呪怨がアメリカに再感染したけど…映画『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2020年10月30日
監督:ニコラス・ペッシェ
ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷
ざぐらっじ しりょうのすむやしき
『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』あらすじ
森の中に停まっていた車の中で変死体が発見され、報せを受けた刑事のマルドゥーンとグッドマンが現場に駆け付ける。道路が閉鎖されていたこともあり、死体は何カ月も放置されて腐敗していたが、残された所持品から死体の生前の住所が「レイバーン通り44番地」だったと判明。そこはグッドマン刑事が2年前に担当したとある事件の場所。そして恐るべき過去が…。
『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』感想(ネタバレなし)
こいつも呪怨です
映画のレビュースコアは私も参考にすることがあります。
いろいろな企業が算出したものがあって多種多様なのですが、その中に「CinemaScore」というものがあるのを知っているでしょうか。これはラスベガスを拠点とする市場調査会社が出しているもので、スコアの判定が他とは違います。映画が劇場公開されるとスタッフが映画を観終わってスクリーン部屋から出てきた観客をつかまえ、その観たてホヤホヤの映画の個人評価を聞いて回るのです。いわゆる映画版の出口調査ですね。なので他のネット上などのレビューサイトと違って、嫌がらせ目的で低評価を大量投入することもできないので、スコアが操作されず、素直な実際の観客の反応が測れる指標として重宝されています。
「CinemaScore」ではその集計を平均して「A・B・C・D・F」を基本にスコアを出します。このうち「F」という最低評価は滅多に出ません。かなりレアです。なので「F」を出した映画が現れるとむしろそれで話題になったりします(なんでEがないのかと言えば、たぶんFはfuckのFなのでしょうね…)。
もちろん「F」だったからといって駄作と決めつけているわけではありません。例えば、最近「F」だった映画にダーレン・アロノフスキー監督の『マザー!』がありましたが、少なくとも私は大好きな一作でした。個人の好みの問題ですからね。もし劇場で「CinemaScore」の採点に参加してくれと言われたら、私はアンケートにハッキリと「A」とつけてましたよ。
そんな話題性抜群(?)の「F」ムービー。2020年に新たな1作が加わりました。それが本作『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』です。
本作はホラー映画なのですが、タイトルからはわかりにくいですが、あの日本発のジャパニーズ・ホラーを確立した代表作のひとつである「呪怨」のハリウッド版、それも通算で4作目です。
え? 4作も出ていたの?という声も聞こえてきそうですが、そうなのです。
まず日本の状況もややこしいんですね。もともとVシネマのビデオから始まったコンテンツでしたが、マニアの間で話題を呼び、2003年に映画『呪怨』が公開されます。同じ年に『呪怨2』も続き、2009年に『呪怨 白い老女 / 呪怨 黒い少女』、2014年には『呪怨 終わりの始まり』、2015年には『呪怨 ザ・ファイナル』、そして2020年にはNetflixドラマシリーズとして『呪怨 呪いの家』が作られ…。こうしてみるとすごく息の長いシリーズになってますね。愛されているというか、日本でホラーを作るとなればとりあえず呪怨だろう…という安定のバッターになっている感じ。
そんな日本の呪怨頼みの中で、アメリカでも「呪怨」は映画化します。そのときの原題が「The Grudge」なのでした。2004年に『THE JUON 呪怨(The Grudge)』、2006年に『呪怨 パンデミック(The Grudge 2)』、2009年に『呪怨 ザ・グラッジ3(The Grudge 3)』が登場します。その割には日本での知名度はイマイチで、3作目にいたってはビデオスルーです。
さすがに呪怨が多すぎて何がなにやらになっているのでは…とも思わなくも…。
その呪怨過多な状態で懲りずに送り出されたハリウッド版第4弾『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』。やっぱり配給も“呪怨はもういいだろう”と思ったのか、邦題に「呪怨」の文字を入れませんでしたね。それでもまさか劇場公開されるとは思ってもみませんでした。配給はイオンエンターテイメントですけど、相変わらず凄い変化球で映画を引っ張ってくるなぁ…。
でもハロウィン映画として持ってきてくれたのなら粋じゃないですか。まあ、世間のシネコンは『鬼滅の刃』一色だけど…(こっちもこっちでハロウィンっぽいと言えばそうかな…)。
監督は“ニコラス・ペッシェ”という人で、2016年に『The Eyes of My Mother』という映画で監督デビューし、2018年には村上龍原作の小説を映画化した『ピアッシング』も手がけています。製作はホラー界隈ではおなじみの“サム・ライミ”です。
俳優陣は、『スターリンの葬送狂騒曲』『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』など結構多彩な映画に出ていて『ナンシー』では製作もつとめた“アンドレア・ライズボロー”が一応の主役。
他に『明日を継ぐために』の“デミアン・ビチル”、『search サーチ』の“ジョン・チョー”、『ザ・ハント』の“ベティ・ギルピン”、『インシディアス』の“リン・シェイ”、『アニマル・キングダム』の“ジャッキー・ウィーヴァー”、『ザ・テキサス・レンジャーズ』の“ウィリアム・サドラー”など。4作
目ですがリブートということになっているので過去作を気にする必要はありません。ハロウィン映画にでもどうですか?
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(伽椰子と一緒に) |
友人 | ◯(ホラーファン同士で) |
恋人 | ◯(恋愛よりホラーが好きなら) |
キッズ | △(怖い映像・残酷描写が満載) |
『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』感想(ネタバレあり)
始まりは日本、そしてアメリカへ
2004年の東京。住み込みで働いていたフィオナ・ランダースは、いろいろな事情があって世話になっていた家を出ることになります。昔ながらの日本民家を出ると、ヨウコに電話をかけますが、何やら電波が悪いのかノイズが入って繋がらなくなります。
混乱する中、何気なく歩道にあったゴミ袋のひとつがモソっと動いたように見えます。すると足元のゴミ袋から急に手が飛び出してきたような感覚に陥り、声をあげてしまい…。
とりあえずフィオナは地元のアメリカ・ペンシルベニア州の家に帰宅。夫のサムと幼い娘のメリンダと再会を分かち合いますが、フィオナは“あるもの”を連れてきていました。それには気づかず…。
年月は経過し、2006年。刑事であったマルドゥーンは息子のバークと抱き合って悲しみを共有します。実は父(夫)を失い、憔悴していました。会いたいと思ってももう会えない。恐怖を感じる息子に対して、5秒を数えさせることで「大丈夫」とリラックスさせます。
息子をスクールバスに乗せた後、マルドゥーンは職場の警察へ。そこでグッドマン刑事に話しかけられ、さっそく事件現場へ向かいます。
あまり人が立ち入らない森林地帯に放置された車。事故でも起こしたのか、故障していますが、その車の運転席に乗った状態で変死体が発見されました。やたらと腐敗が進んでおり、それでいて不自然なほどに異常さを感じる遺体です。道路が閉鎖されていたせいで、死体は何ヶ月も放置されたようですが、それにしても言葉にできない異様さを感じます。
その遺体に遺された所持品から関係ありそうな住所が明らかになります。
“レイバーン通り44番地”。
そこは知っている場所でした。そして願わくば思い出しくない場所。2年前にグッドマン刑事が担当し、最悪の経験をした「ランダース事件」の現場なのです。
これは何か関連があるのではないかとマルドゥーン刑事は持ち前の勘で疑いますが、グッドマン刑事の口は重く、気軽に動いてくれません。しょうがないので単身でランダース事件の舞台となった例の屋敷を訪れることにします。
そこにはマシスン夫妻が暮らしているはずでした。恐る恐る中に入ると、キッチンに女性がいて、泣いているような声を出しています。「ミセス・マシスン?」と呼びかけますが、通常の反応はありません。後ろに気配を感じ、不吉さを全身で味わいながら途方に暮れていると、そのミセス・マシスンが「助けて」と言って発狂し始めます。「おいていかないで」と喚きながら錯乱している様子。そして、テレビの前の椅子に腐敗した男の死体があるのを発見、急いで外に出て車で無線で仲間を呼ぶしかなく…。
それ以降、マルドゥーンは奇妙な異変に襲われます。夜に車を運転していると目の前に子どもがいたような気がしてハンドルを切りますが、影も形もありません。
不安に思ったマルドゥーンは事情を知っているであろうウィルソンを訪ねます。嫌々ながらも口を開いた彼は、信じがたい話を語ります。それは恐ろしい呪いの物語。
この地で、ある日を始まりに続く陰惨な事件の連鎖。ランダース家、スペンサー家のピーターとニーナ、マシスン家とローナ・ムーディ…。
そして自分自身もまたその惨劇の連続に加わってしまったことを自覚し…。
恐怖の没入感は削がれる
「呪怨」という作品は基本的に日常に潜む恐怖がどんどん伝染すように継承されていき、その恐怖がとめどなく続いていくという部分に肝があるものだと私は思います。少なくとも原案である“清水崇”はそういう部分を大事にしているクリエイターで、これこそジャパニーズ・ホラーの特徴でもあります。
なので本作『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』も、その恐怖の継承を軸にするためか、単体の映画としてはかなりややこしい構成になっています。
ストーリーは直線的ではなく、おおまかに、ランダース家の恐怖、スペンサー家の恐怖、マシスン家の恐怖、マルドゥーン刑事の恐怖の4パートに別れており、これが時系列もバラバラで挿入されていくという展開です。しかも、冒頭のフィオナ・ランダースが東京の家から出てくる場面。あそこも過去に何かあったのかなと思わせる部分ですが、おそらくあの東京での出来事は、ハリウッド版「呪怨」1作目である『THE JUON 呪怨』を意識しているのでしょう。なので『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』を観ているだけでは明かされない、見えない元凶となる第0パートもあるわけです。
確かに呪怨らしい恐怖の連鎖を描くうえではこの構成は必要だったのかもしれません。しかし、1本の映画でここまで入り組んでくると観客の体験としてはややマイナスな面の方が浮き上がってきます。時制を非直線的にする意味がそれほどなく、ましてや肝心のホラーに集中できず、観客は物語の繋がりを頭で「これはここと接続して、ああなって…」と考えるばかりです。そこが根本的に本作の欠点かなと思います。
例えば、スペンサー家とかほとんどなくてもいいですよね。あの夫妻は設定としてはすごく不幸を背負っており、それだけでも話をかなり膨らませそうなものなのに、結局は“殺される役”でしかないので、キャラクターのバックグラウンドも意味を果たしません。
とにかくこのストーリーの不必要なシャッフルによる取っつきにくさがホラーの没入感を著しく阻害しているなと思いました。
あの老婆で映画1本は作れる
ではこの『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』、面白いパーツはなかったのかと言うと、全く無かったわけではありません。
私が一番良かったなと思ったのはあのマシスン家の老婆です。あれはもう演じた“リン・シェイ”の怪演の賜物ですね。これまでもいくつもホラー映画に出ており(『エルム街の悪夢』にも出ているんですよね)、それで腕が磨かれたのか、今回は凄まじい不気味さと気色悪さで他を圧倒していました。
あのフェイス・マシスンだけでも1本のホラー映画を余裕で作れるのではないだろうか…。単純な「老婆怖い!」みたいなシナリオにするのではなく、例えば、怨霊に憑りつかれた老婆が必死にそれを振り払おうとするも世間からは年寄りの認知症だとまともに相手にしてくれず、なんとか孤軍奮闘で戦っていくという、異色の高齢者主人公ホラーにすればいいのに…。
マシスン家絡みだとローナ・ムーディもポテンシャルのある良いキャラです。まず自殺コンサルタントという職業が抜群に最高の素材ですよ。私としてはもっとローナがあの手この手でフェイス・マシスンの命をさりげなく終わらせてやろうと手段を講じてきて、それをフェイス・マシスンがあれこれと回避するというシュールなユーモアたっぷりスリラーも見たかったです。
ほとんどなくてもいいなんて言ってしまったスペンサー家だって、話の膨らませ方しだいでは凄く面白いものに変化できると思います。あの夫妻にとっては子どもを持つということが要になってきますから、あのメリンダを家に置くことでの倫理的葛藤をもっと増幅してもこれまた1本の映画を作れます。たとえ幽霊だと知ってもあの子と家で暮らす道を選ぶかどうかみたいな苦悩と、世間にバレないようにする緊張、幽霊少女を育てることでコミカルに暗示していく育児問題とか、いくらでもネタは作り放題です。
要するに『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』は素材はいいのです。問題はその素材を「呪怨」という雑な接着剤でくっつけただけの工程にあるのですから。
アメリカのホラーはすでに先へ
あとやっぱり思うのは、「呪怨」はあくまで日本の土着文化にこそ似合うものだなということ。
だいたい佐伯伽椰子というホラーの中心にいる存在も、せいぜいアジア圏じゃないとハマらないものじゃないですか。アメリカにあの存在が登場してしまうと、余計に非日常感が増すというか。これでは“清水崇”の考える日常に接した恐怖とはかけ離れてしまうし…。
アメリカにはアメリカのホラーのスタイルがあって、そっちの方が確実にフィットします。特に最近はアメリカでもホラー映画の最盛期になっており、その特徴はアメリカの抱える社会問題を反映させているということです。
ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』や『アス Us』のような人種問題を巧妙に織り交ぜたものは絶賛されていますし、リー・ワネル監督の『透明人間』のような性差別問題を下地にした秀逸なアレンジもあったり、『クワイエット・プレイス』のようなアメリカ人が好むポスト・アポカリプス世界観を描くものも大人気です。
逆にこういうアメリカで絶好調なホラー映画は日本に持ち込まれると映画マニアは大喜びですが、一般の日本人観客層にはピンとこなかったりする。それはアメリカ社会にあるこれら要素を日本社会では共有しきれていないからに他なりません。
日本はホラー映画界隈においてはかなりガラパゴス化しているというか、それどころか進化すらもなくなっている感じです。
そのやや古めかしいものになっている日本産の「呪怨」をアメリカに持ち込むなら徹底してアメリカ流に換骨奪胎しないとダメですね。少なくとも『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』は2020年のアメリカで通用するような映画ではなかったのは間違いありません。
まあ、日本には『貞子vs伽椰子』という挑戦的意欲作(問題作?)も出たりしましたし、今後も予想外の化学反応で全く新しい進化を見せてくれるのも期待してみたいところです。ジャパニーズ・ホラーもネクスト・ステージを打ち出す一作が登場してほしいのですけどね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 20% Audience 23%
IMDb
4.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★
作品ポスター・画像 (C)2020 Grudge Reboot, LLC. All Rights Reserved. グラッジ4
以上、『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』の感想でした。
The Grudge (2020) [Japanese Review] 『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』考察・評価レビュー