退役軍人が脚本を手がけた戦争ムービー…Netflix映画『砂の城』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:イギリス(2017年)
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信
監督:フェルナンド・コインブラ
すなのしろ
『砂の城』物語 簡単紹介
『砂の城』感想(ネタバレなし)
退役軍人が描く戦争のリアル
映画業界人がまだ映画化されていない脚本の中からお気に入りの優れたものを選んでまとめた「ブラックリスト」というものがあります。いわば名作予備軍ですね。名前からして何か悪いことをした問題作が掲載されていると勘違いされそうですが、そういうものじゃないです。むしろ逆。
2016年に米アカデミー賞を賑わした『メッセージ』や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』も「ブラックリスト」出身。無論、「ブラックリスト」に選ばれたからと言って必ずしも評価の高い映画になるとは限りません。最近だと「ブラックリスト」だった脚本を映画化した『パッセンジャー』は、賛否両論でしたし。まあ、でも観る前の期待は膨らみますよね。やっぱり映画の面白さを大きく左右するのはシナリオ。どんなに名俳優をキャスティングしても、脚本が面白くなければ台無しにもなりかねないですし、そもそも初期プロットで魅力的でないと企画自体にもGOサインが出ないですから。
Netflixオリジナル作品でも「ブラックリスト」映画化作がいくつかあって(どうせなら「ブラックリスト作品」というカテゴリを作ってほしいくらいですが)、『最後の追跡』がそうでした。
そして、今回紹介する『砂の城』も「ブラックリスト作品」です。
イラク戦争を題材とする『砂の城』。気になる脚本を手がけた“クリス・ロスナー”は、実際に米陸軍の分隊支援火器射手(マシンガンナー)として、イラク戦争初期に約2年間にわたり任務に従事した人。つまり、実体験を基に描かれた作品なんですね。
だからか、劇中で戦争に従事する兵士の心理描写は凄くリアルです。いかにもな「ウォォー!やったるぜ!」みたいな好戦的兵士やプロフェッショナルな兵士というよりは、地に足ついた「ああ、こういう人いそうだな」という感じでしょうか。そういう意味で普通の戦争映画と違います。なんていったって主人公の兵士が戦争に消極的で、しかも任務が水道施設の修復と水の配給ですから。この主人公の心理の揺れ動きが本作の肝となってきます。
監督は“フェルナンド・コインブラ”というブラジル人の映画監督で、『O Lobo Atrás da Porta』という長編デビュー作で注目された人物。そういう意味でも『砂の城』は非常に非ハリウッド映画的でもあります。
俳優陣は結構いろいろな人が揃っています。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『X-MEN』シリーズなど大作でもおなじみのイギリス俳優“ニコラス・ホルト”。すっかり「スーパーマン」の人というイメージのついた“ヘンリー・カヴィル”。この二人は知っている人も多いのではないでしょうか。他にも“ローガン・マーシャル=グリーン”、“グレン・パウエル”などが出演しています。
退役軍人が脚本家としてデビューして生まれた作品という点で、他の戦争映画にはない“リアルさ”があると思います。映像的なリアルよりもドラマのリアルに期待してください。
『砂の城』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2017年4月21日から配信中です。
『砂の城』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):後悔の戦場で
2001年7月11日に入隊。その2か月後に後悔した…。
2003年3月、クウェート。中間準備地域。多くのアメリカ兵が戦車が巻き起こす砂煙の中、歩いています。腕に包帯を巻いているオークルは「まもなく出動だ」と仲間に言われます。ギプスを開く治療班。痛み止めをくれます。オークルは腕を怪我しているので自分は出動しないと思っていましたが、もっと重傷の兵も出ていると言われ、何も言えず…。実はこの怪我、自分でわざとやったものでした。
筋肉トレーニングしている仲間のキャンプのもとに帰ったオークル。「もうすぐ出動するそうです」と教えますが、ハーパー軍曹もよく知らないようです。もう6週間もここで待機だったので、他の兵はやる気じゅうぶん。
軍曹は2人きりのときに話しかけてきます。「なぜ軍隊に入った? お前は頭がいい。こんなところに来なくてもよかったはずだろう?」と質問され、「父も祖父も軍人で…」と誤魔化すオークル。
そこに上級軍曹がやってきます。「覚悟はできているか、今日は歩兵部隊日和だな」
夜。ついに行軍。軍事車両がゾロゾロと続きます。
バグダッドの戦場。飛び交う銃弾の中をオークルは走ります。敵はホテルから撃っているようです。建物の階段を駆け上がるも、ひとりが撃たれてしまいます。屋上へ。無線でスナイパーのいる地点を伝えるも、何階にいるか知りたいと言われ、這って確認。
軍曹は空爆を要請。オークルは「近すぎます」と心配しますが、軍曹は気にしていません。
攻撃ヘリがミサイルで攻撃。建物は吹き飛びました。
戦果をあげたチームは上機嫌。新しい基地の宮殿に到着。豪華な室内でハシャぐ兵士たち。荒らされた部屋でオークルはひとり座り込みます。
3カ月後。戦況は変わっていません。死体と記念写真を撮るチームメンバーは呑気です。
作戦室では攻撃ヘリのせいで庶民の水道設備が大きな損傷を受けたので、司令部が特別部隊を現地に派遣しろと命令していました。水をバクーバという町まで引くという作業。場所は危険地帯。兵士たちはまさかそんなことまでするとは思っておらず、もう帰国できると考えていました。
その任務を伝えられ、微妙な反応を見せるチーム。やるしかありません。
軍曹は「賢い人間が必要だ」と言います。
オークルは決断しますが…。
映画みたいな話は現実の戦場にはない
結論から言ってしまえば、『砂の城』の感想は「可もなく不可もなく」といったところでしょうか。なんだろう、特筆して良い部分も悪い部分もない…最終的には平均的な戦争映画になってました。
『砂の城』の肝となる“ニコラス・ホルト”演じる主人公オークルのドラマは良かったです。さすがブラックリストに選ばれただけはあって、味わい深さがあります。
冒頭、オークルは自ら手をドアに挟めて怪我するくらい戦場が嫌々で仕方がありません。対するチームメンバーは、戦場に愚痴を吐きながらも各自なりに割り切って過ごしてます。占拠した建物ではしゃいだり、金をくすねようとしたり、敵の死体の扱いが雑だったり…まるで学校の行事で社会科見学に来た生徒がつまらなさを悪ふざけで誤魔化しているようです。そんななかオークルは真面目すぎるのか、いまいちノれないわけです。「あ…うん、楽しいよね…」みたいな感じ。
これがありきたりな戦争映画ならボンクラ兵士がカッコいい戦場の男になる!というストーリーで行きそうですが、そんな安直な話になっていないのが面白いところ。このへんは全然平均的じゃないのです。
オークルは変わったようで、変わっていない…真面目さはそのままです。ラストは自分の仕事を最後まで納得する形でやり遂げられなかったオークルが、帰還命令に応じて終わります。帰路の航空機に向かうオークルが、戦地に着いたばかりであろう新米兵士たちとすれ違うシーンは、終わりなき戦争の無限ループを強調するもので印象的でした。真面目に作っても壊され、また作っても壊されの繰り返し。まさに砂の城。真面目は戦争では役に立たない…戦場で求められるのはやっぱり「ボンクラ兵士がカッコいい戦場の男になる!」なんでしょうね。でも、そんな映画みたいな機会は現実にはそうそうないのです。
でも「思っていた戦争と全然違う!」というギャップの部分こそ、本作の主題でもあって、要するに「ガンガン敵をなぎ倒して祖国のために戦うぞ!」といういかにもな戦争のパブリックイメージ(またの名をプロパガンダ)に対して、本作は淡々と現実を突きつけます。それはとても大事なことだと思うのです。実際に、戦争を知らない世代がどんどん増えており、その社会の中で戦争を知ってしまった人間たちは私たち無知な者たちに「いや、戦争ってこうだったよ」と教えてくれる。それは紛れもないリアルです。
ひたすらに公共事業に精を出すあたりは、私たちが日々見ている土木作業員とか工事の人となんら変わりません。これが戦争の「メインワーク」なんですね。いまだに「有事の際は私もこの身を国のために捧げます!」なんて高らかに宣言して自己陶酔に浸っている人もいるわけですが、そういう人が見たくない、あまりにブラック業界的な過酷な戦争労働のリアル。これを観てもまだ戦争に理想的な印象を持てるのだとしたら、ただ目が見えていないのか…。
『砂の城』について、描きたいドラマ部分は納得できても、なんかそのドラマを最大限引き出せているとは言えない歯がゆい思いを抱いたのならば、それは戦争というリアルへの私たちの素直な反応と同じじゃないでしょうか…。あれれ…という。
戦場の過酷さはあまり伝わってこなかった…。そうそれはあなたの抱いている戦争のド派手さというのは数ある戦争のうち、非常に誇張されたわずかな欠片に過ぎないのです。爆発とかも本作にはありますけど、それはただの爆発。マイケル・ベイ監督の『13時間 ベンガジの秘密の兵士』と本作を足して2で割ったらいい感じになりそう…なのですが、実際の戦場は全く違っている…。
この地味でしかない戦争のリアリティにかなり真面目に向き合った一作であり、その点は高く評価されるべきでしょう。しかし、いかにしてその地味さに映画的なドラマ性を見いだすかというとまた別の話。普通に戦争のリアルな現場を見せたいのならば、ドキュメンタリーの方が優れていますしね。
『砂の城』はそういう映画的な工夫や姿勢に関しては弱かったかもしれません。登場人物も活かしきれていないように見え、仲間を失う悲壮感が弱くなりがち。“ヘンリー・カヴィル”とか、せっかく良さそうなビジュアルなのにもったいなかったですね。
そういう欠点が解消されれば化けた可能性もあった映画だったんじゃないでしょうか。
私も戦場に言ったらオークルと同じ思いをしそうです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 44% Audience 42%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Mark Gordon Company サンド・キャッスル
以上、『砂の城』の感想でした。
Sand Castle (2017) [Japanese Review] 『砂の城』考察・評価レビュー