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『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』感想(ネタバレ)…続編はナチュラルです

スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!

あの大問題作ドキュメンタリーが味を変えて帰ってきた…ドキュメンタリー映画『スーパーサイズ・ミー2 ホーリーチキン!』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Super Size Me 2: Holy Chicken!
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2019年に配信スルー
監督:モーガン・スパーロック

スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!

すーぱーさいずみー ほーりーちきん
スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!

『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』あらすじ

俳優で監督のモーガン・スパーロックがファストフード業界に挑んだのは昔の話。「1日に3食・30日間、ファストフードだけを食べ続けたら人の身体はどうなるか?」というチャレンジは想像以上に世界に衝撃を与えた。そしてそれから12年が経過。モーガン・スパーロックはまたもファストフード業界に向き合うことを決意する。しかし、同じ手は使えない。今度は自らファストフード店を開店することに…。

『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』感想(ネタバレなし)

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今度は開店だ!

ファスト映画はあんまり利用していてほしくないのですけど、ファストフードのほうはどれくらい食べているでしょうか? 毎日? 週に1回? 月に1回? 年に1回? 全くない? こればかりは人それぞれですよね。そもそも何をファストフードとみなすかという議論もあります。手軽でササっと食べられる外食ならたいていはファストフードになるのかな。とすればファストフード利用率は相当に高くなっている人も多いのも当然。私も映画をファストにはできないぶん、食事をついファストにしてしまいがちです。

そんなファストフード、とくにアメリカを中心にもはや国の文化として絶大に定着しているハンバーガー業界に食らいついた人物がいました。食らいついたと書くと、美味しく満喫したみたいに思えますけど、そうではなくて…。その業界の“表沙汰にしたくない負の側面”を自らの身体を生贄に暴いた人間がいたのです。

その人物とは、“モーガン・スパーロック”。もともとは劇作家だったのですが、彼が良くも悪くも世間を騒然とさせたのが2004年の『スーパーサイズ・ミー』というドキュメンタリーでした。

このドキュメンタリーでは、何かと健康に悪いのでは?と指摘されるファストフード業界の食品に対して「だったら自分で確かめてやろうじゃないか」と“モーガン・スパーロック”自身が立ち上がり、自らを被験者に30日間の1日3食全てをマクドナルドで提供されるメニューだけで生活するという挑戦をした模様が映し出されます。

その結果がどうなったのかは実際にドキュメンタリーを観てほしいのですが(まあ、だいたいわかると思うけど)、そのセンセーショナルなチャレンジをおさめたドキュメンタリーは世界で話題となり、マクドナルド社が火消しに躍起になってキャンペーンまで展開する事態に発展。当時の「ファストフード=不健康」を決定づけたインパクトのひとつでした。その後は『ファーストフード・ネイション』(2006年)のような業界の闇を暴く社会派映画も続きました。

それから早12年。“モーガン・スパーロック”がまたもやファストフード業界に挑戦を突きつけてきたのです。なぜか。昨今のファストフード業界は過去のイメージを払拭する努力によって「健康」の看板を堂々と掲げるようになりました。CMも国民もそう言っています。でも本当にそうなのか? しかし、同じ挑戦はしたくない“モーガン・スパーロック”(普通に嫌なんだろうな)。

そこでなんと今度は自分でファストフード店を開業することにしたのです。健康的なメニューを提供する店を。郷に入れば郷に従え…と言うけれど、その手を使ってくるとは…。

今回はチキンを提供するので鶏を育てるところからちゃんと始めますよ! なんか『水曜どうでしょう』みたいなノリですね。

でもこれくらいしないとダメなのかもしれません。というのも今やYouTuber全盛期時代。かつてのような特定の食事だけを摂るみたいな企画はいくらでもマネできます(実際に『スーパーサイズ・ミー』以降、類似の試みが頻出しました)。

“モーガン・スパーロック”なりに考えた結果の、今の時代はこれならストレートパンチを決められると狙ってのカウンターなんでしょうね。そんな味を変えたにもほどがあるスタイルチェンジで攻めていく続編のタイトルは…『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』

今回は体重の増量も起こらないし、「スーパーサイズ・ミー」というタイトルは関係ない気もするけど、まあ、いいのです。

本作『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』、アメリカだとYouTubeに無料で公開されているのですが、日本ではAmazonプライムビデオで観れたりします。

本作を観終わった後にファストフードを食べるかどうかは個人にお任せしますが、なんとなく店内の内装や広告に興味がいってしまうんじゃないかな(どういうことかは本作を観ればわかる)。

なお、容易に予想がつくと思いますが、鶏さんたちが残酷な目に遭う映像が映ります。そこはいつもの“モーガン・スパーロック”、遠慮なしです。なにせ前作は『ラッツ』でしたからね。

でもヒヨコの愛らしさにメロメロになっている“モーガン・スパーロック”はちょっと楽しい絵面ですよ。

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『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』を観る前のQ&A

Q:『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:前作を観なくても今作はじゅうぶん面白いです。時間があれば前作もぜひ。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:チキン好きの人も!
友人 4.5:話のネタとしては最適
恋人 3.5:動物殺傷描写が嫌でなければ
キッズ 3.5:健全な勉強にはなる
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『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』感想(ネタバレあり)

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お馴染みの味:露悪的フリーです

『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』のスゴイところは本当にガチでファストフード店を開業しようと奔走している点です。単に開業するという仮定で関係者にインタビューするとかではなく、これから開業しようとする一般人に密着するわけでもなく、“モーガン・スパーロック”本人がここでも主体です。

ここにこそ“モーガン・スパーロック”のいつもの持ち味、わざとらしいほどに露悪的…というセンスが光輝きます。一見すると真面目そうだけどそこには全力の皮肉がこもっている。

最初はリサーチということで各地のチキン店を食べて回ることに。やっぱり食べているじゃないか!というツッコミを狙っているのも見え見えな「食べる」「食べる」「食べる」の連発。チックフィレイ、ウェンディーズ、セブンイレブン、オーガニック・クーブ、ベイクセール・ベティーズ、バーガーキング…。あの因縁のマクドナルドも12年ぶりの再会で食事。トラウマのフラッシュバックに耐えているあたりがシュール。

そして鶏を育てるというゼロからのスタート。モーガニック養鶏場です。生まれたばかりのヒヨコたちを前に感激しつつも、「6週間後には食卓に並びます」の衝撃宣告。ここの編集テンポといい、BGMといい、非常に露悪さ満天。ワクチン注射の無慈悲な流れ作業。養鶏場で箱から雑に一挙に投げ入れられるヒヨコたちのスローモーション。踏んづけられる致し方ない犠牲。もう、観客もヒヨコが残酷な目に遭うのはわかりきっているので、そこはあえてスルーする感じ。さすがの“モーガン・スパーロック”。

そもそも“モーガン・スパーロック”は本作でアニマル・ライツ(動物の権利)を主張したいわけではないんですよね。本人も肉は普通に食べるし…。むしろこのあたりはヴィーガンをおちょくっているようにすら見える…。

でも交配で急速成長するように改良された鶏の現実はじっくりと映し出していきます。転がる死体を解剖に出すと、急激な成長で心臓に負担がかかって心筋梗塞で死亡したことがわかります。不健康な鶏は食品としては最適…この養鶏家の言葉が最も純粋無垢なこの世の露悪かもしれません。

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ヘルシーなブランド戦略

ただ養鶏の残酷さを暴くだけではない『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』。実は最も蔓延している残酷な所業はこっちかもしれない。それがブランド戦略。

みんな美味しいものを食べたい(健康でもマズいものは嫌)、そして健康そうなものを食べているという感覚も欲しい(本当に健康かどうかはどうでもいい)…その需要を満たすべく、あの手この手の「健康ハロー効果」(言葉を使って商品をより健康に見せる)を実践。

フレッシュ、ナチュラル、ホームメイド、シンプル…とくに意味はないけど健康そうな言葉たち。フライはクリスピーと言い換えてイメージチェンジ。新鮮なハーブとニンジンとかも盛り付ければ、ヘルシー風に見える。あとは紙の包装、緑の文字、手書きフォント、割りたての卵…なんでもあり。

さらに認証だってラクラク。そもそもホルモン剤の使用は法律で禁止されているから何だって「ホルモンフリー」、そもそもケージで飼育される鶏はいないから何だって「ケージフリー」「人道的」は生産者が勝手に決めて良し。極めつけは「フリーレンジ」のくだり。鶏に外に出るアクセスの選択肢さえ与えていればいいというあのマヌケな、でも農務省のガイドラインは守っている現実。

「健康」の定義は科学的な数値などではなく、広告で決まるのです。

印象的なのはこれらのブランド戦略を広告会社やメニュー開発会社は“わかって”やっていることです。全く悪びれる感じでもない。冷静に考えれば詐欺なんですけど、そういう感覚さえ欠如してしまっている。あの業界の空気はなかなかにホラーですね。

でもああいう業界の風土というものはどの業界にもあると思うのです。“モーガン・スパーロック”はそこに“絶対にツッコまないぞ”精神でしれっと入り込んでいますけど。

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チキン業界はマフィア

さらに『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』はチキン業界のスケールの大きい闇も一部を垣間見せます。

私はこのへんは全然知らなかったのですが、アメリカでは通称「ビッグチキン」と呼ばれる大手企業5社が業界を牛耳っているんですね。

ということで養鶏をインディペンデントで始めるのも困難ですし、やるからには自然とこのビッグチキンの支配下に入ることに。しかも悪名高き「トーナメント方式」によって競争を余儀なくされ、透明性なぞ欠片もないルールによって、業界に不利益なことをすれば勝手にランクを下げられてしまう始末。

本作の後半はかなりシリアスなトーンになります。養鶏家たちの辛く苦しい心中が語られ、涙を流しながらも、この仕事に従事してきた“やるせなさ”が伝わってきます。

“モーガン・スパーロック”もすっかり業界の要注意人物リストの仲間入りをしてしまいますし、彼に関わった養鶏家にもペナルティが…。

作中では合法的な搾取と言っていましたが、これこそ家畜ですよ。あの養鶏家たちが飼われている。チキン業界は人間を家畜化しているんですね。

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お客さんにも食べて学んでもらう

『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』は終盤のカタルシスが光る一作だったと思います。

いよいよ開店。その店内にはブランド戦略で散々言われたとおりの内容を“オブラートに包むことなく”ハッキリとアピール。まさに相手の手口でこっちもやり返すという作戦です。

これがまた痛快ですよね。誠実な美味しさが何を犠牲にしているのか、観客に食べてもらいながら学んでももらう。この宣伝効果は凄まじいです。なにせ今まさに食べているんですから。そして普段からよく来ているファストフード店の表の皮がベリベリと剥がれていく。

また、そこで養鶏家の人が本当に語ってほしいストーリーが語られているのも揺さぶられるものがあって…。「美味しい鶏を頑張って育てました」という業界にとっての理想のエピソードの裏にある真実。

広告は不正にも利用できるけど“正しさ”にも利用できるよね…という、このやり返しは“モーガン・スパーロック”のフィルモグラフィの中でも一番にクリティカルヒットしたんじゃないかな…。

「いずれお互いが失業するかも」…なんていう言葉で皮肉トッピングで閉幕するこのドキュメンタリー。しかし、これには続きがあるのです。ドキュメンタリーでは語られない、続きの話。これもやっぱり語らないわけにはいかないので語ります。“モーガン・スパーロック”、チキン業界より先に失業したんですね。

というのも、“モーガン・スパーロック”は2017年12月に自身のブログで、大学時代に自身が加害者としてレイプで告発されたこと、他にもセクハラの訴訟があったことなどを告白したのでした。

だからこの『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』は2017年製作で完成していましたけど、公開が2019年まで遅れたのでした(この問題で公開を取りやめた)。これにより制作会社の関係も切れて、事実上のクリエイティブ活動の中止となっています。

『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』という素晴らしいドキュメンタリーを観た後にこんな事実を知ってしまうと味も一気にマズくなるものですが、私も同情する気は一切ありません。人々は事実ではなく物語を好むということを明らかにした本作において、事実を公表したことは良かったと思いますが、それで許されるわけでもありません。

加害の歴史はブランド戦略では誤魔化せませんからね。その焦げ痕は永遠に残るのです。

『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 74% Audience 75%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Samuel Goldwyn Films スーパーサイズミー ホーリー・チキン!

以上、『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』の感想でした。

Super Size Me 2: Holy Chicken! (2017) [Japanese Review] 『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』考察・評価レビュー