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『ウィロビー家の子どもたち』感想(ネタバレ)…Netflix;親も家もなくても

ウィロビー家の子どもたち

親も家もなくても平気!…Netflix映画『ウィロビー家の子どもたち』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Willoughbys
製作国:カナダ・アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:クリス・パーン

ウィロビー家の子どもたち

うぃろびーけのこどもたち
ウィロビー家の子どもたち

『ウィロビー家の子どもたち』あらすじ

ウィロビー家は子どもを愛するという価値観が無かった。愛してくれない身勝手な両親のもとに生まれた兄妹4人は、人生から親を消し去って自分たちだけで生きていこうと決意する。しかし、兄妹4人が力を合わせてある計画を思い切って実行したことで思わぬ大波乱が待っていた。本当に大切な家族のカタチというのは何なのか、子どもたちは模索する。

『ウィロビー家の子どもたち』感想(ネタバレなし)

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Netflixはアニメ映画も見逃せない

アニメーションのアカデミー賞と称される「アニー賞」。国際アニメーション映画協会によって授与されるものなので、本質的にはアカデミー賞とは全く別物なのですが、アニメーション業界の注目度は最も高い賞のひとつです。

そんなアニー賞の2019年の作品賞受賞作はかつてない驚きがありました。その栄光に輝いたのは『クロース』という作品で、驚かれた理由はNetflix配信作だったからです。実写映画の方面でも凄まじい劇的な勢いで存在感を急上昇させているNetflixですが、とうとうアニメ方面ではお先に覇権をとってしまったわけです。

こうなってくるともうNetflixで配信されるアニメーション映画も断然見逃せなくなってきます。大手ではない、ちょっとマイナーな、でも実力のあるクリエイターやアニメーション制作会社をピックアップしてくることが多いので、光の当たりにくかった作品が輝くチャンスが到来しているともいえます。日本の作品もNetflixにバックアップを受けて賞ステージに…なんてことが起きるかもしれませんね。

そのような期待も膨らむNetflixアニメーション映画ですが、このたび新入りの良作が追加されました。それが本作『ウィロビー家の子どもたち』です。

本作は「ロイス・ローリー」というアメリカの作家の手がけた小説が原作。多数の賞を与えられているアメリカを代表する作家なのですが、10代の頃に2年ほど日本で暮らしていたそうで、実は日本とも縁のある人です。

このロイス・ローリーの作品を私はそこまで読んでいないのであれですが、作風としてはセンシティブなテーマに踏み込んだものが目立つことがよく言及されます。例えば「The Giver」という作品(2014年には『ギヴァー 記憶を注ぐ者』として実写映画化もされています)は、ユートピア風に見えるも実際は恐ろしい監視社会である世界を描き、とても強烈な社会風刺要素が強いです。また「Number the Stars」という作品は、ホロコーストを題材にしています。さらに小説としては処女作となる「A Summer to Die」という作品は、ロイス・ローリー自身の経験をもとに家族の死に向き合う苦悩がリアルに綴られています。

そのロイス・ローリーが2008年に執筆した「The Willoughbys」をアニメーション映画化した『ウィロビー家の子どもたち』も、ファミリー作品っぽい雰囲気を外見では見せ、実際に家族で鑑賞しても何も問題ないのですが、その中身は結構重たいシリアスなテーマを扱っています

なので「子ども向けでしょ?」と侮らないでほしいところです。

アニメーションを制作したのは「Bron Animation」というスタジオで、これはカナダのブリティッシュコロンビアにある「Bron Studios」という映画会社の部門のひとつ。大本のスタジオは実写映画を手がけていることが多く、最近だと『スキャンダル』もここがプロダクションです。

監督は“クリス・パーン”(クリス・ペアンとも表記)で、過去に『くもりときどきミートボール2 フード・アニマル誕生の秘密』を監督もしていますね。

声優を担当しているのは、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』で絶賛された“ウィル・フォーテ”、カナダ出身のシンガー・ソングライターで『モアナと伝説の海』のエンディング曲も歌っていた“アレッシア・カーラ”(『ウィロビー家の子どもたち』でもちょっと歌います)、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』などでコミカルな演技を見せる“マーヤ・ルドルフ”、辛口コメントで有名なコメディアンの“リッキー・ジャーヴェイス”などなど。

なお、日本語の吹き替えでは、江越彬紀、牧野由依、落合弘治、多田野曜平、雨蘭咲木子、ニケライファラナーゼ、楠見尚己、杉田智和らの方々が担当しています。

楽しげな物語で、でも少し家族について真面目に考えさせる、ほどよいバランスの映画になっているので、自宅引きこもりで世界を守る際のお供にどうぞ。

『ウィロビー家の子どもたち』はNetflixオリジナル作品として2020年4月22日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(大人でも楽しめる物語)
友人 ◯(海外アニメ好き同士で)
恋人 ◯(心温まるストーリー)
キッズ ◎(子どもは楽しく見られる)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ウィロビー家の子どもたち』感想(ネタバレあり)

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この物語はハッピーなものではない

普通のビル街の隙間にポツンとヘンテコな家があります。あまり普通そうには見えません。世間とは合致しない存在感を家だけから伝えてくる…このホームに住んでいるのはウィロビー家です。

家主であるウィロビー夫妻は広い部屋で仲睦まじく暮らしており、いつも互いへの愛を忘れません。そんな夫婦に赤ん坊が生まれ、愛はさらに深まり…ません。この夫婦、子どもには一切の無関心なのでした。自分の子どころか、生き物とすら思っていないように赤ん坊をつまみ上げ、目の見えない範囲に放置する夫婦。そこには父と母という自覚はまるでなく、子どもは存在外のようです。

ティムという名前だけを与えられた赤ん坊はなんとか成長し、今ではジェーンという妹と、双子どちらもバーナビーという名の元気な弟も存在していました。もちろん全員が愛されていません。

食事は子どもとは食べない夫婦を遠目から見るしかなできない、お腹がすいた子どもたち。「僕らのご飯は?」と遠慮がちに聞くも「昨日の残り物があるでしょう」と辛辣な言葉が帰ってくるのみ。

生意気と判断されたティムは罰を与えられ、石炭庫に閉じ込められます。これも何度も経験していること。「このうちの子どもでなければよかったのに…」とぼやくも本人にはどうしようもありません。

昔の一族について本を読むと、どうやらみんな口髭があって女の人さえも例外ではなかったようです。髭がない自分を恥じ、立派な一族になれればと夢見るティム。

一方、暗い部屋で窓の月明かりを見ながら歌を歌っていたジェーンは、家の敷地の門に何かが置かれているのに気づきます。それは呻き声をあげる箱。好奇心に釣られて、さっそく家を飛び出して門にある箱を敷地からでずに引き寄せて開けてみるジェーン。そこには…。

石炭庫から脱出したティムは、ジェーンと双子バーナビーがなにやら追いかけ回しているのを目撃。それはなんと赤ん坊…にしてはエネルギーに満ち溢れている赤ちゃんでした。きっと孤児だと明言するジェーンですが、「パパとママは子ども嫌いなんだぞ」とティムはバレやしないかと大焦り。

バレました。赤ちゃんは異常な速度で下の階に移動。いつものようにイチャイチャしている夫婦のもとへ出現。ゴキブリが出た並みに半狂乱でパニックになる夫婦をよそに、ティムたちはなんとか暴走赤ちゃんを捕まえます。

キレた夫婦は子どもたち全員を家から追い出してしまいます。そうです、自由です。

初めて家を出たことにワクワクのジェーンと双子バーナビー。ティムは完全におっかなびっくり。虹のふもとにむかうジェーンについていくのに必死です。

そしてたどり着いたのは「MELANOFF’S(メラノフス)」と書いてあるお菓子の工場で、煙突から虹がモクモクと出ているようでした。「理想のおうちだ」と確信するジェーン。赤ん坊に名前をつけようということになり、やや意地悪半分で「ruthless(無慈悲な)」に因んで「ルース」と命名したティム。

ルースはこの家に置いて行くことに決め、戸に置きます。インターホンを鳴らすジェーン。隠れながら見ていると、立派な髭の持ち主が玄関ドアから出てきました。

それを見ていて思いつく一同。自分たちも孤児になれば、あの親から離れられるのではないか。

考え出された作戦は親を旅行に出発させ、その旅行先の危険地帯で死んでもらう計画。しかし、この無謀なプランは予想外の存在によってかき乱されていくことになっていきます。

ウィロビー家の子どもたちの居場所はどこに落ち着くのか…。それは猫だけが知っている…。

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アニメだから許せるギリギリの倫理

『ウィロビー家の子どもたち』は、表面上はコミカルなキャラクターが織りなすファミリーアニメですが、中身はほぼアンチ・ファミリー、いや、言い方をもっと正確にするとステレオタイプな家族観に対する強烈な反逆のような物語です。

まずこのウィロビー家で悠々自適に暮らす夫婦。働いているのかもわからないし、由緒ある家系なので労働の必要がないくらいの資産があるのかもしれませんが、とにかく子どもに対する扱いが酷いです。酷いというか、ほぼ児童虐待レベル。ド直球にネグレクトしています。どうやってティムたちが育ったのかも怪しいほど、育児に関して関心ゼロ。家に捨てている状態です。

これはアニメーションなのでデフォルメされていてまだマイルドに受け入れられる絵になっていますが、実写だったら相当にキツイ、残酷な映像になってしまいます。アニメだからこそ許せるギリギリのラインを攻めている感じです。赤ん坊の足をつまみあげてゴミのように距離を置くとか、実写だったら怒号が飛び交う問題表現ですよ。赤ん坊を大事にする『マンダロリアン』がこの夫婦を見たら八つ裂きにしているだろうに…。

あの屋敷も独特で、現代的なモノが一切なく(ティムもスマホの操作に混乱していた)、時代に取り残されているようです(立地がいかにもそういう感じでした)。なんとなく推察すると、どうやらあの家系は髭が男女関係なく生えるらしく、もしかしたら特殊なマイノリティゆえに社会から隔絶して生きてきた…のかもしれません。そう考えるとちょっと可哀想ですが、でもあのネグレクトを擁護する理由は1ミリもないです。

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親がいなくても困難を乗り越えられる

そんな親失格の人間から脱出しようとする子どもたち。

このテーマ自体は昨今もクローズアップされがちな「血縁ではなく愛が大事」というメッセージどおりであり、物語自体も保守的な家族のかたちにとらわれない疑似家族に着地します。

最近の映画で言えば『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』や、アニメーション映画で言うなら『シュガー・ラッシュ オンライン』だって、恵まれない者同士の絆を描く作品であり、そういうものは多様性が尊重される今はなおさら話題のトピックです。

そういう意味ではこの『ウィロビー家の子どもたち』は、一瞬、親側が改心する素振りを見せつつ、やっぱりクズのままで消え去り、最後はナニーのリンダやメラノフ司令官といった孤独を抱えた者たちの共同体ができるというゴールも、それでもなおもありきたり路線から抜けてはいません。

しかし、本作はしっかり心に訴えるものがあります。それはやっぱりシンプルなものこそ奥深く表現するという、アニメーションらしい純真さが功を奏しているからだと思います。

本当に無慈悲な児童相談所に保護されてしまった子どもたちは、こうなったらあの親を連れ戻すしかないと苦渋の決断をし、親のいるスイスへ工場で建造した飛行船でGO。雪に埋もれた両親を発見(キスしたまま凍り付いている)し、「愛してくれなくてもいい、僕らの親でいて」と語りかけます。でもあの親は残念な態度を見せるだけでした。物語上は単純な結末ですけど、実際は凄く大事なテーマをもっとも極端なかたちで伝えているだけです。

愛してくれないなら、それは親じゃない、と。

血じゃない、DNAじゃない、見た目じゃない、家系じゃない、世帯じゃない、戸籍じゃない…家族を家族たらしめるものは愛だということ。見てくれだけは愛し合っているように見える(だからキスしまくっている)あの夫婦はまやかしだ、と。

恥かしくなるような主張でもこうやってアニメにされるとすんなり受け入れられるものです。

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虹色のゲロを吐くのは元気な証拠!

『ウィロビー家の子どもたち』は重たいテーマを扱いつつも、そこまで説教臭くならないのは、コミカルさを要所要所に遠慮なくトッピングしてくれるからです。

“クリス・パーン”監督の前作『くもりときどきミートボール2 フード・アニマル誕生の秘密』にも通じるエッジの効いた、“なんだそれ”なギャグシーンがクソ親に失望した目を和ませてくれます。

実は最も可哀想な存在(赤ん坊時に箱に放置ですからね)なのに、やたらハチャメチャで、もはやこの子は成長したら「X-MEN」か「インクレディブル・ファミリー」の仲間入りを果たせるんじゃないかと思えるルース。あの赤ちゃんハイ描写も愉快で、クレイジーさが場のシリアスさを完全にぶち壊します。個人的には虹ゲロのシーンが好き。

ベビーシッターであるナニーことリンダも、不幸な境遇を感じさせないハイテンションで、子どもの心をつかむわけですが、私はそのリンダに結果的に追い出されてしまった、内覧会にやってきたパーフェクト・ファミリーのシーンはパンチが効いているな、と関心。要するに物語上ゴールにしてしまいがちな理想的な家族像をあっけなく蹴散らしているわけですからね。コケにするほどではないにせよ、笑いにするというのも、なかなかないセンス。

物語のナレーションとして入る猫も良い感じで固くなりがちなストーリーをほぐしていました。

枠にハマらないこういう家族だってあるんだよ…ということを、私の国のお偉いさんも理解してほしいものですよ…。

『ウィロビー家の子どもたち』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 75%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Bron Animation, Netflix

以上、『ウィロビー家の子どもたち』の感想でした。

The Willoughbys (2020) [Japanese Review] 『ウィロビー家の子どもたち』考察・評価レビュー