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アニメ『スタートレック ローワー・デッキ』感想(ネタバレ)…エースになりたい!

スタートレック ローワー・デッキ

エースになりたい!なりたくない?…アニメシリーズ『スター・トレック ローワー・デッキ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Star Trek: Lower Decks
製作国:アメリカ(2020年~)
シーズン1:2020年にAmazonで配信
シーズン2:2021年にAmazonで配信
シーズン3:2022年にAmazonで配信
原案:マイク・マクマーン
性描写 恋愛描写

スタートレック ローワー・デッキ

すたーとれっく ろーわーでっき
スタートレック ローワー・デッキ

『スタートレック ローワー・デッキ』あらすじ

惑星連邦の宇宙艦隊はこの広大な世界の謎を解き、平和な交流のために多くの者たちが邁進している。その宇宙艦隊所属艦の中で最も重要度が低いとされる宇宙艦U.S.S.セリトス。さらにそのセリトスで勤務するクルーたちの中でもとりわけ重要度が低い、下部デッキに居住する若い少尉たちが日々地味な仕事をこなしていた。そんな注目を集めることはない者たちにも宇宙は神秘とハチャメチャな体験を与えてくれる。

『スタートレック ローワー・デッキ』感想(ネタバレなし)

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あの未来の宇宙でもクソな仕事はある

「Twitter APIの無料提供が数日後に終了するから、なんとか対応策を考えておいて」…そんな丸投げの仕事をどこかで押し付けられている人がきっとどこかにいる…。

そう、この世には“やりがい”なんて美辞麗句は通用しない、クソみたいな仕事…「ブルシット・ジョブ」があるものです。どんな業界でも企業でも組織でも同じ。「なんでこんな仕事を私がしなきゃいけないんだ…」とボヤきながらいつもどこかでその仕事に向き合っている人たち。そんなあなたたちのおかげでこの世界は成り立っている…。

それはあの世界も同様でした。どの世界かって? 広大な宇宙を飛び回り、新たな資源やエネルギー、未知の生命体を探求したり、異文化との交流を果たしたり、銀河の平和と秩序を守ったり、平等と科学の理念を胸に挑戦的な任務に就く誇り高き職場…。

はい、「惑星連邦」の皆さんです。

あ、『スタートレック』の話ね。

『スタートレック』に登場する地球人を中心とした自由と文明の尊重に重きを置いた星間連邦国家である「惑星連邦」は宇宙艦隊を有していますが、これは軍隊というよりは外交探査を目的としており、多くの艦が宇宙各所へ飛び立っています。

『スタートレック』はどのシリーズも基本的にこの艦が舞台になります。シリーズ1作目『宇宙大作戦』であれば「U.S.S.エンタープライズ」であり、これはその後のシリーズにも引き継がれる偉大な実績を残す艦名です。

艦の構成員は階級で分かれていて、艦長(キャプテン)をトップに、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉…と軍隊とほぼ同一です。『スタートレック』の場合は宇宙艦隊アカデミーを卒業した士官は少尉から徐々にキャリアアップすることになります。

『スタートレック』はたいていのシリーズはこの艦の構成員の中でも操縦などを仕切る艦長を中心とするメインデッキで仕事する人たちの、華々しい任務が描かれるのが定番。

しかし、ちょっといつもと違う人たちにスポットをあてる『スタートレック』のシリーズが2020年から登場しました。

それが本作『スタートレック ローワー・デッキ』です。

本作は、宇宙艦隊所属艦の中で最も重要度が低い任務を任される宇宙艦「U.S.S.セリトス」を舞台にしており、さらにその「U.S.S.セリトス」の中でも、とりわけ重要度が低い雑務を任されることになる下部デッキ(Lower Decks)に居住する若い少尉たちの活躍を描いています。要するに下っ端も下っ端。『スタートレック』のブルシット・ジョブです。

まあ、よく考えればそりゃ『スタートレック』にだってこういう仕事をしている人はいるよねという話なんですが、本作はそれを愚痴とユーモアたっぷりに表現。

『スタートレック ローワー・デッキ』はアニメシリーズであり、本格的にアニメで展開されるのは1973年の『まんが宇宙大作戦』以来2作目というから驚き。

カートゥーン・アニメらしく『スタートレック』のパロディも満載で、ほぼ全編パロディとしてネタ遊びに徹しているようなものです

なにせ製作・原案が『リック・アンド・モーティ』のライターだった“マイク・マクマーン”ですからね。ノリはほぼ同レベルと考えていいです。

ということでこの『スタートレック ローワー・デッキ』はパロディありきなので、「スタトレ」初心者には不向きかも…。作中で何をネタにしているのか全然わからないですからね…。比較的作品を見てきたトレッキー(「スタートレック」ファンのこと)でさえも、たまにネタ元がわかんないことがあるし…。まあ、ネタの由来が知りたいときは「fandom.com」とか見てチェックすればいいんです。

しかし、単にパロディでバカ騒ぎしているだけでない、意外にふざけた内容でありつつも『スタートレック』の真髄がしっかり提示されたりして、私は近年の実写ドラマシリーズである『スタートレック ディスカバリー』『スタートレック ピカード』よりも個人的にお気に入りですし、素直に感動してしまったりも…。

『スタートレック ローワー・デッキ』はアメリカ本国では「Paramount+」で配信されているのですが、日本では「Amazonプライムビデオ」での独占配信となっています。1話あたり約25分程度なのでサクサク見れるでしょう。

未来の宇宙でもクソな仕事に愚痴っていこう!

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『スタートレック ローワー・デッキ』を観る前のQ&A

Q:『スタートレック ローワー・デッキ』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:もういっそのこと初心者の人でも本作から観ちゃっていいと思います。何事も初めてはある!
✔『スタートレック ローワー・デッキ』の見どころ
★パロディ満載で笑える。
★クソな仕事に愚痴りつつ、意義ある仕事の在り方を描く。
✔『スタートレック ローワー・デッキ』の欠点
☆パロディはわかる人にしかわからない。
☆アダルトアニメなので性描写あり。子どもにはちょっと…。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:ファンなら要注目
友人 4.0:初心者も誘って
恋人 3.5:多様なロマンスあり
キッズ 2.0:露骨な性描写あり
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『スタートレック ローワー・デッキ』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『スタートレック ローワー・デッキ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):ローワー・デッキは今日も平常運転

カリフォルニア級の宇宙艦U.S.S.セリトスでは、少尉のブラッドワード・ボイムラーは艦長日誌をつけるマネをして雰囲気だけでも味わっていました。それを同じローワー・デッキのベケット・マリナーに揶揄われます。マリナーはU.S.S.キトからU.S.S.セリトスに配属された少尉で、以前はディープ・スペース・ナインで働いていたこともあり、あちこちを転々としていました。マリナーは昇進は考えていませんが、ボイムラーは艦長になる目標にひたむきです。

とは言え、このローワー・デッキの仕事は胸が湧くようなものではない、雑務ばっかりです。

そんな中、U.S.S.セリトスにオリオン人の士官であるドヴァナ・テンディが配属されてきます。夢の職場にワクワクなテンディでしたが、ボイムラーとマリナーはそんな彼女にここの退屈で地味な仕事の説明をします。

途中で機関部門の少尉のサム・ラザフォードで出会います。ラザフォードは頭部にサイボーグ・インプラントを装着しており、生粋のメカ・オタクです。科学オタクのテンディと気が合います。

そんなローワー・デッキにとっての上官たち。副長を務めるジャック・ランサム。戦術・保安部長のベイショー人のシャックス。医療部長のドクター・タアナ。機関部長のアンディ・ビラップ

そして艦長であるキャロル・フリーマン。実はマリナーの母でしたが、それはみんなには隠しており…。

U.S.S.セリトスは今日も賑やかに宇宙のどこかで末端の仕事をこなしています…。

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シーズン1:でも職場は健全です

『スタートレック ローワー・デッキ』のメイン主人公となる若い士官。マリナー、ボイムラー、テンディ、ラザフォード…この4人はいずれもベクトルは異なれど宇宙艦隊オタクであり、それが『スタートレック』パロディをする役割としてもハマってます。

経験豊富なマリナーから繰り出される『スタートレック』最前線あるある。多次元エネルギー生命体をちょうどいいカモみたいに捕まえて利用するくだりとか、あんまりすぎるけど笑ってしまう…。マリナーは「昇進したくない」女性としてもレアですよね。女性なら差別を乗り越えてキャリアアップするのが理想とされる規範にものすごく抗うキャラクターです。

ボイムラーは向上心高すぎでややうざめの『スタートレック』オタク感がでてますが、理不尽な目に遭う役どころで、そこで鬱憤も全開。まさにギャグには欠かせない存在です。

テンディは野蛮な海賊というオリオン人のステレオタイプを打ち破る超ポジティブなキャラクターで、そこも新鮮ですね。クソな仕事もポジティブシンキングで乗り越える…あんなメンタルが欲しい…。

ラザフォードはメカニックなオタクで、こういうキャラはこれまでの『スタートレック』にも毎回ひとりはいましたが、機械いじりの情熱がクソな仕事に完全適応しています。テンディとラザフォードでプラトニックなリレーションシップを築いているのもいいですね。

ネタとしては本当にマニアックの極みなものばかりなのですが、エンジン音のモノマネとか、転送途中で停滞してあの特徴的な転送音が消えないとか、しょうもないやつもあって、案外とこういうのが私のツボなのかもしれない…。

あとやっぱりホロデッキレプリケーターはネタの格好の材料ですね。レプリケーターの雑な使い方がたまらない…。

もちろん忘れてはならない、オープニングクレジットが一番酷いのも…。あの雄大な曲をここまで台無しにできるとは…。

U.S.S.セリトスがこなしているのは花形の艦隊がファーストコンタクトした後の事後調整だったり、とにかく雑務のみ。まあ、確かにこういう仕事も当然あるわけで、仕事というものの格差を痛烈に皮肉ります。

それでも『スタートレック』らしいのが、なんだかんだで宇宙艦隊は宇宙艦隊…ちゃんと健全なポリシーで組織運営されていること。ローワー・デッキの士官でも有給もあるし、しっかりキャリアアップできる機会が用意されていて、違法企業とは全然違うのでした。

ブルシット・ジョブにも守るべき誇りがあるのです。聞こえてる? 現実の不正労働企業さんたち…。

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シーズン2:アセクシュアル表象

『スタートレック ローワー・デッキ』のシーズン2では、シーズン第1話を繰り返すように今度はランサムはゾンビではなく神化してひと騒動。ボイムラーはU.S.S.タイタンのライカー艦長にスカウトされて中尉に昇進するも、クローンに座を奪われてU.S.S.セリトスにカムバック。

今回もノリは一緒なシーズン2ですが、私がとりわけ注目するのはやはり機関部長のアンディ・ビラップ。彼は明示されていませんが、アセクシュアル・アロマンティックのキャラであると読み解ける描かれ方になっています。

決定的なのは、シーズン2の第7話「Where Pleasant Fountains Lie」のエピソード。アンディ・ビラップの母から交信が突然入り、彼の母は実はハイスペリアの女王でビラップは次期国王だと判明します。そのハイスペリアの法ではビラップが童貞を失った場合に自動的に国王になることになっており、ビラップは母に幾度となく誰かと性的関係を持つように圧力をかけられていましたが、エンジニアの職が好きなビラップは頑なに拒否。今回も母は無理強いはしないと言っておきながらビラップを性行為させるシチュエーションを作ろうと画策していたのでした。

このハイスペリアはおとぎ話っぽいお城がある星で、世界観が完全に典型的な「ロマンスで人はハッピーエンドになる」というもの。ビラップはそれに抵抗しており、このコードは非常にアセクシュアル・アロマンティックでよくあるものです。

ビラップも本当は性的関心があるというようには一切描かれていません(前戯をすっ飛ばすように訓練された近衛兵男女がベッドで待つシーンでは、しっかり異性愛と同性愛が包括されていて丁寧)。

このエピソード以外でも、このシーズン2の第8話ではシミュレーション上の鏡像宇宙のテラン帝国のビラップは性欲ビンビンだったり、別のシミュレーション上においてウイルスで本能が解き放たれた艦内の場面では周囲が乱交状態になっている中でビラップだけは裸ながら平然と何もしていなかったり、随所で彼のこの性的指向が強調されています。

『スタートレック』でアセクシュアル・アロマンティックのキャラが本格登場するのがまさか『スタートレック ローワー・デッキ』になるとはね…。

ちなみに『スター・ウォーズ』ではコミックでアセクシュアル・アロマンティックのキャラがでてきています(CBR)。

『スタートレック ローワー・デッキ』は昨今の『スタートレック』と同様、LGBTQ表象には積極的です。主人公のマリナーもバイセクシュアルですしね。私はこの2380年の世界観が男女分離のない描写になっているのがいいなと思ったり…(シャワールームとかみんな自然に共同利用している)。

とにかく『スタートレック』でもアセクシュアル・アロマンティックの表象へと踏み出していて良かった良かった…。

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シーズン3:クソの仕事でも奪うなよ!

シーズン3はシーズン2のクリフハンガーの続き。フリーマン艦長は惑星パクレドを破壊した容疑で保安部に逮捕されてしまい、裁判になりかけましたが、無事に容疑は晴れました。ここでも宇宙艦隊はちゃんとしていることが証明されたかたち。

以降のやっていることはこれまた毎度のとおり。テンディのオリオン人としてのアイデンティティの掘り下げのエピソードは良かったですね。

しかし、私のシーズン3のベスト回は、やはり第7話のピーナッツハンパー再登場話。鳥族とセックスしたかと思えば、しっかり自己認識超高度コンピュータと一緒に管理隔離されるというオチつき。まあ、そうなるよね。

終盤は、実はラザフォードが記憶を消された過去に開発に関わっていた最新のテキサス級無人艦との仕事の誇りをかけた勝負。カリフォルニア級の艦隊が全員駆け付けての大団円は、ブルシット・ジョブの意地と底力という盛り上げでベタながらナイスでした。

でもこの展開もまさしく現実と同じ。クソみたいな仕事って真っ先にAIとかに奪われて、それで困るのはやはりその仕事をしていた人で、決して従事者が昇進できるわけでもないんですよね。仕事がクソなのは嫌だけど、そのクソな仕事でも仕事を奪っていい理由にはならんよ!って話です。

『スタートレック ローワー・デッキ』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 68% Audience 54%
S2: Tomatometer 100% Audience 79%
S3: Tomatometer 100% Audience 78%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)CBS Eye Animation Productions ローワーデッキ

以上、『スタートレック ローワー・デッキ』の感想でした。

Star Trek: Lower Decks (2020) [Japanese Review] 『スタートレック ローワー・デッキ』考察・評価レビュー