感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『その瞳に映るのは』感想(ネタバレ)…Netflix;そして学校は空爆された

その瞳に映るのは

そして学校は空爆された…Netflix映画『その瞳に映るのは』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:The Shadow in My Eye
製作国:デンマーク(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:オーレ・ボールネダル
恋愛描写

その瞳に映るのは

そのひとみにうつるのは
その瞳に映るのは

『その瞳に映るのは』あらすじ

第二次世界大戦下のコペンハーゲン。ナチスに占領されたこの地では、その支配に怯える者、命を奪われる者、良心の呵責に苦しむ者、耐えながら生き抜こうとする者、権力に従う者、さまざまな人が行き交っていた。その街の中心には学校があり、多くの子どもたちがそこで過ごしている。しかし、その近くにはナチスの拠点であるゲシュタポ司令部もあり、イギリス空軍は多少の犠牲はやむなしとして空爆を決行する…。

『その瞳に映るのは』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

第二次世界大戦下のデンマークで起きた悲劇

ウラジミール・プーチンが始めたロシアによるウクライナ侵攻が2022年3月10日で3週目に入り、ウクライナの主要都市でロシア軍の攻撃が続いています。中には病院も爆撃され、産科・小児科病棟が破壊されて子どもも亡くなりました。

民間人に犠牲者が出てしまうとき、攻撃する側は何かしらの大義名分を用意するものです。軍事基地があったんだとか、敵が武器を隠していたとか…。または、多少の犠牲はやむを得ないのだとか、勝つことでより多くを救えるだとか…。しかし、どんな理由を並べようとも犠牲になった人の虚しさは消えません。残忍なことをしたという事実はうやむやにできないのです。

今回紹介する映画も、戦争が罪のない庶民に牙をむいた実際に起きた痛ましい出来事を題材にしており、タイムリーな一作だと思います。

それが本作『その瞳に映るのは』です。

『その瞳に映るのは』はデンマーク映画であり、第二次世界大戦時のデンマークを舞台にしています。まず当時のデンマークの情勢の基本を知っておいた方がいいでしょう。映画内ではあまり説明されませんから。

ドイツ軍によるポーランド侵攻とソビエト連邦によるポーランド侵攻によって始まった第二次世界大戦。ヨーロッパ全土が瞬く間に戦場となりました。デンマークは1940年4月9日にドイツ軍に占領され、ナチスの支配下となります。そのナチスがデンマークを統治するのに利用したのが「HIPO」です。ドイツの秘密警察である「ゲシュタポ」が設立したデンマークの予備警察隊のことであり、ナチスに協力的なデンマーク人によって成り立ち、ユダヤ人の“対処”など手を汚す仕事をこなしていました。

ただし、デンマーク人全員がナチスに従順だったわけではありません。デンマークはレジスタンス活動も積極的に行われ、抵抗活動はコペンハーゲンを中心に各地で勃発。これによってデンマーク国内は非常に緊張状態となり、誰がどちらの側なのか、常に探りをいれないといけないような雰囲気が漂っていました。

デンマークは中立国でしたが、レジスタンスは連合国側と連絡を取り、協力を得られないか模索もしました。例えば、レジスタンス・グループをとりまとめる「デンマーク自由評議会」は、イギリスのレジスタンス支援組織「特殊作戦執行部(SOE)」に情報を提供。その一方で連合国側の言いなりになることはせず、デンマーク人としての独立性を大事にしていました。それでも戦況の悪化によってそうも言ってられなくなり、SOEとの連携を強めていくことになり…。

映画に話を戻しますが、本作『その瞳に映るのは』はデンマークが「HIPO」と「デンマーク自由評議会」に分断され、張り詰めた空気の中で起きた事件を描いています。それはデンマークのコペンハーゲン内にあるゲシュタポ司令部を爆撃する予定だったイギリス空軍の戦闘機が、近くの子どもたちが大勢いる学校を誤爆してしまった…というもので…。

そんな出来事があったのか!?と驚くかもしれませんが、本作を観ればその凄惨さが嫌になるほど伝わると思います。戦争が何をもたらすのかという最悪中の最悪というものを…。

とりあえず上記で説明したデンマークとナチスの関係、「HIPO」「デンマーク自由評議会」「特殊作戦執行部(SOE)」という単語は覚えておいてください。映画にでてきます。

監督は“オーレ・ボールネダル”。ドラマ『1864』といった戦争作品を手がけた経験もあるので、今作のような戦争描写もお手の物ですね。本作は映像の迫力も凄まじく、比較的静かな群像劇からのいきなりの映像恐怖を与えてくる演出によって観客にもたらす衝撃も相当な威力。映画だけどトラウマになりそうです。

戦争の負の側面をこれでもかと目に焼き付けさせるような映画ですし、ましてや犠牲になるのが子どもということで、観るのもキツイ内容だとは思いますが、これはフィクションではない。なおかつ過去のことだと慰めることもできない。今この瞬間にも同様の犠牲者がでている。もしかしたら次は自分の上に爆弾が降ってくるのでは…。

こうした罪深い戦争の愚かさを心に刻み直すという意味でも、今の時代に観るべき一作でしょう。

スポンサーリンク

『その瞳に映るのは』を観る前のQ&A

Q:『その瞳に映るのは』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2022年3月9日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:戦争の歴史を知る
友人 3.5:かなりシリアスだけど
恋人 3.5:重たい内容です
キッズ 3.0:残酷な戦争描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『その瞳に映るのは』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

あらすじ(前半):爆弾が落ちることを知らない子どもたち

1945年2月。ユトランド半島。平穏な田舎。女性たちは着替えて意気揚々と車に乗り込みます。車は何も無い草原の道をゆったり走っていました。すると運転手の老人が後部ミラーで何かに気づき…。

乗車していた女性たちと運転手は一瞬で蜂の巣にされました。上空を飛ぶ戦闘機の機銃掃射によって…。

そこにたまたま通りかかった口笛を吹く自転車の少年。茫然と燃えた車に近づき、中を覗きます。そして自転車の子は走り去り…。

辺境のある一軒家。スヴェンという男が「匿ってくれ」とフレデリックに頼みます。しかし、フレデリックは「助けられない」と拒み、「シェルハウスに行け」と言葉をかけます。

家の中へ食事に戻るフレデリック。けれども父は「こいつはお前が産んだ子ではない。恥を知れ」と冷徹に言い放ち、母は泣くだけ。

一方の市街地。エヴァという女の子が親に待つように言われ、道端で歌っていると、ある男が追いかけられていました。その男は「スヴェン・ニールセンだな」と追っ手に確認され、その場で射殺されます。そこへ鉤十字の腕章をつけた男が車から降り、状況を確認しに行きます。エヴァは母に抱えられてその場を去り…。

ヘンリーという少年は病院で診断を受けていました。ヘンリーは空を極端に怯え、上手く喋れません。医者は原因はわからないようで、必死に声にならない音で伝えようとするヘンリーに、いきなり怒鳴りだし、「男になれ!」と罵倒。恐怖が治療になると言いますが、回復の兆しは無し。ヘンリーの母はコペンハーゲンの妹のもとに連れて行くことにします。

遠く離れた別の場所。飛行機のパイロット2人が今日も戦果をあげたと気楽に歩いていると、そこへ上司がやってきて、「お前たちが撃ったのはドイツ車両ではなく民間のタクシーだった」と伝え、「次はもっと注意しろ」とひと言の警告で帰っていきます。

コペンハーゲンのゲシュタポ司令部では、レジスタンスの男が半裸にされて鞭打ちを受け、「誰と組んでいた? 会合を開く場所は? SOEと自由評議会の指揮系統は?」と尋問を受けます。

その司令部の近くの寄宿学校となっている教会では、ひとり部屋で自分に鞭打つ女性、シスターテレサがいました。院長は「なぜ鞭打つのか?」と質問しますが、テレサはユダヤ人が非道な目に遭っている事実を神が放置している現実を直視できないようです。

ヘンリーはコペンハーゲンの妹のもとに連れられ、その妹の娘であるリーモアという少女と一緒に学校に行くことになります。リーモアの友人であるエヴァも一緒です。「エヴァも人が死んだところを見たけど話せる」とリーモアは言いますが、ヘンリーは空に恐怖するばかり。リーモアとエヴァはそんなヘンリーを毒入りパンを食べられるようにするいつもの話題で和ませ、恐怖の克服を教えます。

イギリスを中心とする連合国側は作戦会議を開いていました。標的はコペンハーゲンのゲシュタポ司令部のシェルハウス。レジスタンスのデンマーク人捕虜の30人が人間の盾として屋根にいるものの、多少の犠牲はやむを得ないとレジスタンスのリーダーとも話が付いている。爆撃が決行されます。

拷問を受けた後にシェルハウスの屋根裏に捕らえられたレジスタンスの人たちは爆撃の噂を聞きます。自分たちは駒にすぎないのか…。その絶望を感じながら…。

そして30機のマスタング爆撃機が離陸し、低空でコペンハーゲンの市街地に到達。爆弾を投下します。そのひとつがゲシュタポ司令部のシェルハウスではなく、大勢の子どもたちが通う寄宿学校に放たれ…。

スポンサーリンク

戦争は社会を恐怖に変えてしまう

『その瞳に映るのは』は群像劇なので人間関係や立ち位置が最初はよくわかりにくいです。だんだんと整理できるようになり、やがてはあの誤爆事件で全員の運命が終着していくことになります。

前半で印象的なのは分断されたデンマークという地域の空気。ナチスの支配下となったことで、どちらの側に立つのか、それで各々の心境はまるで変わってきます。

フレデリックは「HIPO」に所属しています。スヴェンという友人まで見捨てるほどに組織に従順であり、そのナチスに心を売ったも同然の息子を両親は失望しています。しかし、スヴェンは明らかに心残りがあり、残虐なナチスの行為に加担する自分に後悔を抱いています。

そんなフレデリックが出会うのがテレサ。修道女であるテレサはレジスタンスの記事を読んでいることからわかるようにナチスの残酷な行為を知り、その現実に絶望。もはや神さえ信じていないようで、偶然に出会ったフレデリックの恐怖心に気づき、冷酷に見下すような態度をとります。

この2人の例の再会のシーンが虚しいですね…。

本作は子どもたちも主役です。ヘンリーは冒頭の誤射の現場に出くわし、そのショックで失語症となったようです。理不尽でしかない“治療”を試みる医者の態度はまさにナチス的。そしてコペンハーゲンの学校に通うのですが、その学校にはナチスの子だって通っている。エヴァの近くで射殺されたスヴェンを何も気にしていないようなナチスの子であるグレタとか。

エヴァとリーモアは「HIPO」をネタにするくらいなのでそんなにナチスに賛同的ではない、むしろちょっと皮肉を言えてしまう立場なのでしょうか(子どもなのでよくわかっていないだけかもしれないけど)。

このヘンリー、エヴァ、リーモア…3人の子がどういう運命を辿るのか。それもひとつの暗示的なものを感じます。

ともあれこうやって同じ国の住人だった大勢がいきなりの外部の侵攻や支配によって分断を余儀なくされ、言葉にできない恐怖感情を持ったまま、疑念と不信の中で過ごすしかなくなる。戦争がもたらす社会の変化の怖さをまざまざと見せつけるものでした。

そしてその混乱の社会を踏みにじるような、連合国側のあの他人事みたいな態度も最低最悪ですが…。

スポンサーリンク

あの少女の表情の意味

『その瞳に映るのは』は演出も上手くて、とくに「空」が活かされています。本作において「空」は恐怖の象徴であり、不吉さの前触れです。

その「空」の怖さを最初に知るのはヘンリーであり、観客もあの冒頭の惨劇シーンで怖さが植え付けられます。そしてコペンハーゲンの学校に通うのですが、エヴァとリーモアと登校する中で大きい通りにでると空が広がり、怯えてしまいます。エヴァとリーモアが紐で引っ張るシーンです。ここで何気なくこの学校が空の開けた立地にあることを示しており、フラグになっています。

そしてついに爆撃の開始。この爆撃作戦は「カルタゴ作戦」という名称らしいですが、戦闘機の連帯が低空で飛行していくという緊迫感を煽るシーン。バードストライクが起きたりと、不可抗力の犠牲が起きる些細なシーンを挟むことで、この後の悲劇が秒読み段階に入っていきます。

ここで使用される爆弾が時限式で30秒後に爆発するというのがまた嫌な感じで…。ドーン!と最初の爆弾衝突の衝撃だけでも怖いのに、そこからの大爆発。ショックの2段オチのようであり、本当に恐怖の見せ方が最悪…。

でも最悪はまだ続く。爆発で地下壕は崩壊。テレサとリーモアは生き埋めになり、互いに声だけで相手と会話します。しかし、ここでテレサしか画面では見せない。そして遠くで聞こえるリーモアの声が、水位が口元まで上がっていることと顎に鉄の棒が刺さって身動きがとれないことを伝え、やがて何も言葉を発さなくなる。この拷問のような演出ですよ。画面は真っ暗なのになんて恐ろしいのか…。

一方の外では爆発を回避して爆風を浴びただけのヘンリーが必死に病院に輸送される子どもたちの身元をメモして親に伝えるという展開に。言葉を話せるようになるのはいいのですが、それがまたも死に間近に直面してというのは…。

最終的に印象に残るのはエヴァですね。彼女はヘンリーと一緒に外に出て家に帰ってしまいます。最初の爆弾投下を経験し、埃と砂で白くなった顔面のまま、空をじっと見上げるシーン。ここでのエヴァの顔の明らかな無感情。人間という生き物の所業に心底絶望し、何もかもを喪失したような佇まい。

エヴァは最後は生き残り、家でお粥を食べているところを母に発見されるので、ここは良かったねという安堵のシーンなのは確かなのですが、表面どおりに受け取るだけではない見方もできる。つまり、まるで惨劇などなかったかのようにお粥を黙々と食べるエヴァの姿は、私たち人の心が戦争で機能喪失するということを突きつけるようでもあります。これが戦争において一番恐ろしいことかもしれない。それくらいエヴァの顔は強烈だった…。

デンマークというのはお国柄として中立的なポジションをとることが多いのですが、同じくデンマークの戦争映画の『ある戦争』もそうでしたが、そういう中立的という一見すると良さそうに見える立ち位置も戦争においてはやっぱり虚しいということを示す作品が多い気もします。『その瞳に映るのは』もデンマークだから作れる戦争映画でした。

『その瞳に映るのは』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『その瞳に映るのは』の感想でした。

The Shadow in My Eye (2022) [Japanese Review] 『その瞳に映るのは』考察・評価レビュー