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『ガルヴェストン』感想(ネタバレ)…エル・ファニングを拾った男

ガルヴェストン

エル・ファニングを拾った男…映画『ガルヴェストン』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Galveston
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年5月17日
監督:メラニー・ロラン
性暴力描写

ガルヴェストン

がるべすとん
ガルヴェストン

『ガルヴェストン』あらすじ

裏社会で生きてきたロイは末期がんと診断されショックを受ける。その夜いつものようにボスに命じられるまま向かった仕事先で、ロイは何者かに襲われる。組織に切り捨てられたことを知った彼は、その場に囚われていた若い女を連れて逃亡する。その女・ロッキーもまた問題を抱えていた。傷だらけの2人の果てなき逃避行が幕を開ける。

『ガルヴェストン』感想(ネタバレなし)

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エルを“ふぁんふぁん”しよう

映画業界で活躍する若手の姉妹俳優といえば、日本だと広瀬アリス&広瀬すずのペアを思い浮かべる人も多いでしょうが、ハリウッドだと“ダコタ・ファニング”と“エル・ファニング”が有名どころ。今回、話題にするのは“エル・ファニング”の方です。

“エル・ファニング”は1998年生まれの現在21歳ですが、ほぼ「年齢=芸歴」と言ってもいいほど幼い頃から役者として仕事しており(2~3歳から)、すでにベテランの貫禄。最初は姉のダコタ・ファニングの幼少時代を演じるような役回りで、決して目立つものではありませんでした(姉とは『となりのトトロ』に登場する主人公姉妹の吹き替えで共演していたりもします)。ところがどんどん活躍の場を広げ、『SUPER8 スーパーエイト』で王道ヒロインを演じて若者層にブレイクしたかと思えば、最近は『ネオン・デーモン』『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』『パーティで女の子に話しかけるには』『メアリーの総て』と、ときにエキセントリックだったり、バイオレンスだったり、ミステリアスだったり、多種多様なキャラを巧みに演じ分ける器用さを披露。

出演作品の勢いでいえば姉以上にノッているかもしれません(ちなみにどうでもいい情報ですが、姉よりも身長が高いんですね、“エル・ファニング”)。それどころか2019年はカンヌ国際映画祭のコンペティション部門の審査員メンバーにもなっています。あの凄い顔ぶれの中に混ざる“エル・ファニング”、タダモノじゃない…。

個人的には、彼女が初めて雑誌「Vogue」を飾ったことを記念して製作されたショートフィルムである『Elle Fanning’s Fan Fantasy』での“エル・ファニング”の屈託のないスタイルがすごく“彼女らしさ”を象徴しているようで好き。見ていない人は普通にYouTubeで視聴できるのでオススメ。名前の「Fanning」をもじり、同じスペルや発音の単語でギャグっぽくしたオシャレな動画です。きっとこれを見ればあなたも“エル・ファニング”にふぁんふぁんしたくなるファンになりますよ。

そんな“エル・ファニング”の次なる出演作である本作『ガルヴェストン』はまた違ったタイプの彼女が見られます。本作では娼婦の役なのですが、詳しくはネタバレになるので言えませんが、結構いろいろな一面をのぞかせる、一口でたくさんの味を楽しめるオイシイ映画です。

映画のルックからは「荒んだ大人の男と若い女の子」のコンビということで『レオン』に代表される定番ジャンルに見えますが、エンタメ性はなく、完全にノワールです。

共演は“ベン・フォスター”で、彼は『足跡はかき消して』に続き、またしてもこういう不遇な運命に孤独に沈む役で、すっかりマイキャラ化してきましたね。

『ガルヴェストン』は監督も特筆できて、女優として『イングロリアス・バスターズ』などにも出演していたフランス人の“メラニー・ロラン”がメガホンをとっているんですね。監督業にも以前から挑んでいて評価もあったようですが、私は監督作を『ガルヴェストン』で初めて鑑賞。既存の型にはハマらないフレッシュさがありますし、数の少ない女性監督なのでこの才能をさらに見てみたいところです。

本作は、ニック・ピゾラットが2010年に発表した小説「逃亡のガルヴェストン」を原作としており、実は原作者が脚本に関わっていたようですが、製作段階で意見の相違があり、降板。脚本のクレジットが“ジム・ハメット”という架空の人物の名前になっている、変わった感じになっています。ただ、映画を観る限り、そんないざこざは感じさせない主軸のしっかりした物語になっていましたので安心してください(たぶん監督のクリエイティビティが優先されたのでしょうね)。

俳優ファンはもちろん必見として、ノワール好きにもオススメできる一作です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(とくに俳優ファンなら)
友人 △(盛り上がる系ではない)
恋人 ◯(シリアスなドラマ好きなら)
キッズ △(大人向けで、残酷描写あり)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ガルヴェストン』感想(ネタバレあり)

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ガルヴェストンという場所と時代性

まず『ガルヴェストン』の物語において重要なロケーションとなっているタイトルそのままの「ガルヴェストン」という街について触れていきます。

テキサス州南東の海岸に面した位置にあるこの街は、とても歴史のある場所です。それこそテキサスがまだアメリカの州ではなく「テキサス共和国」として独立していた時代。ガルヴェストンはテキサス共和国の首都のひとつでした(首都は複数ありました)。現在は海に面した立地からリゾート地としても栄えていますが、ハリケーンが襲ってきたりと、困った問題もしばしば。

そんなガルヴェストンがなぜ舞台になっているのか。

これは私の感想にすぎませんが、思うにガルヴェストンがアメリカの最果てのようなものだから…なのかもしれません。海岸に面していると言いましたが、その海は「メキシコ湾」です。作中でもこの海辺が非常に重要なシーンとして印象深く登場しますが、つまり、逃げられる場所としてここが行き止まりなんですね。もちろん国境を越えて海外に行けばいいのですが、作中の逃亡者である主人公組はそんなことできるわけもなく…。

この地域性に加えて、本作の時代設定が「1988年」だというのも印象深いです。

1988年はひとつの時代が変わる直前の年。ロナルド・レーガン政権時代の終焉であり、翌1989年のベルリンの壁崩壊、1991年のソビエト連邦解体…冷戦の終了は新しい世界の幕開けを意味していました。その世界ではこれまで権力を手にしていた者は退場し、代わりに新たなパワーが芽生えることになります。

そんな1988年のアメリカの辺境で、闇社会で生きてきたひとりの男が人生の終わりを自覚し、また一方で闇社会で生きてきたひとりの若い女が人生の転換を夢見る…とても意味深いですよね。

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どうせクソみたいな人生だから

『ガルヴェストン』の始まりは、人生の終了宣告からです。殺し屋として長らく手を汚してきたロイは病院で癌と宣告を受けて、自分の荒んだ命は暴力や犯罪ではなく病気という、自分でも得体の知れない何かによってあっさり終わろうとしていることを知ります。医者の制止もきかず出ていくロイにできることはなし。いつものようにボスのスタンから仕事依頼を引き受け、相棒とともに現場に向かいます。銃は無しだとの指示でしたが、逡巡した後やっぱり銃を手放せないロイ。しかし、それが功を奏したのか、現場ではなぜか強襲され、しかたなく銃で応戦。ロイはこれまで仕事していた組織からも用済みと思われていたのでした。

このロイの存在は、完全にアメリカの旧時代的な存在そのものです。自分の意志とは関係なく消えようとしている、今まで役立ってきたのに捨てられる…。ロイが自暴自棄になるのも当然です。

そんなロイはたまたまその現場で捕まっていたロッキーという若い女を車に乗せて逃走。最初は人質なのかなと思いましたが、どうやらそうでもなく、かといって欲望を満たすためなどの極悪な動機もない。完全に流れのままです。でもしだいにロイにとってロッキーの存在は、この世から消える自分にとっての唯一の残る“希望”みたいなものに変わっていったのでしょうか。

しかし、このロッキー。実はロイ以上に闇社会で汚されてきた存在だったことがだんだんと明らかに…。ロッキーの過去を知ってしまうと、もしかしたらロッキーの方がロイに対して唯一の“希望”を感じていたのかもしれませんね。

ロッキーのお願いで、とある掘っ立て小屋の前で車を停めるロイ。着替えとお金を取って来ると言っておもむろにロッキーがそのみすぼらしい小屋に入って行き、待ちぼうけのロイ。ふと目の前に幼そうな女の子がいる…あれっと思っていると突然の銃声。服を詰めて袋を持って駆けてくるロッキーはその女の子とともに車に乗り込み、ロイはわけもわからず出発。どうやらこのティファニーという女の子は妹らしく、義父を脅すために壁に向けて撃ったとロッキーは説明。実際は殺害したことが後にわかります。

このティファニー強奪シーンといい、本作はいくつかの場面で観客の不意を突くような演出があって、油断ならないです。終盤のアジト脱出シーンも、ワンカットで長回しで見せていくことで何が起こるかわからないハラハラ感が持続しますし、見せ方が随所で上手いですね。

そのキラリと光る演出と出演陣の演技力のアンサンブルが魅力の本作。“エル・ファニング”は役柄的にどうしても扇情的な衣装などの視点で注目されやすいのでしょうけど、私としてはいきなりフッと感情が爆発する演技が彼女の魅力だと思っているので、それをたっぷり見せてくれる本作はそのタメに至るまでの過程といい、丁寧ですごく“エル・ファニング”の引き出し方をわかっているなと感じました。

一方の、“ベン・フォスター”は内に内にとひたすら感情を押し殺していく姿がまた“エル・ファニング”と対比になっているので、とてもベストコンビだったのではないかなと。

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ハリケーンは変わらない

そんなこんなで3人旅となったわけですが、ロードムービーとはならず、終着点はガルヴェストン。浜辺の安モーテルに宿泊します。さっきも言ったようにここが最果て。他に行く場所はありません。

本作は全体的にはノワールですが、ここの海辺のシーンだけ非常に温かい、いわゆる“疑似家族”ものみたいな映像が描かれます。海と疑似家族という組み合わせは『万引き家族』を思い出しますね。

初めての海ではしゃぐ水着姿のロッキーとティファニー。ティファニーもすっかりロイに懐き、最果ての世界でやっと居場所を見つけられたような…。ここでロッキーは初登場シーンでは赤いドレスを着ていたのに、青いビキニという正反対のカラーリングになっているのが、違う自分になれたという“あの世界との決別”を示すようで印象的。

しかし、虚しいことにここがこの3人のピーク。ロッキーが殺人事件を起こしたことを知ったことで関係性に亀裂。バラバラになった二人は…ロイは再び殺人に、ロッキーは再び体を売ることに頼ってしまい、すぐさままた元通りの闇社会の一員になってしまうのでした。

それでも義父に強姦されて生まれた実は娘だったティファニーへの愛を嗚咽しながら吐露するロッキーの真の思いを聞き、もういちどリスタートしようとした3人。けれども気持ちを切り替えて新しい人生の楽しみを見つけたかに見えた海辺のオープンバーでの帰り、それは唐突に終了して…。

病気で人生を終えるはずのロイが誤診だと判明して20年も生き、逆にロッキーがレイプ暴行殺害という最悪のかたちで人生を終えたという逆転。残酷な結末ですが、きっとおそらくロイの人生はあの20年前の1988年で止まっていたのでしょう。ロイは過去の人間。久しぶりの再会で成長したティファニーに会ったロイは嵐の中を歩きます。激しい雨と風にうたれながら、ロイは過去に見えた希望であるロッキーの姿を目に浮かべて…。

このガルヴェストンの地をよく襲うハリケーン。ちなみに1988年には「ハリケーン・ギルバート」が発生し、テキサス州にも甚大な被害を与え、国内外被害地域全体を合わせて341名が死亡しています。これだけは時代が変わっても変わらず襲ってくるものです。理不尽な死への誘いが多すぎる世の中、この嵐は不思議と汚れたロイを洗い流すような感じがするのは気のせいでしょうか。

ガルヴェストンという地域性を最大限に活かした切ないローカル・ノワールでした。

『ガルヴェストン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 73% Audience 55%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 EMERALD SHORES LLC – ALL RIGHTS RESERVED

以上、『ガルヴェストン』の感想でした。

Galveston (2018) [Japanese Review] 『ガルヴェストン』考察・評価レビュー