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『共謀家族』感想(ネタバレ)…悪いことしたら映画鑑賞履歴を調べられるの!?

共謀家族

映画好き親父は映画知識で完全犯罪を企てられるのか…映画『共謀家族』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:誤殺(Sheep Without a Shepherd)
製作国:中国(2019年)
日本公開日:2021年7月16日
監督:サム・クァー

性暴力描写

共謀家族

共謀家族

『共謀家族』あらすじ

タイで暮らすリー・ウェイジエは、小さなインターネット回線会社を経営しながら、妻や高校生の長女、まだ幼い次女と幸せに暮らしている。彼は地域の誰からも好かれており、善人として認められていた。そして大の映画好きという一面もあった。ある日、サマーキャンプに出かけた長女のピンピンが、不良高校生のスーチャットとの間で大きな問題を抱えてしまい、リーは映画知識を用いて危険な賭けに出る。

『共謀家族』感想(ネタバレなし)

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映画の知識でそこまでやれるのか!?

映画鑑賞を趣味とする人間にとって、その趣味を突き詰めていくと「映画を何本観たか」というのは大きな論点になります。もちろん映画をたくさん観た人ほど偉いとか、そういう話ではありません。

ただ、やはり人生で観られる映画の本数は限られてきます。ファスト映画などという邪道は論外にしても、映画というのは基本は1作あたり約2時間を消費するわけです。そうなってくると人生のスケジュールの空き時間にどの作品をどれだけ観るかというのは大事です。

私はそう考えてしまうとなるべくたくさんの映画を観る方がいいなと思うので、同じ作品を繰り返し観るのは極力避けつつ、数をこなして体験を積み重ねたいというのが基本方針です。倍速視聴も同時視聴もしません。じっくり向き合います。

そうやって培われて構築された「私の鑑賞済み映画リスト」というのは自分を表す個性みたいなものだとも思っています。映画好きとしてそういう楽しさに到達するともう抜け出せないですね。

今回紹介する映画はそんな映画ファンにはちょっと他人事ではいられないある主人公が出てくる作品です。それが本作『共謀家族』

何がどう他人事にできないのかというと、本作の主人公は大の映画好きで、それこそ「映画を1000本観れば世界にわからないことはない」と豪語しちゃうような中年オヤジなのです。いやさすがに私はこんなことは言わない(言わないよ?)、でも気持ちもわからないでもない、数多の映画を観てきた自分に対する自負をぶら下げている人間。それだけでもなんとなく共感してしまいます。

しかし、本作はここからが凄い。この映画オタク主人公が映画の知識を総動員して、なんと殺人を隠蔽するという完全犯罪を家族のためにやってしまおうとするのがこの『共謀家族』のメインストーリーなのです。

大丈夫なのか!?と同類である私は心配になってくるものですが、それがどうなるかは観てのお楽しみ。軽快なサスペンスのように見せかけつつ、かなり社会派なトーンも見せたりと、意外に表情を器用に変える映画です。

この『共謀家族』(邦題は『万引き家族』に対抗意識を燃やしたのかな)、中国映画であり、2019年の作品です。中国本国ではかなり大ヒットしたそうで、2019年の中国国内における中国映画の興行収入ランキングのベスト10のうち、この『共謀家族』は9位にランクインしています(約1億9160万ドル、日本円に換算すると約210億円)。

本作はもともとはインド映画なのだそうでその中国版リメイクということらしいのですが、私は元映画を観ていないので何とも言えない…。でも盛況っぷりを見ると、中国観客の心をバッチリ掴んでいるようですね。でも舞台はタイなのです。東南アジアに暮らす中国系を描くという点でも新鮮ですよね。

俳優陣は、『唐人街探偵 東京MISSION』にも出演していてマルチに活躍する”シャオ・ヤン”、『チィファの手紙』『薬の神じゃない!』の”タン・ジュオ”、さらに『ラストエンペラー』で世界に知られる“ジョアン・チェン”がかなりのインパクトのある役で登場しています。また、本作で物語の起点となる家族の長女を演じている“オードリー・ホイ”は“ジョアン・チェン”の次女なのだそうです。それを踏まえて鑑賞すると「なんてキャスティングなんだ…」とびっくりするのですが…。

監督はマレーシア出身で、台湾の大学で映画を学んだという経歴を持つ新鋭の“サム・クァー”で、今作が長編初監督。それにしてもなかなかに攻めた作品をぶっこんできましたね。『共謀家族』は結構中国映画らしからぬ中国映画になっていて、その理由にはやはりこの“サム・クァー”監督のセンスもあるのでしょうか。

クライムサスペンス映画としては緊張感のあるものになっていますので、そうしたジャンルが好きな方は韓国映画とはまた違う空気感をまとったこの『共謀家族』を楽しめるのじゃないでしょうか。

なお、本作には性暴力描写があるのでその点に関しては注意してください。

あと、本作は冒頭が大事です。うっかり見逃すことのないように。

オススメ度のチェック

ひとり3.5:映画ファンは親近感
友人3.5:映画好き同士で
恋人3.5:感動作という感じではない
キッズ3.0:やや暴力的です
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『共謀家族』予告動画

『共謀家族』予告編 7月16日(金)より 全国ロードショー !
↓ここからネタバレが含まれます↓

『共謀家族』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):映画で完全犯罪?

大勢の犯罪者が収容されている刑務所。そこで落ち葉はきをしている受刑者の男がひとり。そいつは実は脱獄を企てていました。独房のトイレをこじあけ、汚水を我慢して排水路を通り、外へ運搬される箱に隠れます。しかし、その箱は土に埋められるようで中の男は慌てます。ふと横を見ると死体が…。この箱は棺だったのです。そして…。

そんな話を食堂のソン相手にしていた男。彼の名前はリー・ウェイジエ。ここはタイのツァンバン。リーはこの地に中国からやってきた男で、今は妻と2人の娘と一緒に暮らしています。ここではインターネット回線会社を細々と経営していましたが、リーの趣味は映画です。映画のことなら喋り出したら止まらないのです。今も脱獄モノの話に夢中で、「『ショーシャンクの空に』は最高だぞ」と好きなセリフを熱心に語り、やや周囲からは呆れられています。

でもリーは善人として地域からは慕われていました。インターネット回線会社の仕事でも取り立てを待つ優しさを見せ、困っている人がいれば映画の知識で無償で助言します。

一方、最近は宝くじにあたった男を殺され、地元の警官であるサンクンは捜査という名目で好き放題していて、住民からは嫌われていました。サンクンは危険な奴で、ヤギも撃ち殺す倫理観ゼロです。リーは「俺が警察官ならそんな事件はすぐに解決だ」「映画を1000本観れば世界にわからないことはない」と自慢げです。

そんな中、ラーウェン警察局長は容疑者の男を尋問、犯罪トリックを見事に暴いてみせていました。1日で解決することに驚く警察関係者。「1000の事件を見ればわからないことはない」と言い切るラーウェンdしたが、そのやり方は手段を選ばないものでした。

リーが隣が墓地の我が家に帰宅すると、妻・アユーと下の娘・アンアンがお出迎え。高校1年の上の娘のピンピンも帰ってきますが、父への言葉は冷たいです。サマーキャンプに行きたいのでサインをしてほしいらしく、優秀な生徒が行くと聞いて、喜んでサインしようとするリー。しかしカネがかかると知り、手が止まります。ピンピンは怒って部屋に行ってしまいました。さすがに娘にそんな扱いはできないとリーは書類に同意して、サマーキャンプに行かせてあげます。

ピンピンはキャンプへ。他にも多くの地域から学生が集まっていました。その中のひとり、ラーウェン警察局長の息子であるスーチャットはピンピンに目をつけ、夜にさりげなく飲み物を渡し…。

キャンプから帰宅したピンピンはなぜか機嫌が悪そうで家族と会話もしようとしません。

外を歩いているとピンピンの前に黄色い高級車で現れたのがスーチャット。彼はスマホで動画を見せてきます。「あの薬はよく効く」といいながら…。実はピンピンはスーチャットに薬を盛られ、レイプされていたのでした。「今度はもっと楽しもう」と言い放つスーチャット。ピンピンは断りますが、動画をネットにあげると脅され、困惑。

母は自室にこもるピンピンを心配し、「何かあったら話して」と語ります。

その頃、リーはルオトンのホテルで仕事があったので、そちらに出張に出ており、空き時間にムエタイを観戦していました。

同時刻の夜、ピンピンは指定された場所で待っていると、スーチャットが意気揚々と現れます。しかし、そこにはピンピンの母もいました。「あなたが誰の息子でも娘に手を出したら許さない」

その場で揉み合いになる3人。ピンピンはスーチャットの手に持つスマホを奪おうと、近くにあった鍬を掴み、振り下ろします。それはスーチャットの頭部に直撃し、彼は倒れ、動かなくなります。

死んでしまったのか。事態の深刻さに固まる2人。警察には通報できないと母は呟き、その遺体を自分で処分しようとし…。

リーは電話に出ない家族を心配し、戻ってきました。そして事情を知ります。

「誰も刑務所に行かせない。これからは父さんがみんなを守る」

でも何に頼るのか、そう、それは映画の知識だけ…。

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ただの映画好きの中年オヤジじゃない

『共謀家族』を最初に観始めた時にまず思ったのは、映画の知識で完全犯罪を実現するのはさすがに無理では?というツッコミです。なにせそんな感じで調子に乗って大失敗する事例を映画内でこっちは何度も観てきていますからね。あのリー・ウェイジエは『アメリカン・アニマルズ』を観なかったのか(公開時期的に無理だけど)。

たぶん犯罪映画が好きな人ほど、フィクションで実行される犯罪計画は現実では実現できないことをよく理解していると思うです。そう考えるとあのリーは他の映画好きとトークしたらボコボコに批判とかされそう…。

でも本作はそれを重々承知のうえで、でも映画に賭けてみようじゃないかという、なんともアツい映画愛が炸裂する物語であり、それはそれで映画ファンとしてはその熱意を無下に切り捨てることもできず、思わずリーを応援したくなるような…。

それにしてもあのリー、映画好きの中年オヤジにしては肝が据わっています。いくら映画知識を前提にしているとはいえ、あそこまで堂々と車やスマホなどの証拠隠滅、アリバイ工作、遺体処理、尋問対応などをこなせるなんてどういう精神力なのか。私だったら脳内では完全犯罪を妄想できてもラーウェン警察局長をいざ目の前にしたら動転してパニック症状を起こしそうですよ…。

敵対するあのラーウェン警察局長もいかにも映画的といいますか、キャラの濃い存在感を放っており、これはこれで悪役としては完璧です。確かに推理のシーンは強引です。『悪魔は誰だ』のあんなひと言あらすじを聞いただけでトリックを推測するなんてちょっと無理に急かしすぎる…。

それにしても容疑者候補になったら映画の鑑賞履歴を警察に調べられるのか…。私だったら「むむ! こいつ、『ミッドサマー』を何度も観ている。こんなイカれた映画を観ているということはヤバい奴に違いない!」って思われそう…。

ともあれその「映画オタクvs警察」の緻密な頭脳合戦は最終的には強引な警察による逮捕と、そしてかなり観客を放置したリーによる独断の仕掛けによって決着がついてしまうので、観客が一緒に共謀者になってハラハラする感じではないのですが、緊張感はじゅうぶんに満喫できるものでした。

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家族規範vs家族規範

『共謀家族』は序盤の主人公の調子よさそうな雰囲気とは打って変わって、メインストーリーはかなりのシリアスで社会風刺をともなう展開に突き進んでいきます。このあたりは中国映画らしからぬ中国映画だなと思う部分ですが、一方で中国映画を意識した挑戦的なアプローチもあったなと思うのです。

とくにリーの家族とラーウェンの家族の対立。中国では基本的に「家族規範」というのが絶対視されます。人は家族で構成されて支え合うものである…という認識ですね。だからピンピンとアユーの行為をかばって隠蔽に手を貸すリーの行動は家族規範に則っています。一方で、息子の安否を確かめようとするラーウェンの行動もやはり家族規範に則っています。つまり、どちらも規範に従ってはいる。

ということは本作は「家族規範vs家族規範」のストーリーであり、ある種の社会が正しいとみなしてきた規範同士がもし衝突してしまったら、あなたはどっちをとりますか?という問いかけをしているわけです。片方は家族が被害者であり加害者になってしまったとき、もう片方は家族が加害者であり被害者になってしまったとき。

最終的に全ての責任を自分が背負ってリーは自首するわけですが、これは一見するととても家父長的な男らしさによるけじめのつけ方に思えます。でもここで映画はあの冒頭の刑務所のシーンを繰り返す。これによってもしかしてリーは脱獄するまでの流れさえも計算に入れていたのではないかと思わせる。ここは本作の非常に上手いトリックでした(「時間をずらす」という技法がまさしくここで使われる)。

もちろん気になるところはあって、結局は本作は「家族規範」を疑っていないので物語がそこから脱却する方向に飛躍はしないんですね。だから完全に一番の被害者であるピンピンのサバイバーとしての立場とかはうやむやになっており、そこはまるでタブーのように触れずじまいで終わってしまいます。

物語が終始父親であるリーの掌の上で進行していくのでしょうがないのですが、どこかで視点を交代しても良かったかなとは思いました。ピンピンとかアユーとかにトリックを引き継がせてもいいですし…。あとやっぱり普通にあの最年少のアンアンにはトラウマを与える経験だったよね…。

『共謀家族』は捻りで単純な物語を面白くするという映画のストーリーテリングの醍醐味を味わえますし、家族規範の範囲内では手を尽くした策士でした。

この映画は…きっと犯罪の参考にはなりません。

『共謀家族』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience –%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2019 FUJIAN HENGYE PICTURES CO., LTD, WANDA MEDIA CO., LTD

以上、『共謀家族』の感想でした。

Sheep Without a Shepherd (2019) [Japanese Review]