃない、各地で普通に起きていることなんですね。

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現実を認めない社会

生物学的な“体の性”や性同一性の多様な実在は紛れもなく現実。でも社会はそれをなかなか認めてくれません。

『ジェンダー革命』はアメリカの作品なのでアメリカ中心に語られていますが、(これは作中で語られていませんが)アメリカにおいてトランスジェンダーの認知に大きな影響を与えたのは2015年のケイトリン・ジェンナーのカミングアウトだと言われています。陸上競技選手でリアリティ番組にも出ているくらいにお茶の間に知られた人だったのですが、突然の告白はアメリカ社会にトランスジェンダーの実在をその目に焼き付けました。さらにドラマ『トランスペアレント』も2014年から始まり、他にもカミングアウトする人がテレビに複数登場し、とにかく従来の奇抜な人というイメージでしかなかったドラァグなどと違い、もっと身近で多様なトランスジェンダーの姿が2010年代になって認知されるようになったのです。

もちろん本当はもっと以前からトランスはテレビなどで描かれていましたが…(それについては『テレビが見たLGBTQ』を参照)。

それと同時に論争も起きます。そのひとつがトイレ論争

ノースカロライナ州議会が2016年3月に「HB2」を可決。出生証明書と同じ性別のトイレの使用を定めたものでした。一方でオバマ政権は本人の認識する性別のトイレの使用を保護。これに反発する州が続出し、アメリカ全土を巻き込んだ大激論に発展します。ある人は本人の認識する性別のトイレ使用を認めたらレイプが起こると騒ぎます。これにギャヴィン・グリムのような若者が中心になって、トランスジェンダーを犯罪者にすり替えるなと反発。

ちなみに本作の作られた2017年以降は別の問題も勃発しています。それがスポーツ界におけるアスリート論争。トランスジェンダーのアスリートを認めるか否かですね。

ただ、ひとつわかってほしいのはトランスジェンダーは最近になって地球にやってきた異星人とかではありません。昔からいたのです。ずっとこの国に、この町に。だから急にトイレで性犯罪が多発するとか、スポーツのフェアな競争が乱されるとか、そういうことは起きないです(昔と同じですから)。単にトランスジェンダーを認識できるようになったというだけなんですどね。

だいたいシスジェンダーの人は「私たちに危害がくわえられる!不利になる!」と怯えていますけど、現実ではトランスジェンダーの人の方がはるかに危害をくわえられており、不利な環境で生きています。

また、作中では詳細まで言及されていませんでしたけど、トランスジェンダー平等の施策があってもインターセックスの人たちの不平等改善には届いていないケースもまだまだ頻発しています。

そして、何よりもこのドキュメンタリーへのレビューにてインターセックスやトランスジェンダーを真っ向から否定する低評価コメントがいっぱいついている光景もまた差別の証ですが…。

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このドキュメンタリーへの批判

ちなみにこの『ジェンダー革命』というドキュメンタリーにも批判があって…。それは本作でナビゲーターを務める“ケイティ・クーリック”についてです。

“ケイティ・クーリック”は人気のニュースキャスターだった人なのですが、実はそのキャスター時代に番組内でトランスジェンダーに対して目の前で結構失礼なことを言いまくっていた過去があるのです。そんな“ケイティ・クーリック”が本作でいけしゃあしゃあとトランスジェンダーに寄り添うのはなんだか欺瞞じゃないか、彼女のイメージ回復ビデオみたいだと非難の声もあります。

まあ、その不満もわかります。こういう場合、過去に偏見・差別を見せた人はどうしたら反省したと見なすのかという問題が立ちはだかりますよね。ハッキリ言って答えはないです。たぶん一生批判覚悟で向き合うしかないと思います。

でもこのドキュメンタリーの趣旨のひとつはおそらく「過去に偏見・差別をしてしまった人」も当事者と向き合えば変われるはず…というメッセージなんじゃないかな、と。

59歳のシスジェンダーの女性が学ぶことでそれを体現しているのでしょう。

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性別への価値観も次世代へ

『ジェンダー革命』で最後に印象的だったのが、世代交代。

1975年にトランスジェンダーとカミングアウトした伝説的な人物“レネ・リチャーズ”(今は80代)と、トランスジェンダーで俳優の“ハリ・ネフ”との対談です。ここでレネは性別二元論を頑なに信じており、若者の多くが支持するノンバイナリーなジェンダー観を「それは理想郷」と否定します。

こういう世代間ギャップが出るのは面白いですよね。同じトランスジェンダーでも意識が違っている。

また、日本ではとくにそうですが、トランスジェンダー・コミュニティとインターセックス・コミュニティにおける意識の隔たりがあったり。これはどちらかが正しいというわけではない、性別というものへの価値観の問題も多分に関係しいてきますし、インターセクショナリティが重視される昨今、おそらく時代とともに主流となる考えは変化していくでしょう。その変化を引っ張るのは間違いなく若い世代です。

今、若い人たちは性の多様さを積極的に受け入れています。パンジェンダー、バイジェンダー、A.F.A.B、A.M.A.B、ジェンダー・フルイド。そして代名詞の「they / them / their」。「性別は適合するものではなく肯定するもの」という言葉のとおり、外性器や手術にこだわらない若い人も現れています。きっとこれからもジェンダー革命は続きます。その先にどんな性別の在り方があるのかは私にもわかりません。

私もどんどん古い人間になっているのですが、なるべく若い人の新しい価値観に耳を傾けたいなと思いました。私もそんなジェンダー・レボリューションの一部として生きていきます。

ということで振り出しに戻しますが、もしかしたら自分の子が性別に違和感を感じているかもという親御さん。おめでとうございます。素敵なジェンダー探しの旅へようこそ。

『ジェンダー革命』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

インターセックスに関するドキュメンタリーです。

・『Orchids, My Intersex Adventure』(2010年)

・『Intersexion』(2012年)

・『Stories of Intersex and Faith』(2019年)

トランスジェンダーに関するドキュメンタリーです。

・『トランスジェンダーとハリウッド 過去、現在、そして』(2020年)

作品ポスター・画像 (C)National Geographic

以上、『ジェンダー革命』の感想でした。

Gender Revolution: A Journey with Katie Couric (2017) [Japanese Review]