そういうエンタメってどうなんだろうか…「Apple TV+」ドラマシリーズ『See 〜暗闇の世界〜』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2019年~2022年)
シーズン1:2019年にApple TV+で配信
シーズン2:2021年にApple TV+で配信
シーズン3:2022年にApple TV+で配信
原案:スティーヴン・ナイト
自然災害描写(津波) 性描写 恋愛描写
See 暗闇の世界
しー くらやみのせかい
『See 暗闇の世界』あらすじ
『See 暗闇の世界』感想(ネタバレなし)
視力のない人々の世界
私のこのサイト「シネマンドレイク」を見てくれている人はどれくらいいるのか、私にはわかりません(アクセス数を集計していないので…)。
ただ、ここで「見てくれている人」と書いてしまいましたけど、もしかしたらウェブサイトを“見る”、つまり視覚的に見ているのではない人もいるかもしれないですよね。つまり、「聴いている人」もいるわけです。
一般的に目が見えない人、いわゆる視覚障がい者はウェブサイトを閲覧するときは、読み上げ機能などを利用しています。サイトの内容が音声で読み上げられるので、それで中身を認識できます。サイトを音で理解しているということです。
私もそうした利用者を想定して、読み上げ機能とも親和性があるようになるべくサイトをデザインして、ときに改善もするように心がけているのですが、上手くいっているのかはイマイチよくわかっていません…。
視覚障がい者…日本語だと「盲」と言ったりしますが、英語だと「ブラインド・ピープル(blind people)」と呼びます。逆に目が見える人は「晴眼者(sighted people)」です。
視覚障がい者とひとくちに言っても、全く目が見えない人から、視力が完全にないわけではない人まで、さまざまですが、この世界はブラインド・ピープルを前提に作られていません。世界のあらゆるものが“見える”ことを当然として構築されています。それが普通すぎて疑って考えたこともない人が大多数でしょうが、あらたまって考える機会すらないのが実情ではないでしょうか。
例えば、テレビとか映画とかを“見て”いても「これはブラインド・ピープルを想定して練り込まれているな…」なんて実感すること、ありますか? 「字幕つけておけばいいだろ」くらいの感覚しか感じないですよね?
そんな中、今回紹介するドラマシリーズはそうした視力に依存している私たちの社会の現実を突きつける作品になっていると言えるのかもしれません。
それが本作『See 暗闇の世界』です。
このドラマ『See 暗闇の世界』は、「Apple TV+」独占配信の作品で、動画配信サービス本稼働の初陣を飾るオリジナルドラマのひとつとして『ザ・モーニングショー』と並んで展開が始まりました。
終末ディストピア(ポスト・アポカリプス)の世界観となるのですが、特徴的なのは、この世界の人類は「視力を失ってしまった」という設定です。なので全員目が見えません。目が見えないながらも、生存した人たちはコミュニティを築き、家庭を持ち、政治をし、生活しています。しかし、ある理由で戦争へと突き進みかねない騒乱が起きることに…。
制作にあたってはブラインドネス・コンサルタントと共に、この視力のない人たちだけからなる世界観を構築したそうで、本格的な姿勢が窺えます。
ドラマ『See 暗闇の世界』の原案は、『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』『セレニティー 平穏の海』の“スティーヴン・ナイト”。エピソード監督には、『ハンガー・ゲーム2』『レッド・スパロー』の“フランシス・ローレンス”、ドラマ『ハンナ ~殺人兵器になった少女~』の“アンダース・エングストーム”などが参加しています。
主演は『アクアマン』でおなじみの“ジェイソン・モモア”。相変わらず今作でもパワフルでモジャモジャです。
そこに『ブレードランナー 2049』の“シルヴィア・フークス”、『移動都市/モータル・エンジン』の“ヘラ・ヒルマー”、ドラマ『デクスター 警察官は殺人鬼』の“クリスチャン・カマルゴ”、『グランツーリスモ』の“アーチー・マデクウィ”、ドラマ『トラベラーズ』の“ネスタ・クーパー”などの役者勢が並びます。
視力のない人たちが織りなす世界をどう映像化しているのか…興味がある人はドラマ『See 暗闇の世界』をぜひ。全部でシーズン3まであります。
『See 暗闇の世界』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :じっくり堪能 |
友人 | :ジャンル好きなら |
恋人 | :少し長いけど |
キッズ | :性描写あり |
『See 暗闇の世界』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):時代の激変を目撃する
21世紀、致死性のウイルスが蔓延し、地球の人口は200万人足らずまで減少。かろうじて生き延びた者は視力を失ってしまいました。数世紀が経ち、視覚(ビジョン)は単なる幻想となり、口にするだけで異端扱いとなり…。
パヤン王国の外れのアルケニー村。妊婦のマグラが今にも出産間近で苦しんでいました。「ババ・ヴォスは?」とマグラはパリスに問いかけます。今は村の防衛を指揮しているそうで、村では武装した者たちが集結し、戦に備えていました。この村を指揮するババ・ヴォスは部隊を森へと進軍させます。
敵はおそらくパヤン王国のシベス・ケイン女王が送り込んできている「魔術師狩り」です。鼻利きに風の匂いを感知させ、マタルは事態を把握。アユーラは「馬は数十頭で人間は200人以上」だと説明。これは奇襲というよりは大軍です。
一方、魔術師狩りの部隊ではアルケニー村の密告者であるゲザー・バックスが連れ込まれてきて、将軍のタマクティ・ジュンが尋問していました。ケイン女王の妹を殺して死刑宣告された異端者の情報を知っていると言います。
「冬の終わりにある女が迷い込んできた。身ごもっている。族長はその女と結婚。首飾りにはジャーラマレルと刻まれている。異端者の名前で、悪魔の子を産もうとしているのです」
そんなことも知らず、マグラは双子を無事に出産しました。パリスは実父の名を問い、マグラは「ジャーラマレルだ」と答えます。
ババ・ヴォスの防衛部隊は戦闘を開始させます。石壁を登ろうとする者を鞭で撃退し、さらにババ・ヴォスは岩壁を崩せと指示。坂を大岩が雪崩のように落ち、敵を一時的に追い払います。
ババ・ヴォスたちは戻りますが、村人はあの女が厄介事を持ち込んだと非難し、女と赤ん坊を渡すと決議したと詰め寄ります。ババ・ヴォスは抵抗する覚悟を見せ、従う者たちもいれば、反発する者もいました。
その村の二分する争いを抑えるパリスは「峡谷を渡る」という案を提示。橋があるらしく、みんなで行くと、確かに橋がありました。こうして逃げることができました。
そして新たな故郷となる地に到着。木が切り倒された平地があり、まるで用意されていたかのようです。そんな地の空を飛ぶ1羽の鳥を、生まれたばかりの双子の赤ん坊が目で追って見ていました…。
シーズン1:目の見えぬ者の世界の情勢
ここから実写ドラマ『See 暗闇の世界』のネタバレありの感想本文です。
『See 暗闇の世界』は「視力の消失した人間だけからなる世界」をどのように映像化するのか、そこが何よりも注目されるところでしょう。
第1話からたっぷり見せてくれます。どうやらこの世界は本当にかつての文明の文化が全然伝わっていないようで(英語はしっかり喋るのはおかしくないか?)、点字すらなく、玉結びみたいな紐と手のひらの指なぞりでコミュニケーションしている描写がある程度です。
視力が無いという要素がとくに映像的に強調されるのが戦闘シーンで、序盤の村防衛での撃退戦、川下り逃走での攻防、そしてこの設定だとお約束とも言える暗闇下での視力保有者を翻弄する逆転劇…。まあ、だいたいババ・ヴォスが強すぎて圧倒してるんですけどね。目が見えないわりには眼光鋭く、熊にも単身で渡り合えるからな…。
そしてもうひとつの見どころは、視力でも見えぬところで動き出す権力争いです。
カンズア・ダムを宮殿にして機械を権力基盤としてきたパヤン王国を統治するケイン家のシベス女王は、ちょっと性快楽に溺れ過ぎたか、謀反によって地位がヤバくなり、まさかの王朝ごと洪水で押し流す大胆な手に。一時奴隷になるも、助けてくれた腹心のタマクティ・ジュンに重傷を負わせて軍隊を掌握するなど、転んでもただでは起きぬ姿勢は嫌な奴ながらも目が離せません。
次にシベスの妹だと明らかになったマグラ。暴君の姉とは違って平和な世界を築くために王族の血を活かして、シベスと火花を散らしながら内部争いに身を投じます。
さらに視力のあるジャーラマレル。彼はあちこちで視力保有の子どもを作り、その子たちを集めて新世界を作るという野望を抱いており、明らかに優生思想的です。啓蒙の家なんていかにも胡散臭い名前だし…。
こうした権力争いが勃発する中、ババ・ヴォス、パリス、そして視力を持つコフンとハニワはどの道を選ぶのか。
この世界の全貌はまだまだ見えていません。
シーズン2:テコ入れ的なキャラの死
『See 暗闇の世界』のシーズン2は、権力争いが激化します。
カンズア・ダム決壊(シベスのせい)で王朝を失いかけたパヤン王国は、領主ハーラン卿が統治するペンサにひとまず根城を構えますが、今度はトリバンテという大都市共和国が攻めてきて、二国間戦争へと突入します。
そのトリバンテを率いるのがババの弟のエド・ヴォス将師(演じるのは“デイヴ・バウティスタ”。兄弟が濃すぎる)。
やりたい放題のシベスは戦争にノリノリで(そもそもカンズア崩壊をトリバンテのせいにしている)、一方のマグラは戦争を食い止めたいと考えて奮闘。もう姉妹で殴り合ってくれないかな…。
このシーズン2はテコ入れのためなのか、前シーズンのキャラがガンガン死にます。オパイオル族の視力保持者ブーツ、その父のジャーラマレル、最後はパリスまで…。とくにジャーラマレルを殺すという物語上の選択はあれですね、「視力が蘇った理由を掘り下げるのはもうやめだ!」っていう製作者のぶん投げですか…。
その代わり、ハニワとレンの敵対国家を超えた愛が新たに挿入され、ドラマを盛り上げようとしていますが、なんで目が見える者同士の恋愛にしちゃうんだろうか…。そこは目の見えない者同士の愛を描くほうがフレッシュだろうに…。
シーズン3:2つの問題点
『See 暗闇の世界』のシーズン3は、ババがエドを打ち倒したグリーンヒル峡谷の戦いから256日後、トリバンテの科学者トルマーダが「爆弾」という新兵器を生み出し、全土を揺るがす次の戦争が勃発します。
物語は…もう割愛。三大ツッコミ要素を挙げるなら、「コフン、シベスに安易に誘惑されすぎじゃない?」ってのと、「シべスのパリス殺し含めたもろもろが許されすぎじゃない?」というのと、「ボウ・ライオンは木端微塵になるのに、爆発耐性があるので手榴弾も効かないババ、強すぎだろ!」ってことです。まあ、さすがに大量の爆弾を足元に自爆すればババも死にましたが…。
この『See 暗闇の世界』のドラマを総括すると、私はやはり2つのことが非常にモヤモヤする感じでした。
まず視力のない人たちを描くという土台がありながら、結局は物語の大部分が視力で楽しむ作品だという矛盾。なんだかんだで晴眼者のためのエンタメというところは変わりなく、余計に視覚障がい者を利用した雰囲気が否めません。演出も話が進むにつれてどんどん非視覚的な表現はおざなりになっていた気がします(シーズン1のオープニングが一番良かったのでは?)。
そもそも「晴眼者の救世主」という根本的なプロットの大穴があり、加えて、視力消失で荒廃したら先住民的な暮らしになってしまう(逆に晴眼者コミュニティは知を象徴する存在として描かれる。ラストの図書館とか)というのは「知」に対する能力主義的なスタンスが滲み出ています。これじゃあ、視覚障がい者は本も読めない奴らだから野蛮なことをするみたいに捉えられるじゃないか、と。ほんと、なんで点字の文化がないことにしちゃったのだろう…。
個人的に見たかったのは、ポスト・アポカリプスであろうとも、視力のない者たちでも独自に知を受け継ぎ、技術を発展させて、文化を発達させている…そういう姿だったんだけど…。
実際のブラインド俳優が全然出演していないのも寂しいですね(少しでてるけど脇役ばかり)。これでブラインド俳優が主要キャストを占めていたら、すごい画期的なドラマになったのに…。
あともうひとつ気になるのは、本作のオリエンタリズム。
『See 暗闇の世界』は微妙にところどころ日本っぽい要素がでてきます。何よりもコフンとハニワという名前といい(古墳と埴輪)、ババも座頭市みたいな風貌になりますし…。これは何かSF的な意味があるのかと期待して鑑賞していましたが、とくに理由付けはなく…。完全にエキゾチックな味付けでしかなかったです。
『スター・ウォーズ』みたいな完全なファンタジー世界ならまだしも、『See 暗闇の世界』は現実世界と地続きの終末モノなのですから、多少は理屈を考えないと変でしょう。
そんな感じでいろいろ書きましたけど、『See 暗闇の世界』、確かに暗いシーンは多かったですが、作品の新規性も暗闇に消えてしまうのは困りました。
これにめげず、次はもっとブラインド当事者を全面にだした作品に挑戦してほしいですね。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 44% Audience 83%
S2: Tomatometer 83% Audience 85%
S3: Tomatometer –% Audience 83%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
終末モノのドラマシリーズの感想記事です。
・『THE LAST OF US』
・『ステーション・イレブン』
作品ポスター・画像 (C)Apple シー暗闇の世界
以上、『See 暗闇の世界』の感想でした。
See (2019) [Japanese Review] 『See 暗闇の世界』考察・評価レビュー