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『トロールズ ミュージック★パワー』感想(ネタバレ)…続編は音楽業界への風刺もあり?

トロールズ ミュージック★パワー

続編は賑やかに音楽業界も風刺する?…映画『トロールズ2 ミュージック★パワー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Trolls World Tour
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2020年10月2日
監督:ウォルト・ドーン

トロールズ ミュージック・パワー

とろーるず みゅーじっくぱわー
トロールズ ミュージック★パワー

『トロールズ ミュージック★パワー』あらすじ

歌と踊りとハグが大好きな妖精トロールズが暮らす村で、元気いっぱいなみんなの女王として日々を過ごすポピー。実はトロールズの村はかつて王国として繁栄していたが、音楽のジャンルごとに6つに分裂した過去があった。自分たちとは違うジャンルの歌やダンスをするトロールズがいることに興味を抱いたポピーだったが、ロック村の女王バーブが過激な行動に出ていた…。

『トロールズ ミュージック★パワー』感想(ネタバレなし)

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ドリームワークス25周年!

「ドリームワークス」は1994年10月に設立したので、2020年は25周年を迎えたことになります。思えばこのスタジオは波乱万丈な歴史を辿ってきました。そもそも出発点から激動でした。

ドリームワークスは誰もが知るあのスティーヴン・スピルバーグと、ミュージックを手がけるデヴィッド・ゲフィン、そして元ディズニー幹部のジェフリー・カッツェンバーグが共同で設立した、かなり大物が打ち出した新スタジオでした。当然、業界の注目も集まります。

ところがアニメを主軸にやっていこうと出発した矢先に思わぬアニメ業界の激変に直面します。1995年にピクサーというまだ名も知られていないスタジオが『トイ・ストーリー』というCGアニメーション映画を前代未聞の大成功でヒットさせてしまったのです。これによって時代はCGアニメ全盛期へとチェンジすることになります。無論、ドリームワークスもCGアニメだ!と急いで舵を切るのですが、完全に新鋭スタジオを追いかける追っ手になってしまいました。設立者は大ベテランなのに…。

最初は悪戦苦闘が窺えましたが2001年の『シュレック』の成功で状況は一変。このときはCGアニメのトップバッターに躍り出た感じもありました。それ以降は『マダガスカル』『カンフー・パンダ』『ヒックとドラゴン』と順調に家族向け作品を成功させていったのですが、2013年あたりに経営不振となり、大規模解雇をしたりと苦労しながら、今はなんとかV字回復を狙って頑張っています。

そんなドリームワークス25周年に突入して最初のアニメ映画となったのが本作『トロールズ ミュージック★パワー』です。

本作は2016年に公開された『トロールズ』という作品の2作目となる続編です。とは言っても日本ではあまり知らない人も多いでしょう。それもそのはず前作となる1作目は日本では劇場未公開でビデオスルーになっていたのでした(当時はドリームワークスの経営悪化で日本で劇場未公開が相次いだ)。

その作品の続編を今度はいきなり劇場公開だなんて随分思い切っていますが、でも皮肉なことにこの『トロールズ ミュージック★パワー』は本国アメリカではネット配信になってしまった(一部劇場公開)のです。コロナ禍のせいで。日本はギャガ配給で公開が決定していたので、劇場公開がお蔵入りすることはなかったようで、まさかの逆転現象。

気になるのは2作目から観ても物語についていけるのかということ。もちろん1作目から鑑賞して予習しておいてほしいのは本音なのですが…。結論から言えば大丈夫でしょう。そんなにストーリーにうるさい作品じゃありません。

世界観はざっくり言えばこんな感じ。

小さなトロールたちが元気に歌って踊って楽しく暮らしています。以上。

いや、本当にこんな世界観です。もともとトーマス・ダムのおもちゃ「トロール人形」がモチーフになっており、おもちゃの映像化。素材自体がそこまでの世界観を持っているわけではないので、映画ではかなり自由に遊んでいる雰囲気です。

面白いポイントとして、まずキャラクターの個性が強すぎるということ。ドリームワークスの得意分野ですが、妙に人間臭いシュールなギャグもたえず連発し、ひたすらにハイテンションです。子どもがゲラゲラ笑えるレベルの幼稚さもありつつ、大人もニヤニヤできるブラック・ユーモアもあり。

そして本作の最大の魅力は音楽です。2作目は1作目以上で、本当に音楽に特化して振り切っています。今回はいろいろなジャンルの音楽を勢揃いさせたゴージャスな作りです。音楽への気合いの入れようは凄まじく、子ども向けだからほどよくでいいやという手抜きは一切ありません。

オリジナルでは声を担当している人も豪華で、主役は“アナ・ケンドリック”、脇に立つのは“ジャスティン・ティンバーレイク”、さらに“ジェームズ・コーデン”などが仲間に並びます。今回はそこに“レイチェル・ブルーム”、“サム・ロックウェル”、“ジェイミー・ドーナン”、“ケリー・クラークソン”が参加。

ただ、日本では基本的に吹き替え上映なので、オリジナルのボイスで楽しむのはレンタル&配信待ちですが…。ちなみに今回は1作目のときと声優が変わって、いわゆる芸能人吹き替えになってますね。

注目度は低めだと思いますが、世間の重苦しい空気を吹き飛ばすエンターテインメントなので、とにかく明るい気分になりたいときにはオススメです。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(アニメファンはぜひ)
友人 ◯(やや子ども向けだけど)
恋人 ◯(アニメで楽しくなりたいなら)
キッズ ◎(子どもは飽きない賑やかさ)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『トロールズ ミュージック★パワー』感想(ネタバレあり)

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え? トロールが他にも?

トロールたちの女王にしていつもみんなの中心にいるポピーは、今日も元気に村のトロールたちと歌って踊って元気いっぱい。以前、この村はトロールを食べてしまうというベルゲンと呼ばれる巨大な存在に怯えていましたが、ポピーは危険を顧みない大冒険のすえ、このベルゲンと和解し、何も気にせず大きな音を出して騒いでもいい自由な平和が訪れました。

巨漢で心優しいビギーは感情豊か。そのビギーのペットであるミスター・ディンクルスはいつも一緒。首が長い変わり者のクーパーは陽気。髪の毛が繋がったサテン&シェニールは相変わらずの関係性。ギラギラ全身が光っているガイ・ダイアモンドタイニー・ダイアモンドを生み出しました。やや偏屈な生活の持ち主であるブランチは、ポピーとの“友達”という間柄にやや思うことがあるのか、ハイタッチをミスしますが…。

ある日、賑やかなポピーの村に謎の空飛ぶ小さい生き物がやってきます。ここはピンクなどカラフルな色合いで染まっている場所ですが、この小さな生き物は灰色や黒でなんだか浮いています。そいつはどうやらポピーに手紙を持ってきたようです。

それはバーブという存在からのワールド・ツアーへの招待でした。さっぱり意味がわからない一同。

するとポピーの父である先代王のペピーが慌ててやってきて、その手紙をぐしゃぐしゃにしました。そして彼の口から驚くべき事実が飛び出します。

「この日が来るのをずっと恐れていた」と語りだした父は、「この世界は私たちだけじゃない。他のトロールもいる」と説明。初耳の情報にびっくりしつつ、喜ぶみんなですが、父は続けて「彼らは違っており、私たちはポップ・トロールで、愛する音楽が異なる」と語ります。

昔々、最初は沈黙だけでしたが、この世界に音楽が生まれ、6本のストリング(弦)が音楽を制御する力になっていました。それぞれはテクノ、ポップ、ハードロック、カントリー、ファンク、クラシックと分かれつつもトロール王国を形成しています。しかし、音楽をめぐって争いが勃発し、トロールたちは6つの部族に分離し、ストリングを分けてコミュニティを別にしてしまった…と。

このポピーのいるポップ村には1本のストリングが保管されており、そのロック・トロールのバーブは奪いに来るので隠すように父は進言します。しかし、ポピーはみんなトロールなんだから違いは関係ないと主張。ひとりバーブに会おうと夜に出発します。ブランチは止めようとしましたが、しかたなくついていくことに。

一方、クーパーも自分に似ている部族がいることを知って動揺し、ルーツを探して単独で旅にでます。

そんな中、バーブはロック・トロールたちを従えて、まずはテクノ・トロールの住処である水中のテクノ・リーフを強襲。お次に、クラシック・トロールのシンフォニー村を制圧。順調にストリングを奪っていきます。さらに目障りなポピーを食い止めるために、スムーズ・ジャズ、レゲトン、Kポップ、ヨーデルを音楽性とするトロールの賞金稼ぎを送り込みます。

危機感を持っていなかったポピーたちはシンフォニー村の惨状を目にし、ペニー・ホイッスルから被害を聞き、バーブの破壊を止めようと決意します。目指すは次に狙われそうなカントリー・トロールのロンサム・フラッツ。

音楽をめぐる大戦争は終結することはできるのか。勝利を手にする音楽はどれ…?

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1作目との比較

『トロールズ ミュージック★パワー』は世界観は全く同じですけど、前作と売りにしている要素は結構ガラッと変わっています。

1作目『トロールズ』は、ベルゲンという捕食者に怯えるトロールたちが立ち向かう話であり、“食人”要素的なおぞましい事実をポップなキャラクターでデコレーションして、弱肉強食の食物連鎖をひっくり返す展開を描いていました。なので、食べられる!というスリルもありますし、これはどうやって話をまとめるのだろうというサスペンスもあって、結構ハラハラしました。

また、巨大なベルゲンと小さなトロールという体の大きさの対比もあって、映像での見栄えもあり、メリハリある中でのアクションは楽しいものでした。

それと比べると本作の2作目は、基本的にトロールたちしか登場せず、ベルゲンは出てきません(エンドクレジットでちょこっと顔を出す程度)。全てがトロールのワールド空間で物語が進行するので、前作にあったサイズがぐんぐん変わるスケールもありません。全体的にチマチマしています。

加えて、物語も最終的にはみんなが認め合ってトロールたちがひとつになって音楽を愛する世界になるというオチなんだろうなと簡単に推測できるものです。子どもでもわかる予定調和。ここで、凶悪な新しい捕食者が出現してトロールたちが全滅します!とかだったら予想外の展開でしたが(それも見てみたかったけど)、そういうことはなしです。

前作よりも製作費自体も少し減らされているようなので、現実的に妥当な規模なのかもしれないです。

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音楽批判もやっちゃいます

普通だったら1作目よりも劣化していると思われかねない『トロールズ ミュージック★パワー』。しかし、そこはちゃんと考えていました。2作目では強烈な推し要素があったのです。

それが「音楽」。とにかくひたすらに音楽だけで攻めています。

音楽を題材にしたファミリー・アニメーション映画なんて山ほどありますが、例えば、イルミネーションの『SING シング』とこの『トロールズ ミュージック★パワー』は大きく違います。

『SING シング』は音楽を奏でるor歌う“個人”に焦点をあてて、その生き方や自分らしさを音楽の多様性に重ねて描いていました。対してこの『トロールズ ミュージック★パワー』は音楽そのものが意思を持っているかのようにトロールに代弁させている構成です。いわばあのトロールたちは音楽の集団思考体を具現化したような存在。あまり個々のキャラクター性はそこまで重視されません。

これは1作目とテーマが真逆だと思うのです。1作目は「トロールは食べるものだ」と本能的に思っているベルゲンたちに対してトロールであるポピーが、集団化して同調するな、自分らしく生きろ!と訴えた結果、あの平穏を手に入れました。まさにハッピーの伝道師。

けれども本作では肝心の自分たちは集団化して無自覚に同じ音楽を奏で、相手の別の音楽を象徴するトロールを否定しているのですよ。だから前作のベルゲンの立ち位置に今度はポピーたちがなってしまっているんですね。

しかも、ここで物語に捻りが加わって、実はポップ・トロールが他の5つのトロール部族から音楽をストリングを奪って独占していたという真の歴史が作中で暴かれます。主人公の所属する部族の方がどちらかといえば協調性のない悪い奴らだった、と。

これは実際の音楽史と大雑把ですが重なるようになっています。ポップソングは確かに音楽業界の主流になっています。でもそれらはクラシックとか他の音楽の要素をサンプリングするように吸収して発展したもので、決してポップソングだけの功績ではありません。言い方を悪くすればポップソングは他の音楽を踏み台にして、ひとり喝采を浴びています

そんな無自覚なマジョリティであるポップ・トロールに対して、ファンク・トロールたちが諭すように自覚を促す。この構成も子ども向けにデコレーションされていますが、かなり批判的に鋭いものです。ちなみにファンクというのはアフリカ系アメリカ人起源のブラック・ミュージックのジャンルであり、あのシーンはいわばポップというかたちで優越感を得ている白人たちへの警句でもあり…。

私は音楽映画、しかもファミリー映画の中でここまでちゃんと人種問題をベースにした音楽批判ができるというのは地味に凄いなと感心しました。やっぱりアメリカのクリエイターたち、そこはちゃんとしていますね。子ども向けだからひたすら楽しく愉快に!でOK…とはならない。

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ドリームワークスの次世代作品

でも『トロールズ ミュージック★パワー』を観ていてもそこまでの説教臭さもない。子ども向けとして上手いバランスに抑えられており、そこは絶妙です。

極端にキャラ分けされた各トロールたちも楽しいじゃないですか。あのカントリー・トロールたちの音楽センスにドン引きするポピーたちと、ポピーたちポップ・トロールの音楽センスにドン引きするカントリー・トロールたちの対比も面白いし。Kポップやヨーデルなどのサイドで登場するトロールたちもユニークですし。ちなみにあのKポップ・ギャング、オリジナル音声を担当しているのは韓国の5人組女性アイドルグループである「Red Velvet」っていう人たちなんですね。Kポップに疎いので全然知らなかった…。

あのチャズの幻覚シーンでの世界観ぶち壊しレベルのヤバさも印象的。なんでアメリカのファミリー・アニメーション映画ってトリップ描写にここまで本気で遊びまくろうとするのだろうか…。

終盤でまさかのゾンビ化展開もあって、「え、ゾンビ映画になるの?」と思ったけど、そこはそこまで引っ張らなかった…。あの後半にもうひと捻りあると良かったのですけどね。

ともあれ、1作目は『シュレック』の要素を引きずった過去のドリームワークスのエッセンスが詰まっていましたが、今回の2作目はダイバーシティ時代を象徴する新しいドリームワークスの一作を打ち出しており、ファミリー・アニメーション映画の音楽作品としてまたひとつ代表作が生まれたのではないでしょうか。

『トロールズ ミュージック★パワー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 71% Audience 59%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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関連作品紹介

ドリームワークスのアニメーション映画の感想記事の一覧です。

・『カンフー・パンダ3』

・『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』

・『スノーベイビー』

作品ポスター・画像 (C)A UNIVERSAL PICTURE (C)2020 DREAMWORKS ANIMATION LCC.ALL RIGHTS RESERVED. トロールズ ミュージックパワー

以上、『トロールズ ミュージック★パワー』の感想でした。

Trolls World Tour (2020) [Japanese Review] 『トロールズ ミュージック★パワー』考察・評価レビュー