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アニメ『終末トレインどこへいく?』感想(ネタバレ)…脚本は茶碗蒸しになりました

2.0
終末トレインどこへいく?

脚本は茶碗蒸しになりました…アニメシリーズ『終末トレインどこへいく?』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Train to the End of the World
製作国:日本(2024年)
シーズン1:2024年に各サービスで放送・配信
監督:水島努
自然災害描写(津波)
終末トレインどこへいく?

しゅうまつとれいんどこへいく
『終末トレインどこへいく?』のポスター。電車の上に佇む4人の少女を映したデザイン。

『終末トレインどこへいく?』物語 簡単紹介

日本の技術を結集した7G回線がついに開通することになり、池袋駅では盛大な記念イベントが開催された。しかし、開通の瞬間、世界に予想外の激変が巻き起こる。それから2年後、埼玉県の吾野駅周辺で細々と暮らしていた女子高校生の千倉静留は、あの大事件が起きる前に姿を消した友人を見つけようとひとりでもがいていた。ある日、思わぬ手がかりを見つけ、学校の友達と旅に出ることを決心する。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『終末トレインどこへいく?』の感想です。

『終末トレインどこへいく?』感想(ネタバレなし)

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5G、6G、7G…!?

第5世代移動通信システム、通称「5G」は日本では普及した…らしいです。日本の5Gの全国の人口カバー率は2022年3月末時点で93.2%にのぼると通信企業は高らかに語っていますが、「人口カバー率」なのでね…。面積じゃないのです…。

2020年に本格的に始まった「5G」ですが、もう「6G」の話題がでています。ドコモいわく「6G」の実用化で「高速大容量化や低遅延、多数同時接続といった通信の高度化を実現でき、さまざまな社会変革が起きると予想される」とのことで、「海や空、宇宙をも含めたあらゆる場所をカバーする3Dでのサービスエリアの拡張」と謳っています。「SFのような世界が実現します」とまで豪語しているほど。

う~ん…私の知っているSF作品ってたいていはテクノロジーの発達のせいで問題も生じて世界が脅かされることが多い気がするのだけども、日本の通信事業者さんが頭に思い浮かべている「SF」って何なんだろうか…。1度聞いてみたいものです…。

ただでさえ、現在、日本の大企業すらも続々とランサムウェアの被害で大損害を受ける事態が乱発しています。高速大容量通信で情報を盛んにやりとりするのはいいですけど、その肝心の情報のセキュリティが守られないと、悲惨な結末しか待ってないじゃないですか。

通信される情報は”良い情報”だけではないです。”有害な情報”も流れるのは今に始まったことではありません。

「6G」、心配だ…。まあ、私の住んでいる地域にはそもそも電波が届かないというオチかもしれないけど…。

そんな「6G」の話をしておいてなんですが、今回は「7G」の話です。7G…!? 7Gってなんだって? それは知らない…。だから7Gはフィクションでテキトーに描いても許される…。そういうことにしておこうというスタイルの作品、アニメシリーズです。

それが本作『終末トレインどこへいく?』

本作はオリジナルのアニメシリーズで、ジャンルはポストアポカリプス青春SFコメディ?…そういうことでいいのかな。

舞台は明らかに日本と思われる世界で、「7G」なる最新の通信回線が開通する記念すべき瞬間を迎えたのですが、その「7G」のせいでとんでもない異常が起きて世界が一変し、文明経済は崩壊してしまいます。次元もねじ曲がり、存在概念も変容する…摩訶不思議ワールドになってしまったのです。「なんじゃそりゃ」という世界観ですが、もうそういうものなのでね…。

世界観は『ふしぎの国のアリス』的といいますか(作中でも『ふしぎの国のアリス』のパロディがある)、デザインセンスやジョークのノリとしてはあれです、劇場版の『クレヨンしんちゃん』に近いですね。

その世界を4人の中学から高校の女子生徒が電車で旅をする…というのが物語になっています。そういう点ではロードムービーな青春ストーリーにもなっている…一応は…。

『終末トレインどこへいく?』を監督するのは『クレヨンしんちゃん』とも縁深い“水島努”。今回は自分でこれまで培ってきた作家性を自由に使いきりながら、自分なりのオリジナル・ワールドを構築していった感じでしょうか。髄所に過去の“水島努”監督作品の要素が散らばっています。

最近の“水島努”監督はしばらく『ガールズ&パンツァー』シリーズや『劇場版 SHIROBAKO』など、人気作となったタイトルの続きを手がけている印象でしたが、『終末トレインどこへいく?』は2019年の『荒野のコトブキ飛行隊』以来の久しぶりのテレビアニメシリーズへのカムバックです。

『終末トレインどこへいく?』のシリーズ構成は、『侵略!イカ娘』『ウィッチクラフトワークス』『SHIROBAKO』などの“水島努”監督とは定番の組み合わせとなっている“横手美智子”

『終末トレインどこへいく?』はのんびり走っているので、いつでも乗車し、いつでも下車してください。運賃はいくらなのかはよく知りません。「Suica」は使えません。

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『終末トレインどこへいく?』を観る前のQ&A

✔『終末トレインどこへいく?』の見どころ
★真顔で真剣に走る西武2000系電車。
✔『終末トレインどこへいく?』の欠点
☆ストーリーにまとまりは乏しい。
☆世界観が乱雑に散らかっている。
日本語声優
安済知佳(千倉静留)/ 和氣あず未(星撫子)/ 久遠エリサ(久賀玲実)/ 木野日菜(東雲晶)/ 東山奈央(中富葉香) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.0:気楽に眺めて
友人 3.0:暇つぶしに
恋人 3.0:趣味が合うなら
キッズ 3.0:子どもでも見れる
セクシュアライゼーション:なし
↓ここからネタバレが含まれます↓

『終末トレインどこへいく?』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

池袋駅の改札口を出た瞬間、突然、7G回線開通記念式典に連れてこられたひとりの女子高校生。なんでも「祝77777人」ということらしいです。司会者から名前を聞かれ、「中富葉香」とマイクに名乗ります。この饒舌な司会者は「世界に7Gを広める会」会長のポイズン・ポンタローで、「7Gでこの国の威信を取り戻す」と自信満々に宣言。反対派の戯言を無視してここまで押し切ったようで、張り切っていました。

そしていよいよカウントダウン。「7G」と書かれたスイッチが目の前に現れ、流されるようにやむを得ず中富葉香は嫌々ながら押します。

するといきなり変な感覚に襲われ、周囲の世界は全く異なるかたちに変わってしまい…。

2年後。吾野駅の周辺。千倉静留は進路希望調査票の第一希望から第四まで「人探し」と書き、先生に怒られていました。別の場所では、マレーグマカピバラに乗ったオニオオハシと会話しています。マレーグマの姿のマサハルはキョンの姿となった妻と関係が疎遠になったことをなじられます。他の場所では全員「木」になったところもあり、動物なだけマシだと言います。

吾野駅の周辺地域は、例の7G事件から、住民は動物の姿に変身してしまいました。21歳3ヶ月を越えた住民が動物化するようで、未成年はまだ人間の姿です。動物になっても思考はそのままですが、たまに動物っぽくなってしまいます。

吾野駅以外の地域はどうなっているのかはよくわかりません。交通も壊滅。コミュニケーションは近距離のPHSのみが機能し、謎のエネルギーで電気は使えています。行政は機能していないらしく、各地の努力で生存するしかないようです。

その会話の最中、久賀玲実東雲晶が割り込んできます。2人とも女子高校生と女子中学生なので、人間の姿です。2人が言い合いをしていると同年代の星撫子が真面目に叱ります。

そこへ千倉静留が遅れて来ます。1カ月ごとに物資を届けてくれるクロヒョウキャラバンが到着し、千倉静留は配達員のネコ兄に”探している人物”の手がかりを聞きますが、何もないです。千倉静留はバイトで移動に加わりたいと要望するものの危ないと断られます。

しかし、荷物の梱包に使われていたくしゃくしゃの新聞紙を見つけ、2024年3月1日の日付のそれには中富葉香らしき子が写真に写っていました。先月のもので池袋で撮られたようです。

千倉静留は中富葉香と親友でしたが、7G事件の前に喧嘩したっきり中富葉香は出ていってしまっていました。まさか池袋にいるとは…。

何としても見つけ出したい千倉静留は吾野駅に打ち捨てられていた2000系電車を操縦できることに気づき、一人旅立とうと決意。それに星撫子、久賀玲実、東雲晶、そして中富葉香の愛犬のポチも合流し、共に旅立つことになります。

吾野から池袋まで30駅。この先に何が待っているのかはわかりません…。

この『終末トレインどこへいく?』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/07/21に更新されています。
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駅と電車で終末っぽさをだす

ここから『終末トレインどこへいく?』のネタバレありの感想本文です。

『終末トレインどこへいく?』の世界崩壊の理由も世界崩壊の惨状も、脈絡はなく、ハチャメチャです。でもそういう前提の作品ですから、そこは別にいいでしょう。

ただ、何の主軸もないわけではなく、ちゃんと「駅」をキーポイントにするという方向性があります。異常現象も市町村ではなく、駅ごとに独自のものが発生し、レールに電気のようなエネルギーが通ることでライフラインを伝えている設定になっています。

このあたりは、わりとあちこちに駅が張り巡らされている日本の「電車」社会ならではの設定だなとも思います。別に海外でも駅がたくさんある国は普通にありますが、日本の駅はとくに都市部だと利用客数が尋常じゃなく多いです。知ってのとおり、東京都市部の駅はいつも大混雑しています。

本作の舞台は「西武池袋線」。埼玉県から東京の池袋まで延びる、いわば都会への入り口みたいな路線です。

その駅が、7G異常現象のせいで異様に駅同士の間が伸び、交通が断絶し、全く利用客がいなくなる。そしてそんな線路を4人だけ乗せた2000系電車(アポジー号と名付けられる)が1車両で淡々と走っていく。

この風景だけで「終末」っぽさをしっかり醸し出せるというのは、まさに日本らしいところ。こういうポストアポカリプス演出は斬新ではあると思います。

物語の出発地は「吾野駅」(埼玉県飯能市)。そこから西武池袋線の流れに沿って、作中で言及されるとおり、30駅で池袋駅に繋がります。具体的には、吾野駅→東吾野駅→武蔵横手駅→高麗駅→東飯能駅→飯能駅→元加治駅→仏子駅→入間市駅→稲荷山公園駅→武蔵藤沢駅→狭山ヶ丘駅→小手指駅→西所沢駅→所沢駅→秋津駅→清瀬駅→東久留米駅→ひばりヶ丘駅→保谷駅→大泉学園駅→石神井公園駅→練馬高野台駅→富士見台駅→中村橋駅→練馬駅→桜台駅→江古田駅→東長崎駅→椎名町駅→池袋駅…となります。

ただ、ここで本作の大きな問題が…。作中でこの駅全部を描くわけではないんですね。半分以上は通過しているけどカットされます。せっかくの駅を中心としたコンセプトがやや台無しです。

もちろんこの駅全てを1クールで描くのは無理。2クールでも実現可能か怪しいです。単純に1話1駅すらできないですから。

だったらなおさらもっと描ける範囲内の駅から開始させて、適度にシーズン内で収まる物語ボリュームを考えておくほうがいいのでは?と思わなくもない…。

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全体的に脱線気味な乗り心地

『終末トレインどこへいく?』はこのコンセプトの若干の脱線もさることながら、ストーリーもかなり脱線気味。

本作で最初に提示されるストーリー上の謎は「なぜこんな世界になってしまったのか」「どうやって元に戻すのか」「それに中富葉香はどう関わっているのか」です。その答えを探るために「池袋駅に到達する」という目標が与えられます。

序盤でスワンボート老人が雑な地図をくれるので、てっきりそれをヒントに各駅を攻略していくのかなと思ったらそうでもなく、道中で上記の謎を考察する余地すらありません。なので視聴者にこの世界観にどっぷりと浸らせてくれる時間が用意されないんですね。

また、私は駅で電車が走るとなれば、やっぱり『バルカン超特急』(1938年)のような閉鎖的なシチュエーション・ミステリーや、はたまた『新幹線大爆破』(1975年)のようなタイムリミットありの手に汗握るサスペンスを期待してしまう、ジャンル熱中者なのですけど、『終末トレインどこへいく?』はそういう感じでもないです。

電車オタクが舌なめずりして喜べるご褒美がいっぱい…ってわけでもありません。だったら各駅をしっかり描いて、ピンチ時に急に廃止となった駅が出現して助けになる…みたいな展開があったらいいじゃないですか。

『終末トレインどこへいく?』がやっているのは、駅巡りの観光風なノリで、定期的に駅を降りて異世界を楽しむというアトラクション・テーマパークなスタイルです。稲荷山公園駅のミニチュアワールドとかあれだけでも一本のアニメを作れるのに1話2話で片付きますからね。

なので毎回話が逸れて、メインストーリーのテンポは遅いけども、各キャラ同士の会話テンポは速く(ギャグとしてはそれほど面白くもない)、チルアニメ(まったりのんびりな癒しアニメ)でもないという、なんだか中途半端な乗り心地でずっとガタガタで走っている感じでした。

何かひとつでいいので、「駅」以外にコンセプトとストーリーの原動力になる要素が欲しかったところ。例えば、日本のサブカルにありがちな「女子生徒の制服」消費のテンプレをなぞる本作ですが、意地でも制服で行動させたいなら「制服を脱ぐと動物に変身してしまう」みたいなサスペンスがあればいいでしょうし…(ある条件で動物になるという設定自体は『ロブスター』みたいでいいなと思ったので)。各駅ごとに「キノコが生える」とか「身体が小さくなる」とか「ゾンビになる」とか、デバフを積み重ねて各キャラが抱えながらゴールに向かう…でもハラハラするサスペンスにはなります。

あとは、キャラクター・アークの中心になっているはずの「千倉静留と中富葉香の亀裂」の部分が、何というか…全くドラマチックに響いてこない…。とってつけた感じで終盤に仲直りするので、本当に空っぽのキャラに見えてくる…。良さげなセリフを最後につければいいものでもないし…。

“水島努”監督作の女の子キャラクターはクリシェそのまんますぎるところが多々ありますが、今作はその薄さを帳消しにするほどのジャンル的なカタルシスも無かったのが最大の整備不良だったか…。

世界観のコンセプトは悪くないので、もうちょっとメンテナンスがあれば良かったですね。

『終末トレインどこへいく?』
シネマンドレイクの個人的評価
4.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『ガールズバンドクライ』

・『夜のクラゲは泳げない』

作品ポスター・画像 (C)apogeego/「終末トレインどこへいく?」製作委員会 終末トレインどこへ行く

以上、『終末トレインどこへいく?』の感想でした。

Train to the End of the World (2024) [Japanese Review] 『終末トレインどこへいく?』考察・評価レビュー
#ポストアポカリプス #女子高校生 #女子中学生 #電車