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『ネオン・デーモン』感想(ネタバレ)…キャットフードでは満足できない

ネオン・デーモン

キャットフードでは満足できない…映画『ネオン・デーモン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Neon Demon
製作国:フランス・アメリカ・デンマーク(2016年)
日本公開日:2017年1月13日
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
ネオン・デーモン

ねおんでーもん
ネオン・デーモン

『ネオン・デーモン』物語 簡単紹介

トップモデルを夢見てロサンゼルスにやってきた16歳のジェシー。まだあどけないが、磨けば光る原石として逸材であった。人を惹きつける天性の魅力を持つ彼女は、すぐに一流デザイナーや有名カメラマンの目に留まり、順調なキャリアを歩みはじめる。そこは己の美しさを武器にする世界。そして、ライバルたちの凝縮された煮えたぎる嫉妬心と、ジェシーの目覚める異常で貪欲な野心は、やがてある結末を迎える。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ネオン・デーモン』の感想です。

『ネオン・デーモン』感想(ネタバレなし)

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賛否両論、でも気にしない

世の中の映画には賛否両論が巻き起こる映画というのは毎年いくつもあります。中にはどちらかといえば否定意見の方が大きい作品だって存在します。しかし、それらの評価はあくまで相対的なものであって、別に映画自体の価値が低いと言っているわけではありません。そもそも映画は創作者の表現したいことを表現する芸術(アート)なわけですから、万人ウケを狙う必要は微塵もありません。万人に評価を集める作品こそ正しいとされがちなのは、映画を商業的な売り物として見なすこともあるからです。もちろん大ヒットして高評価を集める映画はそれはそれで凄いことですが、映画の良し悪しを決める物差しはそれだけではないです。

だからこそ映画監督の中にはそんな商業主義なぞ一切無視して自分のやりたいようにやる人も一定数います。インディペンデント系やアート系の作品を生み出す監督たちには、独自のこだわりがあり、その作家性を捻じ曲げることはしません。ゆえにカルト的な人気を得ているクリエイターもいるわけです。

そのひとりは間違いなく“ニコラス・ウィンディング・レフン”監督でしょう。“ニコラス・ウィンディング・レフン”監督といえば、理想への追求をひたすら貫く人間…そんな印象です。

2011年に製作された監督作ドライヴが独自の映像センスと演出でコアな映画ファンを魅了し、カンヌ国際映画祭で監督賞も受賞。これだけ高い評価を得れば、このままのスタイルを維持すればいいと普通は考えそうなものですが、そうはしないのがレフン監督。『ドライヴ』から自分のセンスを極端に研ぎ澄まして2013年に製作されたオンリー・ゴッドは、映画ファンも批評家も困惑でした。ここで世間の評価を気にして『ドライヴ』のときのスタイルに後退するのかと思いきや、やっぱりレフン監督はそんなことはしません。『オンリー・ゴッド』からさらにセンスを先鋭化して生まれたのが本作ネオン・デーモンです。

「私のセンスに付いて来れるやつだけ付いて来い」的なノリですので、『ドライヴ』しか観たことがない人は咀嚼しづらいでしょうし、ましてやレフン監督作を初めて観ますなんて人は口に入れるまでもなく見ただけで吐きかねない。そんな極端な作品です。

もう少し具体的に説明するなら、私の考える『ネオン・デーモン』が賛否両論を巻き起こす理由は2つ。

まず、映像の倫理的な問題。まあ、これは詳しく書くとネタバレになるので避けますが、映倫区分が「R15+」である以上に、常軌を逸したおぞましい描写があるということだけ事前に知っておいてもいいでしょう。これだけで観る人を選びますから。まあ、言ってしまえばグロなのですけど、それをアーティスティックに描くという領域を受容できるかどうかが肝ですね。

ただ、私が一番賛否分かれるだろうなと思うのは、本作で描かれる女性観。本作は、ファッションモデル業界で生きる女性たちを主軸にした物語です。いうなればフェミニズム的ともいえる世界観なのですが、普通のフェミニズムじゃない。いや、なんというか、“正しさ”を描きたいわけではないというか…。生まれ変わったら女になりたいとインタビューでも言っている“ニコラス・ウィンディング・レフン”監督の独特の女性観が、ストーリーが進むごとに色濃く溢れてくる作品です。こればかりは世間の目とかを一切気にしていない監督の自己満足の世界なので、外部がどうこう言ってもあれなのですけどね…。

そんな小難しい評価はさておき、「なんか凄いものを観た」という気分になれるだけでも、鮮烈な映画体験として面白いと思うので、気になる人はレフン監督ワールドを覗いてみてはいかがでしょうか。この手の映画慣れしていない人と一緒に観るのはオススメしませんが、耐久性のある人と見れば「あれは何だったんだ」と感想の語り合いが盛り上がると思います。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ネオン・デーモン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):ネオンの世界に

モデルを目指すジェシーは血塗れのメイクでソファに横たわり、身じろぎもしません。そしてシャッターが何度も瞬き、その死のアートがフラッシュに照らされます。

その撮影が終わり、楽屋で自分の体についた血を吹きとっていると、ルビーという女性に話しかけられます。「ロサンゼルスに来たばかりなの?」と聞かれ、どうやらうぶな雰囲気でバレていたようです。ルビーはメイクをしているとか。ジェシーはモーテル住まい。両親はおらず、この業界に飛び込みました。

ジェシーはパーティに誘われます。そこでモデルをしている女性たちを紹介されます。ルビーはリップを塗られ、整形したばかりだというジジには「パーフェクトだ」と褒められます。ボーイフレンドについて聞かれ、「街に来たばかりで知人もいない」と答えると、それでもしつこく「男と寝たことはあるでしょ?」と問い詰められます。「何度も」と答えるジェシーですが、その態度は自信なさげ。

日中、ジェシーはインターネットで知り合った男のディーンに撮ってもらった写真を持ち込んで、自分を売り込みます。「毎日20~30人、面接している。田舎町から夢を抱いてくる少女たち。モデルになれると地元の男の子に言われて。みんな綺麗よ。でもあなたはそれ以上になる」と随分と称賛してくれるエージェンシー。そしてプロの写真家を紹介してくれます。

まだ高校に通っている16歳ですが、年を聞かれたら19歳と答えるように釘を刺されます。保護者の同意書に自分でサインをし、ついに業界へと足を踏み入れるジェシー。

ジェシーは写真を撮ってくれたディーンとロサンゼルスの街並みを一望できる場所に向かいます。故郷のジョージア州の空は大きかったと語るジェシー。歌もダンスも絵も物書きも才能が無かった…「でも私は可愛い。この可愛さで稼げる」

ディーンは「君は正しいと思うことをやれよ」と言ってくれます。去り際にディーンはキスしようとしますが、ジェシーは拒否してモーテルに戻ります。またデートをするという約束をして…。

こうして自分の身ひとつで底の見えないモデルの世界に浸かっていくのですが…。

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不完全こそ美しい

あ、忘れてた。あんまり食事しながら観るタイプの映画じゃないですよね(手遅れ)。

「食べちゃいたいくらい可愛い」という言い回しがありますが、本当にやるとは…。

でも、周囲の感想を聞くと「グロい」と言われたりしてますが、それほどでもないですよね(自分の感覚がマヒしているだけかもしれないけれど)。これはレフン監督がグロさよりも美しさを強調するような映像づくりをしているからだと思いますが。目玉をパクリとするところとか、高級チョコレートを食べるテレビCMみたいな官能さがありました。

映像のハイセンスさはいつもどおりのレフン監督ですが、『ネオン・デーモン』はいつも以上に象徴的な描写が多かった気がします。劇中で映し出されるアイテムや演出は何を意味するのかという議論が盛り上がるタイプの映画です。もちろん監督本人にしてみれば全てにおいて徹底してこだわりがあるのでしょうけど、どこまでついていけるかは観客がどこまでレフン思考と一体化できるかしだい。

私は、ジェシーの泊まるモーテルの部屋にピューマ(クーガー)っぽい大型ネコが侵入するくだりが特に印象に残りました。もちろん普通じゃ絶対にありえないシチュエーションなのですけど、ここでピューマをチョイスするあたりが実にレフン監督っぽい。さすがにアライグマとかじゃカッコ悪いですからね。また、ネコという生き物は、まれに母猫が子猫を食べる習性がみられるんですよね。まさにこの映画そのもの…。

本作は普通に考えると、「美しくなりたい」という欲が暴走するさまを描いた作品に思えます。しかし、レフン監督は「それみたことか」みたいな冷笑や批判は全くないのが異質なところ。むしろ美しさを求めるあまり、傍から見れば「狂っている」ような行動も、レフン監督は不完全さとして美しいと肯定的に考えているだから、ジェシーを殺して食べた女性たちも美しく描いたのでしょう。

世間では整形とかをした女性は批判的に見られがちです。そして、極端に先鋭化するばかりのレフン監督の作品もまた同じく批判されます。本作はそれらに対するアンチテーゼだと考えられます。レフン監督は「どんどん食っていけ」の精神なんでしょうね。

主演の“エル・ファニング”の見事な存在感も印象的。これは彼女をキャストした時点で勝ちな気がします。“エル・ファニング”は幼い感じの漂う女優ですけど、どこか理解不能な妖艶さもあって、なんかステレオタイプな評価を一切受け付けないタイプの女優ですよね。まさに『ネオン・デーモン』にぴったりでした。『SUPER8 スーパーエイト』とかで普通のベタなヒロイン役もやったりしますが、それだと彼女のポテンシャルを完全に活かしきれていない気もするし…。

俳優陣で言えば、相変わらずどういうセンスで仕事を選んでいるんだという“キアヌ・リーブス”の出番がなんだかシュール。たぶん本人もこういう自虐的な役、ノリノリでやってるんだろうなぁ…。

作品を重ねるごとに独自の感性が一層増していくニコラス・ウィンディング・レフン監督。そんなレフン監督の次回作はなんと日本が舞台のヤクザ映画だそうです。レフン監督が日本を食べつくすと何を生み出すのか…楽しみです。

『ネオン・デーモン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 58% Audience 51%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch  ネオンデーモン

以上、『ネオン・デーモン』の感想でした。

The Neon Demon (2016) [Japanese Review] 『ネオン・デーモン』考察・評価レビュー