こっちの世界線はまだシンプルです…映画『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2025年7月25日
監督:マット・シャックマン
ふぁんたすてぃっくふぉー ふぁーすとすてっぷ
『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』物語 簡単紹介
『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』感想(ネタバレなし)
2025年はスーパーヒーロー映画のシルバーエイジ
後に2025年のハリウッドを振り返るとき、「スーパーヒーロー映画のシルバーエイジ」の始まり…と語られるのでしょうか。
「シルバーエイジ」というのは、マーベルやDCを筆頭とするアメコミ・スーパーヒーローのコミック界隈の歴史を整理するにあたって、スーパーヒーローが本格的に初登場して揃い始めた黎明期を「ゴールデンエイジ」と呼ぶのに対して、そんなゴールデンエイジのヒーローキャラクターが1950年代後半から1960年代全体にかけてリバイバルによって新たに再び盛り上がった時代を指します。
2025年の映画界に話を戻すと、この年にDCはブランドの顔となるスーパーヒーローをリスタートさせた映画『スーパーマン』を世に送り出し、フランチャイズを再始動させ、少なくともその出だしは快調でした。
そして偶然ではありますが、マーベルもこの映画をもってして象徴的なリスタートを切ることになりました。
それが本作『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』。
このタイトルもマーベルにとってはブランドの顔となる存在です。1961年でデビューし、アメリカのコミック史上初の明確なヒーローチームと評される、この「ファンタスティック・フォー」。コミック史においてまさに「シルバーエイジ」の代表作でした。
しかし、すでに何度か映画化されてきたのですが、映画の世界ではどうも上手くいかず…。
最初の実写映画化の試みはマニアだけは知っている1994年のこと。「Constantin Film」が映画化権を手にし、なんとあの低予算映画の帝王“ロジャー・コーマン”を雇って企画を進めたものの、結局は公開されずに終わりました。
その後、「20世紀フォックス」に映画化権が渡り、2005年に“ティム・ストーリー”監督のもとで『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』が公開。これが本格的なスクリーン・デビューとなります(後にMCUで「キャプテン・アメリカ」を演じる“クリス・エヴァンス”も若かりしこの時期にジョニー・ストーム;ヒューマン・トーチ役でひと足先にヒーローになっていました)。
2007年には続編の『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』も公開されましたが、興行成績にスタジオは満足せず、2015年にリブートして仕切り直した“ジョシュ・トランク”監督の『ファンタスティック・フォー』が公開されました。ただ、こちらも思ったほどヒットはせず…。
この2つの「ファンタスティック・フォー」映画とも別にものすごく駄作というわけではないのですけど(2015年版とか“マイケル・B・ジョーダン”が主演のひとりだし、今思えば凄いキャスト)、タイミング的に盛り上がりにくかったのかなとも思います。
そんないわくつきにすっかりなってしまった「ファンタスティック・フォー」がついに2025年に『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』のタイトルで「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」に参戦。
布石(?)はずっと散りばめられており、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022年)でリード・リチャーズの別次元バージョンが登場したり、『デッドプール&ウルヴァリン』で“クリス・エヴァンス”版のジョニー・ストームがゲスト出演したりしてきました。


焦らしはこれで終わり。もうキャラが微塵切りにされたり、爆殺されたりはしません。製作陣も気合入るでしょうね。やっぱり「ファンタスティック・フォー」だから…。ちなみに今回の邦題は「ファンタスティック4」と「フォー(カタカナ)」ではなく「4(数字)」になっていますね。雰囲気変えたかったのかな。
『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』を監督するのは、ドラマ『ワンダヴィジョン』や『モナーク: レガシー・オブ・モンスターズ』を手がけてきた“マット・シャックマン”。映画を監督するのは、2014年の映画監督デビュー作である『カットバンク』以来です。
俳優陣は、メインの4人を務めるのは、ドラマ『THE LAST OF US』でも名演を惜しげなく披露し、現実でもトランスジェンダーなどマイノリティの味方として正義に立ってくれる“ペドロ・パスカル”。そして、『ナポレオン』の“ヴァネッサ・カービー”、ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』の“エボン・モス=バクラック”、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の“ジョセフ・クイン”。
共演に、『ロイヤルホテル』の“ジュリア・ガーナー”、『インスティゲイターズ 〜強盗ふたりとセラピスト〜』の“ポール・ウォルター・ハウザー”、ドラマ『ポーカー・フェイス』の“ナターシャ・リオン”など。
MCUがこの『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』でシリーズを一新するわけではないが、とても心機一転させるパワーがあるのは確か。MCUから離れていた人も、涼みにくるつもりで映画館で新しい「4」に会いにいってみてください。
アメコミ・ファンにしてみれば、劇場で「スーパーマン」と「ファンタスティック・フォー」が並んでいるなんてお祭り騒ぎですからね。
『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』を観る前のQ&A
A:とくにありません。これまでのMCUと異なるユニバース(世界線)が舞台になっています。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子どもでも観られます。 |
『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
1960年代。卓越した科学知識を持つリード・リチャーズ、そのリードの妻で協調性と決断力が高く評価されているスー・ストーム、スーの弟で快活かつ積極的なジョニー・ストーム、リードと旧知の仲で心優しいベン・グリムの4人は家族同然の親しい間柄でした。
そして、世界が見守る中、4人は科学の発展のために宇宙に向かいました。
ところが、その最中に異常な放射線をともなう事故に巻き込まれ、4人はその直撃を受けます。幸いにも命は無事でしたが、4人は遺伝子が変化してしまい、それぞれ固有の特殊な能力を得ました。それでも4人は消沈せず、この能力を活かして人類を助ける活動を始めます。
リードはゴムのように自在に伸縮する体を操る「ミスター・ファンタスティック」として、スーはモノや体を透明化させたり空間をコントロールする「インビジブル・ウーマン」として、ジョニーは全身を炎で包んで豪快に飛行する「ヒューマン・トーチ」として、ベンは岩のように強固な身体と怪力を持つ「ザ・シング」として…。
4人はヒーローチーム「ファンタスティック4」を結成し、H.E.R.B.I.E.(ハービー)というサポート万能なロボットの手も借りながら、いつもあちこちで活躍し、今や世界にその名を知らない者はいません。
その活動から4年が経過し、スーが妊娠していることがわかり…。
正義の理想主義のノスタルジー

ここから『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』のネタバレありの感想本文です。
もはやすっかり「オリジンを描かない」のがスーパーヒーロー映画のトレンドですが、『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』もそのセオリーどおりであり、絶賛大活躍中の状態から本作は開幕します。
冒頭の4周年記念特番でこの世界の「ファンタスティック4」の起源と活躍が振り返られるわけですけども、レトロフューチャーな世界観と相まって、往年のコミックらしいノリが全面に出ていて本当に楽しいです。この始まりの矢継ぎ早な映像シーンが一番ワクワクするかもしれない…。
コミックのあの象徴的な絵も映像化されますし、モールマンとか、あちらこちらのイースターエッグも愉快です。原作者の“スタン・リー”と“ジャック・カービー”へのリスペクトの胸がいっぱいになります。
しかも、本作は「アース828」というこれまでのMCUのユニバースとは全くの別の世界線が舞台になっており、この世界線では「ファンタスティック4」だけが唯一のスーパーヒーローとして認知されていることになっています。なのでこの世界ではあらゆる人たちが「ファンタスティック4」に夢中です。ヒーロー同士の対立もないし、各ヒーローが政治性や民族性を背負っていることもない。
つまり、この世界における「ファンタスティック4」はある種のスーパーヒーローの究極の理想論を体現しています。「正義のスーパーヒーローが世界を平和にまとめあげることができる!」というお手本として…。
実際、本作の「ファンタスティック4」は世界各国の軍事武装を撤廃させ、フューチャー財団のもとで国際連帯を確立させ、ちょっとできすぎなくらいに完璧な平和をすでに実現してみせています。
その「ファンタスティック4」がギャラクタスとシルバーサーファーの出現によって「地球か赤ん坊(フランクリン)か」という二者択一を強引に迫られることになり、初めてそのヒーロー性が大きく揺らぐことになる…というのが、本作のメインストーリーの軸です。
こうやって整理するとあらためてやはり2025年の『スーパーマン』とテーマ性が似ていますね。
「純粋すぎるほどの真っすぐな正義を貫けるか」というテーマを背負ったスーパーヒーローの物語がDCとマーベルで立て続けに誕生したのは、きっと偶然なんかではなく、現代の世界がそういう「正義そのものへの本質的な信頼」を見失っているからなんだと思います。
まだ発射したばかりの正義
一方でそのテーマに対してどこまで踏み込むかは2作品でかなり違っていたのも印象的です。
『スーパーマン』は政治的な複雑さにもできる限り正面で向き合い、その理想主義的なヒーロー精神が他のキャラクターに波及していく希望を描きました。
対する『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』はこちらのほうが理想主義のスケールがデカいせいもあって、若干ピュアに押し切りすぎているところは否めないかなとも感じました。
マーベルの中でも屈指の人気ヴィランにして突出した存在感を放つギャラクタスは、別に植民地主義で星々を支配しているわけではなく、あくまで「終わりなき極限の飢え」を満たすために星々を喰っている…という扱いです。なので政治的な談義になりえません。わりと狡猾に他者を服従はさせてはいるのだけども…。
その対抗策として世界中の人々が一致団結して英知を結集するくだりは、どことなく『アルマゲドン』みたいな「とにかくみんなの全員一致で大きなことが成し遂げられる!」と信じさせる空気感ですし、少し正義感が単純すぎやしないかとは思うところ。「ファンタスティック4」もしょせんはアメリカ中心のスーパーヒーローですし(またニューヨークの危機か…)、技術至上主義や大国主義的な側面は隠せませんからね。
そもそも「ファンタスティック4」しかスーパーヒーローがいないというのもネックではあって、結局は「ファンタスティック4」の絶賛に昇華していくだけなので、感情的な展開も含めてありきたりかなとは思いました(それにしてもまたしても次元の大穴に敵を落とすオチか…)。
『Mr.インクレディブル』シリーズ型の家族を土台にしたスーパーヒーロー・チームの物語もやっていることとしては保守的な規範に逆らわないようになっていますし…。もちろんスーが単に産むだけの母親の役割ありきにならないように、政治的な手腕もみせる場面を用意したりと、そのへんのバランスは上手くとってはいましたけど…。
おそらくミッドクレジットシーンでちょこっと映し出されたとおり、次は『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』での大合流でのビッグ・クロスオーバーが待っていますが、きっとまた地元世界線に戻ってきて、シリーズは続くでしょう。その過程で他のスーパーヒーローの存在を知って、この「ファンタスティック4」のテーマ性をどこまで複雑に突き進めていけるか。肝心なのはファースト・ステップの次です。そこで真価が問われるのではないでしょうか。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
作品ポスター・画像 (C)2025 MARVEL. ファンタスティックフォー ファーストステップ
以上、『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』の感想でした。
The Fantastic Four: First Steps (2025) [Japanese Review] 『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』考察・評価レビュー
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