嘘はバレる。オチはバレない…ドラマシリーズ『ポーカー・フェイス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
シーズン1:2024年にU-NEXTで配信(日本)
原案:ライアン・ジョンソン
動物虐待描写(ペット) DV-家庭内暴力-描写 交通事故描写(車) 恋愛描写
ぽーかーふぇいす
『ポーカー・フェイス』物語 簡単紹介
『ポーカー・フェイス』感想(ネタバレなし)
ライアン・ジョンソンのミステリー愛はドラマにも!
「スター・ウォーズ」を豪快に貫いて遊んだ気概のある”ライアン・ジョンソン”監督は、大のミステリー好きだそうです。そう言えば、長編映画監督デビュー作の『BRICK ブリック』(2005年)や話題のSF映画『LOOPER/ルーパー』(2012年)も、基軸はミステリーになっていました。
その”ライアン・ジョンソン”監督が、クラシックなミステリ作品の代表作である“アガサ・クリスティ”の「エルキュール・ポアロ」にオマージュを捧げまくって作り上げたオリジナル作品が2019年から始まった『ナイブズ・アウト(ブノワ・ブラン)』シリーズでした。1作目の『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』、2作目の『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』と続き、”ライアン・ジョンソン”監督のミステリー愛が炸裂しまくっていたのがひとめでわかりました。
これで飽き足らない”ライアン・ジョンソン”監督。今度は『刑事コロンボ』をオマージュした新しいミステリーを生み出してくれました。
それが本作『ポーカー・フェイス』です。
先ほども言ったとおり、『刑事コロンボ』っぽい事件解決スタイルなのですが、『ポーカー・フェイス』ならではの個性があります。
そのひとつは、語り口。本作はドラマシリーズです。しかし、基本的に1話ごとに完結する個別の事件を取り扱っています。加えて、そのエピソードの最初に殺人事件の犯人もトリックもアリバイ作りの仕掛けまで全部かなりじっくり視聴者に見せてくれます。いわゆる「倒叙(howcatchem)」という形式ですね。
なので犯人当てを楽しむことができない代わりに、「どうやってこの真相に辿り着くんだ?」というハラハラドキドキで眺めることができます。ワンパターンにならず、毎回手を変え品を変えで遊んでくるので、バリエーションにまんまと翻弄されて楽しいです。
その謎解きをすることになるのが本作の主人公。この主人公も特徴的。探偵でもなければ刑事でもない。ただの一般人。それもホームレス状態で移動しながらその時々で職を転々として食いつないでいる女性です。たまたま現場に居合わせただけにすぎません。
テイストとしてはちょっと『家政婦は見た!』に通じるものもある気がします。「うわ…事件が起きちゃったよ…」みたいな間が悪い遭遇。その遭遇者も世間で最も下にみられる立ち位置の人間。だから事件に強く介入はできません。だからこそ「犯人はお前だ!」と堂々と推理するわけでもなく、事件に対する関わり方もしれっとしたものであったり…。
そして本作特有のユーモアや皮肉を残すオチなどが毎回添えられ、結構病みつきになる新時代のミステリードラマが出来上がっているのではないでしょうか。いやぁ、”ライアン・ジョンソン”監督、やっぱりミステリー、好きなんだな…。あちらこちらに「好きです!」って気持ちがこぼれてる…。
そんな『ポーカー・フェイス』で主演を飾るのは、ドラマ『ロシアン・ドール: 謎のタイムループ』でおなじみの“ナターシャ・リオン”。今回でも製作総指揮・エピソード監督などを兼任しており、“ナターシャ・リオン”でしかだせない味わいを染み込ませています。かすれた声で事件を解決です。
また、1話ごとに毎回事件が違ってくる形式なので、登場人物も毎度異なります。“ナターシャ・リオン”以外のレギュラー出演の俳優がいません。中には意外な有名俳優もフラっと登場したり、そんなあたりもお楽しみポイントのひとつ。そう考えると、近年のミステリードラマの中では相当にゴージャスな一作ですね。
『ポーカー・フェイス』は本国アメリカでは「NBCユニバーサル」の動画配信サービス「Peacock」で独占配信されたのですが、日本ではこの動画配信サービスは展開しておらず、本作については「U-NEXT」が取り扱っています。
シーズン1は全10話。1話あたり約45~65分程度で、1話完結型で見やすいので、時間があるときに少しずつ鑑賞するのもよいでしょう。
『ポーカー・フェイス』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ミステリーオタクも |
友人 | :気軽に眺めて |
恋人 | :ジャンル好き同士で |
キッズ | :やや大人向け |
『ポーカー・フェイス』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
豪華な娯楽ホテルで今日もスタッフがせわしなく働いています。ある部屋に清掃に来たのは、スタッフのナタリーです。その部屋に入るとノートパソコンが開きっぱなし。それを見たナタリーは動揺して廊下にでます。もう一度部屋に戻り、スマホで撮影。
ナタリーはそのままホテル内のカジノ・ルームへ移動し、警備責任者のクリフ・ルグランドに報告します。クリフは顔色を変え、緊急事態だとカジノのマネージャーであるスターリング・フロスト・ジュニアに伝えます。
スターリング・フロスト・ジュニアは「信じたくないな」とそのナタリーのスマホに記録された写真を見てひとこと。その部屋はカジミール・ケインの泊っているもので、彼は大物でした。スターリング・フロスト・ジュニアは穏やかな口調で「対処する」とナタリーを説得。しかし、さりげなく証拠を削除します。
そしてクリフに命じます。クリフは金庫から銃を取り出し、ナタリーの夫の家に行き、彼を射殺。帰って来たナタリーも間髪入れず殺し、殺人と自殺に偽装。立ち去ります。その後に終わったとスターリング・フロスト・ジュニアに短く報告するのでした。
その少し前…。
ネバダ州ラフリンのカジノで働くウェイトレスのチャーリー・ケイル。チャーリーはトレーラーハウスで独り暮らしており、ナタリーとは友人で、職場も同じホテルです。ホテルの職員入り口の金属探知機を通過しながら、ナタリーが虐待的な夫に苦しんでいることをチャーリーは知ります。
その日、チャーリーは上司のスターリング・フロスト・ジュニアに呼ばれます。実は誰かが嘘をついているかどうかを見分ける能力を持つチャーリー。カジノ運営においては圧倒的才能で、クビにもできません。その天の恵み(ギフト)を見込んで何やらお願いがあるようでしたが、ちょうどトラブルが起きます。
ナタリーの夫ジェリーがカジノで暴れているというのです。ジェリーが足首につけていた銃に気づき、クリフはそれを回収。ジェリーは追い出されます。とりあえずチャーリーはナタリーを自分の家に泊めてあげます。
翌日、またもチャーリーはスターリング・フロスト・ジュニアに呼ばれ、例の話の続きをしようとしますが、今度は何やら電話。それを受けたスターリング・フロスト・ジュニアは少し席を外します。
その日の終わり。チャーリーはニュースで知ります。ナタリーが夫と共に死亡したことを…。夫婦の無理心中のように報じられていますが、チャーリーはすぐに違和感を感じます。
独自の調査でチャーリーは真相に辿り着き、カジミール・ケインの児童ポルノ所持を隠蔽しようとしたスターリング・フロスト・ジュニアの仕組んだことだとわかりました。
そのことを本人に突きつけますが、スターリング・フロスト・ジュニアは優位だと思っているので余裕の態度。しかし、このカジノのポーカーがイカサマである証拠をカジミール・ケインに教えると脅すと、急に顔色を変え、彼はその場で飛び降り自殺してしまいました。
チャーリーは逃走の身となり、その地域から車で離れます。さらについさっき死んだあの男の父であるフロスト・シニアから電話があり、追いかけて殺すと脅迫され…。
シーズン1:チャーリー・ケイルは見た!
ここから『ポーカー・フェイス』のネタバレありの感想本文です。
『ポーカー・フェイス』は第1話から急転直下。チャーリー・ケイルの逃走人生の始まりです。
職場の同僚であるナタリー(演じているのは“ダーシャ・ポランコ”。“ナターシャ・リオン”とは『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』での共演の仲なので、懐かしい組み合わせ)の死を引きずりながら、チャーリーは逃げのびなくてはいけません。
でも、このチャーリーの生活適応力には目を見張るものがありますよね。転々と毎エピソードでいろいろな仕事でとりあえず稼いでいるのですけど、結構周囲と打ち解けて馴染めてしまっているのです。コミュニケーションの能力が高いのか、人柄が良いのか、プロフィールが曖昧な人間であるわりには他者からの信頼を得るのがあっという間です。
本作は毎話の序盤は事件の全容が提示されます。チャーリーの姿が見えません。そのため「今回はどこにチャーリーが紛れているんだ?」とまずそこで楽しめます。
第6話の芸能界における俳優同士の確執とか、第7話のレーサー同士のライバル関係からの行き違いとか、もうこれはそんじゃそこらの一般人が間に入る余地はないだろうという題材もあるのですけど、なんだかんだでチャーリーがそこに混じっている…。
今作のチャーリーが主人公として面白いのは、事件の解決に対するアドバンテージみたいなものが実際は全然ないのに、それでも正解に繋がっていくところです。
刑事だから探偵だから一目置かれるみたいな、特別扱いをしてくれることが、こういう事件解決系のミステリーにはつきものですが、チャーリーにはそういうことはない。嘘を見抜けるといってもそれはコミュニケーションの積み重ねなので、チャーリーはあくまでその地道な交流だけで突破口を見つけます。もちろん土壇場の勘や判断力もあるにはありますが…。
“ナターシャ・リオン”の演じるこのチャーリーというキャラクターが魅力たっぷりなので、見ている観客としても永遠に見ていたくなります。まあ、事件に巻き込まれたくはないけど…。
シーズン1:皮肉なオチが楽しい
『ポーカー・フェイス』は毎話で展開もオチも皮肉が効いています。やはり犯人当てには醍醐味がないので、別の方面で攻めている感じでしょうか。
第3話はいきなり「私は”murder”だ」と打ち明ける人物の姿から始まり、「え? ずいぶんと雑に犯人を開示するんだね!?」とびっくりしていたら、「そっちかよ…」っていう。美味しいバーベキューを提供しているボイル兄弟でしたが、チャーリーが『オクジャ』をジョージ・ボイルにオススメしたばっかりに、ジョージは家畜産業の残酷さに気づき、ビジネスをやめることを心に決める…。しかも、ちゃんとそれがこの殺人事件へと接続していくという、ヴィーガンなプロットでした。
第4話はもっと皮肉たっぷり(個人的には1番好きなエピソード)。超絶ヒット間違いなしの名曲を盗んでやったぜと思ったら、ドラマ『ミスター・ベンソン』のテーマ曲のパクリで著作権侵害です…という二段盗用発覚。アイツもバカですが、そのバカさに気づかなかったヘヴィメタルバンドの面々はもっとバカだったという屈辱のラストでした。これなんて、ほんと、ドラマの1話分でやるからできるような、くだらないオチです。
第7話は、レーサー対決という定番の男性スポーツ的な展開で最初はぶっ飛ばし、オチで「女に負けることにびびる男の恐怖心」という、非常にマスキュリニティをいじるオチを用意してくるあたりの意地悪さ。「The Future of the Sport」というエピソード・タイトルの皮肉も刺さります。
第8話なんかは逆に「これをドラマの1話だけでやるのはもったいない」と思わせるスケールで、映画にできそうです。視覚効果会社「LAM」という、明らかに「ILM」を元ネタにしているなというスタジオで起きていく、映像の歴史とも重なる壮大な創立者の人間模様。この回は完全にサイコ・スリラーになっているのですが、“ナターシャ・リオン”監督回でもあり、かなり際立って個性を放っていました。
第9話は、仮釈放中の自宅軟禁中、システムダウンの隙にハメを外したトレイ・ネルソン(相変わらずクソなキャラが似合う”ジョセフ・ゴードン=レヴィット”)が車で人を轢くのですが、轢かれたのはまさかのチャーリー。この回ではクローズド・サークルもので、ナイフで思いっきり刺されもするし(しかも生き埋め)、よく死ななかったなという感じですが、第5話でもかなり危うい爆弾女たちによって老人ホームで九死に一生を得る間一髪の爆死回避をしているので、チャーリーは生命力の高さがあらためて証明されました。
そして第10話では、逃走に一応の決着。ここでのクリフが銃のすり替えという、第1話のときと同じトリックでハメようとしているところがプロットの味になっています。
しかし、一難去ってまた一難。フロスト・シニアはクリフの策略で殺されましたが、今度はそのライバルであるベアトリクス・ハスプという謎の女に目をつけられるハメに…。
チャーリーは家族ともかなり仲が悪いようで、第10話で姉妹とまたほんのわずかだけ再会しましたが、それでも絶縁状態。今後はそこもちょっとずつ明らかになる感じなのかな。
『ポーカー・フェイス』はシーズン2への継続が決定済み。シーズン2とは言わず、この作品スタイルが確立されていれば、シーズンをもっと重ねていけるはず。”ライアン・ジョンソン”、ずっとミステリーを作っていてくれ…。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 98% Audience 81%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Peacock ポーカーフェイス ポーカーフェース
以上、『ポーカー・フェイス』の感想でした。
Poker Face (2023) [Japanese Review] 『ポーカー・フェイス』考察・評価レビュー