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『ラッツ』感想(ネタバレ)…「スーパーサイズ・ミー」の監督が“ネズミ”の闇を食い散らかす!

ラッツ

「スーパーサイズ・ミー」の監督が“ネズミ”の闇を食い散らかす!…ドキュメンタリー映画『ラッツ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Rats
製作国:アメリカ(2016年)
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信
監督:モーガン・スパーロック
ラッツ

らっつ
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『ラッツ』物語 簡単紹介

哺乳類齧歯目に分類される動物「ネズミ」。大抵の場所に生息し、脅威の生命力を持つこの小さな生き物は、昔から今に至るまで人間社会と密接な関わりを持ってきた。それは人間にとって有益なものもあれば、有害なものもある。たかがネズミとは言え、このネズミたちの潜在的な力は計り知れない。このネズミが世界中でもたらす人類への影響について、衝撃的な映像と共に遠慮なしで迫っていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ラッツ』の感想です。

『ラッツ』感想(ネタバレなし)

ネズミは悪い奴?

「ネズミ」と聞いてあなたは何を連想するでしょうか?

もしかしたら皆に愛想を振りまくネズミのキャラクターを連想するかもしれませんが、そいつらは例外中の例外。現実のネズミに対しては、おそらく大多数の人は「可愛い」よりも「汚い」という印象のほうが強いと思います。家にネズミが出たら、ゴキブリほどではないにせよ嫌がるでしょう? 見た目は可愛いのに…。

しかし、ネズミにネガティブな感情を抱くのは無理もない話です。だって人間社会が生まれたときから私たちを脅かす存在だったのですから。紀元前の偉人であらゆる学問の祖といわれるアリストテレスでさえ、ネズミのあまりの繁殖力の強さに、ネズミは交尾しなくても塩を舐めるだけで妊娠すると思っていたらしいです。そして、ご存じネズミが媒介する感染症「ペスト」は人類史において幾度となく人間を絶望的状況に追いやってきました。人間を絶滅に追いやれる生物はゾンビでも地球外生命体でもない、ネズミなのです。

時代は経ち、ネット社会の現代。少なくとも先進国ではネズミの脅威を感じる人は減ってきた気がします。「ネズミが危険なのは昔の話。今は衛生がしっかりしてるし、医学も進んでいるんだから」そう思っている人も多いはず。

そんな油断たっぷりな人に観せるべく作られたのが本作『ラッツ』というドキュメンタリー。現代におけるネズミの全く衰えていない影響力に迫った作品で、ネズミの恐ろしさを現代人に刻み付けてきます。

ただ、ひとつ問題点があって…。

それは動物愛護の心を持つ人が見たら激怒もしくは卒倒するレベルの映像だということ。本作は明らかに「ネズミ=悪い存在」という立場で撮られており、しかもネズミが酷い目に遭う様がモザイクなしではっきり次々映されます。殺すシーンとか、いろいろと…。動物愛護とか気にしない人も吐き気をもよおすぐらいです。トロント国際映画祭で公開されたときも、相当な批判の声があったようで…。

なんでこんななのか。それは監督が“モーガン・スパーロック”だからです。

知っているでしょうか。この人は過去に『スーパーサイズ・ミー』というドキュメンタリーを制作した人物です。これは「ファストフード=健康に悪い」という世間のイメージが本当に正しいのか調べるために、“モーガン・スパーロック”自らが実験台となって30日間マクドナルドだけを食べ続ける異色のドキュメンタリー。こちらの作品も良くも悪くも大きな騒動を巻き起こしました。

題材に対してわざとらしいほど露悪的に迫るのが、この監督の作家性なんです。その“モーガン・スパーロック”が次にターゲットにしたのがネズミだったということ。

そんな露悪性を広い心で笑って受け止められる人はぜひ観賞してはどうでしょうか。間違っても食事中に観るのはオススメしません。

『ラッツ』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ラッツ』感想(ネタバレあり)

ネズミ・ホラー

冒頭からぶっ飛ばしてくる“モーガン・スパーロック”監督。

懐中電灯片手に夜の建物内でネズミ駆除業務にあたる人をホラー映画風にみせていきます。露骨な演出が鼻につく!なんて人はここから先は観ない方がいい…まだまだ序の口です。

ニューヨークのビル街を夜間に歩くと、下水道からネズミがひょっこり顔を出してゴミ袋へ一直線。ニューヨークに800万匹もいるという推定もあるネズミたちにとってゴミ袋はサンタの袋と同じ。そりゃあ、スタンディングオベーションするでしょうよ。ここは本作唯一の「あら、可愛い」なシーン。まあ、この後、徹底的にネズミの嫌な部分を見せていくための前ふりなんですが。

そして、きました、可愛いネズミの皮を文字どおり剥いでいき恐ろしい要素を露わにしていくターン。ルイジアナ州ニューオリンズで研究者が行うネズミの解剖に密着。ハンタウイルス、サナダムシ、ウマバエ…。全部、見せます。

この解剖シークエンスも人によっては「うぇっー…」となりますが、この次からが“モーガン・スパーロック”監督の本領発揮です。

舞台はガラッと変わって、インドのムンバイ。映像に映るのは、ネズミ駆除を行うおやじたち。これがさっきのニューオリンズのしっかりした研究者たちとの対比になって強烈。叩きつけて脊椎を折る…手段は原始的ですが別に良いんです。ただ、なぜ素手なのか。あの…せめて軍手とか、もうちょっと衛生面に気を使わないんですか。

お次は、カンボジアのカンダル州の農村。作物に害するネズミをなぜか“生け捕り”にする駆除業者の人。捕らえられ籠に入れられた大量のネズミは謎の男が買い取り、ベトナムへバイクで運ばれる。もうオチはわかりますね。調理器具が並ぶ民家で、なんとも雑な手際で水につけて溺死させられたネズミの手足と尻尾を切り落としていくおばさん。皮を剥いで、お肉に調味料を加えて、炙って炒めて、はい、ネズミ料理の出来上がり。ビール片手に美味しそうに食べてました。いやー、あの解剖シーンからこれか…。

これ以上げんなりする映像はないかなと思ってたら、まだ用意していた“モーガン・スパーロック”監督。駆除剤に耐性を持つ「スーパーラット」が登場しているという話から発展して、じゃあ、この殺し方ならどうだと見せつけるかのように本作が示すのはイギリス伝統のネズミ狩り。日本でも愛玩犬として大人気なテリアです。実はテリアはネズミ狩りのために品種改良して作られた犬なんですね。その本来の真価が映ります。可愛らしいテリアたちがネズミに群がってひきちぎらんばかりに食らいつく様相は…控えめに言って“残酷”。私は一周回って笑っちゃうけど、人によっては完全にドン引きでしょうね。狩りに勤しむ人たちが「これは即死だし、人道的だよ」って言っているのがまた無理ある感じでなんとも…。本作はネズミだけじゃなく、ネズミに関わる人も露悪的に見せるのでした。

最終的にインドのラジャスタンのヒンドゥー教の寺院で、ネズミを「カバス」という神の生き物として信仰し、「人が死んだらネズミになる、ネズミが死んだら人になる」ので家族なんだと話す信者たちと、数万匹のネズミたちが一緒にミルクを飲む光景で終わってましたが…。作品としてなんて強引な共存の提示なんだ…。

正直、ドキュメンタリーとしてまとまりはないし、編集も粗雑。もうどれだけネズミで嫌な気持ちにさせられるか試しているような作品でしたね。でも、それが“モーガン・スパーロック”監督なんで、良いでしょう(強引な共存)。

それにしても、ネズミ殺戮マシーン「N・E・K・O」が出てこなかったのはなぜなのか…。それだけが謎です。

『ラッツ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 63% Audience 47%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

以上、『ラッツ』の感想でした。

Rats (2016) [Japanese Review] 『ラッツ』考察・評価レビュー