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ドラマ『The Wilds(ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち)』感想(ネタバレ)…島漂着モノの新たな傑作

ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち

古いジャンルを革新的に蘇らせたのは少女だった…ドラマシリーズ『The Wilds(ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち)』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Wilds
製作国:アメリカ(2020年)
シーズン1:2020年にAmazon Primeで配信
原案:サラ・ストライカー
イジメ描写 交通事故描写(飛行機) 恋愛描写

ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち

ざわいるず ことうにのこされたしょうじょたち
ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち

『ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち』あらすじ

10代の少女たち数名は想像を絶する体験をした。それは誰もいない無人島での出来事。学校生活を忘れてリラックスした研修を受ける予定だったはずが、不運なせいか、日頃の行いが悪かったせいか、乗っていた飛行機は突如として激しく揺れ、気が付けば海だった。その島で起きたことは不安定な心を抱える少女たちに何をもたらすのか。

『ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち』感想(ネタバレなし)

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ジャンルを蘇らせたのは女子だった

「castaway」というジャンルが昔からあります。

これは簡単に言ってしまえば漂流・漂着モノです。何らかの事故などのせいで、孤立無援な環境で漂流したり、助けのない逃げ場なしの場所に漂着して、そこでサバイバルを余儀なくされたり。そういうシチュエーションを舞台にしたジャンルのこと。すぐに想像つきますね。

とくに無人島に漂着して極限環境下の自然の中で生存を試されることになるタイプのものはわかりやすいでしょう。ほどよいフィールドがあるのでドラマも生まれやすいです。

映画でもそのジャンルは古くからありました。例えば、1923年に最初の映画が登場した『青い珊瑚礁(The Blue Lagoon)』はクラシックと言えますし、1932年の『Mr. Robinson Crusoe』や1960年の『スイスファミリーロビンソン』など、定期的に作品は登場しています。ゼロ年代の最大の有名作はなんといってもトム・ハンクス主演の『キャスト・アウェイ』(2000年)。2016年の『スイス・アーミー・マン』もかなりトリッキーな部類ですが、このジャンルの仲間と言えるかもしれません。

そんな中、このジャンルでひとつの決定版となったのがドラマ『LOST』です。2004年から始まったこのドラマシリーズは、南太平洋の島に飛行機が墜落し、その生き残った乗客がその島でサバイバルしていくというシンプルな導入。しかし、そこに次から次へと予想外の展開が起き、視聴者をハラハラさせるストーリーテリングが絶妙で、一気に社会現象になるほどの話題に。たくさんの賞にも輝きました。ゼロ年代のドラマなどで今の10代のティーンは知らないかもしれませんが、これで海外ドラマにハマった人も多いはず。

この『LOST』があまりにもこのジャンルを極めた感じがしたので、さすがにもうこれを超えるものは作れないのではないか。そう思うのも無理はありません。

しかし、この2020年という大混乱で始まった新時代の1年の終わりに、ついに誕生しました、新たな「島漂着モノ」の傑作が…。それが本作『The Wilds』です。

なお、ちょっとややこしいのですけど、本作はAmazonオリジナルのドラマシリーズなのですが、サイト上のタイトルは「The Wilds」と原題のままなのですが、本編を観ると翻訳では「ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち」と邦題がついています(設定ミスなのかな)。

この『The Wilds』は結構『LOST』に似ています。明らかに意識して作っていると言えます。なのでなんとなく『LOST』を鑑賞済みの方なら察せると思いますが、絶対にネタバレしてはいけない系の作品です。むやみにネット検索しないで、さっさと鑑賞してしまいましょう。

では何が新しいのか。まず本作『The Wilds』は無人島でサバイバルするのが全員10代の女子なんですね。それだけだと「ふ~ん」って感じなのですが、その設定の活かし方が本当に上手いです。

10代の女子がサバイバル!なんて聞くと、やっぱりなんだかんだで「シスターフッドで苦難を乗り越えよう!」的な着地でしょう?…と思うじゃないですか。ところが本作はそうは問屋が卸さない。とにかく本作は10代の女子が抱える葛藤が非常に重々しく生々しく描写されます。ドラマ『ユーフォリア』に近いものがありますね。だからこそ切実さがグサグサ刺さるのですが…。

あとはもう…言えない。ネタバレになるので後半の感想で。とりあえずこういうジャンルが好きなら必見だと思います。

原案はドラマ『デアデビル』でライタースタッフをしていたという“サラ・ストライカー”。さらに10代女子映画の傑作として絶賛された『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』の脚本を手掛けた“スザンナ・フォーゲル”が一部のエピソードを監督しています。他の監督は『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』の“ジョン・ポルソン”や、『ディードラ&レイニーの列車強盗』を監督した、ナバホ族でトランスジェンダーでもある“シドニー・フリーランド”など。

俳優陣の10代の女子を演じるメンバーはフレッシュな逸材が揃っていますし、これをさらに踏み台にして飛躍してくれそうです。

観ればきっと観た人同士で語り合いたくなるドラマシリーズですので、一緒に孤島に行きましょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(1話見れば続きが気になる)
友人 ◎(語り合いも盛り上がる)
恋人 ◎(話題性はじゅうぶん)
キッズ ◯(ティーンなら良いけど)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):女子だけの島

2人の男性を前に面談を受けているひとりの女子。彼女の名前はリア。しかし、これが学校の面談ではありません。場所は冷たい無機質な部屋です。2人の男性は、PTSDの専門家FBIの捜査官だそうで、「目的は事実の確認だ」と告げます。雑談のつもりで何があったのかを話すように促してきました。

けれどもリアは厳しい口調で言います。

「悲惨な経験をしたと決めつけている。失った生活はそんなにいいものだったのか。あの島で起きたことは確かに悲惨だった。でもこの国で10代の女子として生きていくことはもっとサバイバルよ」

リアは退屈な学校生活を送るティーンでした。クラスメイトはそれぞれが個性を放って埋もれないように必死でしたが、自分はそんなことをする気にもなれません。しかし、ある日、自分が大好きな本を書いた著者であるジェフリー・ガラニスとたまたま親しくなるチャンスに恵まれます。そして、連絡先を交換すようになり、そのやりとりに夢中になります。

ところがある日、ジェフリーから「キスしたい」と明らかに交際を求めるメッセージが届き、関係を断ち切りたくなかったリアは自分は16歳であるにもかかわらず18歳だと偽り、ホテルで彼と出会い、そのままセックスをしてしまいました。

しかし、なぜかその自分の本当の年齢はジェフリーに伝わってしまいました。このままでは性犯罪になると焦るジェフリー。2人の関係はそこで途絶えます。それでもリアは失恋のショックから立ち直れず、部屋で沈み込んでいました。

そんな娘に対処できなくなった両親はリアを「ドーン・オブ・イブ」という研修旅行に行くように促します。それは女子だけのプログラムらしく、ハワイ島で現実を忘れて快適に同年代の仲間と暮らせると謳われていました。でもリアは厄介払いだろうと勘づいていました。

ハワイ島へ向かうチャーター機に乗ったリア。確かに女子だけの研修らしく、アメリカ各地から参加した複数の女子がいます。でもリアは仲良くなる気もありません。

そしてそれは突然起きました。飛行機は激しく揺れ、それは墜落する前触れにしか思えませんでした。女子たちは各々でパニックになります。しかし、リアはジェフリーの本をじっと見つめることしかできず…。

目を覚ますリア。そこは海に浮かんだ飛行機の破片の上。無数の残骸が散らばっており、墜落したことがわかります。「誰か返事して!」と叫びますが、何もなし。すると一緒に乗っていたジャネットという子のバックにあったスマホが鳴っているのを発見。慌てて取り出すも海に落としてしまいました。

近くにそのジャネットが浮いているのも見つけ、泳いで駆け寄りますが、彼女は相当に意識が朦朧としており、危険な状態です。すると少し離れた場所にを発見。とりあえず泳いで引っ張ります。

島には他にも生き残った女子たちがいました。トニマーサドットシェルビーレイチェルノラの姉妹、ファーティン

砂浜に到着し、ジャネットは息をしていないことを確認したので心肺蘇生法を試します。かろうじて息を吹き返すジャネット。

安心するも状況は絶望的です。生存者はどうやらこの女子たちのみ。島は無人島のようです。ダイエットコーラばかりしか流れ着いてこず、装備もほぼなし。なぜかみんな墜落時の記憶はありません。

1台だけスマホが動いたものの、電池はわずか。どこにかけるかみんなで考えるも、誰も応答してくれません。そうこうしているうちにジャネットが倒れます。死んでいました。悲しみにくれ、ジャネットの遺体を埋葬する一同。

そんな話を打ち明けつつ、リアは2人の男性を前にこう言います。「まだ誰にも話していないことがある」

その夜。みんなが砂浜で野宿して寝静まったとき、リアはスマホの着信音を聞いたのです。それはジャネットを埋めた場所からのもので掘り出すと確かにスマホがあります。なぜ彼女は2台も持っていたのか、そしてそれを言わなかったのか。わかりませんが、リアはそのスマホでジェフリーに電話をかけてしまいました。しかし、「もう話しかけないでくれ」と一方的に切れます。せっかくの外部と連絡をとる機会をみすみす無駄にしたことは、ほかの誰にも言えず…。

「彼は私の安否を問い合わせてきた?」と質問するも、答えない捜査官。

しかし、リアも知らなかった秘密があります。そうやって埋葬している女子たち、過酷な島で生き抜こうともがく女子たちがモニターに映っている謎の施設。その監視映像を見つめる女性がいたことを…。

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10代女子を表面で判断するな

『The Wilds(ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち)』は実に多様な女子たちが集う作品です。出身も、人種も、宗教も、家庭環境も、交友関係も、みんなバラバラ。一見すれば恵まれているように見える子もいます。しかし、全員がそれぞれの苦悩を抱えていました。「勝ち組・負け組」なんて雑な二分類はできません。

冒頭でリアが言うとおり、10代の女子にとって日常はほのぼのアニメや学園ドラマとは違う、生きるか死ぬかのサバイバル。苛烈な生存競争がそこにありました。

リアは他人を俯瞰的に見る傾向にありますが、誰よりも感情のコントロールが苦手です。とくに恋愛に関しては強迫的にまでなり、自分を愛していたのかもわからない大人の男性への執着を忘れられません。あのジェフリーにとっては替えのきくどうでもいい相手だとしても、リアにとっては人生のすべてでした。そんなリアは陰謀論的な思考にも憑りつかれやすく、それが大きな悲劇を生むと同時に、この島の核心に迫ることにも…。

トニは割とオープンリーなレズビアン。母は依存症の施設におり、マーサとは友人。そしてリーガンという子と恋愛関係を持ちます。しかし、デート中にホモフォビア全開な男集団に攻撃され、カッとなって反撃。愛する人を守りたい一心だったものの、それは裏目に出てしまい…。そんなトニも島でシェルビーとロマンスを育み、優しい愛し方を学んでいきます。

マーサは先住民族であるオジブワ族です。動物を殺すのを嫌うなど性格は温厚。しかし、怪我をした際にお世話になった理学療法士テッド先生が少女への性的虐待の罪で訴えられ、人のいいところだけを見ようとするマーサは逆恨みだと先生を頑なに信じようとします。性犯罪の被害を受け止めるまでの葛藤が、あのヤギ殺しのエピソードには詰まっている感じでした。

ドットは貧しく学校ではドラッグを売っていました。家では父親の介護に専念するヤングケアラー。やむなくドットは父に懇願され、自らの手で父を安楽死させることに。そんなドットは島ではリーダー的ポジションで、備品の管理をするなど几帳面な性格が活かされます(父をケアしていた際に身についた能力というのが皮肉ですが…)。

シェルビーはテキサス育ち。父は厳格な牧師で、クリスチャン家庭で溺愛されてきました。ミスコンに参加しますが、幼い頃から入れ歯をしており、それを隠しています。しかし、本当にもっと隠していたのは自分に同性愛の感情があるということ。ベッカとキスしてしまい、それに焦ったシェルビーは酷いことを言ってしまい、ベッカを自殺に追い込むことに…。島での良い子アピールはそんな迷いのカモフラージュでもありました。

ファーティンはリッチな家庭で育ち、最もセックスに積極的。実はチェリストとして音楽の才能があり、ジュリアードを期待されているほど。それがプレッシャーとなり、やがて親に見捨てられる結果になり…。島でも高慢に見える態度で接してきますが、その奥底は繊細で誰よりも助けを必要としていました。

レイチェルはノラの双子の姉。知能が優秀なノラに幼い頃から引け目を感じ、そのぶんを飛び込み選手として運動に捧げてきました。しかし、女らしい体だからという理由で引退を宣告され、失望。そんなレイチェルが泳ぎに依存する姿勢から、それを怖がる状態に変移し、やがて克服へとつながる島でのサバイバル。しかし、待っていたのはサメという最も自然的な試練で…。

ノラはレイチェルの妹。性格は内気で、本の虫。そんな彼女にも以前はクインというボーイフレンドができますが、レイチェルの反応が否定的で結局関係を断ることに。姉想いすぎるところがあり、その感情をある人に利用されてしまい…。

10代の女子を表面で判断するなかれ…ということがよくわかる物語です。キャラクター構築がしっかりしていることが本作のドラマの切迫さにも繋がっており、巧みなところ。

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強者の白人女性のフェミニズムの傲慢

『The Wilds(ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち)』の黒幕はシーズン1の第1話のラストで早々に明かされるとおり、グレッチェン・クレインという女性。

彼女の目的は何なのか。男性社会への憎しみを露わにし、「女性の楽園を作る、権力は女性の手に!」と高らかに語るグレッチェン。

彼女の立場は「コーポレート・フェミニズム」(ミドルクラスの白人女性を主体に既存の資本主義的な社会&組織にそこまで事を荒立てることなく迎合するようなフェミニズム)をさらに上回る、一種の「強者の白人女性」が考えるフェミニズムの傲慢さが露悪的に表出しているように思えます。

例えば、グレッチェンが味方につける若い女子。島でのプロジェクトを遂行するうえで欠かせない監督役とサバイバルスキルを備える助言役。それに選んだ2人はいずれも有色人種です。

ジャネット(本名はリン)は過去にレイプドラックで襲われた経験があり、それもあって男性社会打破のグレッチェンの思想に共感します。しかし、ジャネットは眠らされる女子たちにかつての自分を思い出し、躊躇。つまり、グレッチェンのやっていることは女子を昏睡レイプしているも同じ。それにアジア系女性への雑な扱いが露骨に出ている風刺があります。ノラだってグレッチェンに言葉巧みに誘導され、使役されているようなものです。

要するにグレッチェンは表面上は女子たちに共感を示しているものの、それはしょせん偽りの連帯に過ぎず、自分本位です。

それが如実に示されるのがグレッチェンが男性社会を憎む動機になっているであろうあの事件。自分の息子デボンが大学のフラタニティでクインを虐めて死に追い込んだ一件。それを“有害な男らしさ”のせいで息子は悪影響を受けたのだと宣うのは、加害者の母親が言っていいセリフではなく…。

つまるところ、ミサンドリーを極めると保守的な女性そのものになってしまい、それは支配的な男性社会とそう変わらない存在になってしまうわけで。

それでもあの島の10代の女子たちはそんな歪んだ動機で設定された環境下に置かれ、そこに絶望と希望の狭間を見出す。この切なさと虚しさがまた何とも言えず…。

こういう痛烈に攻めた悪役女性像を構築できるのもまた本作のひとつの発明かなと思います。

「トワイライト・オブ・アダム」という新しい計画もチラ見えしたシーズン1最終話。リアたちは次に何を強いられるのか。そこに本当の10代の女子の解放はあるのか。

シーズン2への期待は高まりますね。

『ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 92% Audience 84%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C) ABC Signature, Amazon Studios

以上、『ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち』の感想でした。

The Wilds (2020) [Japanese Review] 『ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち』考察・評価レビュー