パリでサメと泳ぎませんか?…Netflix映画『セーヌ川の水面の下に』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:フランス(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にNetflixで配信
監督:ザヴィエ・ジャン
せーぬがわのすいめんのしたに
『セーヌ川の水面の下に』物語 簡単紹介
『セーヌ川の水面の下に』感想(ネタバレなし)
オリンピックにサメも出場できますか?
2024年の夏は世界的に大きなイベントが開催されます。オリンピックです。
オリンピック…まだ衰退してなかったのか…。
汚い”金”を授与された東京2020夏季オリンピック(2021年)から3年。2024年7月26日から8月11日までの期間に行われるパリ2024夏季オリンピックはコロナ禍を忘れて盛大にやろうという狙いをビシバシ感じますが、こちらも問題点が山積みです。
国際情勢は不安定で、平和の祭典などを名乗るどころではありません。オリンピック開催をめぐって、パリでも裏で不法な労働や汚職が起きていることも指摘されています。ホームレスが退去させられるなど、パリの街の格差があらためて浮上しています。
そして象徴的なのが、セーヌ川の水質汚染。パリの街中をゆったりと流れるセーヌ川はこの街の欠かせない風景です。オリンピックではこのセーヌ川でトライアスロン競技など一部の水泳種目が行われる予定になっています。
しかし、このセーヌ川が問題に…。サーフライダー財団の水質調査によってセーヌ川の大腸菌と腸球菌のレベルが基準で定められた認可レベルよりも高いことが判明しています(BBC)。もともとセーヌ川の汚さは有名で、セーヌ川での遊泳はずっと禁止されてきました。パリ行政は2025年には一般の人も遊泳できるようにすると息巻いており、このオリンピックはその新しいセーヌ川を見せつけるイベントになるはずでした。
けれども、全然改善されておらず、オリンピックまで2カ月と迫った時期でも変わらず…。主催者側は水質再生プロジェクトに約14億ユーロを投じているとアピールしていますが、セーヌ川は今日もゆったり汚い水が流れているのです。
今回紹介する映画は、そんなトライアスロンが行われるパリのセーヌ川に”ある生物”が現れて大パニックになります。
それが本作『セーヌ川の水面の下に』です。
本作で、パリのセーヌ川に現れる生物…それは「サメ」。しかも、巨大サメ。あ、巨大といっても7mくらいです。映画の世界ではサメの大きさのインフレが激しいのでね…。ちゃんと誤解ないように正確に伝えておかないと…。
サメはみんなの人気者。ぬいぐるみがトランスジェンダー・コミュニティのマスコット・シンボルになったり(PinkNews)、「シャークキャット」のネットミームが暗号通貨にされて権利侵害で騒動になったり、いつも愛されています。
そんなサメとセーヌ川で一緒にトライアスロンできるなんて、なんて素晴らしいのでしょう…。
いや、もちろん呑気な話ではありません。サメさん、人間を襲いまくります。作中でもトライアスロンが行われる中、セーヌ川でサメさんが大暴れします。セーヌ川が血の川へと変貌します。もう、ますます水質が酷いことになっちゃうよ…。
ともあれ、世界で最も多種多様なジャンルとなっているサメ映画に、セーヌ川のフィールドが追加されたわけです。サメ映画ファンがまた喜んじゃう…。「パリ・シャーク」なんてタイトルにならなくて良かったね…。『シャーク・ド・フランス』っていう映画はすでにあるのだけども…。
『セーヌ川の水面の下に』はサメ映画群の中でも比較的真面目なテイストで、ふざけまくりのキワモノたちと比べると、すっごく上品にみえます。完全に相対的な錯覚なので、この言葉はあまり信じていいのか私もあやふやですが…。
第一、トライアスロン中のセーヌ川に巨大なサメがいるっていう絵面からして、SNSでインプレ稼ぎで作られるコラ画像みたいですからね…。今後、SNSで同様の画像がが見られたら「この映画だよ」と教えてあげてください。
この『セーヌ川の水面の下に』を監督するのは、『ディヴァイド』(2011年)、『コールド・スキン』(2017年)、『死霊院 世界で最も呪われた事件』(2017年)、『FARANG ファラン』(2022年)と、アクション・サスペンス・スリラー・ホラー・SFなどのジャンル映画を得意とするフランス人の”ザヴィエ・ジャン”。
主役の俳優陣は、『キャメラを止めるな!』の”ベレニス・ベジョ”、『FARANG ファラン』の”ナシム・リエス”の2人です。
『セーヌ川の水面の下に』は「Netflix」で独占配信中。2024年のオリンピックが始まる前にぜひ鑑賞してみてください。
『セーヌ川の水面の下に』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2024年6月5日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :サメ映画好きは必見 |
友人 | :気楽に一緒に泳いで |
恋人 | :ジャンルが好みなら |
キッズ | :捕食描写たくさん |
『セーヌ川の水面の下に』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
一隻の小さな船が北太平洋の大海原を航行しています。あるミッションのためにここにいました。それは「進化」プロジェクトです。海面には大量のゴミが浮かんでいます。
カメラの前で研究者であるソフィア・アサラスがフランスの面積の4~6倍もあるプラスチックの浮遊物によって何万もの海洋生物が命を落とすと解説。ソフィアはサメの進化を追跡調査してきました。
しかし、信号を発見したという仲間の報告ですぐさま撮影を中断。信号発見地点へ船を向かわせます。フアンを含む4人の男性たちはスキューバダイビングのスーツを着用。水中へ潜ります。
ゴミの下を通りながら、水深6mでゆっくり前進。マッコウクジラの赤ん坊がゴミに絡まって動けなくなっていました。出血があり、水中は赤く染まっています。何かに噛まれた傷跡があります。
そのとき、複数のアオザメに取り囲まれたのに気づきます。さらに前方から巨大なサメがゆったりと接近。4人は身動きできず、固まります。リリスという個体ネームで追跡していたサメのようですが、大きさが7mほどまであります。3カ月前は2.5mほどだったのに…。
そしていきなりサメに襲撃され始めます。船にいるソフィアには悲鳴と通信の断絶しかわかりません。
ソフィアは軽装備で水中に飛び込み、助けに向かいます。しかし、真っ先に目に飛び込んできたのは無惨な片腕のみ。奥に例の巨大サメを視認。突然こちらに向かってきたので銛を発射しますが、サメに命中するもそのまま引っかかって海の下に引きずりこまれてしまいます。なんとか脱出して海面にあがるも、ソフィアは負傷しました。
3年後、パリのセーヌ川でゴミを引っ張り上げていた2人の男。ところがあっさり拾い上げてしまったのは不発弾でした。すぐに処理班が到着。対応するのは水上警察のアディルのチームです。トライアスロン大会がもうすぐ開催されるので少しピリピリしています。
ところかわって、水族館で子どもたちを前にソフィアは海洋保護の価値を説明。それでもかつての仲間の死をまだ引きずっています。
その後、海洋保護団体「SOS」に関わるミカという若者が話しかけてきます。サメの保護のために追跡活動をしている若者のグループのようです。「ビーコン・セブン」と口にしたその言葉にハッとします。それはあの以前にソフィアが追跡していて惨劇を引き起こしたサメのものです。
なんと今はセーヌ川で信号が確認されているそうです。サメが淡水エリアの奥まで侵入するとは…。しかもよりによってあのサメが…。
動揺したソフィアは一旦帰ります。久しぶりに研究用パソコンを開き、信号データを確認すると、確かに位置情報はセーヌ川を示していました。
このまま放置するわけにはいかない。恐怖を飲み込みながらソフィアは意を決して行動を開始しますが…。
最後のアレはサメは悪くないよ?
ここから『セーヌ川の水面の下に』のネタバレありの感想本文です。
この感想記事の前半で話題にだしたのですが、『セーヌ川の水面の下に』は「サメがセーヌ川が現れる」という単発のコンセプトだけでなく、明らかにパリ2024夏季オリンピックを意識した展開だったと思います。
もちろん作中では「トライアスロン大会」としか言及されませんが、「オリンピック」の名称は大人の事情でだせませんからね…。
冒頭はさておき、舞台がトライアスロン大会の開催を直前に控えるセーヌ川に移ると、どこかで聞いたことのある背景が次々と映し出されます。
開催中の邪魔者扱いにされているホームレスの人はサメの餌食になってしまい、水上警察のような現場担当者にだけ対応が丸投げされていく現実。一方で、行政側はというと偉そうなもので、多額の予算を投入した大会を実行することにしか眼中になく、どんなリスクがあろうとも開催を強行しようとします。「セーヌ川の浄水施設も作ったし…!」と言い張っているのが、現実の未改善のセーヌ川のことを考えると、テキトーな発言っぷりが際立って笑える…(笑えない…)。
ちなみに、作中のパリの市長は現・パリ市長の「アンヌ・イダルゴ」と妙に似た雰囲気を漂わせているのがなんとも…。今のパリ市長も頓珍漢な無能な言動で失笑を買っている政治家です。
ダメな行政上のリーダーがでてくるのは『ジョーズ』からの恒例ですが…。
地下墓地(すごくパリっぽいロケーション)のあの大惨劇でも開催を強行しますからね。どうやって隠蔽したんだよって話ですが…。あれだけの死を情報統制で隠し通すのはセーヌ川の水質改善よりも難しそうだよ…。
そしていよいよトライアスロン大会が盛大に開幕。みんなずっと観たかったであろう、サメによる踊り食いがたっぷり見られます。この設定ならこの映像が一番のメインディッシュだからね…。撮り方もダイナミックで、オリンピックの中継映像を見ているような気分で楽しめました。
しかし、本作、この後半からエンジン全開で、もうリアリティとかどうでもいいぜ!と言わんばかりにハメを外します。
とくに不発弾の件。序盤から意味ありげに不発弾がでてくるので、「あ、サメを不発弾で最後は倒すのかな」と思っていたら、その予想の斜め上をいき、ラストはまさかの…。
あの”橋”全爆破の映像だけ切り取ったら「エンド・オブ(Fallen)」シリーズのパリ版だと言ってもバレないのでは…。
「いくらなんでもそうはならないだろ!」という振り切ったスペクタクル派手映像をお見舞いし、人間の傲慢さもろとも水没するというパリ壊滅エンド。英題が「Under Paris」なのがこのエンディングで結構上手いこと刺さってきます。
これは…サメは無実だ…濡れ衣だ…たぶんサメもこんな展開になってびっくりしてる…。
ちゃんとサメ対応できる知事に投票しましょう
ジャンル映画としてはやりきった『セーヌ川の水面の下に』でその威勢の良さは大いに歓迎なのですが、個人的にどうも気に入らない要素がいくつかあって…。
一番にデカいのは、主人公の描写。私は「いかにも科学者らしいことを言うけど、その中身が科学的に間違っている」という研究者のキャラクターが嫌いなんですよね。それがギャグや風刺として機能しているならいいんですけど、真面目に間違っていると「うう~ん…」となります。
本作の主人公であるソフィアも、サメ研究の第一人者として物語を引っ張るのですが、研究者らしい的確な言動がなく、トラウマを背負ったヒロインとしての役割がメインになってしまっています。
ときおりサメの死骸分析などで知識を披露することはあるのですが、そのソフィアが口にする科学的知識がわりとことごとく間違っているので、「ほんとにコイツ大丈夫か?」って感じがするだけなのです。市長並みにアホにみえる…。
冒頭のチャールズ・ダーウィンの「進化」の引用からして、あのリリスのサメの異常変化の説明としては学術的に誤っているし、単為生殖のくだりも変だし、要するにあのサメの怪物性を科学でそれっぽくデコレーションしているのみなんですね。ソフィアは作品のご都合設定を補強する説明キャラでしかありません。
この研究者を真面目に描写したいのか、ネタにしていじりたいのか、ハッキリしてほしかたな…。
海洋保護団体「SOS」の存在も、物語にあまり活かされていなくて、冒頭に海洋プラスチック汚染を描いたり、サメの乱獲問題を提示しておきながらも、結局は海洋生態系保全の件はどうでもよくなってしまうので、意地悪に手を付けただけになってしまった感じです。
ただでさえ、今のパリ2024夏季オリンピックは抗議運動の対象になっており、ますますそれは無視できないものになっているわけですから、この映画はちょっと立ち位置が全方位で冷笑的になりすぎてるかな。
『バティモン5 望まれざる者』みたいになれとは言わないけど、題材を扱ううえでの作り手の雑さはそういうところに出ちゃうのだと思います。
まあ、そんなことを言おうがもうパリは存在しないのでね…。オリンピックも中止だな…。『セーヌ川の水面の下に』で無事にパリを壊滅させましたし、エンディングではいろんな世界の都市にサメが侵入する情報がこれ見よがしに表示されていました。東京にも来るみたいです。
今度の夏の東京都知事選挙では、ちゃんと真面目に政治家を選びましょうね。ネタありきのアホな人を選んではいけません。リップサービスしかしない政治家も論外です。もし東京の川や海に巨大サメが出現したとき、躊躇いなくイベントを中止する決断を下せる…そんな知事に投票しましょう。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
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サメ映画の感想記事です。
・『MEG ザ・モンスターズ2』
・『海底47m 古代マヤの死の迷宮』
・『ロスト・バケーション』
作品ポスター・画像 (C)Netflix アンダー・パリ
以上、『セーヌ川の水面の下に』の感想でした。
Under Paris (2024) [Japanese Review] 『セーヌ川の水面の下に』考察・評価レビュー
#フランス #サメ #環境正義