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『紅海リゾート 奇跡の救出計画』感想(ネタバレ)…Netflix;移民を救うのが本当のヒーロー

紅海リゾート 奇跡の救出計画

移民を救うのが本当の…Netflix映画『紅海リゾート 奇跡の救出計画』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Red Sea Diving Resort
製作国:カナダ、アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ギデオン・ラフ

紅海リゾート 奇跡の救出計画

こうかいりぞーと きせきのきゅうしゅつけいかく
紅海リゾート 奇跡の救出計画

『紅海リゾート 奇跡の救出計画』あらすじ

1800年代初頭。スーダンの難民キャンプから数千人ものエチオピア系ユダヤ人をイスラエルへ連れ出すという、とんでもない任務が始まった。秘密警察の厳しい監視がある中、イスラエルの諜報特務庁モサドのある男は、誰も見捨てないという固い意志のもと、難問に挑む。成功の鍵となるのは、寂れて使われていない「紅海リゾート」というホテルだった。

『紅海リゾート 奇跡の救出計画』感想(ネタバレなし)

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ヒーローは歴史の中にいる

日本の芸能人は政治的発言をすると後ろ指を指されるのがなんだかさも当然のようになっていますが、海外を見渡せば、むしろ政治的発言を公然とする芸能人はたくさんいます。差別のない社会を目指して発言・行動する人、ハッキリと政治家批判をする人…それがむしろスタンダードなくらいです。芸能人というのは、基本は裕福で注目度も高い人物ですから、そのぶん社会への大きな責任もある…そういう価値観がこれらの政治への積極的な関与を後押ししているのでしょう。

映画俳優も例外ではありません。あの話題作に出演するあの俳優もこの俳優も、あちこちで政治に切り込んだコメントを堂々としています。

そのひとりが“クリス・エヴァンス”です。マーベル映画のキャプテン・アメリカでおなじみの彼ですが、ヒーローを演じたのだからリアルでもヒーロー的精神を持たねばと考えているのか、非常に政治への言及も活発。最近も差別を煽るような言動を平気でするドナルド・トランプ大統領に対して、きっぱりと「レイシストです」と本人のTwitterにアタックしていました。

『アベンジャーズ エンドゲーム』では、サノスとの激戦を繰り広げた“クリス・エヴァンス”ですが、現実では現アメリカ大統領とバトルしているのです。どっちもビックな強敵だなぁ…。

そんなアメコミ映画の方は卒業を迎えた“クリス・エヴァンス”が新たに主演作に挑んだ本作『紅海リゾート 奇跡の救出計画』は、まさに“クリス・エヴァンス”が現実の方で普段から戦っている問題に向き合う姿をそのまま反映したかのような映画でした。

物語は1970年代終わりから1980年代初めにかけて、イスラエルの諜報特務庁「モサド」がスーダンの難民キャンプから数千人ものエチオピア系ユダヤ人をイスラエルへ連れ出した実際の作戦を描いています。この作戦の詳細や背景にある歴史については、後半の感想でもう少し詳しく説明しています。

ともかくなぜこんなイスラエルの情報機関であるモサドがエチオピアやスーダンで実行した作戦を、アメリカとカナダが映画化しているのかといえば、察しのつく方はお分かりのとおり、現在、まさに白熱の社会問題となっている“アレ”…つまり「移民問題」と重ねるためです。

国際ニュースに敏感な方には言うまでもないですが、あらためて言っておくと、今、先進国社会では「移民を受け入れるか否か」で世論が真っ二つに分断されて、激しい論争になっています。アメリカでは前述したトランプ大統領が移民排斥を掲げており、国境に壁を作るやら、移民系の議員は国に帰れやら、ヘイトを煽りまくり。それに対して“助け合い”こそが社会の要だとして、移民に寛容であるべきと反対する人々も大勢います。“クリス・エヴァンス”もそのひとりです。

『紅海リゾート 奇跡の救出計画』はそんな揺れる現代社会に対して、移民を助けてきた歴史、そしてかつては自分も移民だったじゃないかという過去を思い出させる…メッセージ性の強い映画です。

監督は“ギデオン・ラフ”というイスラエル出身の人物で、ドラマシリーズ『Prisoners of War』(それをリメイクした『HOMELAND』)で有名。題材からして、この人しかいないという納得の起用ですし、そもそも製作にも携わっています。

俳優陣は“クリス・エヴァンス”の他に、『それでも夜は明ける』や『ザ・ギャンブラー 熱い賭け』に出演した“マイケル・ケネス・ウィリアムズ”、『マグニフィセント・セブン』や『ガール・オン・ザ・トレイン』に出演した“ヘイリー・ベネット”、ドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』でおなじみの“マイケル・ユイスマン”、『ジュラシック・パークIII』で卵を盗むあの役を演じた“アレッサンドロ・ニヴォラ”、『恋愛小説家』で高く評価された“グレッグ・キニア”、大ベテランのイギリス人俳優“ベン・キングズレー”などなど。意外なほどマニアが喜ぶ豪華な顔ぶれじゃないでしょうか。

史実ベースではありますが、脚色もほどよくなされており、“チーム系潜入ケイパーもの”としても楽しいですし、130分という長尺でありながらも見やすいと思います。少なくともそこまでシリアス一辺倒な作りではないので、暇な時間にちょっと観てみるというスタイルでもOKでしょう。

Netflixオリジナル作品として配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優ファンは楽しい)
友人 ◯(暇つぶしになる)
恋人 ◯(暇つぶしになる)
キッズ △(やや残酷描写あり)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『紅海リゾート 奇跡の救出計画』感想(ネタバレあり)

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そうだ、ホテルをやろう

あらすじをざっくり振り返る前に、『紅海リゾート 奇跡の救出計画』で題材となる“エチオピア系ユダヤ人のイスラエルへの脱出”。実はこれは作中の出来事が初めてではなく、幾度も行われており、この行動は「アリーヤー」と呼ばれています(“クリス・エヴァンス”演じる本作の主人公「アリ」もたぶんそこから名前をとっているのではないかな)。そもそもユダヤ人の中には、聖地であるイスラエルの地に故郷を再建しようという「シオニズム」という思想があり、イスラエルからはるか遠く離れた場所にいるユダヤ人がイスラエルに向かいたがるのはそのためです。

イスラエル政府がエチオピア系ユダヤ人を受け入れてきたことは何度もあり、最初は1934年だったそうですが、本作ではその中でも1975年から1990年にかけて実行された「Operation Brothers」を描いています。この作戦は時期でさらに2つに分けられ、後の作戦を「Operation Moses」とも呼ぶそうです。

そもそもエチオピアではなぜ難民が発生していたのか。この時期、エチオピアは軍部の革命によって長らくずっと続いていた皇帝が排除され、国家体制が崩壊しました。その後、安定した政府ができればよかったのですが、そうはならず、内政はゴタゴタ。加えてアメリカの支援を受けたソマリアに攻められ、ソ連に親しかったエチオピアは窮地。さらには内部のエリトリアの独立勢力も決起し、もはや国民のことを気にかける余裕はゼロ。難民が生まれるのは必然でした。ちなみにエチオピア連邦民主共和国として独立政治が終わり、民主化に動き出したのは1995年になってからです。

ということで、こうしてイスラエルにたくさんやってきたエチオピア系ユダヤ人は「ベタ・イスラエル」と呼ばれています。

それで本作『紅海リゾート 奇跡の救出計画』に話を戻します。

冒頭は、1979年のエチオピア。ユダヤ人が暮らす集落から人々をこっそり連れ出すアリという男。機転を利かせて武装した兵をやりすごす頭の良さと瞬発力…さすがキャプテンです(違う映画です)。

犠牲を出しながらもエチオピアからスーダンの難民キャンプへ、エチオピア系ユダヤ人を連れてくることに成功しますが、問題はそこからどうするか。目的地は聖地イスラエル。しかし、道は前途多難…というよりは道すらない状況。カベデという現地の主導的な協力者を置いておき、ひとまずイスラエルに戻ることにしたアリ。彼はイスラエル諜報特務庁の所属メンバーで6週間も潜入していたらしく、当人は今すぐにでも現場に戻りたいと言いますが、上司のイーサンは考えなしではダメだとキッパリ拒否。
そこでアリは妙案を考え出します。

「紅海リゾート」というイタリア系企業が建てたホテルがスーダンの海沿いにあって、それをスーダン政府からリースし、スーダンの難民キャンプからユダヤ人たちをそこに連れ込み、そこからイスラエル海軍船が石油タンカーに偽装して接近し密航させればいい…。幸か不幸か、その地域一帯は「ハダンダワ」という民族に支配されており、無法地帯になっているので、目立たない。奇抜なアイディアに対して、結局、他に名案もないので実施することが決定します。例のホテルは、「ナトコア」というスイスのペーパーカンパニーを通してリースすることもとんとん拍子で決まり。

問題は、誰が実行するか。卓越した能力と覚悟のあるチームが必要でした。

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観光客も難民もウェルカム

ここから『紅海リゾート 奇跡の救出計画』は、『オーシャンズ』シリーズみたいなチームミッション系のジャンルに変貌。それまでのやや重たい史実の空気が薄れて、かなりライトなテイストになります。

アリはさっそくチーム集めに疾走。“攻撃型”客室乗務員のレイチェル、ベリーズで悠々自適に女遊びするジェイク、アムステルダムでスナイパー中のマックス、元軍医で今は医者のサミーをスカウト。

3週間後にはナトコア社に勢揃いし、仮の偽装プロフィールを与えます。レイチェルはアンゲラ・ブリュッヘル、ジェイクはルカ・モラーノ、サミーはリーアム・アンダーソン、マックスはマルタ共和国のアービング・ヴィルミントン、そしてアリはガイ・トーマス。なんだか作戦の重要性をイマイチわかっているのかわかっていないのか怪しげなチームを見て、上司のイーサンは心配顔。

それでも引き返せない。スーダンのハルツーム国際空港にチームは降り立ちます。そこでアメリカ大使館のウォルトンに怪しまれていることを自覚するアリですが、ひとまず無視。スーダンの観光省に赴き、ホテルのリースを確定。25万ドルのはずが50万ドルだと言われ、35万ドルで手を打つなど、賄賂・不正だらけの洗礼を受けつつ、なんとか「紅海リゾート」に到着。

しかし、そこはイメージとは全く違う、なかなかに砂まみれのボロ建物で、まずはそれなりに綺麗にしておくことに。作戦決行日を2週間後に決め、準備を進めて、いざ本番。

ところがまたもトラブル。バスが来るなと思ったら、観光客がゾロゾロ降りてくる。まだオープンしていませんけどなんて言ってみるものの、パンフレットを見せてくるガイドらしき男。どうやらきっと観光省の大佐が呼んだ客だと推測し、ボロは出せないので、急遽、偽物を本物のホテルにしようということに。ホテル業、スタートです。

肝心の作戦は検問所を強行突破するというイベントがありましたが、なんとか174人をボードに乗せて、密航させることに成功。秘密警察に怪しまれますが、上手く回避。上出来。

本物の旅行者がいれば怪しまれないと思いついた一同は、太極拳教室やダイビングツアーなどしっかりホテル業をしながらも、ユダヤ人救出作戦をどんどん秘密裏に実行。1981年8月には第17ミッションを完遂し、「紅海リゾート」の宿泊者数は3640人を突破。

しかし、ガダーレフ難民キャンプで秘密警察による暴力的な惨殺が行われたことで、事態は緊迫。ここで物語はまた先ほどの軽さから一転、重々しくなります。

アリたちは決断を迫られていき、最後の救出のチャンスが…。

そんな紆余曲折のポリティカルサスペンス風味もあるチームドラマでした。

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誇りに思うか、恥だと思うか

『紅海リゾート 奇跡の救出計画』はもちろんおおまかな出来事は史実どおりです。終盤にアメリカの協力を得るのも実際の流れ。ただ、やっぱり全体的にはかなり脚色が多めで、史実を素材にしたフィクションと考えるべきでしょう。

一方でそれは制作陣の意図でもおそらくはあり、前述したように現代社会で起こっている難民問題への建設的な善意のメッセージを狙った映画なのは言うまでもありません。

後半、最後の頼みの綱としてアリがアメリカ大使館のウォルトンの元へ行った際の、「今、やろうとしたことはあなたの財産になる。いつかこの瞬間を思いだしたとき、誇りに思うか、恥だと思うか」のセリフなんかはまさにそれですよね。

最後の救出作戦で、イギリス軍が使っていた滑走路から空路でユダヤ人を運ぶ場面。兵士たちが迫る一刻を争う事態の中、輸送飛行機に「(安全基準上)228人しか乗せられない」というスタッフに対して、400人全員を乗せるために、規則よりも大事なものを考えるように迫るシーンも、今の私たちに突き刺さるものです。

もっといえば、「紅海リゾート」というホテルがキーワードになるのも暗示的な気がします。作中ではホテル営業もすることになる中で、ドイツや日本から観光客が来ますが、つまるところ、観光客の相手もしながら移民も受け入れるというのは、現代の先進国が進行形で行っていること。あの「紅海リゾート」そのものは先進国のあるべき姿としての象徴なんでしょう。

ちなみに史実ではホテルなんか使わずに、大半のユダヤ人たちはヨーロッパへ移住し、そこからイスラエルに向かいましたし、スーダン政府も国際的な介入によってこのユダヤ人の移動を支えました(つまり、あそこまで善悪側がハッキリしていない)。

まあ、これは映画的なアレンジとしてわからないでもないですが…。

個人的には、サスペンス部分は正直、少し冗長かなとも思いましたが…。さすがにアリが何度も捕まっては、割と簡単に釈放されすぎですよね。追ってくる秘密警察のリーダーの人も地味にアホっぽいですし(ホテルに常に見張りを置けばいいのに)。あと、作中でアリが筋トレしているシーンが意味もなく挟まれるのは何なのか(そんな体を使う場面もないし)…“クリス・エヴァンス”の普段の習慣?

ただ、一番の問題は、史実を単純化しすぎではないかという部分でしょう。イスラエル・ユダヤ人・難民…これらのトピックは当時でももっと論争のあった題材です。複雑な評価があります。それを本作は、あくまでイスラエル視点、先進国視点で、正義の行動として描いています。本当は難民側の視点をしっかり入れるべきだったとも思いますが、ジャンル映画的にする以上、どうしてもそうはなっていません。これだと「ホワイト・セイバー」的な先進国救世主な感じが変に強調されるので…。『アルゴ』みたいに異国にいる同国人を単純に脱出させて救う話だったら、もっとシンプルに悩まなくてもいいのですけど。あらためてこの題材は難しいですよね…。

でも、この映画を今、作るという意義はよくわかります。多少の単純化というジレンマに自らダイブしても、このメッセージは伝えたいという素直な思いをこちらもキャッチできました。

50年後、100年後の未来の世代に誇れる歴史を、私たちは歩んでいきたいですね。

『紅海リゾート 奇跡の救出計画』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 44% Audience –%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『紅海リゾート 奇跡の救出計画』の感想でした。

The Red Sea Diving Resort (2019) [Japanese Review] 『紅海リゾート 奇跡の救出計画』考察・評価レビュー