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『ザ・レポート The Report』感想(ネタバレ)…この映画はシュレッダーにかけられました

ザ・レポート

この映画はシュレッダーにかけられました…映画『ザ・レポート』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Torture Report
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にAmazonビデオで配信
監督:スコット・Z・バーンズ

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『ザ・レポート』あらすじ

アメリカの上院職員として働くダニエル・J・ジョーンズは、9.11テロ事件以後にCIAが行った勾留及び尋問に関するプログラムについて調査を行うことになる。各種データを収集・分析した結果、CIAが国民にひた隠しにしてきたある実態が浮かび上がってくる。それはCIAが強化尋問技術と称して容疑者に対して    を行っていたという残忍な行為の事実であった。

『ザ・レポート』感想(ネタバレなし)

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この映画を見逃してない?

それなりに飽食な映画好きの人ならば「Amazon Studios」という映画会社があることはご存知でしょう。もちろんそれは世界最大手のECサイト「Amazon」が設立したスタジオであり、2010年以降、自社の映画を独占的に配給・配信しており、ライバルのNetflixに負けじと賞レースでも存在感を見せており、近年は無視できないものとなりました。最近だと『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が素晴らしい評価を獲得しましたね。

しかし、この「Amazon Studios」が提供する、いわゆる「Amazon Original」として扱われている映画。実はその提供スタイルが日本ではかなりわかりづらい部分もあります。大きく分けて3つです。

1つ目は、劇場公開した後にAmazonプライムビデオで配信される作品。2つ目は、Amazonプライムビデオで配信した後に劇場公開する作品。そして、3つ目は、劇場公開せずにAmazonプライムビデオでしか配信されない作品

1つ目のパターンは一番オーソドックスといえますし、とくに混乱はないでしょう。最近だと『ビューティフル・ボーイ』や『サスペリア』がそうでした。通常のデジタル販売よりもかなり早い間隔で配信が始まることが多く、「え?もう配信されているの?」とびっくりすることがあります。

問題は2つ目と3つ目で、そのどちらかになるのかが予測しづらいのが困りもの。2つ目のパターンだったのは最近だと『THE UPSIDE 最強のふたり』や『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』でした。一方、『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』や『一人っ子の国』は3つ目のパターンでした。いや、もしかしたら後に劇場公開されるかもですけど…。とにかくNetflixと違ってあまりハッキリしておらず、宣伝もそれほどしていないので、映画好きな人たちにすらも気づかれずに配信だけしているケースがたびたび見られます。すごくもったいないですよね。

今回紹介する映画『ザ・レポート』もAmazonプライムビデオで突然と配信開始した一作ですが、これまた非常に素晴らしい作品であり、日本の映画ファンに注目されていないのはあまりにも可哀想なので、ここで感想としてガンガンとアピールしたいと思います。劇場公開しないのかな…。

『ザ・レポート』はポリティカル・サスペンスであり、最初に私の感想の総括を言ってしまうと、『大統領の陰謀』に匹敵する、2000年代以降の題材を描くものとしての傑作級の一作であると太鼓判を押せます。

題材になっているのは911テロ以降のアメリカの対テロ戦争の内幕をめぐる政治劇。2019年は同様の時代を描くアメリカ映画が日本でも『バイス』『記者たち 衝撃と畏怖の真実』と立て続けに公開されており、すでにこの時期も映画化の手が伸びている範囲だということがよくわかります。その先陣を切った作品のひとつが2012年の『ゼロ・ダーク・サーティ』だったと思いますが、本作『ザ・レポート』はさらにその裏の裏まで暴露するインパクトです。

具体的には、CIAがテロリストとして拘束した容疑者に対して、        をしたり       させたり、つまるところ    していたという事実を暴いた上院調査委員会の報告書をめぐる物語。この衝撃的な告発となる報告書をまとめた実在のスタッフの男性が主人公となっています。報道もされましたがその報告書をまとめた人間がこんな地道な苦労をしていたのか…と唖然とする内容の作品です。『ゼロ・ダーク・サーティ』でも    は作中で描かれていましたし、『バイス』でも言及がありましたが、その    が政治的に実行された背景は詳細には見えていませんでした。この『ザ・レポート』はまさにそれを映画で克明にレポートしています。

監督は“スコット・Z・バーンズ”で、“スティーヴン・ソダーバーグ”と一緒に仕事をしていることが多く、『コンテイジョン』『サイド・エフェクト』『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』で脚本を手がけた人です。『ザ・レポート』では監督・脚本・製作を手がけ、どことなくソダーバーグっぽさがあります(製作には“スティーヴン・ソダーバーグ”がクレジット)。

主演は良作映画への出演率が高すぎる“アダム・ドライヴァー”。今年は『マリッジ・ストーリー』でも出ているし、『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』でも頑張っているしで、ほんと、この俳優は名演技っぷりが多才かつ多忙。休んでもいいんですよ…。

他の俳優陣としては、『キャプテン・マーベル』でも印象的な上司役を演じた“アネット・ベニング”、『ベイビー・ドライバー』でも印象的に登場した“ジョン・ハム”、他多数です。

『ザ・レポート』は批評家評価もとても高い一作であり、2019年のベスト10を決める前にぜひとも観ておきたい一本なのは間違いありません。日本でも政治における重要な書類隠滅の話題が定期的に耳に入ってくる昨今。こんな時代だからこそ観ないといけない映画なのではないでしょうか。まあ、そんな時代にはなってほしくないのですけどね…。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(名作として必見の一作)
友人 ◎(映画ファン同士で見逃さず)
恋人 ◯(シリアスながら見ごたえあり)
キッズ ◯(やや大人向けの地味さだけど)
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『ザ・レポート』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・レポート』感想(ネタバレあり)

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「情報委員会」とは何か?

『ザ・レポート』は主の題材となるCIAの強化尋問という名目の「拷問」(黒塗りにはさせない!)に関しては何も知らない人にもわかるようにかなり丁寧に描いてくれるのですが(それが目的なんだから当然ですけど)、その舞台となるアメリカの政治の世界の説明はほぼないです。なので「これ、どういう理由でこの人たちが動いているのかな…」という根本的な部分で疑問を持ちながら鑑賞した人もいるかもしれません。
最初に簡単にですが解説してきます。

アメリカの政治は二院制なので上院下院がありますが、そのうち構成する定数の少ない上院には「委員会」という役割があります。議題ごとにたくさんの委員会が設置されており、そこで議論を重ねていくのが基本の流れです。委員会には常設の常任委員会と、案件ごとに必要に応じて設けることが可能な特別委員会があります。

『ザ・レポート』で舞台となるのは、特別委員会である「情報委員会(Intelligence Committee)」です。この委員会の目的はアメリカの諜報に関わる事案を担当し、CIAなどの組織の監視も大きな役割となっています。最近だとエドワード・スノーデンに関する事件や、ドナルド・トランプが勝利した大統領選挙におけるロシア疑惑を調査していました。情報委員会は15人のメンバーからなり、共和党や民主党からそれぞれ人員を出して議決したりして進行します。この情報委員会の2009年から2015年までの委員長がダイアン・ファインスタインという上院議員です。

話を『ザ・レポート』の主人公であるダニエル・J・ジョーンズ(ダン)に移しましょう。

2003年、ダンは当時のバラク・オバマ上院議員の外交政策上級顧問だったデニス・マクドノー(後にオバマ大統領の大統領首席補佐官)のもとで働くべく面接に来ます。国家安全保障を専攻し、裏方での労働に関心を示すダン。しかし、もっと経験を積んだら採用するよと言われ、FBIの対テロ部門で仕事に打ち込みます。

2007年、熱心にテロの説明をして仕事に取り組んでいたところ、急に民主党のダイアン・ファインスタイン上院議員に呼び出されます。なんでもCIAがアルカイダに関する容疑者の尋問ビデオを破棄したことがNYタイムズに報じられ、そのテープの内容と破棄した理由が知りたいから捜査を担当してほしいとのこと。

続いて2009年、CIAの尋問プログラムに関して徹底的な調査が必要だと判断したダイアン・ファインスタイン上院議員は自らが先頭に立つ情報委員会で調査する意欲を見せ、ダンを適任として選びます。

そしてついにダンのとてつもない仕事が始まりました。CIAの情報が全てあるとされる機密情報隔離施設が今後の職場に。殺風景な部屋での地味な資料精査に着手します。

すぐにこのCIAの尋問プログラムに関する怪しい実態が浮かび上がり、逐一ファインスタイン議員に報告するダン。しかし、内容にヤバさを感じたのか共和党からの派遣調査員は撤退し、調査室の人数は大きく減少。さらに調査に関する制限が出され、関わった人と話せないことになり、資料を調べるしかない状況に追い込まれます。

それでも終わりの見えない作業に没頭し、少しずつ闇に隠れていた事実を拾い集めるダンは、これがただの情報隠蔽で終わらない、とんでもないCIAの暴走が存在することを突き止めていき…。

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CIAはアホの集まりなのか…

『ザ・レポート』で描かれているCIAの拷問の実態。作中にも登場する『ゼロ・ダーク・サーティ』でも描かれていましたし、知っているつもりだったのですが、まさかこんなきっかけで始まったものだったとは…

とくにその拷問(強化尋問)を最初に考案したミッチェルジェセンという二人組がプレゼンするくだりは、もう笑うに笑えない恐怖の喜劇ですよね。

空軍での「SERE(Survival・Evasion・Resistance・Escape)」という考えを逆用して収容者を従わせるために使うことを思いついたと語る二人。新しい尋問プログラムは「3D(Debility・Dependency・Dread)」なのだそうで、さっそくその話を聞いていたひとりが「具体的なテクニックは?」と質問されます。するとこうテキパキとパワポで答えるわけです。

襟をつかみ強く引き寄せる。壁に押し付ける。顔を挟む。顔に平手打ち。狭所に閉じ込める。壁際に立たせる。ストレス姿勢の強要。睡眠を奪う。水責め。虫の使用。偽埋葬。

要はインテリぶった解説でデコレーションしているけど、実態はただの「拷問」でしかない。それも小学生でも思いつくレベルのお粗末な拷問です。

しかし、それをボーっと見ていたCIAの面々はその新しい尋問プログラムを承認してしまいます。当時のCIAは911テロに相当に焦っており、なんとか成果を出したいと思っていたのでした。藁にもすがる思いだったのかもしれませんけど、本当に藁にすがるなよ…

それまで尋問を担っていたFBIのアリ・スーファンを追い出し、このミッチェルとジェセンが考案した「俺の考える最強の尋問手法」をひたすらに実行していく容疑者収容施設。その行為はどんどんエスカレートし、肛門にチューブをぶっさす直陽栄養法や、直接口に流し込む水責めなど過激さを増し、当然のように死亡者も出します。ヒトラーも親近感が湧くでしょうね…。

『ザ・レポート』を観ていると、いかにアホな計画や手法でも、ひとたび科学的な根拠だとか、キャリアのプライドとかが関わってくると人間は思考停止することがよくわかります。

ミッチェルとジェセンは「学習性無力感を与えることが大事」と熱弁をふるっていましたが、皮肉なことに誰よりも学習性無力感な状態にあったのはCIAなんですね。CIAの「I」は「Intelligence」なのですけど、全然優れた知能なんてひと欠片もない…。人は学歴とか知能指数とかがいくらあっても、底なしに愚かになれるんだということを痛感させられます。

「確かに我々は過ちを犯した。でもあなたたちのロジックには強く反対する。背景が欠如しており、事実が正確ではない」

CIAの長官であったジョン・O・ブレナンの言葉が空虚に響きます。

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卑劣で恥ずべき人間たち

葬り去られた資料を表に出すために奮闘するポリティカル・サスペンスと言えば、『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』もそうでしたが、『ザ・レポート』は大きな違いがあります。

それはほぼダニエル・J・ジョーンズひとりの孤軍奮闘だということ。もちろん情報委員会の仕事であり、ダイアン・ファインスタイン上院議員がトップにいるのですが、ダンは決してこの情報委員会と肩を並べる立場だったのかというとそうでもない描かれ方です。

なぜならしょせんダンもまた情報委員会の駒でしかなかったから。ダンは純粋な正義感で仕事に従事しています。しかし、彼はジャーナリストのような第3者ではないので行動に限界があり、加えて彼の周囲は共和党と民主党の主導権争い、各政権の利害に基づく圧力や無関心など、決してダンの正義を全肯定してくれるわけではありませんでした。

このダンの孤独さを印象的に描くために、本作ではダンのプライベートは恐ろしいほどに一切描かれていません。冒頭でハッキング疑惑をかけられてクリフォート弁護士に助けを請うシーンで「恋人にも愛想つかされた」と語っていますが、そんな日常生活は微塵も描写なし。本当にひたすらに検証作業に忙殺され、日付感覚すらも曖昧になっていくダン。そのダンに対する周囲の冷たい扱い。

最後に全てが終わってからのファインスタイン議員の「ありがとう」に対するダンの「こちらこそ」の短い、あまりにも一瞬な会話。最初は「1年ぐらい」と言っておきながら7年以上働かせてこの雑な感謝ですよ。もうあそこでダンが赤いライトセーバーを握りしめ、上院を破壊しつくしても私は応援しますよ。デススターでやっちゃっていいよ…。

結局、CIAの拷問は言うまでもなく倫理から大きく逸脱した極悪ですが、情報委員会のダンの酷使だって拷問と何が違うんだ?…そんな鋭いメッセージも読み取れます。

忘れないでほしいのは、ダンもあの拷問を考え出した二人組も元は同じ愛国心から政治の世界に入っているということ。共通のスタートラインです。じゃあ、なぜもたらした結果はここまで正反対になったのか。それこそ私たちがこの映画を観て究明すべきことですよね。

「捕虜を痛めつける兵士は卑劣で恥ずべき人間だ。そのような者は重罪人と同様に厳罰に処すこととする。なぜならばこのような行為は自分自身だけでなく祖国をも堕落させるからだ」

エンドクレジットで示されるジョージ・ワシントンの言葉は今のアメリカに建国精神などないことを突きつけます。

でも『ザ・レポート』は日本にだって無視できない一作だったでしょう。ファインスタイン議員の「報告書を完成させるだけでなく、公表できる国でありたい」という言葉以前に、日本は報告書も作れない国になっています。

なによりもダンの「僕らの世界では紙は法を守るために使うんだ」という言葉が記憶に刻まれました。

ぜひシュレッダーのある部屋の壁にこの言葉を書いた紙を貼っておきたいですね。

『ザ・レポート』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 78%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
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関連作品紹介

911以降のアメリカの政治を描くポリティカル・サスペンスの感想記事の一覧です。

・『バイス』

・『記者たち 衝撃と畏怖の真実』

作品ポスター・画像 (C)VICE Studios, Amazon Studios

以上、『ザ・レポート』の感想でした。

The Report (2019) [Japanese Review] 『ザ・レポート』考察・評価レビュー