砂の城
Netflix映画『砂の城』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Sand Castle 
製作国:イギリス(2017年) 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:フェルナンド・コインブラ 

砂の城

あらすじ

2003年、アメリカが軍事介入して戦火が激しさをまし始めたイラクの紛争地域。米陸軍第4歩兵師団で分隊支援火器射手を担当する若き兵士マット・オークルは、学費を稼ぐという軽い気持ちで戦場に来たが、過酷な生活に嫌気がさしていた。そんななか、敵が潜む農村部にある水道施設の修復工事を命じられる。

『砂の城』感想(ネタバレなし)

退役軍人が描く戦争のリアル

映画業界人がまだ映画化されていない脚本の中からお気に入りの優れたものを選んでまとめた「ブラックリスト」というものがあります。いわば名作予備軍ですね。名前からして何か悪いことをした問題作が掲載されていると勘違いされそうですが、そういうものじゃないです。むしろ逆。

2016年に米アカデミー賞を賑わした『メッセージ』や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』も「ブラックリスト」出身。無論、「ブラックリスト」に選ばれたからと言って必ずしも評価の高い映画になるとは限りません。最近だと「ブラックリスト」だった脚本を映画化した『パッセンジャー』は、賛否両論でしたし。まあ、でも観る前の期待は膨らみますよね。やっぱり映画の面白さを大きく左右するのはシナリオ。どんなに名俳優をキャスティングしても、脚本が面白くなければ台無しにもなりかねないですし、そもそも初期プロットで魅力的でないと企画自体にもGOサインが出ないですから。


Netflixオリジナル作品でも「ブラックリスト」映画化作がいくつかあって(どうせなら「ブラックリスト作品」というカテゴリを作ってほしいくらいですが)、『最後の追跡』がそうでした。


そして、今回紹介する『砂の城』も「ブラックリスト作品」です。

イラク戦争を題材とする『砂の城』。気になる脚本を手がけた“クリス・ロスナー”は、実際に米陸軍の分隊支援火器射手(マシンガンナー)として、イラク戦争初期に約2年間にわたり任務に従事した人。つまり、実体験を基に描かれた作品なんですね。

だからか、劇中で戦争に従事する兵士の心理描写は凄くリアルです。いかにもな「ウォォー!やったるぜ!」みたいな好戦的兵士やプロフェッショナルな兵士というよりは、地に足ついた「ああ、こういう人いそうだな」という感じでしょうか。そういう意味で普通の戦争映画と違います。なんていったって主人公の兵士が戦争に消極的で、しかも任務が水道施設の修復と水の配給ですから。この主人公の心理の揺れ動きが本作の肝となってきます。

監督は“フェルナンド・コインブラ”というブラジル人の映画監督で、『O Lobo Atrás da Porta』という長編デビュー作で注目された人物。そういう意味でも『砂の城』は非常に非ハリウッド映画的でもあります。

俳優陣は結構いろいろな人が揃っています。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『X-MEN』シリーズなど大作でもおなじみのイギリス俳優“ニコラス・ホルト”。すっかり「スーパーマン」の人というイメージのついた“ヘンリー・カヴィル”。この二人は知っている人も多いのではないでしょうか。他にも“ローガン・マーシャル=グリーン”“グレン・パウエル”などが出演しています。

退役軍人が脚本家としてデビューして生まれた作品という点で、他の戦争映画にはない“リアルさ”があると思います。映像的なリアルよりもドラマのリアルに期待してください。

『砂の城』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『砂の城』感想(ネタバレあり)

映画みたいな話は現実の戦場にはない

結論から言ってしまえば、『砂の城』の感想は「可もなく不可もなく」といったところでしょうか。なんだろう、特筆して良い部分も悪い部分もない…最終的には平均的な戦争映画になってました。

『砂の城』の肝となる“ニコラス・ホルト”演じる主人公オークルのドラマは良かったです。さすがブラックリストに選ばれただけはあって、味わい深さがあります。

冒頭、オークルは自ら手をドアに挟めて怪我するくらい戦場が嫌々で仕方がありません。対するチームメンバーは、戦場に愚痴を吐きながらも各自なりに割り切って過ごしてます。占拠した建物ではしゃいだり、金をくすねようとしたり、敵の死体の扱いが雑だったり…まるで学校の行事で社会科見学に来た生徒がつまらなさを悪ふざけで誤魔化しているようです。そんななかオークルは真面目すぎるのか、いまいちノれないわけです。「あ…うん、楽しいよね…」みたいな感じ。

これがありきたりな戦争映画ならボンクラ兵士がカッコいい戦場の男になる!というストーリーで行きそうですが、そんな安直な話になっていないのが面白いところ。このへんは全然平均的じゃないのです。

オークルは変わったようで、変わっていない…真面目さはそのままです。ラストは自分の仕事を最後まで納得する形でやり遂げられなかったオークルが、帰還命令に応じて終わります。帰路の航空機に向かうオークルが、戦地に着いたばかりであろう新米兵士たちとすれ違うシーンは、終わりなき戦争の無限ループを強調するもので印象的でした。真面目に作っても壊され、また作っても壊されの繰り返し。まさに砂の城。真面目は戦争では役に立たない…戦場で求められるのはやっぱり「ボンクラ兵士がカッコいい戦場の男になる!」なんでしょうね。でも、そんな映画みたいな機会は現実にはそうそうないのです

砂の城

でも「思っていた戦争と全然違う!」というギャップの部分こそ、本作の主題でもあって、要するに「ガンガン敵をなぎ倒して祖国のために戦うぞ!」といういかにもな戦争のパブリックイメージ(またの名をプロパガンダ)に対して、本作は淡々と現実を突きつけます。それはとても大事なことだと思うのです。実際に、戦争を知らない世代がどんどん増えており、その社会の中で戦争を知ってしまった人間たちは私たち無知な者たちに「いや、戦争ってこうだったよ」と教えてくれる。それは紛れもないリアルです。

ひたすらに公共事業に精を出すあたりは、私たちが日々見ている土木作業員とか工事の人となんら変わりません。これが戦争の「メインワーク」なんですね。いまだに「有事の際は私もこの身を国のために捧げます!」なんて高らかに宣言して自己陶酔に浸っている人もいるわけですが、そういう人が見たくない、あまりにブラック業界的な過酷な戦争労働のリアル。これを観てもまだ戦争に理想的な印象を持てるのだとしたら、ただ目が見えていないのか…。

『砂の城』について、描きたいドラマ部分は納得できても、なんかそのドラマを最大限引き出せているとは言えない歯がゆい思いを抱いたのならば、それは戦争というリアルへの私たちの素直な反応と同じじゃないでしょうか…。あれれ…という。

戦場の過酷さはあまり伝わってこなかった…。そうそれはあなたの抱いている戦争のド派手さというのは数ある戦争のうち、非常に誇張されたわずかな欠片に過ぎないのです。爆発とかも本作にはありますけど、それはただの爆発。マイケル・ベイ監督の『13時間 ベンガジの秘密の兵士』と本作を足して2で割ったらいい感じになりそう…なのですが、実際の戦場は全く違っている…。

この地味でしかない戦争のリアリティにかなり真面目に向き合った一作であり、その点は高く評価されるべきでしょう。しかし、いかにしてその地味さに映画的なドラマ性を見いだすかというとまた別の話。普通に戦争のリアルな現場を見せたいのならば、ドキュメンタリーの方が優れていますしね。

『砂の城』はそういう映画的な工夫や姿勢に関しては弱かったかもしれません。登場人物も活かしきれていないように見え、仲間を失う悲壮感が弱くなりがち。“ヘンリー・カヴィル”とか、せっかく良さそうなビジュアルなのにもったいなかったですね。

そういう欠点が解消されれば化けた可能性もあった映画だったんじゃないでしょうか。

私も戦場に言ったらオークルと同じ思いをしそうです。

『砂の城』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 44% Audience 42%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Mark Gordon Company

以上、『砂の城』の感想でした。