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『テレビが見たLGBTQ』感想(ネタバレ)…テレビが私たちをどう映し出してきたのか

テレビが見たLGBTQ

LGBTQとテレビの歴史を知りたければ必見…「Apple TV+」ドキュメンタリーシリーズ『テレビが見たLGBTQ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Visible: Out on Television
製作国:アメリカ(2020年)
配信日:2020年にApple TV+で配信
監督:ライアン・ホワイト

テレビが見たLGBTQ

テレビが見たLGBTQ

『テレビが見たLGBTQ』あらすじ

レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、他にもさまざまなクィアがいる…。そんなLGBTQは現代の私たちにとって避けては通れないトピック。ではメディアとして長らく覇権を制してきたテレビはこのLGBTQの人々をどう映し出してきたのか。当事者たちがその歴史を語る。そこには暗黒の時代、闘い、失望、そして喜びがあった。チャンネルを変えるリモコンは私たちの手にゆだねられている。

『テレビが見たLGBTQ』感想(ネタバレなし)

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テレビに“あなた”はいますか?

皆さんはテレビ番組を見ていて自分と重ねられる存在が映し出されることがあったでしょうか。ニュースでもバラエティ番組でもドラマでも何でもいいです。さすがに自分自身が出演しました!という人は少数だと思います。大多数の視聴者はテレビで他人を観ることになります。その他人が自分にどれほど共感を与えてくれたか、考えてみてください。

別に共感は必須ではありません。他人は他人。他人事でも構いません。しかし、テレビというメディアはとても身近なもので、映像で提供されるためにリアルな存在感をもたらします。「テレビに映し出される=実際に存在するものと世間に認知された」も同然だとも言えます。テレビに映されるということは国や文化の一部として見られたのと同じ。

それを意識することは多くの人はあまりないかもしれません。テレビでは当たり前のようにいろいろな職業や年齢の人が登場しますし、何かしら重なる者が出てくるのが普通でしょ?と考えたこともないかも…。

でもそうじゃない人もいるのです。テレビを見ていてもそこに“自分”がいない人たち。テレビの世界から排除されてしまった人たち。

今回はそんな人たちとテレビの関係をまとめたドキュメンタリーを紹介します。それが本作『テレビが見たLGBTQ』です。

本作が何を題材にしているかはタイトルを観ればすぐにわかりますね。LGBTQ(日本では「LGBT」「LGBTs」、世界では他に「LGBTQ+」とか「LGBTQIA+」と表現したりもする)…つまりいわゆる性的少数者(セクシュアル・マイノリティ)を扱っています。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどですね。

今やLGBTQの人たちがテレビに登場するのはそんなに珍しくなくなってきました。日本はともあれアメリカやヨーロッパでは日常化していると言えるでしょう。しかし、この現状にたどり着くまでにどんな紆余曲折があったのか。その歴史を知らない人は多いと思います。

日本では「LGBT」とか「セクシュアル・マイノリティ」とか言葉だけがどうしても先行して導入されがちで、その理解までは大衆には追いついていないのが現状だと思います。「テレビで見たけど、結局どういう人なのかはイマイチ…」とか、もしくは本当に漠然とイメージだけを自分の頭の中で構築しているだけだったり…。私もこれは深刻な問題だと思っていて、とにかく日本社会は情報過多のわりには理解と議論の積み重ねが薄いです。だからといってLGBTQへの差別禁止を定める法律を制定しないなんてのは論外。命や人生に関わるものである以上、状況は一刻を争います。

そこで『テレビが見たLGBTQ』のようなドキュメンタリーが役に立つのです。本作はアメリカにおけるLGBTQとテレビの関わりの歴史を網羅しており、これひとつでその流れを把握することができます。ドキュメンタリーと言ってもシリーズもので、全5話で、計5時間ちょっとのボリュームなのですが、逆に考えればたった5時間でいいのです。理解増進とやらに永遠に時間を浪費している暇はありません。そんな御託を並べるくらいなら、まずは本作を観てほしいものです。

『テレビが見たLGBTQ』はLGBTQについて学びたい人はもちろん、悩みを抱えている当事者や、LGBTQの支援に関わる活動者など、幅広い人たちにとって必見のドキュメンタリーだと思います。LGBTQ当事者たちが多数出演して当時の歴史を語ってくれるのは貴重です。「テレビにLGBTQの人たちが出るようになるまで、こんなリアルでドラマがあったのか…」と驚くでしょうし、エンパワーメントももらえますし、これからの活動の参考になったりもします。

『テレビが見たLGBTQ』は「Apple TV+」でのみ配信中。7日間の無料トライアルがありますので、初めての利用の人は気軽に観れると思います。

オススメ度のチェック

ひとり5.0:教養として必見
友人4.5:素直に語れる仲と
恋人4.5:本音で語り合う
キッズ5.0:勉強に最適
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『テレビが見たLGBTQ』予告動画

Visible: Out on Television — Official Trailer | Apple TV+
↓ここからネタバレが含まれます↓

『テレビが見たLGBTQ』感想(ネタバレあり)

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EP1:暗黒の時代(The Dark Ages)

アメリカでテレビが普及し始めたのは1950年代。当時はテレビの影響力は今よりはるかに絶大。みんなが一緒になってテレビに釘付けになるという、共通体験の場でした。なので大衆の文化や価値観にダイレクトに作用してきます(そのテレビの影響力の強さは『ミス・レプリゼンテーション 女性差別とメディアの責任』でも解説されているので参考にどうぞ)。

では最初にLGBTQがテレビで大衆の目にハッキリ映ったのは何だったのか。本作では「陸軍対マッカーサー公聴会」であると説明されます。これは将校による同性愛行為が問題となった事件に関するもので、「homosexual」という言葉が初めてテレビで流れました。

そしてこれは「ラベンダーの恐怖(Lavender scare)」と呼ばれる、共産主義者とLGBTQを結び付けた大規模粛清へと発展。日本でも最近、「LGBTは左翼」だとか「地域を滅ぼす」とか発言した議員がいましたが、まさに同じことです。

つまりテレビはLGBTQを明確に危険人物と伝えたわけです。そのため放送局の倫理綱領でも「反道徳的な性描写は推奨されない」と定められ、同性愛の肯定的な描写は禁止。

それだけでは終わらず、精神医学研究所や小児科学会の専門家がテレビに出演し、ゲイへの偏見をもっともらしく学術的に語ります。その権威だったチャールズ・ソカリデス博士は「同性愛は精神的な病気で、疫病と化した」と明言。もう完全にテレビはアンチLGBTQの広報ツールですね。

そんな迫害の時代でもたくましく希望を探すLGBTQはいました。ピアニスト・エンターテイナーである“リベラーチェ”はゲイの中のゲイであるにもかかわらずメディアに平然と登場。

1959年から放映された『ドビーの青春』というテレビドラマに登場する「ゼルダ・ギルロイ」は男の子っぽい女の子で密かにLGBTQ当事者の中には自分と重ね合わせるものも。でも男の子っぽすぎるという上からのお達しで続編企画は中止。

当事者もテレビ業界で仕事していましたがオープンにできるわけありません。ゼルダ役の“シーラ・キュール”、『スタートレック』でおなじみの“ジョージ・タケイ”、『ペリー・メイスン』の“レイモンド・バー”…。

それが常態化している一方で、『All in the Familiy』(1971年)は理想化された家庭ではなく生々しい会話を売りにし、同性愛ネタも積極的に投入。ゲイだと名乗った初めてのキャラも登場し、本物の女装家を出演(殺される役だけど)。『The Jeffersons』にはトランスが登場。『An American Family』というリアリティ番組ではゲイの実生活が放映。

しかし、活動家の“ミス・メジャー・グリフィン=グレイシー”や、脚本家の“ブルース・ヴィランク”が語るように、「私たちを彼らにとって面白おかしく描いただけで私には面白くなかった、心が痛かった」という表象。“MJ・ロドリゲス”が「でも一歩前進だった」と口にしますが、こんな屈辱的な表象でも前に進むには必要だったわけですから、本当に茨の道です。

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EP2:変化の手段としてのテレビ(Television as a Tool)

1977年、カリフォルニア初のゲイを公言する議員のハーヴェイ・ミルクの登場に象徴されるように、迫害の道具だったテレビをLGBTQ当事者は自分たちの道具に変え始めます。目には目を歯には歯を…です。

当時者たちはテレビ業界に圧力をかけるべく、生放送に乱入。レズビアンたちも攻め込んでいきます。このアグレッシブさ、今みてもやっぱり凄いですね。

私たちの作品を作れ!というアピールの結果、産まれた作品もいくつか。1972年の『That Certain Summer』は父親がゲイだと知る青年の物語で、同性愛を同情的観点から描いた最初のテレビ映画に。1978年の『A Question of Love』は結婚して子どもを持つ2人の女性の物語としてレズビアンが普通に描かれました。

でもやはりここでも複雑な気持ちにさせられる当事者たちの想いが切実。主人公が2人の女性と暮らすためにゲイのふりをする『Three’s Company』、大袈裟なゲイが出てくる『SOAP』、ゲイを描いても女性との触れ合いばかりな『Dynasty』…。“ワンダ・サイクス”の「今あらためて見たらギョッとするけど、当時としては進んでた」というコメントが身に染みる…。

そんな中でLGBTQのテレビを利用した反撃に逆にまた反撃し返す者も。アニタ・ブライアントは同性愛者は教師になる権利はないと主張し、ジョン・ブリッグス州上院議員は同性愛者は小児性愛者であると根拠なく豪語。

しかし、テレビは醜態も曝け出すという皮肉な結果に。一度ホモフォビアの情けなさが暴かれると、今度は差別者がネタにされるようになり、偏見は恥ずかしいという風潮が生まれます。このあたりは4コマ漫画のオチみたいですね。

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EP3:拡散する病(The Epidemic)

エイズを描いた作品は今ならたくさんあります。『ダラスバイヤーズクラブ』(2013年)、『ノーマル・ハート』(2014年)、『BPM ビート・パー・ミニット』(2017年)、『It’s a Sin』(2021年)…。しかし、こんな作品が作られるまでには大変な歴史がありました。

1981年、ニューヨーク・タイムズが「同性愛者41人がまれな癌を発症」と記事を出したものの、テレビ報道番組で取り上げられたのはその何カ月も後。それ以降は世間の反応は冷たく、集団ヒステリー状態に。ゲイへのマイナスイメージが拡散し、作品でゲイを演じたがる俳優は激減。

それでも作られる数少ないLGBTQ作品。1992年には『One Life to Live』の中で珍しい10代のゲイが描かれ、また女性が賑やかな1985年の『ゴールデン・ガールズ』にパワーをもらう当事者も。

しかし、最悪も発生。1995年の『ジェニー・ジョーンズ・ショー』を発端とするゲイ・パニック・ディフェンスそのものな殺人事件は本当に痛ましい。メディアの責任の重さを痛感します。

そんな恐怖の時代でも、寄り添ってくれる人の力が印象的です。“ドクター・ルース”、“オプラ・ウィンフリー”…エピソード2ではアンカーの“ウォルター・クロンカイト”もピックアップされていました。こういうアライの存在がいかに重要なのか、LGBTQ当時者の中にはアライに冷めた目線を向ける人もいますが、本当に味方になってくれる人はやっぱり変革には欠かせないのだと思います。

1992年の『The Real World』、1994年の『テイルズ・オブ・ザ・シティ』、1994年の『アンジェラ15歳の日々』…こんな時代でも寄り添ってくれた番組の数々。

『アンジェラ15歳の日々』に主人公女子の仲間のラテン系ゲイの役で出演することで父と和解できたという”ウィルソン・クルーズ”の体験談はあらためてテレビの正のパワーを感じさせますね。

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EP4:突破口(Breakthroughs)

1991年の『Roc』、1993年の『となりのサインフェルド』、1995年の『The Nanny』、1996年の『フレンズ』…1990年代になるとコメディドラマはLGBTQに積極的になり、扉は開かれたように見えましたが、その扉は自動ドアではないのでひとりで開けるのは大変です。

その扉の重さに直面したのがコメディアンの“エレン・デジェネシス”。もはや伝説的とも言えるあの『Ellen』の「子犬の回」の裏話が本作では語られます。ここの“エレン・デジェネシス”の孤独な苦悩が伝わってくるので観ていてかなり私も辛かったです。カミングアウトすることをディズニーになんとか了承もらい、でも情報流出してしまったのでその間は同性愛ネタで笑いをとって誤魔化し、いよいよカミングアウト回が放送されると大熱狂でABC史上最高の視聴者となり、でも保守層からのディズニーへのボイコットやスポンサー降板運動は過激化し、エレンも憎悪の標的になり、視聴率は落ち込み、打ち切りに…。辛い。この時代のカミングアウトが辛すぎる…。

それでもLGBTQ作品は増えていき、当事者の脚本家にもチャンスが。『ふたりは友達? ウィル&グレイス』『サバイバー』『クィア・アイ』『シックス・フィート・アンダー』『Popular』『ドーソンズ・クリーク』『Lの世界』『Roseanne』『Queer as Folk』では性生活が赤裸々に描かれ、『Noah s Arc』では黒人が主役に。

このエピソード4を観て、とくに非当事者にわかってほしいことですけど、カミングアウトをことさら重大イベントにしてほしくないということですね。カミングアウトが消費されるだけなのは嫌ですから。そうじゃなくて世界に居場所が欲しいだけ。当たり前にいられる部屋が欲しいからテレビの表象が求められるのであって、感動と驚きの素材にはなりたくはないんですよね。

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EP5:新勢力の台頭(The New Guard)

エピソード5はほぼ現代の今なので、テレビのLGBTQ表象を気にしている人なら承知の事実だと思います。

『Empire 成功の代償』『ザ・ワイヤー』では黒人のゲイのキャラが重要な役になりました。『オレンジ・イズ・ニューブラック』では“ラヴァーン・コックス”がリアルなトランスの苦悩を見せました。

『ル・ポールのドラァグ・レース』ではドラァグのエンパワーメントが炸裂しました。『ビリオンズ』でノンバイナリーの役として登場できた“エイジア・ケイト・ディロン”は画期的でした(『ジョン・ウィック パラベラム』でもノンバイナリーの役で出てますね)。

『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』でトランスジェンダーだと告白し、トランスを家庭の問題として身近にした“ケイトリン・ジェンナー”は、保守的言動でトランス界からも嫌われていくという複雑な世相を反映。それはさておき『トランスペアレント』『SUPERGIRL スーパーガール』『POSE』などトランスジェンダーの描かれ方も多様性に溢れてきました。

でもヘイトクライムも深刻化している真っ最中。まさに2歩進んだら1歩下がっている。でももうテレビは味方です。歩みを後押しする連帯にあり、LGBTQは止まらないでしょう。

まだまだ表象されにくいLGBTQはいます。パンセクシュアル、アセクシュアル、アロマンティックなどなど。開かれていない扉は多いです。子ども向けアニメはとくにLGBTQが行きわたっていない最後の牙城です。けれどもこの歴史の積み重ねがあれば、なんとか突破できると私は思います。

10年後とかに『テレビが見たLGBTQ』の第2弾があれば、もっと多様になっているに違いありません。

『テレビが見たLGBTQ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 100%
IMDb
8.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

LGBTQを扱ったドキュメンタリーの感想記事です。

・『ジェンダー革命』

・『トランスジェンダーとハリウッド 過去、現在、そして』

・『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』

・『シークレット・ラブ 65年後のカミングアウト』

・『State of Pride』

プライド運動の精神と活動を取材したドキュメンタリー。「YouTube Originals」でYouTube上に日本語字幕つきで公式でアップされているのでぜひどうぞ。

State Of Pride

作品ポスター・画像 (C)Apple ヴィジブル・アウト・オン・テレビジョン

以上、『テレビが見たLGBTQ』の感想でした。

Visible: Out on Television (2020) [Japanese Review]